白銀の簒奪者

たかまちゆう

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第87話

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 凄まじい数の警備隊員が放った攻撃魔法が、僕達目がけて押し寄せてくる。
 それに対する皆の反応は早かった。

 ベルさんとレレとルティアさんが障壁を展開する。
 少し遅れて、クレアも障壁を展開した。

 そういえば、クレアは回復魔法以外の魔法が使えないわけではないのだった。
 それほど得意ではないということだったが、その気になれば攻撃魔法だって使えるはずだ。

 そんなことを、今さら思い出す。

 彼女達の防御魔法は、敵の攻撃魔法を完全に遮った。
 しかし、敵は立て続けに魔法を放ってくる。

 もはや、魔法の光が強烈すぎて相手の姿すら見えない。
 とても反撃する隙はなさそうだ。

「どうする? 相手は、このまま距離を詰めてくるつもりだ。この人数差だと、そのうち押し切られるぞ?」

 ルティアさんが冷静な口調で言った。
 その様子から、全く焦りのようなものが感じられないことに驚く。

「貴方の魔法で反撃して。相手の手数さえ減らせば、勝算は充分にあるわ」

 ベルさんも淡々と応じた。

「でも、私が攻撃魔法を使ったら、防御が手薄になるだろう?」
「大丈夫よ。ノエルがいるもの」
「えっ……?」

 僕は、敵の攻撃に怯えて震えているノエルを見た。

 彼女は、まだダッデウドとして目覚めてはいないはずだ。
 魔法を自由に使うことなど、できないのではないだろうか?

「普通の防御魔法は、誰かに対する殺意で使うものじゃないでしょ? だから、ダッデウドとして覚醒しなくても、使うこと自体はできるはずだわ」
「で、でも、私……できません! 魔法を使うなんて……!」

 ノエルが、真っ青な顔で叫んだ。

 彼女は防御魔法で人を殺している。
 そのことがトラウマになっているのだろう。

「大丈夫よ。ダッデウドは、誰かに教えてもらわなくても、自然と魔法を使うことができるの。貴方だって、ディフィやクレアのことを守りたいでしょ? その気持ちさえあれば、魔法は自然と発動するはずだわ」

 ベルさんは、優しい口調でノエルに告げた。

「……」

 ノエルは、クレアやレレのことを見る。
 すると、突然両手を前に伸ばした。

 それと同時に、新たな障壁が展開する。
 あっさりと魔法の発動に成功して、ノエルは戸惑ったような顔をした。

「これなら大丈夫ね。ルディ、お願い」
「分かった」

 淡々と応じて、ルティアさんは、両手を掌が上になるように伸ばした。

 すると、彼女の掌の上に、小さな光球が生み出される。
 しばらく時間をかけて、それは膨れ上がった。

 ルティアさんは、慣れた手付きで、それを空に向けて放り投げた。
 光球は空中で散り、敵に向かって降り注ぐ。

 警備隊員達の悲鳴が聞こえる。
 ルティアさんは、同じ魔法を繰り返し放った。
 その度に敵からは悲鳴が上がり、かなりの数を仕留めていることが分かる。

 数発を放った時点で、敵からの魔法による攻撃が若干収まりだしたように感じられた。

「……?」

 徐々に足音のようなものが近付いてくるのを感じて、僕はその意味を悟る。

「ルティアさん、魔法による攻撃を中断してください!」

 そう叫んでから、僕は飛び出した。

 数人の警備隊員が、こちらに接近していた。
 遠距離魔法だけで僕達を殺すのは難しいと考えて、接近戦を仕掛けに来たのだろう。

 僕は、向かってくる敵を全員、反撃を許さずに切り捨てた。

 さらに、そのまま警備隊の集団に向かって行く。
 僕が一瞬で目前に迫ると、警備隊員は恐怖の表情を浮かべた。
 その隊員の首を躊躇なく刎ね飛ばし、さらに近くにいる隊員を手当たり次第に斬り捨てていく。

 すると、隊員達は前回とは異なる動きを見せた。
 僕の足元を狙って攻撃魔法を撃ってきたのだ。

 水平に撃てば、僕に回避された際に仲間に当たってしまう。
 だが、僕に接近することは危険であり、不意討ちも通用しないことは証明済みである。

 ならば、足を撃って動きを封じ、倒れ伏したところを集中攻撃しよう、ということなのだろう。

 僕は跳躍した。
 そして、一人の隊員に跳び付き、僕を後ろから狙っていた連中に向かって放り投げる。
 僕を撃とうとしていた連中は、その隊員を受け止めた。

 そのタイミングを狙い、僕は攻撃魔法を放つ。
 ベルさんやレレと同じ、光の糸の魔法だ。

 一発で、10人以上の敵をまとめて切り裂く。
 初めて使ったにしてはそれなりの成果だと思うが……どうやら、敵の身体を真っ二つにはできないようだ。

 やはり、ベルさんやレレほどの威力や射程距離はないようである。
 まだ慣れていないし、遠距離攻撃魔法は、あまり僕に向いていないのかもしれない。

 だが、これで充分だった。

 僕は、次々と敵を剣で斬り捨て、後ろから狙おうとしてくる隊員に対しては魔法を放つ。
 果敢に突進してくる者も、距離を取って魔法を使おうとする者もいたが、速度が違いすぎて話にならない。

 やはり、オットームは敵ではない。

 しかし、懸念はあった。
 いくら弱くても、これほどの数の人間を殺すには、莫大な魔力が必要になるはずである。

 仮に魔力が尽きれば、僕は一瞬で警備隊員達に殺されてしまうだろう。

 だが、さすがに温存を考えるほどの余裕はない。
 不安を抱えながらも、僕はひたすら、単純作業のように警備隊員達を殺し続けた。

 やがて、僕を包囲している警備隊員達の間に困惑が広がり、それが恐怖へと変わっていくことが、はっきりと感じられた。
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