白銀の簒奪者

第58話

「ノエル……逃げろ！」

　僕は、意識を失ったクレアをその場に横たえ、宿の主人に殴りかかった。

　頭痛は先ほどよりも激しくなり、視界もぼやけている。
　狙いは外れ、僕の拳は空を切った。

「ガキが！　引っ込んでろ！」

　宿の主人が僕を殴った。
　気が付いた時には、床を転がっている。

　痛い。まさか、ただのオットームに殴られるなんて……！

　そういえば……ダッデウドは、肉体的には脆弱なのだ。
　たった一口しかスープを飲んでいない僕が、これほど薬の影響を受けているのは、そのせいなのかもしれない。

　だとすると……オットームであるロゼットはともかく、スープを大量に飲んだベルさんとレレは……！

「きゃあっ！」

　ノエルの悲鳴が聞こえて、僕は思考を中断した。
　見ると、宿の主人が、ノエルの髪を掴んでいる。

「逃がすか！　気持ちの悪い髪の色をしやがって！」
「いやっ！　離して！」
「大人しくしろ！　このガキ！」

　叫んで、宿の主人は、腕をノエルの首に回した。

「……！」

　ノエルが苦しそうにもがく。
　首が絞まっていることは明らかだ。

　このままでは、ノエルが死んでしまう……！

　僕は、宿の主人の背中に体当たりをした。
　その結果、宿の主人は吹き飛んだが、ノエルをも巻き込んでしまう。

「てめえ！　何しやがる！」

　宿の主人は、ノエルを放り出すと、僕を殴り、蹴った。

　身体の自由が利かない。
　薬が全身に回ってしまったらしい。

　意識を失いそうになる中で、宿の主人の打撃による痛みだけが、僕を覚醒させる。

「やめて！　やめてください！」

　ノエルが、宿の主人にしがみついて止めようとする。

「どけ！」

　宿の主人は、ノエルを突き飛ばした。

「鬱陶しいガキどもだ！　お前らは、バラして庭に埋めてやるからな！　用があるのは、その金持ちの女だけだ！」
「お金持ちの人にだって、いい人はたくさんいるはずです！　ロゼットさんは、とてもいい人です！」

　ノエルが必死に訴える。
　しかし、ノエルの言葉を聞いて、宿の主人は鼻で笑った。

「知るかよ、そんなこと！　せっかく、街が魔物に襲われて、混乱している状況なんだ。しかも、その女は、お前らみたいな胡散臭い連中と一緒に逃げてきた。しばらく楽しんだ後で、バラして埋めても、誰も俺を疑わないはずだろう？　こんな絶好の機会を逃す馬鹿がいるかよ！」

　男は、とうとう本音を暴露した。
　金持ちへの復讐というのは建前で、本当は、ロゼットの身体が目当てなのだろう。

「駄目です、人を騙したりしたら！　きっと、一生後悔しますよ!?」

　ノエルが泣きながら叫んだ。

　彼女は、僕達を騙そうとしたことを、いまだに悔やんでいるらしい。
　そのことが伝わってくる、必死な言葉である。

　しかし、宿の主人の男は、それを聞いても腹を立てただけだった。

「くだらないことを言ってんじゃねえ！　気持ち悪いんだよ、クソ女！」

　宿の主人は、ノエルを蹴飛ばし、馬乗りになって、顔を繰り返し叩いた。

　突然、その手が止まる。
　そして、下卑た笑いを浮かべた。

「……お前、ガキのくせに、ずいぶんといい身体をしてるな」

　そう言って、宿の主人は、ノエルの胸に手をかけた。

「い、いやっ！」
「暴れるな！　そうか、お前らも、あの婆さんと一緒にいたガキみたいに、毎晩楽しんでるのか。銀色の髪の男っていうのは、気持ち悪いうえに、どいつもこいつも盛りがついたケダモノなんだな」
「ティルトさんは……こんな酷いことはしません！」
「嘘を吐くな。あの婆さんは、銀髪のガキと一緒に、娼婦みたいな女を５人も連れて来た。あのガキは、その娼婦どもと、俺の目の前で変態みたいな遊びをしてたんだぜ？　例えば、こんな風にな！」

　そう言って、宿の主人は、ノエルの胸に顔を押し付け、頬ずりする。

「……やめて！　やめてください！」

　ノエルが懇願する。
　宿の主人は、その行為自体はやめたものの、代わりにノエルの胸を鷲掴みにした。

「いやっ！　離して！」
「黙れ！　喜べ、お嬢様の前に、お前の相手をしてやるよ。お前だって、あんなガキとやっても満足できないはずだ。俺の方がよっぽど上手いぜ？」
「やめてください！　やめて！」
「抵抗するんじゃねえ！　女なんて、どうせ男のオモチャだろうが！　相手をしてもらえるだけ、ありがたいと思え！」

　叫びながら、男はノエルのスカートを押し上げるようにしながら中に手を突っ込み、白いショーツを乱暴に脱がした。
　そして、逃れようとするノエルの両脚を掴み、無理矢理広げた。

　薄れていく意識の中で、ノエルの全身が光り輝くのが見えた……。