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第68話
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僕達は、充分に休んだ後で、干していた衣類を回収して、旅を再開した。
「私達が寝ている間に、逃げ出すかと思ったわ」
ベルさんが、ロゼットに対して嫌味を言う。
「今さら逃げたりしませんよ。第一、逃げられることを心配をするのであれば、私に寝込みを襲われて、殺されることを警戒すべきではないですか?」
ロゼットがそう言うと、ベルさんは笑いながら首を振った。
「あり得ないわよ、そんなこと。貴方は、人を殺せるような人間じゃないわ」
「よく、そのようなことが断言できますね? つい先ほど、薬を盛られて、殺されかけたばかりだというのに」
ロゼットに指摘されると、ベルさんの顔が引きつった。
「出会ったばかりの相手だと、本性を読むのは難しいのよ……。それに、あの男だって、本当は人間を殺すことなんて出来なかったはずだわ。そのことも、読み間違いの原因の1つよ」
ベルさんの言葉に、僕は驚いた。
本性を表したあの男は、とても、そんな善良な人間には見えなかったからだ。
「ティルト達の話を聞く限りでは、とても、そうは思えませんが?」
ロゼットが疑問を呈した。
「それは当然よ。人間の定義は、人それぞれだもの」
「何ですって?」
「貴方……身近にダッデウドがいたのに、そんなことにも気付いてなかったの? よく考えてみなさい。ダッデウドを人間だと認識していないオットームは、珍しくないでしょう? そういうオットームは、ダッデウドを平気で殺すことが出来るわ。それは、人を殺すことが平気だからじゃないの。その人にとって、ダッデウドが人間じゃないから平気なのよ」
「……」
ベルさんの言葉を聞いて、ロゼットは絶句した。
「だから、どんなに善良で、まともに見える人間であっても、ダッデウドを殺す可能性は否定できないわね」
「……あの男は、オルト人である私のことも、最終的には殺すつもりだったと思うのですが?」
「そうでしょうね。あの男は、ダッデウドのことだけじゃなくて、女のことも、人間だと認識していなかったみたいだから」
「人間の定義なんて、主観的に決まるものじゃないはずなのに……」
クレアが悲しそうに言った。
それを聞いて、ベルさんは呆れ返った様子だ。
「貴方、まだそんなことを言っているの? 貴方だって、自分が住んでいた村で、ティルトを人間扱いしていなかった連中のことを、散々見てきたはずでしょ?」
「さすがに、そこまで酷くはありませんでしたよ! そうでしょう、ティルト?」
「……」
クレアに言われて、僕はしばらく考えた。
そして、答えを出す。
「僕は、ベルさんが言ってることは正しいと思うけど」
「そんな……」
僕の言葉を聞いて、クレアの顔は青ざめた。
そんな僕達のやり取りを聞いて、ベルさんは鼻を鳴らした。
「よくあることね。加害者側と被害者側との間で状況認識が乖離している、なんてことは」
「クレアが加害者だったわけではありませんけど……」
「同じことでしょ? クズみたいなオットームの連中と、仲良くしてたんだから」
「そんな酷いことを言わないでください! 村の人達は、皆いい人達だったんです! ティルトのことは、言い伝えの影響で避けていただけで……!」
必死な様子で言うクレアに対して、ベルさんは白い目を向けた。
「貴方……私とティルトが言ったことと、自分で言ってることについて、もう少し真剣に考えた方がいいわよ?」
「……」
ベルさんにトドメを刺されて、クレアは黙り込んでしまった。
自分の発言が、ベルさんの言葉を裏付けてしまっていることに気付いたのだろう。
「気にしない方がいいですよ、クレア。差別主義者であるこの人に、貴方や、貴方が住んでいた村の人間を非難する資格はありません」
ロゼットがそう言うと、ベルさんは彼女を睨みつけた。
「貴方だって、タームっていう少年を苦しめた加害者だということを忘れないで」
「……忘れていませんよ、そのことは。ですが、貴方がオルト人を虐殺することを肯定しているのは事実でしょう?」
「当然じゃない。オットームに、生かしておく価値があるとは思えないもの」
「……」
ロゼットは黙り込んだ。
筋金入りの差別主義者であるベルさんに、これ以上何を言っても無駄だと思ったのだろう。
その後にも2日を要したが、ようやく僕達は湖までやって来た。
この近くに、ロゼット達の別荘があるはずだ。
皆の間に緊張感が高まる。
ついに、タームという少年を救い出す時がきたのだ。
そのことに集中しているらしく、ベルさんは、湖での水浴びを提案したりはしなかった。
僕は、他の理由でも緊張していた。
ベルさんは、ロゼットを殺すと宣言しているのだ。
いざとなったら、ペティと同じ方法で、ロゼットの命を助けることも考えられる。
しかし、ロゼット自身が、ベルさんに殺されることを受け入れているのだ。
今さら、僕に凌辱されてまで、助かることを望みはしないだろう。
一体どうするべきか……?
