39 / 116
第38話
しおりを挟む
レレがコップを放り出してナイフを抜いた。
ノエルを殺すつもりだ……!
「待ちなさい、ディフィ。この子は、誰かの指示に従っただけよ。ダッデウドの民は、安易に殺してはいけないわ」
ベルさんが、そう言ってレレを止めた。
「まさか、訪れるのが、自分と同じ髪をした人間だなんて思わなかったんでしょう? 計画を実行すべきか、迷っているのが明らかだったわ。私としては、思い留まってほしかったけど……」
「た、助けて! 誰か! お願い!」
ノエルが、外に向かって叫んだ。
村八分に近い状態である彼女が助けを求めても、通常であれば、村の人間が助けに来ることはないだろう。
しかし、今は違う。
ノエルに、僕達を毒殺するように指示したのは、おそらく警備隊の人間だ!
「……人の気配と……油の臭い!」
レレが叫んだ。
その意味を考えるより早く、僕達は脱出を試みていた。
扉を開けて外に出ると、遠くに武装した集団がいた。
帝国の警備隊だ。
その集団は、火のついた矢をつがえ、こちらを狙っていた。
家の周囲には、油の臭いが立ちこめている。
僕達を、ノエルごと焼き殺すつもりか!?
何て奴らだ!
ノエルが、こいつらの指示に従ったことは間違いないだろう。
それなのに、彼女まで一緒に殺そうとするなんて!
僕は、警備隊の連中に対して、激しい怒りを覚えていた。
自然と、魔法が発動する。
僕は1人で突撃し、ほとんど時間をかけずに、警備隊の最前列にいた男を殴り飛ばしていた。
その男に巻き込まれる形で、何人かが一緒に吹き飛ぶ。
「なっ!?」
警備隊の連中が、驚きの声を漏らした。
無理もない。
僕自身が驚いているのだから。
今回は、今までよりも遥かに速い!
勢いに乗って、周囲にいる人間を、片っ端から躊躇なく殴った。
こいつらは、全員がオットームの男だ。
しかも、自分達に協力したノエルを、焼き殺そうとした外道である。
容赦する理由がなかった。
連中は、ほとんど何もできないまま、僕に殴られる。
男達の鎧兜は粉々に砕け散り、派手に吹っ飛んだ。
そして、激突した連中も巻き込んで、多大な犠牲を出した。
時々、苦し紛れに、こちらに向けて矢を放ったり、魔法を放ったりする者がいた。
しかし、たとえ真後ろであっても、僕はそれに気付いた。
視野自体が広くなっているだけでなく、小さな音や、ちょっとした気配にも反応できる。
勘が鋭くなっている、と言ってもいい。
レレは、野盗の攻撃を、こうやって回避していたのか。
僕は、攻撃を全て回避した。
混乱した状況で放たれて遠距離攻撃は、かなりの割合で奴らの仲間に当たった。
中には、命乞いをする者もいた。
「た、頼む、殺さないでくれ!」
目の前で、武器を捨て、両手を挙げている男を、僕は容赦なく殴った。
この期に及んで命乞いなど、受け入れるとでも思っているのか!
僕からはかなり離れた場所で、ベルさん達も戦っていた。
ノエルの家は炎上している。
しかし、彼女達は、全員無事に逃げられたようだ。
僕が突撃したことによって隙が出来たのかもしれないし、ベルさんとレレが矢を撃ち落としたのかもしれない。
ベルさんもレレも、やはり圧倒的だった。
ナイフで次々と敵を仕留めるレレ。
攻撃魔法で相手を切り刻むベルさん。
この二人は、クレアとノエルを守りながらでも、充分に戦えるだろう。
「退け!」
警備隊の誰かが指示を出した。
それに従って、全員が逃げ出す。
森の中に入ることによって、僕達から逃れるつもりのようだ。
しかし、簡単に逃がすつもりはない。
本来の僕は、クレアのように優しくないのだ。
僕は、男達を追撃した。
まず、近くにいた何人かの男の後頭部を殴る。
さらに、走って追いついた人物を突き飛ばした。
「きゃあ!」
その人物は、何故か甲高い悲鳴を上げながら転がった。
「……?」
兜が脱げたその人物をよく見ると、小柄で、長めの髪を縛ってまとめている。
どうやら、女のようだ。
その女が、怯え切った様子でこちらを見た。
「た、助けて!」
その女も、先ほどの男と同じように、武器を捨てて両手を挙げる。
僕は、その女に近付いた。
近付いて顔を見ると、整った顔立ちをしていた。
思わず、殴るのを躊躇してしまう。
「女の警備隊員は珍しいな。入隊して何年目だ?」
「……そろそろ1年になります」
それでは、ほとんど新人に近い。
そんな人物を、僕達を殺すための任務に参加させるなんて……。
やはり、警備隊が人手不足に陥っていることは間違いないようだ。
「お前達、僕と仲間を、全員殺そうとしたな? どうして、あんな乱暴なことをした?」
「あ、貴方達が、魔物を呼び出したテロリストだから……」
女は、震える声で言う。
驚くべき発言だった。
僕達は、ミアを助け出す際に、人目を避け、目撃者は始末したはずだ。
それなのに、いつの間にか、グラートが犯した罪まで押し付けられてしまったらしい。
「だからといって、協力者まで一緒に殺すのは、あまりにも酷いんじゃないか?」
「あ、あの家の女も、貴方達と内通していると聞いていました! こちらに協力するフリをして、我々を襲ってくる算段になっているはずだから、まとめて始末するようにと……」
そう言って、女は俯いた。
なるほど。
どうやら、そのように言って部下を言いくるめた上司がいるらしい。
その人物にとっては、ダッデウドであるノエルの命など、どうでもよかったのだろう。
腹の立つ話だ。
僕は、警備隊への報復を誓った。
ノエルを殺すつもりだ……!
「待ちなさい、ディフィ。この子は、誰かの指示に従っただけよ。ダッデウドの民は、安易に殺してはいけないわ」
ベルさんが、そう言ってレレを止めた。
「まさか、訪れるのが、自分と同じ髪をした人間だなんて思わなかったんでしょう? 計画を実行すべきか、迷っているのが明らかだったわ。私としては、思い留まってほしかったけど……」
「た、助けて! 誰か! お願い!」
ノエルが、外に向かって叫んだ。
村八分に近い状態である彼女が助けを求めても、通常であれば、村の人間が助けに来ることはないだろう。
しかし、今は違う。
ノエルに、僕達を毒殺するように指示したのは、おそらく警備隊の人間だ!
「……人の気配と……油の臭い!」
レレが叫んだ。
その意味を考えるより早く、僕達は脱出を試みていた。
扉を開けて外に出ると、遠くに武装した集団がいた。
帝国の警備隊だ。
その集団は、火のついた矢をつがえ、こちらを狙っていた。
家の周囲には、油の臭いが立ちこめている。
僕達を、ノエルごと焼き殺すつもりか!?
何て奴らだ!
ノエルが、こいつらの指示に従ったことは間違いないだろう。
それなのに、彼女まで一緒に殺そうとするなんて!
僕は、警備隊の連中に対して、激しい怒りを覚えていた。
自然と、魔法が発動する。
僕は1人で突撃し、ほとんど時間をかけずに、警備隊の最前列にいた男を殴り飛ばしていた。
その男に巻き込まれる形で、何人かが一緒に吹き飛ぶ。
「なっ!?」
警備隊の連中が、驚きの声を漏らした。
無理もない。
僕自身が驚いているのだから。
今回は、今までよりも遥かに速い!
勢いに乗って、周囲にいる人間を、片っ端から躊躇なく殴った。
こいつらは、全員がオットームの男だ。
しかも、自分達に協力したノエルを、焼き殺そうとした外道である。
容赦する理由がなかった。
連中は、ほとんど何もできないまま、僕に殴られる。
男達の鎧兜は粉々に砕け散り、派手に吹っ飛んだ。
そして、激突した連中も巻き込んで、多大な犠牲を出した。
時々、苦し紛れに、こちらに向けて矢を放ったり、魔法を放ったりする者がいた。
しかし、たとえ真後ろであっても、僕はそれに気付いた。
視野自体が広くなっているだけでなく、小さな音や、ちょっとした気配にも反応できる。
勘が鋭くなっている、と言ってもいい。
レレは、野盗の攻撃を、こうやって回避していたのか。
僕は、攻撃を全て回避した。
混乱した状況で放たれて遠距離攻撃は、かなりの割合で奴らの仲間に当たった。
中には、命乞いをする者もいた。
「た、頼む、殺さないでくれ!」
目の前で、武器を捨て、両手を挙げている男を、僕は容赦なく殴った。
この期に及んで命乞いなど、受け入れるとでも思っているのか!
僕からはかなり離れた場所で、ベルさん達も戦っていた。
ノエルの家は炎上している。
しかし、彼女達は、全員無事に逃げられたようだ。
僕が突撃したことによって隙が出来たのかもしれないし、ベルさんとレレが矢を撃ち落としたのかもしれない。
ベルさんもレレも、やはり圧倒的だった。
ナイフで次々と敵を仕留めるレレ。
攻撃魔法で相手を切り刻むベルさん。
この二人は、クレアとノエルを守りながらでも、充分に戦えるだろう。
「退け!」
警備隊の誰かが指示を出した。
それに従って、全員が逃げ出す。
森の中に入ることによって、僕達から逃れるつもりのようだ。
しかし、簡単に逃がすつもりはない。
本来の僕は、クレアのように優しくないのだ。
僕は、男達を追撃した。
まず、近くにいた何人かの男の後頭部を殴る。
さらに、走って追いついた人物を突き飛ばした。
「きゃあ!」
その人物は、何故か甲高い悲鳴を上げながら転がった。
「……?」
兜が脱げたその人物をよく見ると、小柄で、長めの髪を縛ってまとめている。
どうやら、女のようだ。
その女が、怯え切った様子でこちらを見た。
「た、助けて!」
その女も、先ほどの男と同じように、武器を捨てて両手を挙げる。
僕は、その女に近付いた。
近付いて顔を見ると、整った顔立ちをしていた。
思わず、殴るのを躊躇してしまう。
「女の警備隊員は珍しいな。入隊して何年目だ?」
「……そろそろ1年になります」
それでは、ほとんど新人に近い。
そんな人物を、僕達を殺すための任務に参加させるなんて……。
やはり、警備隊が人手不足に陥っていることは間違いないようだ。
「お前達、僕と仲間を、全員殺そうとしたな? どうして、あんな乱暴なことをした?」
「あ、貴方達が、魔物を呼び出したテロリストだから……」
女は、震える声で言う。
驚くべき発言だった。
僕達は、ミアを助け出す際に、人目を避け、目撃者は始末したはずだ。
それなのに、いつの間にか、グラートが犯した罪まで押し付けられてしまったらしい。
「だからといって、協力者まで一緒に殺すのは、あまりにも酷いんじゃないか?」
「あ、あの家の女も、貴方達と内通していると聞いていました! こちらに協力するフリをして、我々を襲ってくる算段になっているはずだから、まとめて始末するようにと……」
そう言って、女は俯いた。
なるほど。
どうやら、そのように言って部下を言いくるめた上司がいるらしい。
その人物にとっては、ダッデウドであるノエルの命など、どうでもよかったのだろう。
腹の立つ話だ。
僕は、警備隊への報復を誓った。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる