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2.白い部屋
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気が付くと、僕は巨大な白い部屋で寝ていた。
慌てて上体を起こし、周囲を見回す。
天井も床も壁も白い、立方体の部屋だ。
照明器具が見当たらないのに、部屋の中は明るい。
そして、出口らしきものがどこにも見当たらなかった。
一体ここはどこなのだろう……?
「ここは、魔法で作った夢の世界ですわ」
突然声がして振り向くと、先程までは誰もいなかったはずの場所に、あの少女がいた。
「……魔法? 夢の世界?」
「人々の願望を現実のものとする力、それを貴方の世界では魔法と呼ぶのでしょう? でしたら、私どもの力を表現する言葉として『魔法』はふさわしいですわ。ちなみに、これは楽しい夢を共有するための魔法です」
「楽しい夢って……」
僕、さっきから全然楽しくないんだけど……。
「この夢の中では、痛みや恐怖を感じることはありません。自分の頬をつねっても痛くありませんのよ? 試してみていただければ分かりますわ」
僕は試してみた。
全然痛くない。どうやら彼女が言ったことは本当のようだ。
少女は何故か得意気だった。でも、そんな彼女の態度を不快だと思わない。これも魔法の効果だろうか?
ふと思いついて、僕は白い部屋の床を叩いてみた。
一見するとリノリウムのように見えるが、マシュマロのような弾力で手が押し返される。
今度は撫でてみると、シルクのような肌触りだった。
こんなこと、夢の中でも普通は起こらない気がする。
「……それで、どうして僕に夢を見せたりしたのかな?」
根本的な疑問を思い出して、僕は少女に尋ねた。
「事情を説明する前に、自己紹介を済ませてしまいましょう! 私はレムと申します」
「……僕は光。白井光」
「ヒカリ様。素敵なお名前ですね。やはり、貴方は私の運命の人ですわ!」
「……えっと……運命の人?」
激しく嫌な予感がした。
レムと名乗ったこの少女は、思い込みが激しいタイプのようだ。
「ヒカリ様、私の夫になってください! 共に私の世界で暮らし、末永く幸せに暮らしましょう!」
予感は的中した。
まあ、今までの流れだとこういう話になるよね……。
そして、これは断言してもいい。僕には断る権利など用意されていない。
こんな得体の知れない部屋に閉じ込められているのが証拠である。
それならば、彼女に諦めてもらうしかないだろう。
「……あのさ、君、歳はいくつ?」
「ヒカリ様の世界の基準に換算すると14歳ですわ」
ということは、彼女は中学生の年齢なのか。
身長は145㎝くらいに見えるから、歳のわりに低めである。
「ヒカリ様はおいくつですか?」
「……22歳だよ」
僕は正直に歳を伝えた。
レムは目を丸くした。やっぱり、思ったとおりだった。
「君、僕の歳を勘違いしたでしょ? こんなおじさんとは結婚しない方がいいよ?」
僕は身長が159cmしかない。
おまけに童顔で、ついでに色白である。
初対面の人には、成人男性だと思ってもらえたことがないのだ。
酷い時には、少女と間違われたことすらある。
予定が狂ったらしいレムは、困惑した表情で尋ねてきた。
「ということは、ヒカリ様には既にお子様がいらっしゃるのですか?」
「いや、いないよ! いきなり何てことを言うのさ!」
そもそも女性と付き合った経験すら無いのに、子供なんているはずがない。
「良かったですわ。それでは、何の問題もございません」
「あるでしょ! そもそも君は結婚できる歳じゃないよね!?」
「あら、私の世界では、15歳になる前に婚約する方もたくさんいらっしゃいますわ」
いつの時代の話だよ……。
どうやら、彼女の常識は僕のものとは大分違うようだ。
よく考えてみれば、魔法が使える世界の常識は、僕のものとは違って当然である。
「君の世界の人間は、皆魔法が使えるの?」
「程度の差はありますが、使えない方は珍しいですわ」
それは凄い……。
……使えない人は珍しいだって?
「そんな世界に、魔法が使えない僕が行ってどうするのさ? やっぱり、僕は君の世界には行けないよ」
「それなら心配要りません。ヒカリ様は大変な才能をお持ちです。訓練さえすれば、魔法はすぐに使えるようになりますわ」
「そんな……まさか!」
驚愕している僕に、レムはそっと近寄ってきた。
顔を覗き込まれ、思わず後ずさった僕の左手を、レムは両手でそっと包んだ。
「私に全てお任せください」
その瞬間、僕の中にあったネガティブな感情は全て消し飛んだ。
異世界に行って人生をやり直せるかもしれないのに、何を迷う必要がある?
僕に魔法の才能があるというなら尚更だ。
僕は元々体が弱く、風邪をひいて大学受験を2度失敗した。
それでも結局一流の大学には入れず、両親からも将来を心配される有様である。
それなら、違う世界に行って新しい人生を歩んだ方が遥かにマシだろう。
「分かった。僕は異世界に行く。君に僕の全てを任せるよ」
僕の答えを聞いて、レムは満面の笑みを浮かべた。
「ヒカリ様、必ず幸せにして差し上げますわ」
そう言われると、僕の意識はまたしても遠のいていった……。
慌てて上体を起こし、周囲を見回す。
天井も床も壁も白い、立方体の部屋だ。
照明器具が見当たらないのに、部屋の中は明るい。
そして、出口らしきものがどこにも見当たらなかった。
一体ここはどこなのだろう……?
「ここは、魔法で作った夢の世界ですわ」
突然声がして振り向くと、先程までは誰もいなかったはずの場所に、あの少女がいた。
「……魔法? 夢の世界?」
「人々の願望を現実のものとする力、それを貴方の世界では魔法と呼ぶのでしょう? でしたら、私どもの力を表現する言葉として『魔法』はふさわしいですわ。ちなみに、これは楽しい夢を共有するための魔法です」
「楽しい夢って……」
僕、さっきから全然楽しくないんだけど……。
「この夢の中では、痛みや恐怖を感じることはありません。自分の頬をつねっても痛くありませんのよ? 試してみていただければ分かりますわ」
僕は試してみた。
全然痛くない。どうやら彼女が言ったことは本当のようだ。
少女は何故か得意気だった。でも、そんな彼女の態度を不快だと思わない。これも魔法の効果だろうか?
ふと思いついて、僕は白い部屋の床を叩いてみた。
一見するとリノリウムのように見えるが、マシュマロのような弾力で手が押し返される。
今度は撫でてみると、シルクのような肌触りだった。
こんなこと、夢の中でも普通は起こらない気がする。
「……それで、どうして僕に夢を見せたりしたのかな?」
根本的な疑問を思い出して、僕は少女に尋ねた。
「事情を説明する前に、自己紹介を済ませてしまいましょう! 私はレムと申します」
「……僕は光。白井光」
「ヒカリ様。素敵なお名前ですね。やはり、貴方は私の運命の人ですわ!」
「……えっと……運命の人?」
激しく嫌な予感がした。
レムと名乗ったこの少女は、思い込みが激しいタイプのようだ。
「ヒカリ様、私の夫になってください! 共に私の世界で暮らし、末永く幸せに暮らしましょう!」
予感は的中した。
まあ、今までの流れだとこういう話になるよね……。
そして、これは断言してもいい。僕には断る権利など用意されていない。
こんな得体の知れない部屋に閉じ込められているのが証拠である。
それならば、彼女に諦めてもらうしかないだろう。
「……あのさ、君、歳はいくつ?」
「ヒカリ様の世界の基準に換算すると14歳ですわ」
ということは、彼女は中学生の年齢なのか。
身長は145㎝くらいに見えるから、歳のわりに低めである。
「ヒカリ様はおいくつですか?」
「……22歳だよ」
僕は正直に歳を伝えた。
レムは目を丸くした。やっぱり、思ったとおりだった。
「君、僕の歳を勘違いしたでしょ? こんなおじさんとは結婚しない方がいいよ?」
僕は身長が159cmしかない。
おまけに童顔で、ついでに色白である。
初対面の人には、成人男性だと思ってもらえたことがないのだ。
酷い時には、少女と間違われたことすらある。
予定が狂ったらしいレムは、困惑した表情で尋ねてきた。
「ということは、ヒカリ様には既にお子様がいらっしゃるのですか?」
「いや、いないよ! いきなり何てことを言うのさ!」
そもそも女性と付き合った経験すら無いのに、子供なんているはずがない。
「良かったですわ。それでは、何の問題もございません」
「あるでしょ! そもそも君は結婚できる歳じゃないよね!?」
「あら、私の世界では、15歳になる前に婚約する方もたくさんいらっしゃいますわ」
いつの時代の話だよ……。
どうやら、彼女の常識は僕のものとは大分違うようだ。
よく考えてみれば、魔法が使える世界の常識は、僕のものとは違って当然である。
「君の世界の人間は、皆魔法が使えるの?」
「程度の差はありますが、使えない方は珍しいですわ」
それは凄い……。
……使えない人は珍しいだって?
「そんな世界に、魔法が使えない僕が行ってどうするのさ? やっぱり、僕は君の世界には行けないよ」
「それなら心配要りません。ヒカリ様は大変な才能をお持ちです。訓練さえすれば、魔法はすぐに使えるようになりますわ」
「そんな……まさか!」
驚愕している僕に、レムはそっと近寄ってきた。
顔を覗き込まれ、思わず後ずさった僕の左手を、レムは両手でそっと包んだ。
「私に全てお任せください」
その瞬間、僕の中にあったネガティブな感情は全て消し飛んだ。
異世界に行って人生をやり直せるかもしれないのに、何を迷う必要がある?
僕に魔法の才能があるというなら尚更だ。
僕は元々体が弱く、風邪をひいて大学受験を2度失敗した。
それでも結局一流の大学には入れず、両親からも将来を心配される有様である。
それなら、違う世界に行って新しい人生を歩んだ方が遥かにマシだろう。
「分かった。僕は異世界に行く。君に僕の全てを任せるよ」
僕の答えを聞いて、レムは満面の笑みを浮かべた。
「ヒカリ様、必ず幸せにして差し上げますわ」
そう言われると、僕の意識はまたしても遠のいていった……。
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