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第78話
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「叔母様、やめてください!」
いつの間にかベルさんの後ろにいたレレが、ベルさんの腕にしがみつくようにして止めた。
「ディフィ……」
「オットームであっても、ダッデウドから産まれた者は、ダッデウドの仲間として扱われるはずです! 理由もなく殺さないでください!」
「貴方は優しいのね……。でも、ダッデウドが産んだオットームの存在は、私達の社会を混乱させるわ。本当は、全員殺してしまうべきなのよ」
「そんなの、酷すぎます……!」
「あの連中は、私達の仲間でもなんでもないのよ? 当初オットームを受け入れた時だって、ダッデウドの両親から産まれたオットームだけは許容する、という話になっていたはずなのに、なし崩し的に、今ではオットームの両親から産まれたオットームですら受け入れているわ。このままでは、ダッデウドの社会は、オットームによって支配されてしまうでしょうね。これは、立派な侵略行為よ」
「ちょっと待ってください! ひょっとして、ダッデウドの社会の中にも、オットームが暮らしているんですか!?」
僕がベルさんに尋ねると、レレが代わりに頷いた。
よく考えてみれば、それは当然のことだろう。
ダッデウドが自分達だけでは子孫を残せなくなって、ダッデウドとオットームの混血が進み、かなりの割合のダッデウドには、オットームの血が入っているのだ。
例えば、ダッデウド同士の夫婦からオットームが産まれたとして、その子供を追い出すとか殺すといったことが、簡単に認められるとは思えない。
そうなれば、オットームがダッデウド社会の中で暮らすことになるはずである。
ベルさんは忌々しそうな表情を浮かべた。
「私は、あんな連中が仲間だなんて認めてないわ。他のダッデウドだって、それは同じよ。子孫を増やすために都合がいいから、仕方なく置いているけど……」
「でも、ダッデウドの社会では、ダッデウドが産んだオットームの権利は認められているんですよね?」
「認めるわけがないじゃない、そんなもの。私も含めて、たくさんのダッデウドが、今すぐにあの連中を始末するべきだと訴えているわ。事なかれ主義な連中が反対するから、実現しないだけよ」
「そんな……それじゃあ、オットームの社会で暮らすダッデウドの扱いより、酷いじゃないですか!」
「当然じゃない。オットームなんかに生きていられたら、それだけで迷惑だもの。あんな連中がダッデウドの近くで暮らしているなんて、冗談じゃないわよ。貴方は、毛虫やナメクジと一緒に暮らしても平気だっていうの? 私としては、それ以上に不快な気分だわ」
「……」
僕は、オットームの社会の中で暮らしてきたために、ダッデウドだけが一方的に、オットームからの差別を受けていると思い込んでいた。
しかし、それは違ったのだ。
オットームも、ダッデウドの社会の中で、ベルさんのような人から差別を受けていた……!
「叔母様、オットームであるクレアの前で、そんな言い方は……」
レレがそう言うと、ベルさんは首を振った。
「もうたくさんよ! やっぱり、オットームは生かしておいてはいけないんだわ! 存在自体が間違っているのよ!」
そう言って、ベルさんは再びミスティに向かって手を伸ばす。
はっきりとした殺意を感じて、僕は後ろへ飛び退いた。
「ティルト……貴方も、やっぱりオットームの女の方がいいのね?」
悲しそうな目で、ベルさんが僕のことを見てくる。
「ベルさん……ダッデウドが産んだオットームが、ダッデウドの社会で問題となっているなら、ミスティをそんな場所に連れて行ったりはしません。だから、この子を殺したりはしないでください」
「関係ないわよ、ダッデウドの里のことなんて。その子を生かしておいたら、貴方はその子のことが好きになるかもしれないじゃない。それだけで、充分に危険よ」
「だからといって、命を奪うなんて……あまりにも安易ですよ!」
「別にいいでしょ、その子はオットームなんだから」
「……」
もはや限界だった。
ベルさんがこういう人であることは、分かっていたことだ。
この人は、オットームを虫ケラ同然の存在だと思っている。
だから、酷いことをしても、殺しても、全く心が痛まないのである。
しかし、クレアがいて、ミスティが加わるとすれば、そんな人物に僕達のことを率いられるわけにはいかない。
僕は、意を決して切り出した。
「ベルさん、僕は今、はっきりと確信しました」
「何をかしら?」
これを言えば、最悪の場合、ベルさんと敵対することになる。
それでも、僕は言った。
