1 / 1
異世界への扉
しおりを挟む
六畳間で、一組の男女が対戦ゲームに興じている。
「うおぉぉぉ! よっしゃー! 初めてエミに買った!」
「負けたー! コータ強くなったね。悔しい! もう一回やろう、もう一回」
エミはコータの腕に抱きついてせがんだ。
「や、やめろ。くっつくなよ」
コータの顔が真っ赤になった。
「あ、あれ……? ……コータ、もしかして、あたしのこと好きだったの!?」
「そうだよ。今更気付いたのか」
照れ隠しなのか、コータは少し怒った顔をして見せた。
エミがソワソワし始める。
「だ、だって、コータはあたしのことなんて、女として見てないのかと思ってたから」
「エミこそ、俺のこと男だと思ってないだろ」
「いや……(小声)そんなことは……ごにょごにょ……」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、何にも」
コータは時計を見た。針は午後8時過ぎを指している。
「……もうこんな時間か。今日は泊まっていけよ」
「いやいやいやいや、帰るよ」
エミは赤くなって帰り支度を始めた。
「今、帰れないぞ」
「なんでよ、帰るよ」
ガチャ
玄関扉を開けると、そこは草原だった。
バタン
「……何これ!? なんか外が草原なんだけど!?」
「ああ、繋がったか。そこのドア、毎日このくらいの時間になると、異世界に繋がるみたいでな」
コータはゲームのコントローラーを手に持ったまま、悠然と言った。
「……は?」
エミの目が点になった。
意味が分からない。
「しかも、ランダムエンカウントの敵がめちゃくちゃ強い。ゲーム開始直後にレベル20の敵と戦う感じ。俺は一度遭遇して死にかけて必死で逃げてきた。それから二度と外に出てない」
「いやいやいやいや。どんな現象よそれ」
エミは頭痛をこらえるように、こめかみを押さえた。
「正直俺にも意味は分からんが、現実にそうなってるんだから仕方ない。朝になれば元に戻ってるから、それほど困ってはいないぜ」
「今まさに私が困ってるけど?」
「だから、泊まってけよ。別に無理矢理襲ったりはしねえから」
「ううう……」
エミはしばらくしゃがみこんで唸っていたが、おもむろに立ち上がると、コータから1メートルほど離れた場所に座り直した。
「コータはさ、あたしのこと好きなんだったら、したいとか思わないの? その……、キス、とか」
「そりゃ、したいに決まってるだろ。でもエミが嫌なら我慢するさ」
「そ、そう……」
エミが真っ赤になって言い淀むのをしばらく見ていたコータは、不意にハッとしたように目を輝かせた。
「もしかして、してもいいのか!?」
「え、嫌だよ!」
エミが即答したので、コータはショックを受けた顔をした。
「なんだ、違うのか」
「だって、あたし達はまだ付き合ってるわけじゃないし……、告白すらされてないし……」
「……『まだ』?」
コータは少し考え、正座してエミに向き直った。
「エミ」
「う、うん」
「好きだ。俺と付き合ってくれ」
「…………」
エミは赤くなった顔を隠すように両手で押さえ、
「……はい」
と頷いた。
それから、コータに近づき、今度は肩が触れ合う位置に座った。
「…………」
やや潤んだ瞳でコータを見上げる。
「キスしても、いいか?」
コータのこの質問に、
「……うん」
今度はエミも頷いた。
「……ん……」
離れた後、エミはコントローラーを握って、
「もう一戦しよう!」
と言った。
「おう、やるか」
「……今日、本当に泊まっていってもいいの?」
「お、おう。なにしろ、外は異世界だからな」
「ふふ。そうだね。異世界だからね」
二人は異世界に感謝した。
「うおぉぉぉ! よっしゃー! 初めてエミに買った!」
「負けたー! コータ強くなったね。悔しい! もう一回やろう、もう一回」
エミはコータの腕に抱きついてせがんだ。
「や、やめろ。くっつくなよ」
コータの顔が真っ赤になった。
「あ、あれ……? ……コータ、もしかして、あたしのこと好きだったの!?」
「そうだよ。今更気付いたのか」
照れ隠しなのか、コータは少し怒った顔をして見せた。
エミがソワソワし始める。
「だ、だって、コータはあたしのことなんて、女として見てないのかと思ってたから」
「エミこそ、俺のこと男だと思ってないだろ」
「いや……(小声)そんなことは……ごにょごにょ……」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、何にも」
コータは時計を見た。針は午後8時過ぎを指している。
「……もうこんな時間か。今日は泊まっていけよ」
「いやいやいやいや、帰るよ」
エミは赤くなって帰り支度を始めた。
「今、帰れないぞ」
「なんでよ、帰るよ」
ガチャ
玄関扉を開けると、そこは草原だった。
バタン
「……何これ!? なんか外が草原なんだけど!?」
「ああ、繋がったか。そこのドア、毎日このくらいの時間になると、異世界に繋がるみたいでな」
コータはゲームのコントローラーを手に持ったまま、悠然と言った。
「……は?」
エミの目が点になった。
意味が分からない。
「しかも、ランダムエンカウントの敵がめちゃくちゃ強い。ゲーム開始直後にレベル20の敵と戦う感じ。俺は一度遭遇して死にかけて必死で逃げてきた。それから二度と外に出てない」
「いやいやいやいや。どんな現象よそれ」
エミは頭痛をこらえるように、こめかみを押さえた。
「正直俺にも意味は分からんが、現実にそうなってるんだから仕方ない。朝になれば元に戻ってるから、それほど困ってはいないぜ」
「今まさに私が困ってるけど?」
「だから、泊まってけよ。別に無理矢理襲ったりはしねえから」
「ううう……」
エミはしばらくしゃがみこんで唸っていたが、おもむろに立ち上がると、コータから1メートルほど離れた場所に座り直した。
「コータはさ、あたしのこと好きなんだったら、したいとか思わないの? その……、キス、とか」
「そりゃ、したいに決まってるだろ。でもエミが嫌なら我慢するさ」
「そ、そう……」
エミが真っ赤になって言い淀むのをしばらく見ていたコータは、不意にハッとしたように目を輝かせた。
「もしかして、してもいいのか!?」
「え、嫌だよ!」
エミが即答したので、コータはショックを受けた顔をした。
「なんだ、違うのか」
「だって、あたし達はまだ付き合ってるわけじゃないし……、告白すらされてないし……」
「……『まだ』?」
コータは少し考え、正座してエミに向き直った。
「エミ」
「う、うん」
「好きだ。俺と付き合ってくれ」
「…………」
エミは赤くなった顔を隠すように両手で押さえ、
「……はい」
と頷いた。
それから、コータに近づき、今度は肩が触れ合う位置に座った。
「…………」
やや潤んだ瞳でコータを見上げる。
「キスしても、いいか?」
コータのこの質問に、
「……うん」
今度はエミも頷いた。
「……ん……」
離れた後、エミはコントローラーを握って、
「もう一戦しよう!」
と言った。
「おう、やるか」
「……今日、本当に泊まっていってもいいの?」
「お、おう。なにしろ、外は異世界だからな」
「ふふ。そうだね。異世界だからね」
二人は異世界に感謝した。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています
真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
魔王に誘拐された花嫁
さらさ
恋愛
王子様との結婚式当日に魔王に誘拐された花嫁。
魔王は花嫁のことを知っているようだけれど・・・花嫁は魔王に出会った記憶もない。
何故か甘い魔王に少しずつ心を奪われていく主人公。けれど、所詮魔族と人間。
距離を置こうとする主人公だが・・・
甘々な魔王様と主人公の恋のお話です。
【完結】華麗に婚約破棄されましょう。~卒業式典の出来事が小さな国の価値観を変えました~
ゆうぎり
恋愛
幼い頃姉の卒業式典で見た婚約破棄。
「かしこまりました」
と綺麗なカーテシーを披露して去って行った女性。
その出来事は私だけではなくこの小さな国の価値観を変えた。
※ゆるゆる設定です。
※頭空っぽにして、軽い感じで読み流して下さい。
※Wヒロイン、オムニバス風
王子と王女の不倫を密告してやったら、二人に処分が下った。
ほったげな
恋愛
王子と従姉の王女は凄く仲が良く、私はよく仲間外れにされていた。そんな二人が惹かれ合っていることを知ってしまい、王に密告すると……?!
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる