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第73話
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「……追わなくても良いのですか?」
ロゼットがそう言った。
僕とタームに言い負かされたベルさんのことを、気の毒だと思っているようだ。
僕は首を振った。
今追っても、彼女に何と言えば良いか分からない。
ベルさんは、泣いているように見えた。
さすがに、彼女がそこまで傷付くとは思わなかった。
彼女は、オットームであるクレアやロゼットから、どんなに強く非難されても、何とも思っていない様子だったが……ダッデウドから非難されることには、耐えられないのかもしれない。
想像すらしたことがなかった、ベルさんの意外な脆さだった。
「……では、話を進めますが……まず、ケイトは服を着て来なさい」
「は、はい!」
そう返事をしたが、ケイトは、タームの様子を窺った。
タームが促すような仕草をしたので、彼女は小走りに別荘の奥へと向かった。
「いけませんよ、ターム。女性を、あのような格好のまま連れ回しては……」
「す、すいません! 服を着せたら、逃げやすくなると思って……!」
「そのために、ケイトは、初対面の男性に素肌を晒すことになったのですよ?」
そう言って、ロゼットは僕のことも非難するように睨んできた。
しかし、目の前に下着姿の女性がいたら、大抵の男性は見てしまうものだろう。
ケイトは美人であり、体型も、クレアと同程度には恵まれている。
タームが、殺すのは惜しいと思ったのも当然だと思えた。
「他の2人の服も、取り上げたのですか?」
「いえ、その……逃げられないように、トイレに行く時だけは、全部脱がすように指示していますけど……」
「何という酷いことを……」
「いや、でも……ここにいる男は俺だけですから! もう、散々見たわけですし……!」
「貴方以外の男性がいなかったとしても、誰かがこの別荘の異変に気付いて、中を覗くかもしれないでしょう? そのような恐怖に苛まれながら、裸体を晒してお手洗いまで歩くのは、耐え難い苦痛だったはずです。直接的に加えた性暴力のことは当然として、そのことについても、全員に対して謝ってください。彼女達は、これから一生苦しむことになるのですから」
「は、はい……」
何だか、不思議な関係だと思った。
タームは、ロゼットを簡単に殺せるはずだ。
なのに、彼は、ロゼットには逆らえない様子である。
女性に惚れた男というのは、こういうものなのだろうか?
「ティルト、私の頼みを聞いていただけますか?」
唐突に、ロゼットがそう言った。
「……頼みって?」
「彼女達が無事に逃げられるように、気を遣ってあげてください。あの女性が、個人的な憎しみによって、彼女達を殺す可能性がありますから」
あの女性、というのは、当然ながらベルさんのことを指している。
確かに、そのような可能性は考えられる状況だ。
「確かに、ベルさんのことは不安だけど……僕のことを信用して、彼女達を任せていいの?」
「勘違いしないでください。私は、貴方のことなど信用しておりません。ですから、貴方が彼女達に性暴力を加える可能性は、決して低くないと思っております」
心外な評価だった。
僕は、誰に対してでも、そういう行為をするわけではないのだが……。
しかし、僕に全裸にされて、使用人達と共に散々弄ばれた彼女にとっては、僕はとんでもないケダモノなのだろう。
「だったら……どうして?」
「貴方が彼女達を殺害するリスクは、極めて低いからです。これは、私のわがままですが……生き残った彼女達には、なるべくこのまま生き続けてほしいのです。ひょっとしたら、彼女達は、死んだ方が楽だと思うかもしれませんが……それは、身の安全を確保してから考えるべきことですから」
「……分かったよ」
僕は、ケイト達を守ることに同意した。
話を聞く限り、残った使用人や娼婦に、殺されるべき理由はない。
それに、これは重要な点だが……彼女達は、タームの子を孕んでいる可能性がある。
無論、彼が誰と行為を行ったのかについては聞いていないのだが……そんなことを、わざわざ確認するのは野暮だろう。
セックスしたかもしれないので、妊娠している可能性がある。
それだけで、生かしておく理由としては充分だった。
その後、僕達は、服を着て戻って来たケイトと共に、捕らわれていた使用人を全員解放した。
タームは、ロゼットに命じられたとおり、彼女達に対して加えた虐待について謝った。
ケイト達は、思いもよらなかったであろう謝罪に対して、ひたすら困惑した様子だった。
彼女達にとっては、謝ってもらった程度で許せるようなことではないはずだが、自分達を簡単に殺せるような化け物を糾弾するような度胸があるはずがない。
一方で、別荘から立ち去るように求められた娼婦達の反応は、使用人達以上だった。
「そんな! そのお嬢様がいれば私達は用済みだなんて、あんまりじゃない!」
娼婦達に詰め寄られると、タームは激しく狼狽えた。
それでも、ロゼットが充分なお金を支払うことで、彼女達を納得させた。
