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2 第2章 ~絡み合う糸の先端~
過去と察しは使いよう
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「ふざけんなぁ!」
そう気迫のある声が聞こえたかと思うと、目の前の男子の頭上に勢いよくバッドが落ちた。
カランカランッ
シーンとなっていた場にリズム良く転がるバッド。
その予想もしなかった光景に周りの男子も狼狽えた。
そして1人が、バッドを振り下ろした彼女の脇を通り、玄関から逃げていくとそれに続きみんな出ていってしまった。
「根性ねぇなら最初からヤんなよなぁ、男ってホント阿呆」
そう言って私の前にしゃがむと、自分の着ていた上着を肩にかけ、頭を優しく撫でてくれた。
「怖かったな、ごめんな、気付いてあげられなくて」
私はその一言に、感謝を通り越して怒りさえ湧いてきた。
何で…、何で来てくれたの?何で謝るの?何で慰めてくれるの?何で、こんなにも暖かいの…?
「ぁりがとぅ」
私は弱々しい感謝の言葉を口に出す。
「無事で良かった」
その言葉を聞いて、私の頬に暖かい何かが伝った。
「はっ!」
目を覚ますといつもと同じ天井がそこにはあった。
たまにうなされる、凌との馴れ初め。
好きになってしまったきっかけの夢を見てしまう。
ユキは高校の時、1度しつこく告白された先輩と付き合ってしまった事がある。それがまた女に手を出す男だった。
気に入らなければ髪を引っ張られ、人気のない所へ連れて行かれ、蹴られたり殴られたりした。
だからもう学校外では会わないと決め、デートの約束も断っていた。そんなある日、学校で泣き付かれ、家に来て欲しいと言われ行ってしまった。
その後はレイプまがいのことをされかけた…。
そう、され掛けた、ですんだのだ。
いつもユキの隣にいる、カノジョのおかげで。
それは一見して、トラウマを抉り返されるものであるはずなのに、そう言いきれない懐かしい心地の良い感じがある。
夢だから美化されてしまっているのかもしれないけれど。
私はあの日以来、凌に好意を抱いている。一般では認めてもらえなさそうな、そんな恋心。
あぁ、何でこんな夢を見てしまったのか分かった、彩織さんが聞いてきたからね。
ユキは凌への気持ちを本人に伝えたら幸せだなぁと、思っていた。
もちろん、伝えなくても、伝えても今も十分幸せなのだが。
「あぁ~、眠いなぁ~」
龍都は自分のせいでギリギリの時間に家を出たのにそんな呑気なことを抜かしていた。
「何だよ!龍都のせいで時間ギリギリになっちゃったんだぞ!少しくらい急いでよ!」
その言葉に、龍都は微笑んで僕の頬をつつく。
「何プリプリしてんだよー、なら俺を残して大翔だけ先に出ちゃったら良かったじゃないか~」
それが出来ない事を知ってそんな軽口を叩く。
「それが出来たら僕に今の不満は無いよーだ!」
そう言って少し大股で歩くが、龍都の方が悔しい事に足が長いのですぐ追いつかれてしまう。
僕のこのプリプリは校門前まで続いた。
「おっは~」
凌の挨拶に、僕と龍都は会釈なり、手を挙げるなりして答えた。
「おはよう2カップルとも!」
タイミングよく来た彩織も混じっていつものメンバー…、
「2カップルってなんだ!」
僕のツッコミにみんな朝から笑っていた。
なんだなんだ、気になるのは僕だけか?
