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第25話
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「それは駄目です」
僕は、きっぱりとそう言った。
ベルさんが、意外そうな顔をする。
「あら、どうして?」
「カーラを殺したら、ミアが敵に回るかもしれないでしょう? それは避けるべきだからですよ」
「だったら、ミアに気付かれないように殺すわ」
「その時は気付かれなかったとしても、カーラがいなくなったらミアは悲しみます。理由を知りたくなって、必死で調べようとすると思いますよ?」
「上手くやるわ。私に任せて」
ベルさんが、真剣な表情で訴えてくる。
「……やっぱり駄目です」
「どうして?」
「カーラは、ミアを守ろうとしました。彼女は悪人じゃありませんよ。それに、彼女には恨みがありません」
「でも、あの子は、お金のために男に裸を見せたのよ?」
「その程度なら、大したことじゃないです。直接的な行為をしてたら、違う感想になったかもしれませんけど……」
「……貴方、カーラの身体が惜しいだけなんじゃないの? オットームの可愛い子なら誰でもいいなんて、節操がないわね」
「別にそういうわけじゃ……というか、ベルさんは、僕に子孫を増やしてほしいんでしょう?」
「ダッデウドの、ね」
「オットームとの間にだって、ダッデウドが産まれることがあるんですよね?」
「その割合は低いわ。特に、ティルトは混血だから、相手は慎重に選ばないと」
「……とにかく、カーラを殺すことは、リスクが高いから認められません。それに、ダッデウドに好意的な人間は、なるべく生かしておくべきです。何とかして誤魔化すか、上手く説得してください」
「ティルトがそう言うなら……努力するわ」
そう言ったが、ベルさんは不満そうだった。
以前、ベルさんが言ったことは、本当なのだと思った。
僕には、カーラを殺したいという願望が芽生えていない。
やはり、ダッデウドとして目覚めたとしても、あらゆる人間を殺したくなるわけではないようだ。
といっても、普段の僕なら、女性を裸にして広場に放り出したりはしないはずである。
ダッデウドは、恨みまれることで強くなる人種だ。
目覚めていない状態よりは、嗜虐心が強くなっているのように思える。
もしも、カーラを黙らせておく必要が生じたら、僕はどうするだろう……?
そうなっても、僕が彼女を殺すことはないような気がするが……普段なら思い付かないような、残忍な方法で口を封じるだろうか?
それとも……。
そんなことを考えながら、僕はベルさんと共に、宿の部屋へと戻ってきていた。
「ミア、カーラ、戻ったわよ」
ベルさんがそう言ったが、部屋の中からは反応がなかった。
どこかに隠れているような様子もない。
「……まさか、誰かに連れ去られたんじゃ……?」
僕は不安になった。
先ほどの男のような人物が、どこかに潜んでいたのではないだろうか?
「いいえ、2人の人間を連れ去るのは簡単じゃないわ。多分、カーラがミアを連れて逃げ出したのよ」
「そんな……この状況で?」
言うまでもなく、外は危険な状態だ。
魔物の姿は見当たらなかったが、まだどこかに潜んでいるかもしれない。
また、魔物に破壊された直後である現在、この町は無法地帯だ。
実際に、先ほどの男のような人物がいたのである。
若い女性が出歩ける環境ではない。
「急いでミアを保護する必要があるわね。ティルト、手分けをして探しましょう。私は、念のために、ゴドルの屋敷の方を見てくるわ」
「分かりました。ベルさんも気を付けてください」
僕達は、互いに頷いて部屋から飛び出した。
2人は、まだ遠くに行っていないはずである。
カーラはともかく、ミアは監禁されていたのだ。
体は衰えているだろう。
急いで逃げようとしても、すぐに疲れてしまうはずだ。
ゴドルが彼女を置いて逃げようとしたのも、それが理由だったはずである。
可能性としては、2人が近くの建物に隠れている、ということも考えられる。
だが、僕は魔法を発動させて高速移動し、あえて宿から離れた場所を探すことにした。
ベルさんはミアを連れ戻すつもりのようだが、彼女達がベルさんや僕のことを信用していないのであれば、無理に連れ戻す必要はないと思う。
ただ、あの2人だけでは、誰かに襲われた時に立ち向かうことができないはずだ。
とにかく、無事に逃げ延びてくれればいいのだが……。
もしも2人が、何らかの理由で屋敷に戻ったのだとしたら……ベルさんが彼女達を発見した時に、どうするだろうか?
