白銀の簒奪者

たかまちゆう

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第102話

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 女性達に冷ややかな態度をされながら、僕はスピーシア達と脱衣所に向かった。

 脱衣所に着くと、カーラはもちろんのこと、ミスティやルティアさんからも、服を脱ぐのを躊躇していることが伝わってきた。

 それは……僕が彼女達に注意を向けていることが、伝わってしまったからなのだろう。

 しかし、スピーシアだけは、全くためらわずに服を脱ぎ始めた。
 彼女の黒い下着姿が露わになり、僕は思わず凝視する。

「ちょっと、貴方! いくらスピーシア様が嫌がらないからって……!」

 憤るカーラを、スピーシアが制した。

「良いのです、カーラ。そんなことより、貴方も早く脱いでしまいなさい」
「私達が脱ぐのは、あの男が浴室に入った後でもいいでしょう!?」
「分かっていませんね。目の前で脱ぐから興奮するというのに」
「この男を興奮させてどうするんですか!」

 スピーシアは、カーラの質問には答えずに、彼女の服のロングスカートを一気にめくり上げた。
 カーラは、絶叫しながらスカートを押さえ、しゃがみ込む。

「あら、今日は白でしたか」
「何てことをするんですか! 酷いです、男の人の前で……!」
「これから全裸になるのに、下着を見られる程度のことを気にする必要はないでしょう?」
「あんまりです!」

 スピーシアの悪ふざけが止まらない。
 ルティアさんとミスティから無言の圧力を受けて、僕は急いで服を脱ぎ、浴室に向かった。

 浴室で、自分を落ち着かせるために、風呂の湯を桶に汲んで頭から被る。
 続けて身体を洗っていると、後から入ってきたスピーシアが、僕の隣に並ぶようにして身体を洗い始める。

 思わずその様子を眺めてしまう。
 スピーシアの身体は、ベルさんと同等の、完全な造形をしていた。

 さすがはダッデウドだ……と言うべきだろうか?

 満月の光とランプの明かりで、浴室の中はかなり明るい。
 その光に浮かび上がったスピーシアの肢体を伝って湯が流れ落ちる。
 これで興奮するなと言われても不可能だ。

「そんなに見つめられると……さすがに恥ずかしいですわ」

 突然、スピーシアがそう言った。

「あっ、す、すいません!」
「非難しているわけではありませんわ。ただ……私にも、羞恥心があるのです。意外でしょうか?」
「い、いえ……」

 僕は、身体を手早く洗い、湯船に入った。
 少し遅れて、スピーシアも入ってくる。

「私達、同じ趣味を持っている者同士、仲良くしましょう?」
「えっ……?」

 意味が分からなかった。
 同じ……趣味?

「心当たりはあるはずです。今夜、私の部屋でお待ちしておりますわ」

 スピーシアはそう言った。

 彼女の意図を尋ねようとしたが、そのタイミングで、ルティアさん達も浴室に入ってくる。
 先頭のルティアさんは堂々とした様子で歩いてくるが、残りの2人は、彼女の陰に隠れるようにしている。

 ルティアさんの身体も、とても素晴らしかった。
 すらりと伸びた四肢に、スピーシアと比べても見劣りしない胸の膨らみ。

 背の高さはルティアさんの魅力だ。誇っていいと思う。

「……率直に言って、どうだい?」

 少しだけ顔を逸らして、ルティアさんが言った。
 自分が僕の性的な欲求の対象になるか、不安があるのだろう。

「その……綺麗ですよ、とても」
「そ、そうかな……?」
「ティルト……そんなに見たら失礼だと思います。というか……全く自重しないのは、さすがに問題があると思うんですけど……」
「……ごめん」

 ミスティに言われて、僕は顔を背けた。

 少し意外な反応だと思った。
 ミスティは、もっと性に対して奔放なのかと思っていたが……。

 彼女の中にも、僕と同じように、オットーム的な価値観と娼婦的な価値観が混在しているようだ。

 実のところ、僕はルティアさんだけを見ていたわけではない。
 ミスティの身体も、カーラの身体も、僕は既に観察していた。

 2人とも、ルティアさんよりも後ろにいて、両腕で身体を隠そうとしているが、はっきり言って無駄な努力である。

 ミスティの身体は、背の低さも影響して、全体的に小さくまとまっている印象を受けた。
 しかし、胸だけは他の部分と比べて発達しており、それが若干のアンバランスさを生み出している。

 胸を触るだけならば、それでも良いのだが……鑑賞するなら、現状では他の女性よりも若干劣ることは否めなかった。

 だが、ミスティはまだ幼い。
 もう少し背が伸びれば、胸だけが目立つ状態は解消されるだろう。

 そうなれば、胸の大きさは彼女の武器だ。将来が楽しみである。

 一方で、カーラの身体は、とてもバランスが取れている。
 印象としてはノエルの身体に近いが、現状ではノエルよりも良い身体をしているようだ。

 とはいえ、ノエルはまだ成長途中であり、より成長すれば、カーラを追い抜く可能性は充分にあるだろう。

 そういう意味では、カーラの身体は完成形であり、将来への期待のようなものはないのだが……オットームとしては、今のままでも充分に恵まれていると言って良い。

 ゴドルが彼女の身体に対してボーナスを払った、というのも頷ける話だった。

 そして、彼女達の身体を見ると、どうしてもロゼットのことを思い出してしまう。
 あの女性は、オットームであるにもかかわらず、ベルさんやスピーシアと同等の身体を有していた。

 やはり、彼女は奇跡的な存在だというべきだろう。

 ロゼットをタームに譲ったのは、今でも後悔し続けていることだった。

 タームを殺してでも、ロゼットは連れて来るべきだったのではないか?
 時々、そんなことを思ってしまう。

 そんなことを考えていると、身体を洗ったルティアさんが、湯船に入って僕の隣に座った。
 さらにその隣にミスティが座る。

 カーラは、スピーシアを挟んで、僕から離れた場所に入った。

「あら、カーラ、そんなに離れることはないでしょう?」
「……その男の近くにいるのが嫌なんです。私達の身体を、飢えた獣のような目で見ていましたから」
「ですが、ティルト様は、貴方にとっては命の恩人なのでしょう?」
「それは……」

 カーラは、気まずそうに僕の方を見て言った。

「……あの時は、ありがとうございました。貴方が逃がしてくれなかったら、私はベルという人に殺されていたでしょうから……一応、お礼だけは言っておきます」
「あ、うん……」

 僕が最後にカーラを逃がしたことは事実だが、ミアを助けることが出来なかったというのに、お礼を言われるというのは複雑な気分だ。

 むしろ、カーラだけでも生きていてくれて、僕の方がお礼を言いたいくらいだった。
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