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第94話
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時が止まったように感じられた。
クレアは、酷くショックを受けた様子だ。
「どうして、そんなことを言うの? 他の子と仲良くなって、私のことが要らなくなったの?」
クレアは、泣きそうな顔でそう言った。
とんでもないことを言われて、僕は驚いた。
まさか、クレアが、そんな受け取り方をするなんて……。
確かに、ミスティが加わってからは、彼女の面倒を見るだけで手一杯だったが……だからといって、クレアが要らなくなることなどあり得ない。
僕は全力で首を振った。
「そうじゃないよ。君を、これ以上危険な目に遭わせるわけにはいかないから……!」
「嫌よ! 私は、ずっと貴方について行くわ!」
クレアの言葉に、意外な人物が頷いた。
「そうよ。クレアには、私達と一緒にいてもらうわ」
「ベルさん!?」
予定が狂ってしまった。
この人だけは、大喜びしてクレアを追い出そうとするはずだ、と思っていたのに……。
「この中で、回復魔法が使えるのはクレアだけよ。どんなことがあっても、失うわけにはいかないわ」
ベルさんが強い口調で言う。
そういえば、ベルさんが、オットームであるクレアが付いてくることを認めたのは、回復魔法が使えることが理由だった。
「ベルさん、それは僕達の都合でしょう?」
「じゃあ、ティルトは、ディフイやノエルが怪我をした時に、クレアがいなくてもいいの?」
「そういうわけでは……」
見かねた様子で、ルティアさんが口を出す。
「ヴェル、ティルトを困らせるな。クレアはオットームなんだ。快く送り出すべきだろう?」
「……なるほど。貴方が、ティルトに余計なことを言ったのね?」
「当然のことを言っただけだよ」
「……仕方がないわね。だったら言うけど……クレアを追い出したら、私達は戦い続けることが不可能になるのよ?」
「回復魔法を使えなくても、すぐに死ぬわけじゃないだろう?」
「いいえ、そうじゃないわ。ティルトの強さは、ゲドルド効果だけじゃ説明できないところがあるのよ。ティルトが戦えなくなったら、私達は、あれほどの数の敵を相手に戦うことは難しくなるでしょう?」
「えっ……?」
僕は驚いた。
僕だけでなく、ルティアさんも含めた全員が驚いた様子だ。
一体、ゲドルド効果以外の何で、僕の強さが説明できるのだろうか?
「ティルトの強さは……グレゴリオと同じ因子によるものよ」
ベルさんがそう言うと、ルティアさんは戸惑った様子になる。
「……何だって?」
ルティアさんは、怪訝な表情で、僕とクレアを繰り返し見た。
「……何ですか? グレゴリオって?」
僕が尋ねると、ベルさんが言った。
「ダッデウドの社会では、ゲドルドに並ぶほどの有名人よ。愛する妻のために戦い、他の民族を次々と制圧し、ダッデウドが最も繁栄した時代を作ったわ」
「……そのグレゴリオと、僕に何の関係があるんですか?」
「グレゴリオは、妻を亡くして……その後、すぐに戦うことができなくなったの。愛する人がいなくなったら、別人のように弱くなってしまったのよ。そこから分かるのは、身近に大切な人がいると、ダッデウドは強くなることがある、ということなの。これを、私はグレゴリオ効果と呼んでいるわ」
「えっ……?」
意味が分からなかった。
ダッデウドは、憎まれることで強くなるのではなかったのか?