そんなことを考えている間に、僕達はロゼットの別荘に辿り着いていた。
「私達が寝ている間に、逃げ出すかと思ったわ」
ベルさんが、ロゼットに対して嫌味を言う。
「今さら逃げたりしませんよ。第一、逃げられることを心配をするのであれば、私に寝込みを襲われて、殺されることを警戒すべきではないですか?」
ロゼットがそう言うと、ベルさんは笑いながら首を振った。
「あり得ないわよ、そんなこと。貴方は、人を殺せるような人間じゃないわ」
「よく、そのようなことが断言できますね? つい先ほど、薬を盛られて、殺されかけたばかりだというのに」
ロゼットに指摘されると、ベルさんの顔が引きつった。
「出会ったばかりの相手だと、本性を読むのは難しいのよ……。それに、あの男だって、本当は人間を殺すことなんて出来なかったはずだわ。そのことも、読み間違いの原因の1つよ」
ベルさんの言葉に、僕は驚いた。
本性を表したあの男は、とても、そんな善良な人間には見えなかったからだ。
「ティルト達の話を聞く限りでは、とても、そうは思えませんが?」
ロゼットが疑問を呈した。
「それは当然よ。人間の定義は、人それぞれだもの」
「何ですって?」
「貴方……身近にダッデウドがいたのに、そんなことにも気付いてなかったの? よく考えてみなさい。ダッデウドを人間だと認識していないオットームは、珍しくないでしょう? そういうオットームは、ダッデウドを平気で殺すことが出来るわ。それは、人を殺すことが平気だからじゃないの。その人にとって、ダッデウドが人間じゃないから平気なのよ」
「……」
ベルさんの言葉を聞いて、ロゼットは絶句した。
「だから、どんなに善良で、まともに見える人間であっても、ダッデウドを殺す可能性は否定できないわね」
「……あの男は、オルト人である私のことも、最終的には殺すつもりだったと思うのですが?」
「そうでしょうね。あの男は、ダッデウドのことだけじゃなくて、女のことも、人間だと認識していなかったみたいだから」
「人間の定義なんて、主観的に決まるものじゃないはずなのに……」
クレアが悲しそうに言った。
それを聞いて、ベルさんは呆れ返った様子だ。
「貴方、まだそんなことを言っているの? 貴方だって、自分が住んでいた村で、ティルトを人間扱いしていなかった連中のことを、散々見てきたはずでしょ?」
「さすがに、そこまで酷くはありませんでしたよ! そうでしょう、ティルト?」
「……」
クレアに言われて、僕はしばらく考えた。
そして、答えを出す。
「僕は、ベルさんが言ってることは正しいと思うけど」
「そんな……」
僕の言葉を聞いて、クレアの顔は青ざめた。
そんな僕達のやり取りを聞いて、ベルさんは鼻を鳴らした。
「よくあることね。加害者側と被害者側との間で状況認識が乖離している、なんてことは」
「クレアが加害者だったわけではありませんけど……」
「同じことでしょ? クズみたいなオットームの連中と、仲良くしてたんだから」
「そんな酷いことを言わないでください! 村の人達は、皆いい人達だったんです! ティルトのことは、言い伝えの影響で避けていただけで……!」
必死な様子で言うクレアに対して、ベルさんは白い目を向けた。
「貴方……私とティルトが言ったことと、自分で言ってることについて、もう少し真剣に考えた方がいいわよ?」
「……」
ベルさんにトドメを刺されて、クレアは黙り込んでしまった。
自分の発言が、ベルさんの言葉を裏付けてしまっていることに気付いたのだろう。
「気にしない方がいいですよ、クレア。差別主義者であるこの人に、貴方や、貴方が住んでいた村の人間を非難する資格はありません」
ロゼットがそう言うと、ベルさんは彼女を睨みつけた。
「貴方だって、タームっていう少年を苦しめた加害者だということを忘れないで」
「……忘れていませんよ、そのことは。ですが、貴方がオルト人を虐殺することを肯定しているのは事実でしょう?」
「当然じゃない。オットームに、生かしておく価値があるとは思えないもの」
「……」
ロゼットは黙り込んだ。
筋金入りの差別主義者であるベルさんに、これ以上何を言っても無駄だと思ったのだろう。
その後にも2日を要したが、ようやく僕達は湖までやって来た。
この近くに、ロゼット達の別荘があるはずだ。
皆の間に緊張感が高まる。
ついに、タームという少年を救い出す時がきたのだ。
そのことに集中しているらしく、ベルさんは、湖での水浴びを提案したりはしなかった。
僕は、他の理由でも緊張していた。
ベルさんは、ロゼットを殺すと宣言しているのだ。
いざとなったら、ペティと同じ方法で、ロゼットの命を助けることも考えられる。
しかし、ロゼット自身が、ベルさんに殺されることを受け入れているのだ。
今さら、僕に凌辱されてまで、助かることを望みはしないだろう。
一体どうするべきか……?
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