「それは……僕達の命運を、貴方に任せてはいけないということです!」
いつの間にかベルさんの後ろにいたレレが、ベルさんの腕にしがみつくようにして止めた。
「ディフィ……」
「オットームであっても、ダッデウドから産まれた者は、ダッデウドの仲間として扱われるはずです! 理由もなく殺さないでください!」
「貴方は優しいのね……。でも、ダッデウドが産んだオットームの存在は、私達の社会を混乱させるわ。本当は、全員殺してしまうべきなのよ」
「そんなの、酷すぎます……!」
「あの連中は、私達の仲間でもなんでもないのよ? 当初オットームを受け入れた時だって、ダッデウドの両親から産まれたオットームだけは許容する、という話になっていたはずなのに、なし崩し的に、今ではオットームの両親から産まれたオットームですら受け入れているわ。このままでは、ダッデウドの社会は、オットームによって支配されてしまうでしょうね。これは、立派な侵略行為よ」
「ちょっと待ってください! ひょっとして、ダッデウドの社会の中にも、オットームが暮らしているんですか!?」
僕がベルさんに尋ねると、レレが代わりに頷いた。
よく考えてみれば、それは当然のことだろう。
ダッデウドが自分達だけでは子孫を残せなくなって、ダッデウドとオットームの混血が進み、かなりの割合のダッデウドには、オットームの血が入っているのだ。
例えば、ダッデウド同士の夫婦からオットームが産まれたとして、その子供を追い出すとか殺すといったことが、簡単に認められるとは思えない。
そうなれば、オットームがダッデウド社会の中で暮らすことになるはずである。
ベルさんは忌々しそうな表情を浮かべた。
「私は、あんな連中が仲間だなんて認めてないわ。他のダッデウドだって、それは同じよ。子孫を増やすために都合がいいから、仕方なく置いているけど……」
「でも、ダッデウドの社会では、ダッデウドが産んだオットームの権利は認められているんですよね?」
「認めるわけがないじゃない、そんなもの。私も含めて、たくさんのダッデウドが、今すぐにあの連中を始末するべきだと訴えているわ。事なかれ主義な連中が反対するから、実現しないだけよ」
「そんな……それじゃあ、オットームの社会で暮らすダッデウドの扱いより、酷いじゃないですか!」
「当然じゃない。オットームなんかに生きていられたら、それだけで迷惑だもの。あんな連中がダッデウドの近くで暮らしているなんて、冗談じゃないわよ。貴方は、毛虫やナメクジと一緒に暮らしても平気だっていうの? 私としては、それ以上に不快な気分だわ」
「……」
僕は、オットームの社会の中で暮らしてきたために、ダッデウドだけが一方的に、オットームからの差別を受けていると思い込んでいた。
しかし、それは違ったのだ。
オットームも、ダッデウドの社会の中で、ベルさんのような人から差別を受けていた……!
「叔母様、オットームであるクレアの前で、そんな言い方は……」
レレがそう言うと、ベルさんは首を振った。
「もうたくさんよ! やっぱり、オットームは生かしておいてはいけないんだわ! 存在自体が間違っているのよ!」
そう言って、ベルさんは再びミスティに向かって手を伸ばす。
はっきりとした殺意を感じて、僕は後ろへ飛び退いた。
「ティルト……貴方も、やっぱりオットームの女の方がいいのね?」
悲しそうな目で、ベルさんが僕のことを見てくる。
「ベルさん……ダッデウドが産んだオットームが、ダッデウドの社会で問題となっているなら、ミスティをそんな場所に連れて行ったりはしません。だから、この子を殺したりはしないでください」
「関係ないわよ、ダッデウドの里のことなんて。その子を生かしておいたら、貴方はその子のことが好きになるかもしれないじゃない。それだけで、充分に危険よ」
「だからといって、命を奪うなんて……あまりにも安易ですよ!」
「別にいいでしょ、その子はオットームなんだから」
「……」
もはや限界だった。
ベルさんがこういう人であることは、分かっていたことだ。
この人は、オットームを虫ケラ同然の存在だと思っている。
だから、酷いことをしても、殺しても、全く心が痛まないのである。
しかし、クレアがいて、ミスティが加わるとすれば、そんな人物に僕達のことを率いられるわけにはいかない。
僕は、意を決して切り出した。
「ベルさん、僕は今、はっきりと確信しました」
「何をかしら?」
これを言えば、最悪の場合、ベルさんと敵対することになる。
それでも、僕は言った。
「それは……僕達の命運を、貴方に任せてはいけないということです!」
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