白銀の簒奪者

たかまちゆう

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第20話

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 ベルさんは、ゴドルや、その取り巻きが持ち出そうとしていた金品をくすねた。

「駄目ですよ、ベルさん!」

 僕が止めると、ベルさんは笑った。

「あら、火事場泥棒には抵抗があるかしら?」
「火事場泥棒じゃなくて、これじゃ強盗殺人でしょう!? 僕達は、女の子を助けに来たんです! お金を盗ったら、単なる悪人じゃないですか!」
「つまらないことを気にするのね。死んだ人間のお金を貰っても、誰も困らないのに」
「とにかく、こういうのは良くないですよ!」
「私達のこれからの旅には、お金が必要なの。貴方だって、女性とは別の部屋に泊まりたがっていたじゃない」
「……」

 結局、ベルさんはお金を戻さなかった。


 僕達は、ゴドルが出てきた、廊下の奥にある部屋に入った。

 部屋の奥にある扉が開いている。
 その向こうには階段が見えた。

 その階段を使い、2階の部屋に上がると、先ほどの女性が言っていたとおり、そこは宝物庫になっていた。

 絵画や壺など、高価だと思われる品が、大量に飾られている。
 しかし、意外なことに、成金趣味のような印象はあまり受けない。
 どの品も、芸術品として優れていることを、きちんと見極めてから購入したようである。

 美しい部屋だ。
 そんなことを思ってしまった。

「世間の評判なんて気にせずに、ダッデウドを飼おうとするだけのことはあるわね……。結構な審美眼があるみたいだわ」

 ベルさんも同じことを感じたらしく、感心した様子で言った。


 さらに上の階に行き、ゴドルの部屋に入ると、綺麗な装飾がされている扉が目に付いた。

 僕達は顔を見合わせる。
 ベルさんがその扉を開けようとするが、鍵がかかっているようだ。

 ベルさんが、拳で扉を殴り付けると、扉は吹き飛んだ。

「ベルさん、今のは……?」
「貴方が使ったのと同じような補助魔法よ。苦手ではあるけど、短時間だけ使うなら、この方が効率がいいわ」
「……」

 魔法で身体能力を高めるのは、オットームでもやることだ。
 しかし、この魔法を僕以外のダッデウドが使うのは、少し悔しい気分だった。

 扉の奥を覗き込むと、階段が下につながっている。
 やはり、この奥に女の子が閉じ込められているようだ。


 階段を下りて行く。

 地下は、意外にも暖かかった。

 空気が流れている。
 火を使っても、窒息しないような造りにしてあるのだろう。

「……誰!?」

 地下室の奥から、女性が声を発した。

 明かりはランプの火によるものだけだが、徐々に目が慣れてきて、相手のことが見えるようになった。
 地下室には、2人の少女がいた。

 1人は、やはりダッデウドのようだ。

 今は、服を着せられている。
 裸で放置されていなくて、少し安心した。

 もう1人は、使用人の格好をしていた。オットームだ。
 ダッデウドの少女を抱くようにして、こちらを威嚇している。

「その子がミアね?」

 ベルさんが尋ねると、使用人の少女は目を見開いた。

「貴方達……この子が目当てで来たんですか? お願いします、見逃してください! ミアは、今まで散々いじめられて、辛い思いをしてきたんです! このお屋敷に来て、ようやく安心して暮らせるようになったんですから……」
「……」

 突然、ベルさんはフードを脱いだ。
 銀色の髪が広がる。

 暗い地下室でも、それがミアと同じものだということは分かったのだろう。
 使用人の少女は、ベルさんの意図を理解したようだった。

「その髪……貴方は、ミアのお仲間、なんですか?」
「私はそのつもりよ。貴方は、その子のお友達かしら?」
「……私は、カーラといいます。ゴドル様から、この子のお世話を命じられました。なるべく不自由のないように、出来ることはしてきたつもりです」
「でも、その子を閉じ込めているのよね?」
「それは……! この町には、銀色の髪の人間を殺そうとする、過激な思想の持ち主がいるから……!」
「そう。でも、ゴドルは、その子を人前で裸にしたりしていたらしいけど?」
「……!」

 カーラという少女は、ベルさんの指摘に動揺した様子だった。

「初めて知った、というわけではなさそうね?」
「……ゴドル様は、ミアの体が目当てで保護してるってことくらい、察してはいました。でも、愛情を持って接しているのかと……」
「残念だけど、あの男は、コレクションを自慢したかっただけよ。完全に珍獣扱いね」
「……」
「貴方も、何かされたのかしら?」
「……私が裸になったのは、ゴドル様の前だけです。脱いだら、お金をくれるって言うから……。それ以上のことはされていませんし、綺麗だって褒めてくださいました……。ご褒美も、約束の金額より多く頂いて……」
「そう。貴方も、コレクションの1つだったのね」
「……」

 カーラは、顔を覆って泣き始めてしまった。
 ミアが、心配そうに寄り添う。

「悪いけど、私達はその子を連れて、すぐに逃げないといけないの。貴方も、こんな屋敷とは縁を切って、早く逃げなさい。二度と、お金のために裸になるようなことはしちゃ駄目よ?」

 ベルさんは、カーラという少女を殺すつもりはなさそうだ。
 少し安心した。

「……私は、鈍くさくて、家族から厄介者扱いされていたんです。このお屋敷だって、たまたま外見を気に入ってもらえたから、雇ってくださっただけで……。ここから出ても、どうやって生きていけばいいのか……」
「これを持って行きなさい」

 ベルさんは、先ほど盗んだ金貨を、数枚少女に渡した。

「こんなに、たくさん……!?」
「いい? この町から、なるべく離れた場所で暮らしなさい。お金は、可能な限り隠して、慎重に使いなさい。そうしないと、このお屋敷から盗んだと思われるわ」

 盗んだ当人であるベルさんが、カーラに入れ知恵する。

「……ありがとうございます」

 そんな事情を知らないカーラは、ベルさんに、心から感謝した様子だった。

「さあ、ミア。辛かったでしょう? でも、もう大丈夫よ。私達と一緒に逃げましょう」

 ベルさんがそう言うと、ミアは迷った様子だった。

「安心して。髪を見れば分かるでしょう? 私達は、貴方の仲間なの」
「……」

 ミアも、僕と同じで、銀色の髪のせいでいじめられてきたに違いない。
 そんな彼女にとって、自分と同じ髪を持つ、ということは、何よりも説得力があったはずだ。

 ミアは、ベルさんの目を見て、こくりと頷いた。
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