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第88話
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警備隊員達は、明らかに動揺していた。
無理もない。
僕自身も驚いているのだ。
2,000人近くいたであろう警備隊員は、既にその半分以上が倒れ伏していた。
数人の人間を捕らえるためにしては、大きすぎる犠牲である。
しかも、それほどの犠牲者を出しながら、警備隊員達は、ずっと包囲している僕に対して、傷を負わせることすらできないでいた。
また、守りを固めつつ、的確なタイミングで反撃しているベルさん達のことも、ずっと攻めあぐねたままである。
何の成果も出せないまま、ひたすら殉職者が増えていく。
この状況で、動揺するなと言われても不可能だろう。
隊員達の士気は、はっきりと分かるほど下がっていた。
既に、執拗に隙を突こうとしたり、果敢に突進してくるようなことはない。
彼らの顔からは、「こんなはずじゃなかった」という言葉がはっきりと読み取れる。
それほど、僕の魔力量が計算外だったのだろう。
僕は、長時間に渡って補助魔法を使い続けている。
住んでいた村が魔物に襲われた時にも長時間使っていたが、戦っている時間は、今回の方が遥かに長い。
しかも、より消耗の大きい遠距離攻撃魔法を連発しているのである。
僕の魔力量がベルさんと同程度なら、とっくに尽きているはずだ。
警備隊としては、多少の犠牲者が出たとしても、僕達の魔力が尽きるのを待つつもりだったのだろう。
だが、僕が無尽蔵の魔力を披露したために、自分達の作戦が誤りだったと気づいてしまったらしい。
そして、僕が飛び出してからは防御に専念していたルティアさんも、警備隊の集団に突っ込んで戦い始めた。
ルティアさんは、自分の周囲に3つの光球を生み出しており、それが意志を持っているかのように飛び交う。
光球は、警備隊員の頭を砕き、胴体を貫くことで、さらに死者を増やしていった。
そして、ルティアさん自身も剣を振るって隊員の首を刎ね飛ばし、胴体を両断する。
ルティアさんの参加をきっかけとして、ついに隊員達は逃げ始めた。
僕は、前回と同じように追撃する。
逃げ惑い、森の中へ駆け込んで姿を隠そうとする隊員達を次々と斬り捨てながら、目当ての人物を追いかけた。
戦っている間に、僕はあることに気付いていた。
それは、警備隊員の中に、何人かの女性が混ざっていることだ。
僕の脅しに屈さなかったのか、あの時の言葉が伝わっていないのかは分からないが、まだ警備隊には女性が残っているらしい。
その中の1人が、やけに大切にされているように見えた。
数人の隊員が、その女性を守るように取り囲んでいたのだ。
ひょっとしたら、何らかの重要な存在なのかもしれない。
それに、顔立ちの整った女性だった。
色々な意味で興味がある。
目に付いた警備隊員を始末しながら、僕は目当ての女性を探した。
程なくして、捜していた女性を発見する。
彼女は、4人の男性隊員を伴って逃げていた。
僕は、取り巻き全員の首を一瞬で刎ね飛ばし、女性の正面に回り込んだ。
「……!」
女性は、全身を震わせて後ずさる。
僕は、女性を突き飛ばして尻もちをつかせた。
「た、助けて……!」
女性は真っ青になって言った。
「お前は、警備隊の要職にでも就いているのか?」
そう尋ねると、女性は激しく首を振った。
「わ、私は一般隊員です!」
「嘘を吐くと、指を全部切り落とすぞ?」
「本当です!」
「だったら、ただの一般隊員が、あんなに厳重に守られていた理由を教えてもらおうか?」
「それは……私が回復魔法を得意としていることと……」
「あとは?」
「……何人かの男性から、プロポーズを受けていたので……」
「……」
改めて、目の前の女性を観察した。
なるほど、と思う。
髪は黒く、顔立ちも、間違いなく美人だと言ってよい。
少しだけクレアに似ている気がする。
この女性ならば、男ばかりの警備隊で人気が出るのも当然だろう。
そんなことを考えていたため、隙ができてしまった。
目の前の女性は、最大のチャンスを逃すまいと、僕に向かって右手を伸ばしてくる。
攻撃魔法を放つための予備動作だ。
僕は、女性の右腕を叩いた。
咄嗟のことだったので、手加減はできなかった。
僕の一撃には、はっきりと攻撃の意志が込められていた。
その威力が、どれ程のものだったのかは分からない。
分かったのは、結果として、女性の腕が通常ではあり得ない方向に、ぐにゃりと曲がったことだ。
女性は、しばらく硬直した。
僕は、思わず女性の口を塞いでいた。
この後で、絶対に叫ぶと思ったからだ。
しかし、女性は叫ばなかった。
左手で右腕を押さえ苦悶する。
苦痛のために顔が歪み、大量の汗をかきながら、もがくような動きをした。
この女性が本当に回復要員ならば、自分で腕を治そうとするはずだ。
そんなことを考えたが、すぐにそれが誤りだと気付く。
以前、クレアが言っていたことがある。
自分の怪我は治すのには、他人の場合よりも時間がかかるのだと。
それを聞いた時には、その理由が分からなかったのだが、ベルさんが言ったことが、この場合にも当てはまるはずだ。
回復魔法を使う本人が怪我をすると、痛みによって集中力が失われるのだろう。
だから、回復魔法の使い手は、自分の怪我を治すことが苦手なのだと考えられる。
ベルさんがそのことを口にした時、クレアに何をしていたか思い出す。
それと同時に湧いてきた感情は、以前のような怒りではなかった。
ダッデウドとして完全に覚醒したら、それまで有していた倫理観は失われる。
