白銀の簒奪者

たかまちゆう

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第104話

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 僕は、逃げるように風呂から出た。
 一時的であれ1人になるのであれば、皆で入浴した意味がないのだが……そんなことを考える余裕はなかった。

 慌ててトイレに駆け込み、勃起した性器を擦って欲求を処理する。
 そうしなければ、正気を保てないような気分だったのだ。


「……すまない。さすがに刺激が強すぎたみたいだね」

 風呂から出てきたルティアさんには、何故か謝られてしまった。

「私達は何も悪くありませんよ。その男が、勝手に私達の身体をジロジロ見て興奮しただけでしょう? 気持ち悪い……」

 カーラは、嫌悪感も露わに僕のことを睨んできた。

「楽しんでいただけたのでしたら、嬉しいですわ」

 スピーシアは、相変わらずニコニコしている。

「……」

 ミスティは、少しだけムッとしたような顔で、僕の腕にしがみついてきた。


 その後、ベルさん達が入浴して、クレア達が入浴したが……その後になっても、僕の動揺は収まらなかった。
 僕が女性の裸を見たせいで興奮していることが周囲に伝わってしまい、クレア達からは白い目で見られてしまった。

 皆が寝る段階になって、僕は1人で寝ることになった。
 元々は、僕はベルさん達と一緒に寝る予定だったのだが……僕が自分で頼み込んで、そうしてもらったのである。

 無論のこと、1人だけで寝るのはリスクが高い。
 本来ならば、敵の襲撃に備えて、なるべく大人数で寝るべきだろう。

 だが、今の僕は、とても女性と一緒に寝られるような状態ではない。
 特に、ノエルと一緒に寝ることなど論外だ。

 欲望を抑えきれなくなったとして、相手がベルさんであれば、むしろ喜ばれるだろうが……ノエルに何かしたら、彼女だけでなく、クレアやレレとの間にも深刻な亀裂が生じるだろう。

 ベルさんを説得するのは大変だったが、ルティアさんも協力してくれた。
 元々、オットームの社会で暮らしてきたノエルは、男性と一緒に寝ることに強い懸念を示していたので、最終的には話をまとめることが出来た。


 自由な状態になった僕は、夜中に部屋を抜け出した。
 なるべく音を立てないように気を付けて、スピーシアの部屋を目指す。

 下心がないと言えば嘘になる。
 僕はまだ、ダッデウドの女性に飽きるほど、彼女達の身体を見たり、触れたりしてはいないのだ。

 だが、そういった感情を抜きにしても、スピーシアの誘いを無視するわけにはいかない。
 あの人が、自分が、僕と同じ趣味を持っていると言ったからである。

 スピーシアは、僕の目の前で、カーラが嫌がる言動を繰り返した。
 特に、男性である僕の前で、ショーツが丸見えになるほどスカートを捲り上げるのは、冗談では済まないような行為だ。

 さらに、スピーシアは、ロザリーという使用人のことも虐げていたらしい。
 加えて、彼女は男性にも性的な行為を強要していたという話も聞いている。

 それらのことから考えると、スピーシアの趣味というのは……誰かをいじめること、なのではないか?
 そのことに気付かせようとして、彼女は僕の前で、カーラに対して酷い言動を繰り返したとも考えられる。

 だとしたら、それを「僕と同じ趣味」と表現したことは、重大な意味を持つ。
 そのことは、ベルさん以外の人は知らないはずだし、ベルさんがスピーシアにそんなことを教えるはずがないからだ。

 一体、誰がそのことをスピーシアに話したのか?
 それを、はっきりとさせておく必要があった。


 僕がスピーシアの部屋に行くと、彼女は愛らしい笑みを浮かべた。

「必ず来てくださると信じておりましたわ」
「……貴方の言葉の意味を知りたかったので」
「まあ。そんなこと、言わなくてもお分かりでしょう?」
「……何のことですか?」
「私がカーラをいじめるのを見て、興奮していましたよね?」
「それは……女の子の下着を見たら、嬉しいことは否定しませんけど」
「貴方は、お金を盗もうとした女性を全裸にして、縛り上げて放り出したそうですね? それと比べれば、私がカーラにしたことなど、子供のいたずらのようなものですわ」
「……ひょっとして、カーラから聞いたんですか?」

 実はあの時、見られていたのだろうか?
 そう思って尋ねたが、スピーシアは首を振った。

「いいえ。あの子は、貴方がそんなことをしていたなんて、知らないと思いますわ」
「じゃあ、誰から……?」
「ダッド様から教えていただきました」
「……」

 ルーシュさんは、僕達を陰ながら見守っていた。
 あの時、あの人に見られていたのか……!

「どうしてあの人は、そのことを貴方に……?」
「あら、当然ではありませんか。皆様を私に紹介したのはダッド様です。その際に、私に対して危険人物の情報を伝えるのは、常識的なことだと思いますわ」
「……」

 ルーシュさんは、僕に頬ずりまでした。
 とても好意的な反応だったが……その一方で、僕を危険視していたのか……。

 そして、あの人は、そういった抜け目ない本性を、自分の妹にすら隠している。
 僕は、徐々にルーシュさんのことを、非常に不気味な存在だと思うようになってきていた。

「ですが、私は貴方を危険な人だとは思っておりません。誰かに酷いことをするのも、愛情を表現する方法の一つだと思いますもの」
「……貴方も、やはりダッデウドなんですね」
「あら、それは差別的な発言だと思いますわ。オットームにも、そういう方は、たくさんいらっしゃるのですよ?」
「だとしても、当然のこととして受け入れられるようなことではないでしょう?」
「そうですわね。ですから、私も普通の人間ではないのですわ」
「あの……こんなことを僕が言うのは、おかしいんですけど」
「何でしょうか?」
「カーラをいじめるのは、なるべく控えていただけませんか? 僕には、彼女がここに来ることになった責任があるので……」
「あら。私が本気を出したら、あの程度では済みませんわよ?」
「……やっぱり、貴方は危険な女性のようですね」
「そうですわね。ですが、それはティルト様も同じですわ。だからこそ、貴方にはご協力いただきたいのです」
「協力……? 何の?」

 僕がそう尋ねると、スピーシアは満面の笑みを浮かべた。

「決まっています。いじめの、ですわ」
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