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第75話
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「連れて行くって……」
とんでもない提案をされて、僕は困惑した。
「いいだろ? ミスティだって、ここから遠く離れた場所で目を覚ませば、さすがに諦めるはずだ。このまま居座られたら、お互いに傷付くだけだからな」
「でも、この子……目を覚ました時に、遠く離れた場所で、君に捨てられたと知ったら……本当に自殺すると思うよ?」
「ずっと監視しておけばいいだろ?」
「そういうわけにはいかないよ。女の子には、身体を洗ったり、トイレに行ったりする時間が必要なんだから……」
「そんなの、ずっと眺めてればいいじゃないか」
「……!」
とんでもない提案をされて、僕は言葉を失った。
「いけません! そのような非道なことをしては……!」
ロゼットが、焦った様子で口を挟む。
「お嬢様、ですが……」
「女の子を物のように譲り渡すなんて、許されない行為です。ミスティのことは、目を覚ましたら、改めて説得しましょう。それが私達の責任です」
「不可能ですよ、説得なんて。さっきの様子を見たでしょう? この女、目を覚ましたら、自分が死ぬか、お嬢様を殺そうとすると思いますよ?」
「それについては、僕も同感だよ」
「ですが……」
ロゼットは納得しなかったが、代わりの良い案を考え出すことはできないようだった。
「仮に、僕がミスティを連れて行ったら……仲間からは非難されるだろうね。僕達は、ダッデウドであるタームを仲間に加えるために、ここまで来たんだ。それなのに、オットームの女の子を連れて行ったりしたら、皆は当然怒るよ。いや、それ以前の問題として……娼婦であるミスティを連れて行ったりしたら、ベルさんが殺そうとするかも……」
「あんたら、ダート人を保護する活動をしてるんだろ? だったら、こいつのことも保護するべきだ。ミスティの母親は、もう病気で亡くなっているが、ダート人だったんだからな」
「えっ……!」
思いもよらないことを言われて、僕はミスティを見た。
そういえば、ダッデウドとオットームの間には、オットームの子供が生まれることが多いはずだ。
そして、ダッデウドの血を引いているオットームは、オットームとの間に子供を作ったとしても、ダッデウドを産むことがある。
僕自身、両親がオットームなのだ。
ダッデウドの血を引いていることは、ミスティを連れて行く理由として、充分な説得力を持つように思えた。
「でも、ベルさんや、他の仲間が納得したとしても……ミスティ自身が、タームのことを思い続けて、衝動的に自殺することは考えられるよね? 最悪の場合、それを防ぐために、何年も監視し続けることになるかもしれないけど……それは、お互いに負担が大きいと思うな……」
「それは、お前が優しく接してやれば、簡単に解決するはずだ。こいつは、自分の母親以外の人間から、優しくされた経験が乏しいからな。そのせいで、他人の優しさに飢えているし、母親のことを思い出すから、ダート人のことが元々好きなんだ。お前のことだって、優しくされたら、すぐに好きになると思うぞ?」
「ターム、いけませんよ? 女の子の恋心を、そんなに軽く考えては……」
「お嬢様。ミスティは、俺以外のダート人の男を知らないんですよ。事実上、他に選択肢が無かったから、俺のことを好きになっただけなんです」
タームは、僕に歩み寄り、肩をポンと叩いてきた。
「お前、相当運がいいぜ? ミスティは、かなりいい女だからな。しかも、まだ成長するだろうし、惚れた男にはとことん尽くす性格だし……こいつは、娼婦になった直後に屋敷に来たから、まだ処女だぞ?」
「えっ!?」
「俺は、結局ミスティのことを1回も抱かなかったからな。お嬢様を除いたら、こいつ以上の女は、この世にいないんじゃないかと思うくらいだ」
「……」
僕は、横たわっているミスティを眺めた。
彼女が身に着けているのは娼婦の服であるため、胸元は大きく開き、脚も大半が見えている。
確かに、タームが言うとおり……とても良い身体をしているようだ。
ノエルはかなり早熟で、素晴らしい身体をしているのだが……彼女と比べても、おそらく遜色がないだろう。
ミスティが屋敷に雇われたのは、娼婦になった直後だったらしい。
処女であることは間違いないはずである。
顔立ちも整っているし、顔の傷だって、目立つようなものではない。
タームの評価は、少なくともオットームに限定した場合であれば、間違っていないと思えた。
「……最低ですね、貴方達」
ロゼットが僕達に白い目を向けてくると、タームは慌てた。
「い、いえ、これは……!」
「女の子を値踏みするような男性のことは、嫌いです」
「違うんです! この男に、ミスティを大事にしてもらうために、仕方なくですね……!」
「どうせ、貴方が言った条件に当てはまる女性にだけ価値があって、そうでない女性には価値がないとでも思っているのでしょう?」
「いえ、決してそのようなことは……!」
「……ちなみに、私は、既に処女ではありません」
「ええっ!?」
タームよりも先に、僕が絶叫してしまった。
「……冗談ですよ。それにしても、どうしてティルトがそんなに驚くんですか?」
「いや、だって……それが本当だったら、凄くショックだよ……!」
「どうして、恋人でもない貴方がショックを受けるんですか……」
ロゼットはため息を吐いた。
タームは、ロゼットの言葉を聞いて真っ青になっていたが、冗談だと分かって安堵した様子だった。
とんでもない提案をされて、僕は困惑した。
「いいだろ? ミスティだって、ここから遠く離れた場所で目を覚ませば、さすがに諦めるはずだ。このまま居座られたら、お互いに傷付くだけだからな」
「でも、この子……目を覚ました時に、遠く離れた場所で、君に捨てられたと知ったら……本当に自殺すると思うよ?」
「ずっと監視しておけばいいだろ?」
「そういうわけにはいかないよ。女の子には、身体を洗ったり、トイレに行ったりする時間が必要なんだから……」
「そんなの、ずっと眺めてればいいじゃないか」
「……!」
とんでもない提案をされて、僕は言葉を失った。
「いけません! そのような非道なことをしては……!」
ロゼットが、焦った様子で口を挟む。
「お嬢様、ですが……」
「女の子を物のように譲り渡すなんて、許されない行為です。ミスティのことは、目を覚ましたら、改めて説得しましょう。それが私達の責任です」
「不可能ですよ、説得なんて。さっきの様子を見たでしょう? この女、目を覚ましたら、自分が死ぬか、お嬢様を殺そうとすると思いますよ?」
「それについては、僕も同感だよ」
「ですが……」
ロゼットは納得しなかったが、代わりの良い案を考え出すことはできないようだった。
「仮に、僕がミスティを連れて行ったら……仲間からは非難されるだろうね。僕達は、ダッデウドであるタームを仲間に加えるために、ここまで来たんだ。それなのに、オットームの女の子を連れて行ったりしたら、皆は当然怒るよ。いや、それ以前の問題として……娼婦であるミスティを連れて行ったりしたら、ベルさんが殺そうとするかも……」
「あんたら、ダート人を保護する活動をしてるんだろ? だったら、こいつのことも保護するべきだ。ミスティの母親は、もう病気で亡くなっているが、ダート人だったんだからな」
「えっ……!」
思いもよらないことを言われて、僕はミスティを見た。
そういえば、ダッデウドとオットームの間には、オットームの子供が生まれることが多いはずだ。
そして、ダッデウドの血を引いているオットームは、オットームとの間に子供を作ったとしても、ダッデウドを産むことがある。
僕自身、両親がオットームなのだ。
ダッデウドの血を引いていることは、ミスティを連れて行く理由として、充分な説得力を持つように思えた。
「でも、ベルさんや、他の仲間が納得したとしても……ミスティ自身が、タームのことを思い続けて、衝動的に自殺することは考えられるよね? 最悪の場合、それを防ぐために、何年も監視し続けることになるかもしれないけど……それは、お互いに負担が大きいと思うな……」
「それは、お前が優しく接してやれば、簡単に解決するはずだ。こいつは、自分の母親以外の人間から、優しくされた経験が乏しいからな。そのせいで、他人の優しさに飢えているし、母親のことを思い出すから、ダート人のことが元々好きなんだ。お前のことだって、優しくされたら、すぐに好きになると思うぞ?」
「ターム、いけませんよ? 女の子の恋心を、そんなに軽く考えては……」
「お嬢様。ミスティは、俺以外のダート人の男を知らないんですよ。事実上、他に選択肢が無かったから、俺のことを好きになっただけなんです」
タームは、僕に歩み寄り、肩をポンと叩いてきた。
「お前、相当運がいいぜ? ミスティは、かなりいい女だからな。しかも、まだ成長するだろうし、惚れた男にはとことん尽くす性格だし……こいつは、娼婦になった直後に屋敷に来たから、まだ処女だぞ?」
「えっ!?」
「俺は、結局ミスティのことを1回も抱かなかったからな。お嬢様を除いたら、こいつ以上の女は、この世にいないんじゃないかと思うくらいだ」
「……」
僕は、横たわっているミスティを眺めた。
彼女が身に着けているのは娼婦の服であるため、胸元は大きく開き、脚も大半が見えている。
確かに、タームが言うとおり……とても良い身体をしているようだ。
ノエルはかなり早熟で、素晴らしい身体をしているのだが……彼女と比べても、おそらく遜色がないだろう。
ミスティが屋敷に雇われたのは、娼婦になった直後だったらしい。
処女であることは間違いないはずである。
顔立ちも整っているし、顔の傷だって、目立つようなものではない。
タームの評価は、少なくともオットームに限定した場合であれば、間違っていないと思えた。
「……最低ですね、貴方達」
ロゼットが僕達に白い目を向けてくると、タームは慌てた。
「い、いえ、これは……!」
「女の子を値踏みするような男性のことは、嫌いです」
「違うんです! この男に、ミスティを大事にしてもらうために、仕方なくですね……!」
「どうせ、貴方が言った条件に当てはまる女性にだけ価値があって、そうでない女性には価値がないとでも思っているのでしょう?」
「いえ、決してそのようなことは……!」
「……ちなみに、私は、既に処女ではありません」
「ええっ!?」
タームよりも先に、僕が絶叫してしまった。
「……冗談ですよ。それにしても、どうしてティルトがそんなに驚くんですか?」
「いや、だって……それが本当だったら、凄くショックだよ……!」
「どうして、恋人でもない貴方がショックを受けるんですか……」
ロゼットはため息を吐いた。
タームは、ロゼットの言葉を聞いて真っ青になっていたが、冗談だと分かって安堵した様子だった。
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