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第37話
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僕は話題を変えた。
「そういえば、今さらで申し訳ないんですけど……次は、どんなダッデウドを助ける予定なんですか?」
「あら、言ってなかったかしら? 今目指しているのは、小さな村なんだけど……そこには、村八分のような状態になっている、ノエルという名前のダッデウドの女の子がいるのよ」
「……」
僕は、自分の境遇を思い出す。
きっと、誰かに助けてほしくて仕方がない状態で毎日を過ごしているのだろう。
「今度は、必ず助けましょう?」
ベルさんはそう言った。
僕の気持ちを察してくれているようだ。
「はい」
僕は、決意を込めて答えた。
そうだ。今度こそ、失敗は許されない。
二度と、ミアのようなことがあってはならないのだ。
その後の旅は順調だった。
誰かに妨害されることもなく、僕達は、翌日には目的地に着く、という場所まで来ていた。
「何だか、とても順調ですね」
「そうね。もう少し、誰かが妨害してくるかと思ったけど……」
ベルさんは、少し拍子抜けした様子だった。
「それほど、グラートが呼び出した魔物への対処に四苦八苦している、ということなんでしょうか……?」
「そうとも言い切れないわ。ひょっとしたら、目的地に先回りして、こちらのことを待ち構えているかもしれないもの」
「……」
確かに、それならば、いつまでも追手が現れないことにも説明が付く。
僕達がダッデウドを助けようとしていることは、ベルさんが人前で話したことだ。
既に、警備隊にも知られているはずである。
明日、目的の村に辿り着いたとしても、油断するわけにはいかないだろう。
ベルさんの言葉で緊張感が戻ったが、結局その夜も何も起こらなかった。
そのことが、むしろ不気味に感じられた。
そして、僕達は目的の村へとやって来た。
「いつもどおり、ベアーデには、少し離れた人目に付かない場所に隠れていてもらうわ」
「ダッデウドの女の子は、どの辺りに住んでいるんでしょうか?」
「村の外れに、1人で住んでいるそうよ。なるべく、他の人間には見られないように行きましょう」
僕達は、顔を見合わせて頷き、慎重に歩いた。
それらしい家に辿り着く。
かなりのボロ屋だ。
ちょっと強い風が吹いたら、倒壊してしまうのではないかと心配してしまうほどだ。
ベルさんが、家の扉を何度もノックする。
反応が無い。
留守なのだろうか……?
そう思っていると、鍵を外す音がして、扉がゆっくりと開いた。
「……どなたですか?」
家の中から、こちらに尋ねる声がする。
若い女性の声だ。
「貴方がノエルね?」
ベルさんがそう言うと、家の中の女性は、しばらく黙った。
「あ、あの……私に、何の御用でしょうか?」
「心配しないで。私達は、貴方を助けに来たの。少しだけ、話を聞いてくれると助かるんだけど」
「……どうぞ」
僕達は、家の中に招き入れられた。
ほとんど何もない家の中で、その住人であるノエルという少女だけが、際立った存在だった。
ダッデウドの象徴である銀色の髪。
そして、白い肌。
瞳は、ベルさんと同じで赤かった。
ミアを思い出すような、美しい姿をしている。
残念なのは、髪の手入れをほとんどしていない様子であることと、やつれた印象をうけることだ。
生活が苦しく、栄養状態も良くないのだろう。
「……あの、それで、貴方達は?」
ノエルという少女が、再び尋ねてくる。
ベルさんは、黙ったままフードを脱いだ。
「!?」
ベルさんの、銀色の髪を見た少女は、非常に驚いた様子だった。
僕やミアの時もそうだったが、やはり、髪を見せることが、こちらを信用してもらうための最も良い方法である。
「見てのとおり、私達は貴方の仲間よ」
「……えっと、あの……でも、その子は?」
ノエルは、クレアのことを指差す。
確かに、クレアだけは髪が黒いので、どうしてこの場にいるのかが理解できないだろう。
「その子は、私達の協力者よ。心配することはないわ」
「……そう……ですか」
ノエルは、とりあえず納得した様子だった。
「……あの、私のことを……助けてくださるのでしょうか?」
ノエルは、不安そうに尋ねてくる。
「当然よ。そのために、ここまで来たんだから」
「そう、ですか……」
少しは安心してくれると思ったのだが、ノエルは、激しく困惑した様子だ。
「ノエル、どうかしたの? 何か、困ったことでもあるの?」
僕がそう尋ねると、ノエルはビクリと震え、何度も首を振った。
「い、いえ、何でもありません! ごめんなさい、何もお出しする物が無くて……せめて、お水だけでも飲んでください」
ノエルはそう言って、木製のコップを人数分取り出し、部屋の隅に2つ並べて置いてある瓶の片方から水を汲み出した。
それを、僕達に順番に押し付けるようにしてくる。
せっかくなので、それを飲もうとした、その時だった。
「やめておきなさい、ティルト。これ、毒がはいっているわよ?」
ベルさんがそう言ったので、僕は驚いて、コップを放り出してしまった。
「な、何をおっしゃって……!?」
「根拠なんてほとんどないわ。でも、貴方を見ていて、そんな気がしたの。私が間違っているなら、これを貴方が飲んでみせて」
そう言ってベルさんがコップをノエルに差し出すと、彼女は顔を真っ青にして、逃げるように後ずさった。
「そういえば、今さらで申し訳ないんですけど……次は、どんなダッデウドを助ける予定なんですか?」
「あら、言ってなかったかしら? 今目指しているのは、小さな村なんだけど……そこには、村八分のような状態になっている、ノエルという名前のダッデウドの女の子がいるのよ」
「……」
僕は、自分の境遇を思い出す。
きっと、誰かに助けてほしくて仕方がない状態で毎日を過ごしているのだろう。
「今度は、必ず助けましょう?」
ベルさんはそう言った。
僕の気持ちを察してくれているようだ。
「はい」
僕は、決意を込めて答えた。
そうだ。今度こそ、失敗は許されない。
二度と、ミアのようなことがあってはならないのだ。
その後の旅は順調だった。
誰かに妨害されることもなく、僕達は、翌日には目的地に着く、という場所まで来ていた。
「何だか、とても順調ですね」
「そうね。もう少し、誰かが妨害してくるかと思ったけど……」
ベルさんは、少し拍子抜けした様子だった。
「それほど、グラートが呼び出した魔物への対処に四苦八苦している、ということなんでしょうか……?」
「そうとも言い切れないわ。ひょっとしたら、目的地に先回りして、こちらのことを待ち構えているかもしれないもの」
「……」
確かに、それならば、いつまでも追手が現れないことにも説明が付く。
僕達がダッデウドを助けようとしていることは、ベルさんが人前で話したことだ。
既に、警備隊にも知られているはずである。
明日、目的の村に辿り着いたとしても、油断するわけにはいかないだろう。
ベルさんの言葉で緊張感が戻ったが、結局その夜も何も起こらなかった。
そのことが、むしろ不気味に感じられた。
そして、僕達は目的の村へとやって来た。
「いつもどおり、ベアーデには、少し離れた人目に付かない場所に隠れていてもらうわ」
「ダッデウドの女の子は、どの辺りに住んでいるんでしょうか?」
「村の外れに、1人で住んでいるそうよ。なるべく、他の人間には見られないように行きましょう」
僕達は、顔を見合わせて頷き、慎重に歩いた。
それらしい家に辿り着く。
かなりのボロ屋だ。
ちょっと強い風が吹いたら、倒壊してしまうのではないかと心配してしまうほどだ。
ベルさんが、家の扉を何度もノックする。
反応が無い。
留守なのだろうか……?
そう思っていると、鍵を外す音がして、扉がゆっくりと開いた。
「……どなたですか?」
家の中から、こちらに尋ねる声がする。
若い女性の声だ。
「貴方がノエルね?」
ベルさんがそう言うと、家の中の女性は、しばらく黙った。
「あ、あの……私に、何の御用でしょうか?」
「心配しないで。私達は、貴方を助けに来たの。少しだけ、話を聞いてくれると助かるんだけど」
「……どうぞ」
僕達は、家の中に招き入れられた。
ほとんど何もない家の中で、その住人であるノエルという少女だけが、際立った存在だった。
ダッデウドの象徴である銀色の髪。
そして、白い肌。
瞳は、ベルさんと同じで赤かった。
ミアを思い出すような、美しい姿をしている。
残念なのは、髪の手入れをほとんどしていない様子であることと、やつれた印象をうけることだ。
生活が苦しく、栄養状態も良くないのだろう。
「……あの、それで、貴方達は?」
ノエルという少女が、再び尋ねてくる。
ベルさんは、黙ったままフードを脱いだ。
「!?」
ベルさんの、銀色の髪を見た少女は、非常に驚いた様子だった。
僕やミアの時もそうだったが、やはり、髪を見せることが、こちらを信用してもらうための最も良い方法である。
「見てのとおり、私達は貴方の仲間よ」
「……えっと、あの……でも、その子は?」
ノエルは、クレアのことを指差す。
確かに、クレアだけは髪が黒いので、どうしてこの場にいるのかが理解できないだろう。
「その子は、私達の協力者よ。心配することはないわ」
「……そう……ですか」
ノエルは、とりあえず納得した様子だった。
「……あの、私のことを……助けてくださるのでしょうか?」
ノエルは、不安そうに尋ねてくる。
「当然よ。そのために、ここまで来たんだから」
「そう、ですか……」
少しは安心してくれると思ったのだが、ノエルは、激しく困惑した様子だ。
「ノエル、どうかしたの? 何か、困ったことでもあるの?」
僕がそう尋ねると、ノエルはビクリと震え、何度も首を振った。
「い、いえ、何でもありません! ごめんなさい、何もお出しする物が無くて……せめて、お水だけでも飲んでください」
ノエルはそう言って、木製のコップを人数分取り出し、部屋の隅に2つ並べて置いてある瓶の片方から水を汲み出した。
それを、僕達に順番に押し付けるようにしてくる。
せっかくなので、それを飲もうとした、その時だった。
「やめておきなさい、ティルト。これ、毒がはいっているわよ?」
ベルさんがそう言ったので、僕は驚いて、コップを放り出してしまった。
「な、何をおっしゃって……!?」
「根拠なんてほとんどないわ。でも、貴方を見ていて、そんな気がしたの。私が間違っているなら、これを貴方が飲んでみせて」
そう言ってベルさんがコップをノエルに差し出すと、彼女は顔を真っ青にして、逃げるように後ずさった。
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