金髪美少女によって異世界へと連れ去られた僕の話

たかまちゆう

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18.災害

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 気が付くと、僕はベッドに仰向けで寝ていた。

 生きてる……?

 僕は城に戻ってきたのか?
 でも、どうやって?

 身体を起こそうとして、全く力が入らないことに気付いた。

 ベッドの感触は認識できるので、身体に神経が通わなくなったわけではない。
 ただ、長距離を走り切って力尽きたような感覚である。
 全身が疲労しているような状態で、少しも動きたくない気分である。

 ベッドの横で、誰かが驚きの声を発した。
 一体、誰だ……?

「おにいちゃん、気が付いた? 傷は痛くない? 他の場所は大丈夫?」

 視線を動かすと、身を乗り出してくる少女が見えた。
 ピンク色の髪の、小柄な少女だ。

 ……ローファ?

「……良かった」

 ミミもいる。しかし、レムやファラの姿は見えなかった。

 状況が分からない。
 この二人だけが、僕の目が覚めるのを待っていたのか?

「喋らなくていい。状況は私が説明する」

 口を開こうとした僕を制してミミが言った。

 そうしてくれるとありがたい。
 正直に言えば、言葉を喋るのすら億劫な気分だった。

「ごめんね、おにいちゃん……」

 ローファが謝ってくる。
 彼女はポロポロと泣いていた。

 この子は、色々なことに責任を感じているのだろう。
 でも、この子だって色々なものの犠牲者だと思う。

 むしろ、この世界を良くしてほしいという、彼女の期待を裏切ってしまったこちらが謝りたい気分だった。

 ふと、ローファの声と口の動きが一致していたことに気付いた。
 本当は、この子も日本語を喋ることができるのか。

 ローファは寝室を抜け出してきたので、身分を特定されることを避けたかったのだろう。
 あの時、レムが僕に口止めをしたのも、純粋にローファが叱られないようにという配慮によるものだったに違いない。

「ローファ様は謝らないでください。お疲れでしょう? 少しお休みになってください」
「でも……」
「また、体調を崩してしまったら大変です。この世界は、これから大変になるのですから」
「……うん」

 ローファは、近くにもう一つあるベッドに入った。
 そうして、自分に適した方法で、ずっと僕の近くにいてくれたのだろう。

「少しだけ眠ってください。その間に、やっておかねばならないことは済ませてしまいます」

 ミミがそう言うと、ローファは素直に頷いて目を閉じた。

「……ローファ様には眠ってもらった。今のうちに、必要なことは話しておく」

 ミミは、淡々と話を進めようとしているようだが、顔が強張っているように感じた。

「まず、貴方は丸一日眠っていた。でも、それは傷のせいではない。貴方の肩の傷は浅い。致命傷にはほど遠いし、放っておけば自然と治る」

 それは良かった。
 切られた時には、死ぬんじゃないかと思ったほど痛かったのだ。

 でも、だったら、僕はどうして動けないんだろう?

「レム様やファラ様は、ランゼローナ様と共に災害の被害者の救助にあたっている。私とローファ様は、貴方を介抱しつつ守るために留守番をすることになった」

 ……災害?

「災害を引き起こしたのは、貴方」
「……」
「貴方は、ランゼローナ様の魔法を阻止するために、自分の魔法を暴発させた。その魔法は、この世界では記録にないほどの大地震と暴風雨を引き起こした。少し離れた場所にある山では、噴火が起こったという報告もある。貴方が疲れ切っているのは、あまりにも強力過ぎる魔法を使ったせい」

 地震……?
 暴風雨に、火山の噴火だって……?

「地震で集中が乱れたせいで、ランゼローナ様の魔法は中断された。貴方の魔法の発動を阻止できなかったランゼローナ様は、意識を失っていた私達を城に連れ帰ってきてくれた。あの人は、貴方には世界を破壊するリスクがあることに気付いていた。だから、何も告げず貴方を殺そうとした。そんな魔法が使える可能性を認識したら、発動してしまうリスクが増すと考えたから」

 ……信じられない。
 僕が、魔法で天変地異を引き起こしただって?

 あまりにも規模が大き過ぎる。
 僕に使える魔法は、物を少し動かす程度のものだけだ。
 急激に進化しすぎではないか?

「貴方がこの世界に来てから、天気が不安定になったり、地震が起こったりしていたことは知っているはず。ランゼローナ様は、貴方の世界から流入した魔力が原因ではないかと考えた。濃すぎる魔力濃度は、物理的な影響を引き起こすことがある。でも、大地だけを揺さぶる魔力の性質に、ランゼローナ様は疑念を抱いたらしい」

 確かに、それほどの魔力があれば、あちこちでポルターガイスト現象が起こっていたはずである。
 地面だけが揺れるのは不自然だ。

 かといって、地震を起こしたい、などという願望を抱く人間がそれほどいるとは思えない。

「だから、ランゼローナ様はヒントを求めて、レム様に貴方の世界について尋ねたらしい。レム様は、貴方の世界の印象について『とても嫌な感情で溢れた世界』と表現したらしい。この世界では滅多に感じ取れないような、得体の知れない不快な感情に満ち溢れていたから、と」

 そういえば、レムは僕の世界を「荒んだ場所」と表現していた。

「それは重大な意味を秘めていた。以前レム様は、ランゼローナ様が抱いた破滅願望に反応したことがあったらしい。その時にランゼローナ様は、レム様がそういった感情に敏感だと気付いた。だからこそあの人は、貴方の世界からこの世界に流れ込んだ魔力の正体に気付くことができた」

 ミミは憐れみの表情を浮かべた。
 それは僕に向けられたものだったのか、僕の世界の住人全てに向けられたものだったのか……。

「貴方の世界には、世界そのものを攻撃対象にするような感情が溢れている。それが、ランゼローナ様が出した結論」

 世界の……破滅!?
 その願望が、災害を具現化したのか……!

 それはとても恐ろしい話だった。
 願望が現実になるというのは、どんなにネガティブな願望でも実現してしまう、ということなのだ!

「貴方の世界の魔力が天変地異を引き起こすのなら、貴方もその効果がある魔力を有していて、その魔力を使用した魔法だって使えるに違いない、とランゼローナ様は考えた」

 それで、ランゼローナは僕を危険視したのか……。
 確かに、いつ爆発するか分からない時限爆弾を抱え続けるのは、リスクが高すぎる。

 何てことだ……!
 僕を殺そうとしたランゼローナが正しかったことを、僕は自分で証明してしまったのか!!

「私達には、漠然としたものを対象とした魔法が使えない。でも、貴方は世界そのものに干渉する魔法が使える。威力があまりにも高すぎるのは、おそらく使ったのが『世界に漂っている魔力を使って世界を攻撃する魔法』だから。貴方一人の魔力では、こんな規模の災害が発生することはなかったはず」

 ……一体、被害はどれほどになっているのだろう?
 死者は、どれくらい出ているのだろうか?

「貴方は自分の心配をした方がいい。今回の災害を引き起こしたのがヒカリであることを、私達には隠しきれない。被害に遭った民衆に知られれば、貴方は確実に命を狙われることになる」
「……」
「今は、とにかく眠って。少しでも早く動けるようになった方がいい」

 僕は、ミミの言葉に従って目を閉じた。
 今は何も考えたくない。

 丸一日眠っていたらしいけど、あと一日くらいは眠っても不思議ではないほど疲れていた。
 大災害を引き起こすほどの魔法を使ったのだから無理もない。

 これから一体どうなるんだろう……?
 そんなことを少しだけ考えて、やめた。

 その先は、今考えてはいけない気がした。
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