腑に落ちないまま、僕らはそれぞれの教室に足を運んだ。
「私、凌にコクハクする!」
昼休み、僕達3人はいつも通り5時限目の2人を待つために食堂へ向かう。
そこでユキが珍しく意を決して言い放った。
「うにゅ?」
「おお!」
僕はいきなりの宣言に驚き言葉にならなかったが、彩織は遂に来たか、拍手する勢いだった。
「なして、そう思ったの?」
彩織の問いにユキは恥ずかしそうに答えた。
「私、凌の何が好きなのか、とかいつから好きなのか、とかずっと気にしてた。けど、あの日から彼女には惹かれていたんだなって思ったら、そしたらもう私の愛を彼女にも受け取って欲しくて」
「愛がエゴなのは知ってる、でも」
付け加えて言うユキに、彩織は静かに言った。
「エゴだって分かってるなら加減を気にすればいい事、エゴだなんだって言ってたら、始まるものも始まらなくなるからね!応援してる」
その言葉に、ユキは安心したように、微笑んだ。
「僕も、応援してるよ、2人は2人で幸せになるべきだ」
「ありがとう、2人とも」
今にも泣きそうなユキに、彩織が慌てて言う。
「コラコラ、泣いたらご飯が塩っぱくなるぞ!それに可愛い顔が腫れちゃったらどうすんのさ」
ユキはハッとしてグッと堪えた。そして嬉しそうに
「持つべきものは、友人だね」と言った。
その後、食堂を後にした僕達は、図書館へ向かった。
その合間に、ユキは凌に『大事な話があるから、授業終わり次第、中庭に来て欲しい』と連絡をしていた。
何だか結果は分かりきっているようなものだけど、僕らもドキドキだった。
と言っても、2人が上手くいっても、傍からじゃ何も変わらないだろうけど。変わるとしたら…後に夜の営みが入るか、くらい?
それから数十分後…、
ユキがソワソワし始めた、もうそろそろ授業が終わる時間だ。
僕らも同じようにいてもたってもいられなくなりそうな気持ちを抑えていた。そして、連絡がユキの携帯に入った。
『お疲れ様、ユキ。今から行くよ』
ユキがバっと立ち上がる、拳を握り、どことなく緊張で震えている様な気がする。
そんな彼女の手を握り、彩織は言う。
「大丈夫よ、きちんと伝えてきな、ね?」
ユキは数回頷くとバッグを持って走っていった。
「また明日~!」
その背中に手を振る。
「ユキ、大丈夫かなぁ?」
僕の間抜けな言葉に、彩織は、
「まぁどこかで確信あって言ってるんでしょ、だってそうじゃないと告白して断られた後の気まずさなんて考えたら正気じゃないよ」
と言う。
正論だ。
そう気迫のある声が聞こえたかと思うと、目の前の男子の頭上に勢いよくバッドが落ちた。
カランカランッ
シーンとなっていた場にリズム良く転がるバッド。
その予想もしなかった光景に周りの男子も狼狽えた。
そして1人が、バッドを振り下ろした彼女の脇を通り、玄関から逃げていくとそれに続きみんな出ていってしまった。
「根性ねぇなら最初からヤんなよなぁ、男ってホント阿呆」
そう言って私の前にしゃがむと、自分の着ていた上着を肩にかけ、頭を優しく撫でてくれた。
「怖かったな、ごめんな、気付いてあげられなくて」
私はその一言に、感謝を通り越して怒りさえ湧いてきた。
何で…、何で来てくれたの?何で謝るの?何で慰めてくれるの?何で、こんなにも暖かいの…?
「ぁりがとぅ」
私は弱々しい感謝の言葉を口に出す。
「無事で良かった」
その言葉を聞いて、私の頬に暖かい何かが伝った。
「はっ!」
目を覚ますといつもと同じ天井がそこにはあった。
たまにうなされる、凌との馴れ初め。
好きになってしまったきっかけの夢を見てしまう。
ユキは高校の時、1度しつこく告白された先輩と付き合ってしまった事がある。それがまた女に手を出す男だった。
気に入らなければ髪を引っ張られ、人気のない所へ連れて行かれ、蹴られたり殴られたりした。
だからもう学校外では会わないと決め、デートの約束も断っていた。そんなある日、学校で泣き付かれ、家に来て欲しいと言われ行ってしまった。
その後はレイプまがいのことをされかけた…。
そう、され掛けた、ですんだのだ。
いつもユキの隣にいる、カノジョのおかげで。
それは一見して、トラウマを抉り返されるものであるはずなのに、そう言いきれない懐かしい心地の良い感じがある。
夢だから美化されてしまっているのかもしれないけれど。
私はあの日以来、凌に好意を抱いている。一般では認めてもらえなさそうな、そんな恋心。
あぁ、何でこんな夢を見てしまったのか分かった、彩織さんが聞いてきたからね。
ユキは凌への気持ちを本人に伝えたら幸せだなぁと、思っていた。
もちろん、伝えなくても、伝えても今も十分幸せなのだが。
「あぁ~、眠いなぁ~」
龍都は自分のせいでギリギリの時間に家を出たのにそんな呑気なことを抜かしていた。
「何だよ!龍都のせいで時間ギリギリになっちゃったんだぞ!少しくらい急いでよ!」
その言葉に、龍都は微笑んで僕の頬をつつく。
「何プリプリしてんだよー、なら俺を残して大翔だけ先に出ちゃったら良かったじゃないか~」
それが出来ない事を知ってそんな軽口を叩く。
「それが出来たら僕に今の不満は無いよーだ!」
そう言って少し大股で歩くが、龍都の方が悔しい事に足が長いのですぐ追いつかれてしまう。
僕のこのプリプリは校門前まで続いた。
「おっは~」
凌の挨拶に、僕と龍都は会釈なり、手を挙げるなりして答えた。
「おはよう2カップルとも!」
タイミングよく来た彩織も混じっていつものメンバー…、
「2カップルってなんだ!」
僕のツッコミにみんな朝から笑っていた。
なんだなんだ、気になるのは僕だけか?