それは本当だったらしい。
辱しめを受けていたクレアを思い出して、僕は欲情していた。
無理もない。
僕自身も驚いているのだ。
2,000人近くいたであろう警備隊員は、既にその半分以上が倒れ伏していた。
数人の人間を捕らえるためにしては、大きすぎる犠牲である。
しかも、それほどの犠牲者を出しながら、警備隊員達は、ずっと包囲している僕に対して、傷を負わせることすらできないでいた。
また、守りを固めつつ、的確なタイミングで反撃しているベルさん達のことも、ずっと攻めあぐねたままである。
何の成果も出せないまま、ひたすら殉職者が増えていく。
この状況で、動揺するなと言われても不可能だろう。
隊員達の士気は、はっきりと分かるほど下がっていた。
既に、執拗に隙を突こうとしたり、果敢に突進してくるようなことはない。
彼らの顔からは、「こんなはずじゃなかった」という言葉がはっきりと読み取れる。
それほど、僕の魔力量が計算外だったのだろう。
僕は、長時間に渡って補助魔法を使い続けている。
住んでいた村が魔物に襲われた時にも長時間使っていたが、戦っている時間は、今回の方が遥かに長い。
しかも、より消耗の大きい遠距離攻撃魔法を連発しているのである。
僕の魔力量がベルさんと同程度なら、とっくに尽きているはずだ。
警備隊としては、多少の犠牲者が出たとしても、僕達の魔力が尽きるのを待つつもりだったのだろう。
だが、僕が無尽蔵の魔力を披露したために、自分達の作戦が誤りだったと気づいてしまったらしい。
そして、僕が飛び出してからは防御に専念していたルティアさんも、警備隊の集団に突っ込んで戦い始めた。
ルティアさんは、自分の周囲に3つの光球を生み出しており、それが意志を持っているかのように飛び交う。
光球は、警備隊員の頭を砕き、胴体を貫くことで、さらに死者を増やしていった。
そして、ルティアさん自身も剣を振るって隊員の首を刎ね飛ばし、胴体を両断する。
ルティアさんの参加をきっかけとして、ついに隊員達は逃げ始めた。
僕は、前回と同じように追撃する。
逃げ惑い、森の中へ駆け込んで姿を隠そうとする隊員達を次々と斬り捨てながら、目当ての人物を追いかけた。
戦っている間に、僕はあることに気付いていた。
それは、警備隊員の中に、何人かの女性が混ざっていることだ。
僕の脅しに屈さなかったのか、あの時の言葉が伝わっていないのかは分からないが、まだ警備隊には女性が残っているらしい。
その中の1人が、やけに大切にされているように見えた。
数人の隊員が、その女性を守るように取り囲んでいたのだ。
ひょっとしたら、何らかの重要な存在なのかもしれない。
それに、顔立ちの整った女性だった。
色々な意味で興味がある。
目に付いた警備隊員を始末しながら、僕は目当ての女性を探した。
程なくして、捜していた女性を発見する。
彼女は、4人の男性隊員を伴って逃げていた。
僕は、取り巻き全員の首を一瞬で刎ね飛ばし、女性の正面に回り込んだ。
「……!」
女性は、全身を震わせて後ずさる。
僕は、女性を突き飛ばして尻もちをつかせた。
「た、助けて……!」
女性は真っ青になって言った。
「お前は、警備隊の要職にでも就いているのか?」
そう尋ねると、女性は激しく首を振った。
「わ、私は一般隊員です!」
「嘘を吐くと、指を全部切り落とすぞ?」
「本当です!」
「だったら、ただの一般隊員が、あんなに厳重に守られていた理由を教えてもらおうか?」
「それは……私が回復魔法を得意としていることと……」
「あとは?」
「……何人かの男性から、プロポーズを受けていたので……」
「……」
改めて、目の前の女性を観察した。
なるほど、と思う。
髪は黒く、顔立ちも、間違いなく美人だと言ってよい。
少しだけクレアに似ている気がする。
この女性ならば、男ばかりの警備隊で人気が出るのも当然だろう。
そんなことを考えていたため、隙ができてしまった。
目の前の女性は、最大のチャンスを逃すまいと、僕に向かって右手を伸ばしてくる。
攻撃魔法を放つための予備動作だ。
僕は、女性の右腕を叩いた。
咄嗟のことだったので、手加減はできなかった。
僕の一撃には、はっきりと攻撃の意志が込められていた。
その威力が、どれ程のものだったのかは分からない。
分かったのは、結果として、女性の腕が通常ではあり得ない方向に、ぐにゃりと曲がったことだ。
女性は、しばらく硬直した。
僕は、思わず女性の口を塞いでいた。
この後で、絶対に叫ぶと思ったからだ。
しかし、女性は叫ばなかった。
左手で右腕を押さえ苦悶する。
苦痛のために顔が歪み、大量の汗をかきながら、もがくような動きをした。
この女性が本当に回復要員ならば、自分で腕を治そうとするはずだ。
そんなことを考えたが、すぐにそれが誤りだと気付く。
以前、クレアが言っていたことがある。
自分の怪我は治すのには、他人の場合よりも時間がかかるのだと。
それを聞いた時には、その理由が分からなかったのだが、ベルさんが言ったことが、この場合にも当てはまるはずだ。
回復魔法を使う本人が怪我をすると、痛みによって集中力が失われるのだろう。
だから、回復魔法の使い手は、自分の怪我を治すことが苦手なのだと考えられる。
ベルさんがそのことを口にした時、クレアに何をしていたか思い出す。
それと同時に湧いてきた感情は、以前のような怒りではなかった。
ダッデウドとして完全に覚醒したら、それまで有していた倫理観は失われる。
それは本当だったらしい。
辱しめを受けていたクレアを思い出して、僕は欲情していた。
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