「何だか……今まで聞いていたダッデウドのイメージに、反しているような気がするんですけど?」
「……そうね。グレゴリオ効果は、ゲドルド効果と比べて、よく分からないところが多いの。存在に懐疑的な人も多いわ。でも、私は信じているの。ゲドルドだって、ヴェルディアが傍にいたから強かったんだって……」
「おい、ヴェル! お前……まさか!!」
ルティアさんが、何かに気付いた様子で、ベルさんを非難するように叫んだ。
「ルディ、落ち着いて。貴方とは、ちゃんと話すつもりよ」
「何の話ですか?」
僕が尋ねると、ベルさんは笑顔を浮かべて近寄ってくる。
「何でもないわ。私達には貴方の力が必要だし、貴方にはクレアが必要なのよ。分かったでしょ? グレゴリオ効果は、存在を意識すると失われてしまうおそれがあるから、なるべく話したくなかったけど……貴方がクレアを愛する限り、きっと大丈夫だと思うわ」
「……」
何だか……何かを誤魔化されたような気がする。
その証拠に、ルティアさんは、かなり動揺した様子だ。
そういえば、レレも沈んだ顔をしている。
ノエルは、そんなレレのことを心配している様子だ。
クレアは、僕のことをじっと見ていた。
そこに強い意志を感じて、僕は困ってしまう。
僕が何を言っても、彼女は付いてくるつもりだろう。
どうしていいか分からず、ミスティを見ると、彼女は僕のことを見上げていた。
「私……クレアさんがいないと不安です」
ミスティはそう言った。
彼女は、クレアに顔の傷痕を消してもらった。
クレアがいなくなったら、同じような事態の際に困ると考えているのだろう。
僕は、クレアの表情を確認しながら話す。
「これから、今まで以上に危ない目に遭うかもしれないよ? スピーシアが、どういう態度に出るか分からないし……最悪の場合、君の身体を狙うかもしれないんだよ?」
「覚悟はできているわ」
「君の前で……今まで以上に、人を殺すことになると思うよ?」
「私は、どんな理由があったとしても、絶対にそれを肯定しないわ。言ったでしょう? 貴方をダッデウドに譲り渡すわけにはいかないって。私がいなくなったら、人を殺すことに強く反対する人がいなくなるじゃない」
「……」
クレアは、意地になっているように感じる。
しかし、クレアがいなくなったら力を失うとまで言われて、無理に追い出すわけにもいかない。
釈然としないところは残るが、彼女には、このまま一緒にいてもらうしかないだろう。
改めてベルさんを見ると、彼女はクレアのことを、不快な顔をしながら見ていた。
クレアのことを一番嫌っているベルさんが、クレアを強く引き留めるなんて……とても妙な気分だった。
クレアは、酷くショックを受けた様子だ。
「どうして、そんなことを言うの? 他の子と仲良くなって、私のことが要らなくなったの?」
クレアは、泣きそうな顔でそう言った。
とんでもないことを言われて、僕は驚いた。
まさか、クレアが、そんな受け取り方をするなんて……。
確かに、ミスティが加わってからは、彼女の面倒を見るだけで手一杯だったが……だからといって、クレアが要らなくなることなどあり得ない。
僕は全力で首を振った。
「そうじゃないよ。君を、これ以上危険な目に遭わせるわけにはいかないから……!」
「嫌よ! 私は、ずっと貴方について行くわ!」
クレアの言葉に、意外な人物が頷いた。
「そうよ。クレアには、私達と一緒にいてもらうわ」
「ベルさん!?」
予定が狂ってしまった。
この人だけは、大喜びしてクレアを追い出そうとするはずだ、と思っていたのに……。
「この中で、回復魔法が使えるのはクレアだけよ。どんなことがあっても、失うわけにはいかないわ」
ベルさんが強い口調で言う。
そういえば、ベルさんが、オットームであるクレアが付いてくることを認めたのは、回復魔法が使えることが理由だった。
「ベルさん、それは僕達の都合でしょう?」
「じゃあ、ティルトは、ディフイやノエルが怪我をした時に、クレアがいなくてもいいの?」
「そういうわけでは……」
見かねた様子で、ルティアさんが口を出す。
「ヴェル、ティルトを困らせるな。クレアはオットームなんだ。快く送り出すべきだろう?」
「……なるほど。貴方が、ティルトに余計なことを言ったのね?」
「当然のことを言っただけだよ」
「……仕方がないわね。だったら言うけど……クレアを追い出したら、私達は戦い続けることが不可能になるのよ?」
「回復魔法を使えなくても、すぐに死ぬわけじゃないだろう?」
「いいえ、そうじゃないわ。ティルトの強さは、ゲドルド効果だけじゃ説明できないところがあるのよ。ティルトが戦えなくなったら、私達は、あれほどの数の敵を相手に戦うことは難しくなるでしょう?」
「えっ……?」
僕は驚いた。
僕だけでなく、ルティアさんも含めた全員が驚いた様子だ。
一体、ゲドルド効果以外の何で、僕の強さが説明できるのだろうか?