腑に落ちないまま、僕らはそれぞれの教室に足を運んだ。
「私、凌にコクハクする!」
昼休み、僕達3人はいつも通り5時限目の2人を待つために食堂へ向かう。
そこでユキが珍しく意を決して言い放った。
「うにゅ?」
「おお!」
僕はいきなりの宣言に驚き言葉にならなかったが、彩織は遂に来たか、拍手する勢いだった。
「なして、そう思ったの?」
彩織の問いにユキは恥ずかしそうに答えた。
「私、凌の何が好きなのか、とかいつから好きなのか、とかずっと気にしてた。けど、あの日から彼女には惹かれていたんだなって思ったら、そしたらもう私の愛を彼女にも受け取って欲しくて」
「愛がエゴなのは知ってる、でも」
付け加えて言うユキに、彩織は静かに言った。
「エゴだって分かってるなら加減を気にすればいい事、エゴだなんだって言ってたら、始まるものも始まらなくなるからね!応援してる」
その言葉に、ユキは安心したように、微笑んだ。
「僕も、応援してるよ、2人は2人で幸せになるべきだ」
「ありがとう、2人とも」
今にも泣きそうなユキに、彩織が慌てて言う。
「コラコラ、泣いたらご飯が塩っぱくなるぞ!それに可愛い顔が腫れちゃったらどうすんのさ」
ユキはハッとしてグッと堪えた。そして嬉しそうに
「持つべきものは、友人だね」と言った。
その後、食堂を後にした僕達は、図書館へ向かった。
その合間に、ユキは凌に『大事な話があるから、授業終わり次第、中庭に来て欲しい』と連絡をしていた。
何だか結果は分かりきっているようなものだけど、僕らもドキドキだった。
と言っても、2人が上手くいっても、傍からじゃ何も変わらないだろうけど。変わるとしたら…後に夜の営みが入るか、くらい?
それから数十分後…、
ユキがソワソワし始めた、もうそろそろ授業が終わる時間だ。
僕らも同じようにいてもたってもいられなくなりそうな気持ちを抑えていた。そして、連絡がユキの携帯に入った。
『お疲れ様、ユキ。今から行くよ』
ユキがバっと立ち上がる、拳を握り、どことなく緊張で震えている様な気がする。
そんな彼女の手を握り、彩織は言う。
「大丈夫よ、きちんと伝えてきな、ね?」
ユキは数回頷くとバッグを持って走っていった。
「また明日~!」
その背中に手を振る。
「ユキ、大丈夫かなぁ?」
僕の間抜けな言葉に、彩織は、
「まぁどこかで確信あって言ってるんでしょ、だってそうじゃないと告白して断られた後の気まずさなんて考えたら正気じゃないよ」
と言う。
正論だ。
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早い反応とても嬉しいです。
実は温めていたのだったのですが、別の物語の新作が出そうだったので出しちゃいました。(´>∀<`)ゝ
いつも、コメントホントにありがとうございます✨✨
ガンバります(≧▽≦)