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1.悪夢

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 僕は巨大な蛇に追いかけられていた。

 出口の見えない森の中、一本道を全速力で逃げる僕。
 その背後から、口を大きく開けた一匹の蛇が、今にも飛びついてきそうな勢いで追いかけてくる。
 僕の息は既に上がり、足がもつれ始めていた。
 それでも必死で走ったのは、足を止めれば食い殺されてしまうのが分かっているからだ。

 ……駄目だ、息が苦しい。もう限界だ!

 そう思った瞬間、僕は石につまずいて転んでしまった。
 慌てて起き上がろうとしたが、体に力が入らない。
 振り向くと、蛇が僕に向かって飛びかかってきていた……。


 ハッと目が覚める。

 良かった、今のは夢だったんだ……。
 悪夢の影響で、僕の鼓動は激しくなっていた。

 大きく息を吐き、何気なくベッドの脇を見た。
 すると、一人の少女と目が合った。


 ……僕は、まだ夢を見ているのだろうか?

 僕は大学生で一人暮らしである。
 付き合っている彼女もおらず、深夜に突然女性が押しかけてくるはずもない。

 そして、この少女と僕は初対面である。


 フランス人形のような少女だ。
 ウェーブのかかった金色に輝くロングヘア―。
 青い瞳に、フリルがたくさん付いた赤いドレス。
 小学生のような華奢な体が、ますますそんな印象を強めている。

 彼女はどこかの国のお姫様だろうか?
 それにしても、僕には外国人の知り合いはいないんだけど……。


 ふと気付いた。
 部屋は真っ暗なのに、何故か僕には彼女の姿がはっきりと見える。
 まるで、彼女自身が光を放っているようだ。

「ついに見つけましたわ」

 少女が口を開いた。目が輝いている。
 面白い物を発見した子供の目だ。

「君は一体……」

 とりあえずそう言った。
 この状況では、これ以外言えないだろう。

 しかし少女は、僕の質問などお構いなしに言った。

「貴方には、この世界に対する不満があるのではないですか? いいえ、あるはずです!」
「……それは……あるにはあるけど……」

 少女の剣幕に押され、僕はついそう言ってしまった。

 まずい。
 話が彼女のペースで進み始めている。

 こんな流れで強引に話を進められてしまい、後で困ったことが、これまでの人生で何度もあった。
 僕はこういうタイプの人が苦手なのだ。
 世界に不満がどうとか……まさか、これは新手の宗教の勧誘なのだろうか?

 僕の答えを聞いて、少女は感激した様子だった。

「それは良かったですわ! それでは、私が貴方を別の世界へお連れいたします」
「……いや、ちょっと待って!」

 少女がとんでもないことを言い出して、僕は慌てた。
 何か、取り返しのつかない事態に陥っている気がしたのだ。

「ご安心ください。長い間観察しましたが、この世界は酷く荒んだ場所のようです。私の世界に来れば、きっと楽園のように感じるはずですわ!」
「だから待ってよ! 僕は別に……」

 少女は、僕の抗議など意に介さず、僕に右手をかざしてきた。
 すると、僕の意識は遠のいていった……。
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