「ティルトの強さは……グレゴリオと同じ因子によるものよ」
ベルさんがそう言うと、ルティアさんは戸惑った様子になる。
「……何だって?」
ルティアさんは、怪訝な表情で、僕とクレアを繰り返し見た。
「……何ですか? グレゴリオって?」
僕が尋ねると、ベルさんが言った。
「ダッデウドの社会では、ゲドルドに並ぶほどの有名人よ。愛する妻のために戦い、他の民族を次々と制圧し、ダッデウドが最も繁栄した時代を作ったわ」
「……そのグレゴリオと、僕に何の関係があるんですか?」
「グレゴリオは、妻を亡くして……その後、すぐに戦うことができなくなったの。愛する人がいなくなったら、別人のように弱くなってしまったのよ。そこから分かるのは、身近に大切な人がいると、ダッデウドは強くなることがある、ということなの。これを、私はグレゴリオ効果と呼んでいるわ」
「えっ……?」
意味が分からなかった。
ダッデウドは、憎まれることで強くなるのではなかったのか?
「何だか……今まで聞いていたダッデウドのイメージに、反しているような気がするんですけど?」
「……そうね。グレゴリオ効果は、ゲドルド効果と比べて、よく分からないところが多いの。存在に懐疑的な人も多いわ。でも、私は信じているの。ゲドルドだって、ヴェルディアが傍にいたから強かったんだって……」
「おい、ヴェル! お前……まさか!!」
ルティアさんが、何かに気付いた様子で、ベルさんを非難するように叫んだ。
「ルディ、落ち着いて。貴方とは、ちゃんと話すつもりよ」
「何の話ですか?」
僕が尋ねると、ベルさんは笑顔を浮かべて近寄ってくる。
「何でもないわ。私達には貴方の力が必要だし、貴方にはクレアが必要なのよ。分かったでしょ? グレゴリオ効果は、存在を意識すると失われてしまうおそれがあるから、なるべく話したくなかったけど……貴方がクレアを愛する限り、きっと大丈夫だと思うわ」
「……」
何だか……何かを誤魔化されたような気がする。
その証拠に、ルティアさんは、かなり動揺した様子だ。
そういえば、レレも沈んだ顔をしている。
ノエルは、そんなレレのことを心配している様子だ。
クレアは、僕のことをじっと見ていた。
そこに強い意志を感じて、僕は困ってしまう。
僕が何を言っても、彼女は付いてくるつもりだろう。
どうしていいか分からず、ミスティを見ると、彼女は僕のことを見上げていた。
「私……クレアさんがいないと不安です」
ミスティはそう言った。
彼女は、クレアに顔の傷痕を消してもらった。
クレアがいなくなったら、同じような事態の際に困ると考えているのだろう。
僕は、クレアの表情を確認しながら話す。
「これから、今まで以上に危ない目に遭うかもしれないよ? スピーシアが、どういう態度に出るか分からないし……最悪の場合、君の身体を狙うかもしれないんだよ?」
「覚悟はできているわ」
「君の前で……今まで以上に、人を殺すことになると思うよ?」
「私は、どんな理由があったとしても、絶対にそれを肯定しないわ。言ったでしょう? 貴方をダッデウドに譲り渡すわけにはいかないって。私がいなくなったら、人を殺すことに強く反対する人がいなくなるじゃない」
「……」
クレアは、意地になっているように感じる。
しかし、クレアがいなくなったら力を失うとまで言われて、無理に追い出すわけにもいかない。
釈然としないところは残るが、彼女には、このまま一緒にいてもらうしかないだろう。
改めてベルさんを見ると、彼女はクレアのことを、不快な顔をしながら見ていた。
クレアのことを一番嫌っているベルさんが、クレアを強く引き留めるなんて……とても妙な気分だった。
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