先ほど、ベルさんは納得していない様子だった。
ひょっとしたら、その場でカーラを殺してしまうかもしれない。
そうならないように願った。
ただ闇雲に探しても無駄なので、僕はクレア達との合流地点に向かった。
ひょっとしたら、ミアを目撃したかもしれないからだ。
合流地点には、既にクレアもレレもいた。
レレは、僕を見て目を丸くしている。
魔法を使っている姿を初めて見たから驚いたのだろう。
クレアは、何故か、僕から距離を取るような動きをした。
「この辺りで、ダッデウドの女の子を見なかった?」
僕が尋ねると、レレは首を振った。
「そうか……もし見かけたら、安全な場所で匿っておいて」
レレが頷いたので、僕はその場を離れた。
とりあえず、クレア達が無事で良かった。
あとは、ミアとカーラも無事ならいいのだが……。
突然、女性の悲鳴が聞こえた。
今のは……カーラだ!
僕は、すぐに、その声がした方へ向かった。
声がした位置は、ここからそれほど離れていない。
やがて、僕はカーラを発見した。
何者かから逃げている様子だ。
ミアがいない。
はぐれてしまったのだろうか?
カーラは、僕を見ると真っ青になって立ち止まった。
僕がすぐに彼女の前まで移動すると、カーラは逃げようとしたので、僕は彼女の両肩を掴んだ。
「ミアはどこ?」
時間が惜しいので、僕は前置きなく尋ねた。
他のことは、ミアの安全を確保してから尋ねればいい。
「あ、あっちに! お願い、ミアを助けて!」
カーラは、後ろを指差しながら言った。
それだけ聞けば充分だ。
僕は、カーラを片腕で担ぎ上げて肩に乗せる。
彼女は悲鳴を上げたが、無視して走り出した。
僕は、きっぱりとそう言った。
ベルさんが、意外そうな顔をする。
「あら、どうして?」
「カーラを殺したら、ミアが敵に回るかもしれないでしょう? それは避けるべきだからですよ」
「だったら、ミアに気付かれないように殺すわ」
「その時は気付かれなかったとしても、カーラがいなくなったらミアは悲しみます。理由を知りたくなって、必死で調べようとすると思いますよ?」
「上手くやるわ。私に任せて」
ベルさんが、真剣な表情で訴えてくる。
「……やっぱり駄目です」
「どうして?」
「カーラは、ミアを守ろうとしました。彼女は悪人じゃありませんよ。それに、彼女には恨みがありません」
「でも、あの子は、お金のために男に裸を見せたのよ?」
「その程度なら、大したことじゃないです。直接的な行為をしてたら、違う感想になったかもしれませんけど……」
「……貴方、カーラの身体が惜しいだけなんじゃないの? オットームの可愛い子なら誰でもいいなんて、節操がないわね」
「別にそういうわけじゃ……というか、ベルさんは、僕に子孫を増やしてほしいんでしょう?」
「ダッデウドの、ね」
「オットームとの間にだって、ダッデウドが産まれることがあるんですよね?」
「その割合は低いわ。特に、ティルトは混血だから、相手は慎重に選ばないと」
「……とにかく、カーラを殺すことは、リスクが高いから認められません。それに、ダッデウドに好意的な人間は、なるべく生かしておくべきです。何とかして誤魔化すか、上手く説得してください」
「ティルトがそう言うなら……努力するわ」
そう言ったが、ベルさんは不満そうだった。
以前、ベルさんが言ったことは、本当なのだと思った。
僕には、カーラを殺したいという願望が芽生えていない。
やはり、ダッデウドとして目覚めたとしても、あらゆる人間を殺したくなるわけではないようだ。
といっても、普段の僕なら、女性を裸にして広場に放り出したりはしないはずである。
ダッデウドは、恨みまれることで強くなる人種だ。
目覚めていない状態よりは、嗜虐心が強くなっているのように思える。
もしも、カーラを黙らせておく必要が生じたら、僕はどうするだろう……?
