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第47話
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その後、旅は順調に進んだ。
歩きながら、主にベルさんが、ノエルに色々なことを教える。
ノエルは、ダッデウドに関する話や、僕達の旅の話を聞いて、何度も驚いた顔をした。
「そういえば……警備隊の連中は、魔物を呼び出したのも、僕達だと思っているみたいです」
僕が皆に報告すると、全員が驚きの声を上げる。
「まずいわね。そんな誤解を受けるなんて……。ひょっとしたら、私達の情報を警備隊に流したのはグラートかもしれないわ。あいつら、最初からダッデウドを売るつもりだったのかもしれないわね……」
ベルさんは、苦々しげに言った。
「それじゃあ、私達……国家転覆を狙った、極悪人になってしまったんですか!?」
クレアは焦った様子で言う。
「オットームが作った帝国を滅ぼすのが、悪いことだとは思わないけど……帝国を、完全に敵に回すのはまずいわ。最悪の場合、軍隊を派遣されるかもしれないもの。そうなったら、この人数で戦うことは不可能よ」
「……」
いくらダッデウドの魔法が強力でも、何万、何十万という大軍を相手に、数人で戦うことはできない。
グラートの魔物への対処が優先され、僕達が見過ごされているうちに、虐げられているダッデウドを数多く救い出す計画だったが……その前提が崩れれば、僕達は全員討ち取られるしかなくなる。
「……ねえ、ティルト。それは誰から聞いた情報なの?」
クレアに尋ねられて、僕は焦った。
「それは……警備隊の人間を脅して聞き出したんだよ」
僕は、そう言って誤魔化した。
それを聞いて、クレアは顔をしかめる。
彼女は、僕が乱暴なことをすることを、快く思っていないのだ。
「そう。でも、それは帝国の統一見解ではない可能性が高いわ」
ベルさんか指摘する。
「どうしてですか?」
「だって、もしそうだったら、いきなり軍隊が来てもおかしくないはずよ? それを警戒して、グラートは身を隠しているんだから。グラートか、他の誰かが、私達のことを首謀者だと伝えたのだとしても……帝国の上層部は、それを鵜呑みにはしていない、ということよ」
「でも……今回みたいに、僕達が警備隊を返り討ちにし続けたら、いずれは……」
「そうね。それまでに、保護できるダッデウドは、全員助けておかないと。それと……ノエルにも、ダッデウドの魔法が使えるようになってもらわないといけないわね」
「……あの……私も、戦うんですか?」
そう言ったノエルの顔は青ざめている。
いきなり戦えと言われても、怖くてできないだろう。
「貴方には悪いけど、私達には時間がないの。だから、場合によっては……ティルトの時のような、乱暴な方法を使うことになるかもしれないわ」
「そんなの駄目です!」
クレアが抗議する。
彼女は、僕が暴走したことについて、いまだにベルさんのことを恨んでいるのだろう。
「仕方がないじゃない。私達全員の命に関わることなのよ? 次に警備隊に襲われたら、ノエルには、自分の身を守れるようになっていてもらわないと困るわ」
「だからって……誰かへの憎しみで心を満たすなんて!」
「許せないかしら? でも、命が何よりも大事だということには、貴方だって同意してくれるわよね?」
「それは……」
クレアは口籠った。
ベルさんの言葉に対して、論理的に反論するのが難しいからだろう。
「それにね? ノエルは、気が弱そうに見えるけど……意外と、しっかりしてると思うの。この子は、何をされても文句なんて言えない状況で、ティルトに自分の感情を伝えたそうじゃない」
「ベルさん、あの時のことは……!」
僕は慌てて止めた。
あの件については、思い出さないという約束になっているのだ。
あの後実験したが、やはり、僕の魔力は尽きていなかった。
それにより、僕は単に、ノエルに意地悪がしたかっただけなのだということがはっきりとしてしまったのである。
そんなこと、絶対に彼女には知られたくない。
「あら、ごめんなさい。とにかく、ノエルは、その気になりさえすれば、敵に立ち向かえると思うの」
「……私は、人を殺すことになるんでしょうか?」
ノエルは不安そうだ。
自分が、とてつもない力を秘めている可能性を教えられて、そのことに恐怖を覚えているのだろう。
「怖いの? でも、すぐに慣れるわ」
「ベルさん! ノエルに酷いことをさせたら、許しませんから!」
クレアは、あくまでもノエルを庇うつもりのようだ。
「大丈夫よ。ダッデウドに対して、望まない行為を強要なんてしないし、そんなことは、やりたくても不可能だわ。殺したい相手は殺すし、殺したいと思わない相手は殺さない。ダッデウドとはそういうものよ」
ベルさんがそう言っても、クレアは警戒している様子だ。
ベルさんの言うことは正しい。
僕が殺したのは、殺したいと思った相手だけだ。
初めて人を殺した時には、後悔したりもしたが……今では、そういうこともない。
欲望に対して忠実である、ということが、気持ちよくなっている自分を感じた。
だが、その結果、ノエルやクレア達に嫌われそうになった。
欲望は、彼女達には知られないように満たしていこう。
バレなければいい。
それが、僕の結論だった。
歩きながら、主にベルさんが、ノエルに色々なことを教える。
ノエルは、ダッデウドに関する話や、僕達の旅の話を聞いて、何度も驚いた顔をした。
「そういえば……警備隊の連中は、魔物を呼び出したのも、僕達だと思っているみたいです」
僕が皆に報告すると、全員が驚きの声を上げる。
「まずいわね。そんな誤解を受けるなんて……。ひょっとしたら、私達の情報を警備隊に流したのはグラートかもしれないわ。あいつら、最初からダッデウドを売るつもりだったのかもしれないわね……」
ベルさんは、苦々しげに言った。
「それじゃあ、私達……国家転覆を狙った、極悪人になってしまったんですか!?」
クレアは焦った様子で言う。
「オットームが作った帝国を滅ぼすのが、悪いことだとは思わないけど……帝国を、完全に敵に回すのはまずいわ。最悪の場合、軍隊を派遣されるかもしれないもの。そうなったら、この人数で戦うことは不可能よ」
「……」
いくらダッデウドの魔法が強力でも、何万、何十万という大軍を相手に、数人で戦うことはできない。
グラートの魔物への対処が優先され、僕達が見過ごされているうちに、虐げられているダッデウドを数多く救い出す計画だったが……その前提が崩れれば、僕達は全員討ち取られるしかなくなる。
「……ねえ、ティルト。それは誰から聞いた情報なの?」
クレアに尋ねられて、僕は焦った。
「それは……警備隊の人間を脅して聞き出したんだよ」
僕は、そう言って誤魔化した。
それを聞いて、クレアは顔をしかめる。
彼女は、僕が乱暴なことをすることを、快く思っていないのだ。
「そう。でも、それは帝国の統一見解ではない可能性が高いわ」
ベルさんか指摘する。
「どうしてですか?」
「だって、もしそうだったら、いきなり軍隊が来てもおかしくないはずよ? それを警戒して、グラートは身を隠しているんだから。グラートか、他の誰かが、私達のことを首謀者だと伝えたのだとしても……帝国の上層部は、それを鵜呑みにはしていない、ということよ」
「でも……今回みたいに、僕達が警備隊を返り討ちにし続けたら、いずれは……」
「そうね。それまでに、保護できるダッデウドは、全員助けておかないと。それと……ノエルにも、ダッデウドの魔法が使えるようになってもらわないといけないわね」
「……あの……私も、戦うんですか?」
そう言ったノエルの顔は青ざめている。
いきなり戦えと言われても、怖くてできないだろう。
「貴方には悪いけど、私達には時間がないの。だから、場合によっては……ティルトの時のような、乱暴な方法を使うことになるかもしれないわ」
「そんなの駄目です!」
クレアが抗議する。
彼女は、僕が暴走したことについて、いまだにベルさんのことを恨んでいるのだろう。
「仕方がないじゃない。私達全員の命に関わることなのよ? 次に警備隊に襲われたら、ノエルには、自分の身を守れるようになっていてもらわないと困るわ」
「だからって……誰かへの憎しみで心を満たすなんて!」
「許せないかしら? でも、命が何よりも大事だということには、貴方だって同意してくれるわよね?」
「それは……」
クレアは口籠った。
ベルさんの言葉に対して、論理的に反論するのが難しいからだろう。
「それにね? ノエルは、気が弱そうに見えるけど……意外と、しっかりしてると思うの。この子は、何をされても文句なんて言えない状況で、ティルトに自分の感情を伝えたそうじゃない」
「ベルさん、あの時のことは……!」
僕は慌てて止めた。
あの件については、思い出さないという約束になっているのだ。
あの後実験したが、やはり、僕の魔力は尽きていなかった。
それにより、僕は単に、ノエルに意地悪がしたかっただけなのだということがはっきりとしてしまったのである。
そんなこと、絶対に彼女には知られたくない。
「あら、ごめんなさい。とにかく、ノエルは、その気になりさえすれば、敵に立ち向かえると思うの」
「……私は、人を殺すことになるんでしょうか?」
ノエルは不安そうだ。
自分が、とてつもない力を秘めている可能性を教えられて、そのことに恐怖を覚えているのだろう。
「怖いの? でも、すぐに慣れるわ」
「ベルさん! ノエルに酷いことをさせたら、許しませんから!」
クレアは、あくまでもノエルを庇うつもりのようだ。
「大丈夫よ。ダッデウドに対して、望まない行為を強要なんてしないし、そんなことは、やりたくても不可能だわ。殺したい相手は殺すし、殺したいと思わない相手は殺さない。ダッデウドとはそういうものよ」
ベルさんがそう言っても、クレアは警戒している様子だ。
ベルさんの言うことは正しい。
僕が殺したのは、殺したいと思った相手だけだ。
初めて人を殺した時には、後悔したりもしたが……今では、そういうこともない。
欲望に対して忠実である、ということが、気持ちよくなっている自分を感じた。
だが、その結果、ノエルやクレア達に嫌われそうになった。
欲望は、彼女達には知られないように満たしていこう。
バレなければいい。
それが、僕の結論だった。
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