17 / 116
第16話
しおりを挟む
「ところで……いつまでも隠れていないで、そろそろ出てきなさい」
ベルさんが、路地の奥に呼びかけた。
「……?」
そちらを見ると、僕やベルさんと同じようにフードを目深に被った人物が、こちらを窺うようにしていた。
「叔母様……その2人は?」
フードを被った、小柄な人物が問いかけてくる。
どうやら、女の子のようだ。
「ダッデウドの仲間と、そのお友達よ。どちらも私達の味方だから、安心してこっちに来なさい」
「……はい」
恐る恐る、といった様子で、フードを被った女の子は、こちらに歩いてきた。
「ベルさん、この子は……?」
「この子は、私の姉の娘よ。つまり、私の姪、ということになるわね。名前はディフィルドレレ。私はディフィって呼んでるわ。仲良くしてあげてね?」
「……」
その女の子は、ベルさんの陰に隠れるようにして、僕達から離れた。
こちらのことを、かなり警戒しているようだ。
「ごめんなさいね。この子、私と違って、人見知りが激しいの。……ほら、ご挨拶しなさい」
そう言って、ベルさんは女の子のフードを取った。
「……!?」
一目見て、とてつもない衝撃に襲われた。
その女の子は、ベルさんを頭一つ分ほど縮めたような姿だった。
違う点は、ベルさんの瞳が赤いのに対して、少女の瞳が青いこと。
そして、銀色の髪を、三つ編みにしていることだった。
いや、姿形ではなく、ベルさんとの決定的な違いがある。
その女の子は、酷く怯えた様子だった。
少し、目が潤んでいるように見える。
「可愛い!」
クレアが、目を輝かせて言った。
「そうなのよ。ダッデウドの多くは、とても美しい姿をしているものだけど……この子は、特に可愛いの」
そう言って、ベルさんは少女の頭を撫でた。
「君の名前も、僕達には呼びにくいから……レレって呼んでいいかな?」
ふと思い付いて、僕は言った。
「……」
少女は、困った様子でベルさんを見上げた。
「いいと思うわ。可愛いじゃない」
ベルさんがそう言うと、レレは小さく頷いた。
「この子、本当にベルさんと血がつながってるんですか?」
クレアが、不思議そうに尋ねた。
あまりにも、ベルさんと性格が違うからだろう。
「姉は、ダッデウドの女としては珍しい、のんびりとした性格なの。この子も、ダッデウドにしては珍しい性格をしているわね。姉は、幼い頃から、男の子に凄く人気があったのよ? 私とは大違いだったわ」
「そうでしょうね……」
僕は思わず呟いてしまった。
「あら、それはどういう意味かしら?」
ベルさんが、少しムッとした表情をする。
「……いえ、何でもありません」
僕は、そう言って言葉を濁した。
ベルさんの性格は、女性としては滅茶苦茶キツイ。
ベルさん以外の、ダッデウドの女性のことはあまり知らないが、ダッデウドの社会は、元々男性に対して厳しい環境だ。
そんな環境において、のんびりしているというベルさんのお姉さんは、男にとっての癒しに感じられたはずだ。
人気が出るのは当然である。
改めてレレを眺める。
年齢は、僕やクレアと同じか、少し下だろう。
レレは、皆に注目されるのが恥ずかしいらしく俯いた。
「さて、それじゃあ、宿を取りましょうか」
ベルさんがそう言った。
確かに、いつまでも、路地裏で立ち話は良くない。
不審に思われるかもしれないし、タチの悪い連中に目を付けられるかもしれないからだ。
僕達は、町で一番安い宿を取った。
当然のように4人部屋である。
クレアは、嫌そうな顔はしていたが、文句は言わなかった。
しかし、レレがクレア以上に嫌がった。
意外なことに、オットームであるクレアのことよりも、僕と一緒にいることの方が嫌らしい。
「ごめんなさいね。この子、男の子が怖いみたい」
ベルさんがそう言った。
こんなに可愛い子に嫌われるなんて……少しショックだった。
「それじゃあ、ディフィが調べたことを教えてくれる?」
部屋に入って、急に真顔になったベルさんがそう言った。
「……この町に、ゴドルという商人がいます。ミアという名前の、ダッデウドの女の子は、その男の屋敷に閉じ込められているようです」
「ねえ、レレ。その女の子って、本当に閉じ込められているの?」
突然、クレアが疑問を提起した。
「あら。仮に本人が望んでいても、認めるべきじゃないって言ってたでしょ?」
「そうです。ですが……もし仮に、ですよ? ダッデウドが差別されているから、ミアのことを匿っているだけだとしたら? その行為には、非難する理由がありません」
ベルさんは、クレアの言葉に、感心した様子で頷いた。
「確かにそうね。ディフィ、その可能性はあるの?」
「……ないと思います。ゴドルは、客の前で、その女の子を、その……見せ物にしたそうです。裸に近い姿で、晒し者にしたとか……」
「酷いことをするのね……」
ベルさんが心から憤っている様子だったので、僕は、つい文句を言ってしまった。
「ベルさんも、クレアに対して、同じようなことをしましたよね?」
「あら。私は、クレア以外の子に、あんな酷いことはしないわ」
「クレアにもしないでください!」
「分かってるわよ。二度としないわ」
「……ねえ、ティルト。怒ってくれるのは嬉しいんだけど……あの時のことは、そろそろ忘れてくれない? 何度も思い出されたら、恥ずかしいわ……」
クレアが、顔を真っ赤にして言った。
言われて、クレアの下着を直視してしまったことを思い出す。
あれは、被害者にとって、思い出されたくない出来事だろう。
「ごめん……」
忘れてくれと頼まれても、色々な意味で忘れ難い出来事だが……とにかく、忘れたことにしておいた方が良さそうだった。
ベルさんが、路地の奥に呼びかけた。
「……?」