そうなっても、僕が彼女を殺すことはないような気がするが……普段なら思い付かないような、残忍な方法で口を封じるだろうか?
それとも……。
そんなことを考えながら、僕はベルさんと共に、宿の部屋へと戻ってきていた。
「ミア、カーラ、戻ったわよ」
ベルさんがそう言ったが、部屋の中からは反応がなかった。
どこかに隠れているような様子もない。
「……まさか、誰かに連れ去られたんじゃ……?」
僕は不安になった。
先ほどの男のような人物が、どこかに潜んでいたのではないだろうか?
「いいえ、2人の人間を連れ去るのは簡単じゃないわ。多分、カーラがミアを連れて逃げ出したのよ」
「そんな……この状況で?」
言うまでもなく、外は危険な状態だ。
魔物の姿は見当たらなかったが、まだどこかに潜んでいるかもしれない。
また、魔物に破壊された直後である現在、この町は無法地帯だ。
実際に、先ほどの男のような人物がいたのである。
若い女性が出歩ける環境ではない。
「急いでミアを保護する必要があるわね。ティルト、手分けをして探しましょう。私は、念のために、ゴドルの屋敷の方を見てくるわ」
「分かりました。ベルさんも気を付けてください」
僕達は、互いに頷いて部屋から飛び出した。
2人は、まだ遠くに行っていないはずである。
カーラはともかく、ミアは監禁されていたのだ。
体は衰えているだろう。
急いで逃げようとしても、すぐに疲れてしまうはずだ。
ゴドルが彼女を置いて逃げようとしたのも、それが理由だったはずである。
可能性としては、2人が近くの建物に隠れている、ということも考えられる。
だが、僕は魔法を発動させて高速移動し、あえて宿から離れた場所を探すことにした。
ベルさんはミアを連れ戻すつもりのようだが、彼女達がベルさんや僕のことを信用していないのであれば、無理に連れ戻す必要はないと思う。
ただ、あの2人だけでは、誰かに襲われた時に立ち向かうことができないはずだ。
とにかく、無事に逃げ延びてくれればいいのだが……。
もしも2人が、何らかの理由で屋敷に戻ったのだとしたら……ベルさんが彼女達を発見した時に、どうするだろうか?
先ほど、ベルさんは納得していない様子だった。
ひょっとしたら、その場でカーラを殺してしまうかもしれない。
そうならないように願った。
ただ闇雲に探しても無駄なので、僕はクレア達との合流地点に向かった。
ひょっとしたら、ミアを目撃したかもしれないからだ。
合流地点には、既にクレアもレレもいた。
レレは、僕を見て目を丸くしている。
魔法を使っている姿を初めて見たから驚いたのだろう。
クレアは、何故か、僕から距離を取るような動きをした。
「この辺りで、ダッデウドの女の子を見なかった?」
僕が尋ねると、レレは首を振った。
「そうか……もし見かけたら、安全な場所で匿っておいて」
レレが頷いたので、僕はその場を離れた。
とりあえず、クレア達が無事で良かった。
あとは、ミアとカーラも無事ならいいのだが……。
突然、女性の悲鳴が聞こえた。
今のは……カーラだ!
僕は、すぐに、その声がした方へ向かった。
声がした位置は、ここからそれほど離れていない。
やがて、僕はカーラを発見した。
何者かから逃げている様子だ。
ミアがいない。
はぐれてしまったのだろうか?
カーラは、僕を見ると真っ青になって立ち止まった。
僕がすぐに彼女の前まで移動すると、カーラは逃げようとしたので、僕は彼女の両肩を掴んだ。
「ミアはどこ?」
時間が惜しいので、僕は前置きなく尋ねた。
他のことは、ミアの安全を確保してから尋ねればいい。
「あ、あっちに! お願い、ミアを助けて!」
カーラは、後ろを指差しながら言った。
それだけ聞けば充分だ。
僕は、カーラを片腕で担ぎ上げて肩に乗せる。
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