禁断のblue rose

秋村篠弥

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番外編

学校での隠れ咲き

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「……と、」
 誰かの声が聞こえる。脳内に反響して、またどこかに行ってしまう。
「…い、……いと!」
 次の瞬間、身体を揺すられて瞼を開けた。
「たいと!大翔!起きろ!」
「ん、おはよぉ」
 僕は目を擦りながら、欠伸をする。頬に何かが当たる。
「なっ!」
 龍都は起きたばかりの僕の頬にキスした。その事に気が付いた時には、彼は顔を離し微笑んでいた。
 僕は当たりを見回す。決して、龍都の家ではない。勿論、僕の家でも。
「がっ、学校でそんな事やめろ!」
 赤面になっているのか、顔が熱を帯びているのが分かる。
「大丈夫だ、掃除を受け持つから、コイツを寝かせたままにしておいてくれって言ったら、皆帰ったよ…しかも学校から逃げる様にして」
「そうか……」
 じゃない!
「外では僕が女装をしている時以外止めてくれ」
 目を逸らす僕に、龍都はニヤニヤしながら問う。
「何でだ?」
「ケジメが付かなくなるだろ」
 彼から視線を逸らしたのが、間違いだった。彼は、言葉で言っても聞かない奴だと、分かっていたはずなのに。
「んッ」
「はくっ」
 唐突で、驚いたのだがやはり、彼を求めていたのは僕だった。そうされると分かっていて視線を背け、スキを与え誘ったのだ。
 どこまでも絡み付いてくる彼の舌に、逃げ場を失う。だが、苦しくなっても僕は止めない。彼の気持ちに答えると決意してから、愛おしくなったのは僕の方だった。
 すると、珍しく彼の方から舌を抜いた。
「ははっ、今日はいつにも増して気合入ってるな」
 僕はその言葉に、恥ずかしくなり言う。
「そ、掃除やらないとっ」
 口の中にまだ残っている彼の温もりを掻き集めて飲み、立ち上がる。
「あ、そんなもん俺がさっき済ませたよ、別にお前に付き合わせる意味も無いし」
 彼は、僕に笑みを見せると言った。
「それに、お前との時間を掃除なんかに取られたくなかったからな」
「ありがとう……?で、良いのか?」
 何だか自分の気持ちが分からない。大切にされている気はするのだが…。
「けどよ、放課後って良いよな?」
「何でだ?」
「完全に教室って空間で2人きりだからに決まってんだろ」
 彼は、本当に嬉しそうだった。
「はは、確かに」
 普段生活している空間を、2人のものにしてしまえるなんて……凄い。
「今日は何をしたいんだ?」
「何って、いつも龍都が好きな様に僕を弄ってるだけじゃん」
「弄られて喜んでんのは誰だ?」
 その言葉に何も言えず、僕は唸った。
「否定しないところが可愛い」
 最初は抵抗のあった可愛いという言葉も、最近では龍都に言われると嬉しく感じるのだ。
 グゥー
 とここで龍都の腹が鳴る。何とも情けない間抜けな音だ。思わず、頬がゆるんだ。
「ははっ、する事ねぇし、帰るか」
 僕は頷く。彼は、鞄を持つと立ち上がりドアに向かう。僕も彼の後に続いて教室を出ようとする。
 ドアを開けようとした彼が、振り向く。その顔は、イヤらしく歪んでいた。
「ど、どうした?」
 驚く僕を無視し、彼は僕をドア側に寄せると壁ドンをしてきた。
「やる事、あったかな」
 そう言うと、僕の瞳をじっと見た。
「か、壁ドンしたかったのか!」
「シーっ、あんまり煩くすると……人来ちゃうよ?」
 何も言い返せない歯痒さと、彼の視線にまた赤面になる。だが、今は顔を背けない。彼の瞳の奥に、吸い込まれているからだろうか?
「龍都は、いつから僕をこんな風に見ていたんだ?」
 突如出た言葉に、彼は少し身を引くと考える素振りをする。
「隙あり!」
 僕は壁に着いていた腕を取り、立場を逆転させた。別にこんな事がしたくて聞いたわけじゃない。ただ、やられっぱなしは面白くない。
「ふっ、反撃してきた」
 だが、彼は楽しそうに笑みを浮かべるのだった。どちらかというと、この後どうされるのかワクワクしている様にも見える。
「どうして欲しい?」
 僕は強気に、彼の言葉を真似る。すると、彼はどうしたい?と聞いてきた。
「龍都をめちゃくちゃにしたい。僕だけの……」
 その時だった。いきなり腕を着いていた壁が、スライドされた。
「うわぁ」
「なっ、」
 僕は龍都の上に倒れた。たくましい胸板に倒れ、改めて自分との体付きの違いを感じる。
「わっ、ご、ごめんね!」
 ドアを開けた張本人、立っていたのは、龍都の元カノ美保だった。彼女は怯えるように、走り出そうとしていた。
「待て!」
 龍都は、美保の腕を掴んだ。
「ひ、ご、ゴメンなさい!まさか、寄りかかってるとは思わなくて、いつもよりドアが重いとは思ったんだけど!」
 口走ると、彼女は龍都を見た。何だかその眼差しには、未練がありそうに感じた。
「謝るなよ、俺の方こそ……悪かった」
 龍都が謝ると、美保は静かに言った。
「新しい彼女さんとは……上手くいってる?」
 僕はその言葉に、驚いた。彼に、恋人がいる?僕以外の、しかも異性の。
「うるせぇ、お前には関係ないだろ」
 龍都はそう言うと、僕の腕を掴み歩き出した。その場に取り残された美保は、何が癇に障ったのか、理解出来なかった。
 校門を出て、僕は聞いた。
「彼女って?龍都は、好きな人が出来たから、美保さんをフッたのか?」
 僕の問いに、龍都は言う。
「そうだ」
 僕はその言葉に、掴まれたままの腕を振り払う。
「恋人がいたのに、僕で遊んでたのか…両手に花束だな」
 「違う!俺は、お前の事がっ!」
 龍都は、目を逸らす。外だということに気が付いたのか、正気になったのだろう。
「早く帰るぞ、お前の誤解を早く解きたい」
 龍都のそんな横顔に、僕は笑った。
「ははっ」
「何笑ってんだよ!」
「知ってるよ、雰囲気でわかった」
 僕は龍都を見ると、微笑む。
「僕に本気になってくれたから、美保さんをフッたんだろ?」
 龍都は、ただ頷いた。
「お前、俺の慌てぶりを見たかっただけだろ…」
「恥ずかしいか?」
 目の前にいる龍都は、珍しく赤面だった。だが、こちらを見た彼の目は…。
「帰ったら、覚えてろよ」
「何をだ?」
 惚けた僕に追い打ちをかける。
「飯ごと食ってやる」
「楽しみにしてる」
「今日は加減しないからな」
 僕は彼の事が好きだ。たぶん、恋人でも友人でも。
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