そちらを見ると、僕やベルさんと同じようにフードを目深に被った人物が、こちらを窺うようにしていた。
「叔母様……その2人は?」
フードを被った、小柄な人物が問いかけてくる。
どうやら、女の子のようだ。
「ダッデウドの仲間と、そのお友達よ。どちらも私達の味方だから、安心してこっちに来なさい」
「……はい」
恐る恐る、といった様子で、フードを被った女の子は、こちらに歩いてきた。
「ベルさん、この子は……?」
「この子は、私の姉の娘よ。つまり、私の姪、ということになるわね。名前はディフィルドレレ。私はディフィって呼んでるわ。仲良くしてあげてね?」
「……」
その女の子は、ベルさんの陰に隠れるようにして、僕達から離れた。
こちらのことを、かなり警戒しているようだ。
「ごめんなさいね。この子、私と違って、人見知りが激しいの。……ほら、ご挨拶しなさい」
そう言って、ベルさんは女の子のフードを取った。
「……!?」
一目見て、とてつもない衝撃に襲われた。
その女の子は、ベルさんを頭一つ分ほど縮めたような姿だった。
違う点は、ベルさんの瞳が赤いのに対して、少女の瞳が青いこと。
そして、銀色の髪を、三つ編みにしていることだった。
いや、姿形ではなく、ベルさんとの決定的な違いがある。
その女の子は、酷く怯えた様子だった。
少し、目が潤んでいるように見える。
「可愛い!」
クレアが、目を輝かせて言った。
「そうなのよ。ダッデウドの多くは、とても美しい姿をしているものだけど……この子は、特に可愛いの」
そう言って、ベルさんは少女の頭を撫でた。
「君の名前も、僕達には呼びにくいから……レレって呼んでいいかな?」
ふと思い付いて、僕は言った。
「……」
少女は、困った様子でベルさんを見上げた。
「いいと思うわ。可愛いじゃない」
ベルさんがそう言うと、レレは小さく頷いた。
「この子、本当にベルさんと血がつながってるんですか?」
クレアが、不思議そうに尋ねた。
あまりにも、ベルさんと性格が違うからだろう。
「姉は、ダッデウドの女としては珍しい、のんびりとした性格なの。この子も、ダッデウドにしては珍しい性格をしているわね。姉は、幼い頃から、男の子に凄く人気があったのよ? 私とは大違いだったわ」
「そうでしょうね……」
僕は思わず呟いてしまった。
「あら、それはどういう意味かしら?」
ベルさんが、少しムッとした表情をする。
「……いえ、何でもありません」
僕は、そう言って言葉を濁した。
ベルさんの性格は、女性としては滅茶苦茶キツイ。
ベルさん以外の、ダッデウドの女性のことはあまり知らないが、ダッデウドの社会は、元々男性に対して厳しい環境だ。
そんな環境において、のんびりしているというベルさんのお姉さんは、男にとっての癒しに感じられたはずだ。
人気が出るのは当然である。
改めてレレを眺める。
年齢は、僕やクレアと同じか、少し下だろう。
レレは、皆に注目されるのが恥ずかしいらしく俯いた。
「さて、それじゃあ、宿を取りましょうか」
ベルさんがそう言った。
確かに、いつまでも、路地裏で立ち話は良くない。
不審に思われるかもしれないし、タチの悪い連中に目を付けられるかもしれないからだ。
僕達は、町で一番安い宿を取った。
当然のように4人部屋である。
クレアは、嫌そうな顔はしていたが、文句は言わなかった。
しかし、レレがクレア以上に嫌がった。
意外なことに、オットームであるクレアのことよりも、僕と一緒にいることの方が嫌らしい。
「ごめんなさいね。この子、男の子が怖いみたい」
ベルさんがそう言った。
こんなに可愛い子に嫌われるなんて……少しショックだった。
「それじゃあ、ディフィが調べたことを教えてくれる?」
部屋に入って、急に真顔になったベルさんがそう言った。
「……この町に、ゴドルという商人がいます。ミアという名前の、ダッデウドの女の子は、その男の屋敷に閉じ込められているようです」
「ねえ、レレ。その女の子って、本当に閉じ込められているの?」
突然、クレアが疑問を提起した。
「あら。仮に本人が望んでいても、認めるべきじゃないって言ってたでしょ?」
「そうです。ですが……もし仮に、ですよ? ダッデウドが差別されているから、ミアのことを匿っているだけだとしたら? その行為には、非難する理由がありません」
ベルさんは、クレアの言葉に、感心した様子で頷いた。
「確かにそうね。ディフィ、その可能性はあるの?」
「……ないと思います。ゴドルは、客の前で、その女の子を、その……見せ物にしたそうです。裸に近い姿で、晒し者にしたとか……」
「酷いことをするのね……」
ベルさんが心から憤っている様子だったので、僕は、つい文句を言ってしまった。
「ベルさんも、クレアに対して、同じようなことをしましたよね?」
「あら。私は、クレア以外の子に、あんな酷いことはしないわ」
「クレアにもしないでください!」
「分かってるわよ。二度としないわ」
「……ねえ、ティルト。怒ってくれるのは嬉しいんだけど……あの時のことは、そろそろ忘れてくれない? 何度も思い出されたら、恥ずかしいわ……」
クレアが、顔を真っ赤にして言った。
言われて、クレアの下着を直視してしまったことを思い出す。
あれは、被害者にとって、思い出されたくない出来事だろう。
「ごめん……」
忘れてくれと頼まれても、色々な意味で忘れ難い出来事だが……とにかく、忘れたことにしておいた方が良さそうだった。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
転生したら男女逆転世界
美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる