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第33話
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「ベルさん、嘘を吐くのはずるいですよ!」
クレアが、ベルさんに抗議した。
遅れて、彼女が湯船に入る音がする。
どうやら、レレも一緒に入ってきたようだ。
「あら、私は嘘なんて吐いてないわよ?」
「貴方は、嫉妬深いって自分でも言ってたじゃないですか! ダッデウドはともかく、ティルトがオットームを求めることまで、受け入れられるとは思えません!」
「今は、ティルトがオットームの女を抱いても、許せる気分なのよ。嘘じゃないわ」
「でも、本当にティルトと……そういう……関係になったら、貴方は、彼のことを独占しようとするに決まってます!」
「……そうね。気分って、時と場合によって変わるものだから、否定はしないわ」
「ティルトだって、ベルさんと、その……そういうことをした後で、他の女性に手を出せるような神経の持ち主じゃありませんよ!」
「それは違うわ」
ベルさんの口調が変わった。
強く断言されて、クレアは戸惑っているようだ。
僕も混乱した。
僕は、そんなに不誠実な男だと、ベルさんから認識されているのだろうか?
「……どう違うって言うんですか?」
「だって、ティルトはダッデウドなんですもの。今は、オットームの価値観の影響を受けているけれど……それは、ティルトの本性じゃないのよ。本来のティルトは、もっと旺盛なはずよ?」
「そんな風に決め付けないでください!」
「貴方は知らないでしょうけど……もう、そういう兆候があるのよ。多分、あと1回か2回、ダッデウドとして目覚めたら……ティルトは、ダッデウドとして完全に覚醒するわ。そうなったら、その後のティルトは、貴方が知っているティルトとは、かけ離れた人間になっているでしょうね」
「そんな……」
クレアが、絶望したような声で呻いた。
「……僕は、違う人間になってしまうんでしょうか?」
不安になって、ベルさんに尋ねる。
「それはあり得ないわ。貴方も、そろそろ自覚してきているはずよ? ダッデウドとして覚醒している状態の貴方は、理性が乏しくなっているけれど……それでも、貴方の倫理観で全く許容できない行為はしないわ。だから、貴方はカーラを逃がしたんでしょう?」
「……やっぱり、気付いていたんですね」
「安心して。怒っていないわ。貴方が、あの子を生かすと決めたなら……私は、それに従うわ」
「私は、ベルさんの理屈はおかしいと思います」
クレアが、不満そうな声で言った。
「あら、どうして?」
「理性って、人間にとっては大切なものであるはずでしょう? ティルトが、スーザンのことを嫌っていたとしても……理性があれば、あの子を剣で刺したりはしなかったはずです。理性が無くなったら、それは、もう同じ人間とは言えないと思いますけど……」
「でも、オットームにだって、理性がなくなる時はあるわ。お酒を飲みすぎた時とか、激しく怒った時とか、女性に対する欲求が抑えられなくなった時とか。だとしたら、ダッデウドとして目覚めることも、普通の人間に起こることの範疇に入ると思わない?」
「屁理屈ですよ、そんなの……! 泥酔するのも、激昂するのも、正気じゃなくなるってことじゃないですか」
「だったら、人間の正気と狂気は、どこで線引きをするの? というより、そういう狂気も含めて、その人間なのよ。誰かが貴方を凌辱したら、それは、一時的に理性が失われたことによる行動でしょうけど……その人物が、望んでやったことに変わりはないでしょう?」
「それは、いくら何でも話が飛躍しすぎです! それに、どんな時でも理性がない人間なんて、やっぱり異常ですよ!」
「だったら、貴方は、理性で常に本性を隠している人間と一緒にいて、安心できるのかしら?」
「当然じゃないですか! 理性のない人間なんて、怖くて近付けませんよ!」
「そう。でも、私は、むしろ逆だと思っているわ」
「……どういうことですか?」
「だって、強い理性で本性を隠している、ということは、私には予想もできないような、危険な願望を抱いているかもしれないじゃない。そんな相手と一緒にいて、安心なんてできないわよ」
「無茶苦茶ですよ、そんな理屈……」
「どうして? 例えば、貴方の近くに、非の打ち所のないオットームの男性がいたとして……その男が安全だって、何を根拠に言えるの? 本心では、貴方を殴って服従させたいと思っているかもしれないわよ? あるいは、貴方の身体を切り刻んで、泣き叫ぶ様を見て楽しみたいと思っているかも……」
「怖いことを言わないでください!」
「オットームに、そういうことをされたダッデウドが、何人もいたから言ってるの。オットームの本性なんて、分かったものじゃないわ」
「じゃあ、欲望に任せて、常日頃から残虐な行為をしている人間の方が、いいって言うんですか!?」
「そういう男がいいって言ってるわけじゃないの。本性がそういう男でも、普段は隠していることが問題なのよ」
確かに、普段は理性的な人間でも、ちょっとしたことで、それが失われてしまうことがある。
ならば、その人間の本性が分かっていた方が、対処しやすいことは間違いないだろう。
だが、常に本性をさらけ出している人間は、ベルさんのように、自重することを知らないのだ。
そのような人間とは、正常な人間関係を構築すること自体が困難である。
このまま議論をしても、平行線になりそうな話題だった。
クレアが、ベルさんに抗議した。
遅れて、彼女が湯船に入る音がする。
どうやら、レレも一緒に入ってきたようだ。
「あら、私は嘘なんて吐いてないわよ?」
「貴方は、嫉妬深いって自分でも言ってたじゃないですか! ダッデウドはともかく、ティルトがオットームを求めることまで、受け入れられるとは思えません!」
「今は、ティルトがオットームの女を抱いても、許せる気分なのよ。嘘じゃないわ」
「でも、本当にティルトと……そういう……関係になったら、貴方は、彼のことを独占しようとするに決まってます!」
「……そうね。気分って、時と場合によって変わるものだから、否定はしないわ」
「ティルトだって、ベルさんと、その……そういうことをした後で、他の女性に手を出せるような神経の持ち主じゃありませんよ!」
「それは違うわ」
ベルさんの口調が変わった。
強く断言されて、クレアは戸惑っているようだ。
僕も混乱した。
僕は、そんなに不誠実な男だと、ベルさんから認識されているのだろうか?
「……どう違うって言うんですか?」
「だって、ティルトはダッデウドなんですもの。今は、オットームの価値観の影響を受けているけれど……それは、ティルトの本性じゃないのよ。本来のティルトは、もっと旺盛なはずよ?」
「そんな風に決め付けないでください!」
「貴方は知らないでしょうけど……もう、そういう兆候があるのよ。多分、あと1回か2回、ダッデウドとして目覚めたら……ティルトは、ダッデウドとして完全に覚醒するわ。そうなったら、その後のティルトは、貴方が知っているティルトとは、かけ離れた人間になっているでしょうね」
「そんな……」
クレアが、絶望したような声で呻いた。
「……僕は、違う人間になってしまうんでしょうか?」
不安になって、ベルさんに尋ねる。
「それはあり得ないわ。貴方も、そろそろ自覚してきているはずよ? ダッデウドとして覚醒している状態の貴方は、理性が乏しくなっているけれど……それでも、貴方の倫理観で全く許容できない行為はしないわ。だから、貴方はカーラを逃がしたんでしょう?」
「……やっぱり、気付いていたんですね」
「安心して。怒っていないわ。貴方が、あの子を生かすと決めたなら……私は、それに従うわ」
「私は、ベルさんの理屈はおかしいと思います」
クレアが、不満そうな声で言った。
「あら、どうして?」
「理性って、人間にとっては大切なものであるはずでしょう? ティルトが、スーザンのことを嫌っていたとしても……理性があれば、あの子を剣で刺したりはしなかったはずです。理性が無くなったら、それは、もう同じ人間とは言えないと思いますけど……」
「でも、オットームにだって、理性がなくなる時はあるわ。お酒を飲みすぎた時とか、激しく怒った時とか、女性に対する欲求が抑えられなくなった時とか。だとしたら、ダッデウドとして目覚めることも、普通の人間に起こることの範疇に入ると思わない?」
「屁理屈ですよ、そんなの……! 泥酔するのも、激昂するのも、正気じゃなくなるってことじゃないですか」
「だったら、人間の正気と狂気は、どこで線引きをするの? というより、そういう狂気も含めて、その人間なのよ。誰かが貴方を凌辱したら、それは、一時的に理性が失われたことによる行動でしょうけど……その人物が、望んでやったことに変わりはないでしょう?」
「それは、いくら何でも話が飛躍しすぎです! それに、どんな時でも理性がない人間なんて、やっぱり異常ですよ!」
「だったら、貴方は、理性で常に本性を隠している人間と一緒にいて、安心できるのかしら?」
「当然じゃないですか! 理性のない人間なんて、怖くて近付けませんよ!」
「そう。でも、私は、むしろ逆だと思っているわ」
「……どういうことですか?」
「だって、強い理性で本性を隠している、ということは、私には予想もできないような、危険な願望を抱いているかもしれないじゃない。そんな相手と一緒にいて、安心なんてできないわよ」
「無茶苦茶ですよ、そんな理屈……」
「どうして? 例えば、貴方の近くに、非の打ち所のないオットームの男性がいたとして……その男が安全だって、何を根拠に言えるの? 本心では、貴方を殴って服従させたいと思っているかもしれないわよ? あるいは、貴方の身体を切り刻んで、泣き叫ぶ様を見て楽しみたいと思っているかも……」
「怖いことを言わないでください!」
「オットームに、そういうことをされたダッデウドが、何人もいたから言ってるの。オットームの本性なんて、分かったものじゃないわ」
「じゃあ、欲望に任せて、常日頃から残虐な行為をしている人間の方が、いいって言うんですか!?」
「そういう男がいいって言ってるわけじゃないの。本性がそういう男でも、普段は隠していることが問題なのよ」
確かに、普段は理性的な人間でも、ちょっとしたことで、それが失われてしまうことがある。
ならば、その人間の本性が分かっていた方が、対処しやすいことは間違いないだろう。
だが、常に本性をさらけ出している人間は、ベルさんのように、自重することを知らないのだ。
そのような人間とは、正常な人間関係を構築すること自体が困難である。
このまま議論をしても、平行線になりそうな話題だった。
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