しかし、それでは納得しない娼婦が1人だけいた。
ロゼットがそう言った。
僕とタームに言い負かされたベルさんのことを、気の毒だと思っているようだ。
僕は首を振った。
今追っても、彼女に何と言えば良いか分からない。
ベルさんは、泣いているように見えた。
さすがに、彼女がそこまで傷付くとは思わなかった。
彼女は、オットームであるクレアやロゼットから、どんなに強く非難されても、何とも思っていない様子だったが……ダッデウドから非難されることには、耐えられないのかもしれない。
想像すらしたことがなかった、ベルさんの意外な脆さだった。
「……では、話を進めますが……まず、ケイトは服を着て来なさい」
「は、はい!」
そう返事をしたが、ケイトは、タームの様子を窺った。
タームが促すような仕草をしたので、彼女は小走りに別荘の奥へと向かった。
「いけませんよ、ターム。女性を、あのような格好のまま連れ回しては……」
「す、すいません! 服を着せたら、逃げやすくなると思って……!」
「そのために、ケイトは、初対面の男性に素肌を晒すことになったのですよ?」
そう言って、ロゼットは僕のことも非難するように睨んできた。
しかし、目の前に下着姿の女性がいたら、大抵の男性は見てしまうものだろう。
ケイトは美人であり、体型も、クレアと同程度には恵まれている。
タームが、殺すのは惜しいと思ったのも当然だと思えた。
「他の2人の服も、取り上げたのですか?」
「いえ、その……逃げられないように、トイレに行く時だけは、全部脱がすように指示していますけど……」
「何という酷いことを……」
「いや、でも……ここにいる男は俺だけですから! もう、散々見たわけですし……!」
「貴方以外の男性がいなかったとしても、誰かがこの別荘の異変に気付いて、中を覗くかもしれないでしょう? そのような恐怖に苛まれながら、裸体を晒してお手洗いまで歩くのは、耐え難い苦痛だったはずです。直接的に加えた性暴力のことは当然として、そのことについても、全員に対して謝ってください。彼女達は、これから一生苦しむことになるのですから」
「は、はい……」
何だか、不思議な関係だと思った。
タームは、ロゼットを簡単に殺せるはずだ。
なのに、彼は、ロゼットには逆らえない様子である。
女性に惚れた男というのは、こういうものなのだろうか?
「ティルト、私の頼みを聞いていただけますか?」
唐突に、ロゼットがそう言った。
「……頼みって?」
「彼女達が無事に逃げられるように、気を遣ってあげてください。あの女性が、個人的な憎しみによって、彼女達を殺す可能性がありますから」
あの女性、というのは、当然ながらベルさんのことを指している。
確かに、そのような可能性は考えられる状況だ。
「確かに、ベルさんのことは不安だけど……僕のことを信用して、彼女達を任せていいの?」
「勘違いしないでください。私は、貴方のことなど信用しておりません。ですから、貴方が彼女達に性暴力を加える可能性は、決して低くないと思っております」
心外な評価だった。
僕は、誰に対してでも、そういう行為をするわけではないのだが……。
しかし、僕に全裸にされて、使用人達と共に散々弄ばれた彼女にとっては、僕はとんでもないケダモノなのだろう。
「だったら……どうして?」
「貴方が彼女達を殺害するリスクは、極めて低いからです。これは、私のわがままですが……生き残った彼女達には、なるべくこのまま生き続けてほしいのです。ひょっとしたら、彼女達は、死んだ方が楽だと思うかもしれませんが……それは、身の安全を確保してから考えるべきことですから」
「……分かったよ」
僕は、ケイト達を守ることに同意した。
話を聞く限り、残った使用人や娼婦に、殺されるべき理由はない。
それに、これは重要な点だが……彼女達は、タームの子を孕んでいる可能性がある。
無論、彼が誰と行為を行ったのかについては聞いていないのだが……そんなことを、わざわざ確認するのは野暮だろう。
セックスしたかもしれないので、妊娠している可能性がある。
それだけで、生かしておく理由としては充分だった。
その後、僕達は、服を着て戻って来たケイトと共に、捕らわれていた使用人を全員解放した。
タームは、ロゼットに命じられたとおり、彼女達に対して加えた虐待について謝った。
ケイト達は、思いもよらなかったであろう謝罪に対して、ひたすら困惑した様子だった。
彼女達にとっては、謝ってもらった程度で許せるようなことではないはずだが、自分達を簡単に殺せるような化け物を糾弾するような度胸があるはずがない。
一方で、別荘から立ち去るように求められた娼婦達の反応は、使用人達以上だった。
「そんな! そのお嬢様がいれば私達は用済みだなんて、あんまりじゃない!」
娼婦達に詰め寄られると、タームは激しく狼狽えた。
それでも、ロゼットが充分なお金を支払うことで、彼女達を納得させた。
しかし、それでは納得しない娼婦が1人だけいた。
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