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第90話
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「それにしても……さっきまでの戦いで、ティルトがあまりにも強いからビックリしたよ。いくらダッデウドでも、あれだけの人数を、ほとんど1人で相手にするなんて……」
ルティアさんがそう言った。
「ティルトはオットームの中で、嫌われながら生きてきたから強いのよ。転がる岩の話は、貴方だってよく知ってるでしょ?」
「ゲドルド効果か……それにしても、まさか、これ程とはね……」
「何ですか? 『転がる岩』とか『ゲドルド効果』って?」
僕がそう尋ねると、ルティアさんが解説してくれた。
「昔、ゲドルドという男がいたんだ。彼はダッデウドだったんだけど、何万人という異民族と戦っても、1人で圧倒してしまったらしいよ。さっきの君みたいにね」
「何万人……ですか!?」
「言い伝えだから、どこまで正確な話かは分からないけど……とてつもない数の敵と戦っても、1人で勝ってしまったことは本当らしい。ゲドルドにそんなことが可能だったのは、『ゲドルド効果』と呼ばれる現象が起こっていたからだと言われているんだ」
「それは、一体どういうものなんですか?」
「簡単に言うと、誰かに憎まれ続けることで、常に魔力を生み出す能力が高い状態を持続できる、という現象のことさ。これを、私達はゲドルド効果と呼んでいるんだ」
「あの……『転がる岩』というのは?」
ノエルがルティアさんに尋ねた。
「ゲドルド効果を説明する時には、転がる岩をイメージしてもらうと伝えやすいんだ。岩は、止まっている状態から転がし始めるまでは大変だけど、一度転がり始めてしまえば、転がすための労力は大分軽くなるだろう? 魔力を生み出す際にも、似たようなことが起こると言われているんだよ。つまり、途切れることなく憎しみを浴び続けることが、ゲドルド効果を失わないためには必要なのさ。名前の由来であるゲドルドも、一般的には極悪人とされていて、日常的に多くの人から憎まれる言動をしていたために、数万人の敵を蹴散らせるほどの莫大な魔力量を得られたんだろう。というより、何万人という敵が押し寄せて殺意を向けたことで、ゲドルドが使った魔力を回復させてしまったからこそ、魔力切れを起こさずに戦い続けることができたんだろうね」
「それって、何だか変な気がします」
ミスティが呟くように言った。
「どこが変なのかな?」
「だって、今のティルトは、多くの人から憎まれるような環境にはいないじゃないですか。どうして、ずっとゲドルド効果が働いているんですか?」
「いいところに気が付いたね。ゲドルド効果を岩だけでイメージすると、すぐに止まりそうだと思ってしまうだろう? 実は、同時に坂道をイメージすると、話がもっと分かりやすくなるんだよ」
「坂道、ですか……?」
「岩が転がり始めたら、転がすのが楽になるけど、ゲドルド効果はそれで終わりじゃないんだ。岩が転がっている状態が長く続くと、今度は、転がっている場所が下り坂になっていくんだと思ってくれればいい。下り坂を転がすなら、ますます岩を転がすのが楽になるだろう? そして、最終的には、岩を押さなくても転げ落ちる角度になるんだ」
「じゃあ、その坂道は……ずっと、その角度のままなんですか?」
「それだったらいいんだけどね。強い憎しみを浴びなければ、坂道の角度は、徐々になだらかになっていくんだよ。一番急な角度を転がっている状態から、岩が完全に止まるまでには1~2ヶ月程度だという説が有力だけど、ティルトは、まだ岩が止まる前だったんだろうね」
「……」
僕が村を出発してから、既に3ヶ月以上が経っている。
その間にゲドルド効果が切れなかったのは、僕が何度も、激しい怒りや憎しみをぶつけられてきたからだろう。
繰り返し敵と戦い、女性に対しては、わざと恨みを買うようなことを何度もした。
僕がオットームと親しくしたことで、ベルさんを繰り返し怒らせてしまった。
ノエルに、酷いことをしてしまったこともある。
特に、ロゼットは僕に対して、ずっと恨みを持っていたはずだ。
そして、ミスティを連れて来たことで、クレアを怒らせてしまった。
全ての出来事がゲドルド効果を持続させ、今回の戦いにあたっては有益に働いたらしい。
「だったら……毎日、何度か『ティルトを殺したい』と考えておいた方が、ティルトの役に立てるんでしょうか?」
ミスティが、真剣な表情でそんな質問をする。
それは……怖いからやめてほしい。
ルティアさんは、苦笑しながら応じた。
「似たようなことは、たくさんの人が考えたよ。でも、やっぱりそういうのは、本気の殺意とは違うんだ。ゲドルドにとってのヴェルディアのような人間がいない限り、いずれゲドルド効果は切れてしまうものなのさ」
ルティアさんの言葉に、ミスティは首をかしげた。
「ヴェルディア……?」
「ちょっと、やめてよ! 私が、あの話が嫌いだっていうことを、貴方はよく知ってるでしょ!?」
突然ベルさんが怒り出したので、僕達は驚いた。
「それは分かってるけど……ゲドルド効果の説明をするには、話しておくべきことだろ?」
「する必要がないわよ、あんな話は! 私が自分の名前の由来を聞いて、どれほどショックを受けたか、貴方に分かるの!?」
「何も、そこまで怒ることはないだろ……?」
ルティアさんは戸惑った様子で、結局話すことをやめてしまった。
ヴェルディアというのは、一体どのような人物だったのだろうか?
話の続きを聞かせてほしかったが、ベルさんがあれほど怒ったところを見ると、この場でそれを聞くことは難しいように思えた。
ふと、ノエルの方を見る。
ノエルは、不思議そうな顔で、レレの方を見ていた。
続けてレレを見たが、特に変わった様子はない。
もう一度ノエルの方を見ると、彼女は僕の視線に気付いたらしく、レレを見ていたことをごまかすような仕草をした。
一体、何があったんだろう?
僕にはその意味が分からなかった。
ルティアさんがそう言った。
「ティルトはオットームの中で、嫌われながら生きてきたから強いのよ。転がる岩の話は、貴方だってよく知ってるでしょ?」
「ゲドルド効果か……それにしても、まさか、これ程とはね……」
「何ですか? 『転がる岩』とか『ゲドルド効果』って?」
僕がそう尋ねると、ルティアさんが解説してくれた。
「昔、ゲドルドという男がいたんだ。彼はダッデウドだったんだけど、何万人という異民族と戦っても、1人で圧倒してしまったらしいよ。さっきの君みたいにね」
「何万人……ですか!?」
「言い伝えだから、どこまで正確な話かは分からないけど……とてつもない数の敵と戦っても、1人で勝ってしまったことは本当らしい。ゲドルドにそんなことが可能だったのは、『ゲドルド効果』と呼ばれる現象が起こっていたからだと言われているんだ」
「それは、一体どういうものなんですか?」
「簡単に言うと、誰かに憎まれ続けることで、常に魔力を生み出す能力が高い状態を持続できる、という現象のことさ。これを、私達はゲドルド効果と呼んでいるんだ」
「あの……『転がる岩』というのは?」
ノエルがルティアさんに尋ねた。
「ゲドルド効果を説明する時には、転がる岩をイメージしてもらうと伝えやすいんだ。岩は、止まっている状態から転がし始めるまでは大変だけど、一度転がり始めてしまえば、転がすための労力は大分軽くなるだろう? 魔力を生み出す際にも、似たようなことが起こると言われているんだよ。つまり、途切れることなく憎しみを浴び続けることが、ゲドルド効果を失わないためには必要なのさ。名前の由来であるゲドルドも、一般的には極悪人とされていて、日常的に多くの人から憎まれる言動をしていたために、数万人の敵を蹴散らせるほどの莫大な魔力量を得られたんだろう。というより、何万人という敵が押し寄せて殺意を向けたことで、ゲドルドが使った魔力を回復させてしまったからこそ、魔力切れを起こさずに戦い続けることができたんだろうね」
「それって、何だか変な気がします」
ミスティが呟くように言った。
「どこが変なのかな?」
「だって、今のティルトは、多くの人から憎まれるような環境にはいないじゃないですか。どうして、ずっとゲドルド効果が働いているんですか?」
「いいところに気が付いたね。ゲドルド効果を岩だけでイメージすると、すぐに止まりそうだと思ってしまうだろう? 実は、同時に坂道をイメージすると、話がもっと分かりやすくなるんだよ」
「坂道、ですか……?」
「岩が転がり始めたら、転がすのが楽になるけど、ゲドルド効果はそれで終わりじゃないんだ。岩が転がっている状態が長く続くと、今度は、転がっている場所が下り坂になっていくんだと思ってくれればいい。下り坂を転がすなら、ますます岩を転がすのが楽になるだろう? そして、最終的には、岩を押さなくても転げ落ちる角度になるんだ」
「じゃあ、その坂道は……ずっと、その角度のままなんですか?」
「それだったらいいんだけどね。強い憎しみを浴びなければ、坂道の角度は、徐々になだらかになっていくんだよ。一番急な角度を転がっている状態から、岩が完全に止まるまでには1~2ヶ月程度だという説が有力だけど、ティルトは、まだ岩が止まる前だったんだろうね」
「……」
僕が村を出発してから、既に3ヶ月以上が経っている。
その間にゲドルド効果が切れなかったのは、僕が何度も、激しい怒りや憎しみをぶつけられてきたからだろう。
繰り返し敵と戦い、女性に対しては、わざと恨みを買うようなことを何度もした。
僕がオットームと親しくしたことで、ベルさんを繰り返し怒らせてしまった。
ノエルに、酷いことをしてしまったこともある。
特に、ロゼットは僕に対して、ずっと恨みを持っていたはずだ。
そして、ミスティを連れて来たことで、クレアを怒らせてしまった。
全ての出来事がゲドルド効果を持続させ、今回の戦いにあたっては有益に働いたらしい。
「だったら……毎日、何度か『ティルトを殺したい』と考えておいた方が、ティルトの役に立てるんでしょうか?」
ミスティが、真剣な表情でそんな質問をする。
それは……怖いからやめてほしい。
ルティアさんは、苦笑しながら応じた。
「似たようなことは、たくさんの人が考えたよ。でも、やっぱりそういうのは、本気の殺意とは違うんだ。ゲドルドにとってのヴェルディアのような人間がいない限り、いずれゲドルド効果は切れてしまうものなのさ」
ルティアさんの言葉に、ミスティは首をかしげた。
「ヴェルディア……?」
「ちょっと、やめてよ! 私が、あの話が嫌いだっていうことを、貴方はよく知ってるでしょ!?」
突然ベルさんが怒り出したので、僕達は驚いた。
「それは分かってるけど……ゲドルド効果の説明をするには、話しておくべきことだろ?」
「する必要がないわよ、あんな話は! 私が自分の名前の由来を聞いて、どれほどショックを受けたか、貴方に分かるの!?」
「何も、そこまで怒ることはないだろ……?」
ルティアさんは戸惑った様子で、結局話すことをやめてしまった。
ヴェルディアというのは、一体どのような人物だったのだろうか?
話の続きを聞かせてほしかったが、ベルさんがあれほど怒ったところを見ると、この場でそれを聞くことは難しいように思えた。
ふと、ノエルの方を見る。
ノエルは、不思議そうな顔で、レレの方を見ていた。
続けてレレを見たが、特に変わった様子はない。
もう一度ノエルの方を見ると、彼女は僕の視線に気付いたらしく、レレを見ていたことをごまかすような仕草をした。
一体、何があったんだろう?
僕にはその意味が分からなかった。
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