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第85話
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近付いてきたのが敵でないと分かり、一瞬だけ安心したが、自分が裸であることを思い出して慌てる。
今夜は満月なので、下半身まで含めて、確実に見えてしまうだろう。
「すまない、覗きに来るつもりはなかったんだ。君に話しておきたいことがあって……」
そう言って目を逸らすルティアさんは、顔を赤らめているように見えた。
「……せっかくの機会だ。私も脱ごうか?」
「いや、そういう気の遣い方はしなくていいですから! それに、ルティアさんはもう皆と一緒に水浴びをしたんでしょう?」
「ヴェルから聞いているんだろう? ダッデウドの女は、ダッデウドの男の関心を惹くために色々するものなのさ」
「……そんなことを言われたら、期待しちゃいますよ?」
「そんな風に言ってくれるダッデウドの男は君くらいだよ。里にいるダッデウドの男は、私の身体に興味を示したりはしないからね」
「本当ですか? ベルさんもそうらしいですけど……信じられませんよ」
「それで、どうする? 本当に脱いだ方がいいかい?」
ルティアさんの言葉にどう答えるべきか、僕は迷った。
こんなチャンスはもう来ないかもしれないのだ。
ここは、本当に脱いでもらった方がいいのかもしれない。
しかし、そんなことをお願いしたことが知られたら、他の女性に軽蔑されることは間違いないだろう。
「……今は遠慮させてください。もし誰かに見られたら困ります」
「君はオットームみたいだね」
「オットームの社会で暮らしてきたもので……服を着ますから、後ろを向いていてください」
「分かった」
僕は、身体を拭いて服を着た。
「……それで、僕に何の用ですか?」
「私達は、これからダッデウドの里に行く。その際に、明らかに私達に付いて来るべきじゃない子がいるだろう?」
「……クレアのことですね?」
「そうだ。話を聞いたが、彼女自身はダッデウドとは何の関係もないそうじゃないか。ただ単に、君のことを心配して付いて来ただけだろう? なら、そろそろ彼女とは別れた方がいいんじゃないかと思ってね」
「……」
それについては、僕だって考えなかったわけじゃない。
クレアは、ダッデウドである僕とノエル、そして母親がダッデウドだったミスティとは違う。
ごく普通の、オットームの女の子だ。
僕のことが好きだと言ってくれているが、だからといって、ダッデウドの味方として帝国と戦うのは過酷すぎる。
そもそも、クレアはダッデウドのことを嫌っているのだ。
そんな彼女が、たった1人のダッデウドを愛してしまったために、ダッデウドを救うための戦いに身を投じるというのは理不尽なことである。
それに、クレアのことを連れて行ったら、ダッデウドの里の人々はどう思うだろうか?
さすがに、即座に殺されるということはないと思うが……絶対にあり得ないとは言い切れない。
ダッデウドの中には、ベルさんと同じような差別主義者が何人もいるからだ。
オットームに好意的な人だって、クレアに対して、疑いは抱くだろう。
最悪の場合、帝国のスパイだと疑われ、追い出すとか、処刑するといった話になるおそれだってある。
そんなことを考えると、彼女をこのままダッデウドの里に連れて行くのは問題だと思えた。
「でも、クレアがいなくなると、回復魔法を使える人がいなくなりますよね?」
「それは仕方がないだろう? ダッデウドは、回復魔法が苦手なんだ」
「ミスティが回復魔法を使うことができれば、助かるんですけど……」
「それについては本人に確認したよ。あの子は、魔法を使うことができないらしい」
「そうですか……」
となると、やはり僕達の中で回復魔法が使えるのはクレアだけのようだ。
そのクレアがいなくなるのは、どうしても不安である。
だが、それは僕達の事情だ。
こちらの都合で、クレアを危険に晒すわけにはいかない。
「……分かりました。機会を見つけて、クレアと話してみようと思います」
「そうしてくれ。私達は、いつ帝国と本格的に戦うことになるか分からない。話すなら、早い方がいいだろう」
ルティアさんの言葉に、僕は頷いた。
これ以上、クレアを巻き込んではいけない。
早く、きちんと話さなければ……。
翌日、僕達はダッデウドの里を目指して進んだ。
その途中で、クレアに声をかけるタイミングを見つけようとしたが、ミスティが常に僕の傍におり、トイレの時には女性達が連れ立って僕から離れるので、なかなかタイミングがなかった。
他の人が近くにいる状態では、クレアときちんと話すことは難しいだろう。
ベルさんが近くにいれば、クレアは、意地でも僕の傍に残ろうとするに違いない。
ミスティやノエルが近くにいれば、傍にいて守ってあげたいという思いを抱くだろう。
どうにかして、2人だけになって、冷静に話し合う機会が欲しかった。
だが、そのようなチャンスは訪れず、そのまま夜を迎えてしまった。
まだ満月の翌日であるために、満月の夜に近い明るさだ。
僕達は、目立たないように、岩場へ身を隠そうとした。
「お前達、そこで何をしている!」
突然、鋭い声が響く。
月明かりで、声を発したのが警備隊の人間だと分かった。
2人組でこちらに近付いてくる。
ベルさんが魔法を放った。
相手は、顔がはっきりと分かる距離になる前に、首をはね飛ばされていた。
今夜は満月なので、下半身まで含めて、確実に見えてしまうだろう。
「すまない、覗きに来るつもりはなかったんだ。君に話しておきたいことがあって……」
そう言って目を逸らすルティアさんは、顔を赤らめているように見えた。
「……せっかくの機会だ。私も脱ごうか?」
「いや、そういう気の遣い方はしなくていいですから! それに、ルティアさんはもう皆と一緒に水浴びをしたんでしょう?」
「ヴェルから聞いているんだろう? ダッデウドの女は、ダッデウドの男の関心を惹くために色々するものなのさ」
「……そんなことを言われたら、期待しちゃいますよ?」
「そんな風に言ってくれるダッデウドの男は君くらいだよ。里にいるダッデウドの男は、私の身体に興味を示したりはしないからね」
「本当ですか? ベルさんもそうらしいですけど……信じられませんよ」
「それで、どうする? 本当に脱いだ方がいいかい?」
ルティアさんの言葉にどう答えるべきか、僕は迷った。
こんなチャンスはもう来ないかもしれないのだ。
ここは、本当に脱いでもらった方がいいのかもしれない。
しかし、そんなことをお願いしたことが知られたら、他の女性に軽蔑されることは間違いないだろう。
「……今は遠慮させてください。もし誰かに見られたら困ります」
「君はオットームみたいだね」
「オットームの社会で暮らしてきたもので……服を着ますから、後ろを向いていてください」
「分かった」
僕は、身体を拭いて服を着た。
「……それで、僕に何の用ですか?」
「私達は、これからダッデウドの里に行く。その際に、明らかに私達に付いて来るべきじゃない子がいるだろう?」
「……クレアのことですね?」
「そうだ。話を聞いたが、彼女自身はダッデウドとは何の関係もないそうじゃないか。ただ単に、君のことを心配して付いて来ただけだろう? なら、そろそろ彼女とは別れた方がいいんじゃないかと思ってね」
「……」
それについては、僕だって考えなかったわけじゃない。
クレアは、ダッデウドである僕とノエル、そして母親がダッデウドだったミスティとは違う。
ごく普通の、オットームの女の子だ。
僕のことが好きだと言ってくれているが、だからといって、ダッデウドの味方として帝国と戦うのは過酷すぎる。
そもそも、クレアはダッデウドのことを嫌っているのだ。
そんな彼女が、たった1人のダッデウドを愛してしまったために、ダッデウドを救うための戦いに身を投じるというのは理不尽なことである。
それに、クレアのことを連れて行ったら、ダッデウドの里の人々はどう思うだろうか?
さすがに、即座に殺されるということはないと思うが……絶対にあり得ないとは言い切れない。
ダッデウドの中には、ベルさんと同じような差別主義者が何人もいるからだ。
オットームに好意的な人だって、クレアに対して、疑いは抱くだろう。
最悪の場合、帝国のスパイだと疑われ、追い出すとか、処刑するといった話になるおそれだってある。
そんなことを考えると、彼女をこのままダッデウドの里に連れて行くのは問題だと思えた。
「でも、クレアがいなくなると、回復魔法を使える人がいなくなりますよね?」
「それは仕方がないだろう? ダッデウドは、回復魔法が苦手なんだ」
「ミスティが回復魔法を使うことができれば、助かるんですけど……」
「それについては本人に確認したよ。あの子は、魔法を使うことができないらしい」
「そうですか……」
となると、やはり僕達の中で回復魔法が使えるのはクレアだけのようだ。
そのクレアがいなくなるのは、どうしても不安である。
だが、それは僕達の事情だ。
こちらの都合で、クレアを危険に晒すわけにはいかない。
「……分かりました。機会を見つけて、クレアと話してみようと思います」
「そうしてくれ。私達は、いつ帝国と本格的に戦うことになるか分からない。話すなら、早い方がいいだろう」
ルティアさんの言葉に、僕は頷いた。
これ以上、クレアを巻き込んではいけない。
早く、きちんと話さなければ……。
翌日、僕達はダッデウドの里を目指して進んだ。
その途中で、クレアに声をかけるタイミングを見つけようとしたが、ミスティが常に僕の傍におり、トイレの時には女性達が連れ立って僕から離れるので、なかなかタイミングがなかった。
他の人が近くにいる状態では、クレアときちんと話すことは難しいだろう。
ベルさんが近くにいれば、クレアは、意地でも僕の傍に残ろうとするに違いない。
ミスティやノエルが近くにいれば、傍にいて守ってあげたいという思いを抱くだろう。
どうにかして、2人だけになって、冷静に話し合う機会が欲しかった。
だが、そのようなチャンスは訪れず、そのまま夜を迎えてしまった。
まだ満月の翌日であるために、満月の夜に近い明るさだ。
僕達は、目立たないように、岩場へ身を隠そうとした。
「お前達、そこで何をしている!」
突然、鋭い声が響く。
月明かりで、声を発したのが警備隊の人間だと分かった。
2人組でこちらに近付いてくる。
ベルさんが魔法を放った。
相手は、顔がはっきりと分かる距離になる前に、首をはね飛ばされていた。
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