禁断のrainbow rose

秋村篠弥

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南 遼~南を管理する者~

~南 遼~

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 憧れだった。
「何故、貴方が……?」
 ずっと、彼の背の影を追い求め、いつしか見失ってしまった。だが、やっと目の前に現れた。
「何故、こんな所にいらっしゃるのですか?貴方は、もう1度出るべきです。そして、治めるべきです!北を」
 自分の訴えに、白衣の彼は鋭い目をさらに細め、微笑む。
「馬鹿はハタチまで、だぜ?それに俺だけ、偽名だったんだよ…お前らみたいに本名で地区に付いたわけじゃない」
「そ、それでも!」
「なら、力ずくでも俺を北に返すか?返してどうすんだ?」
 言葉が出なかった。本人にやる気がないなら、連れて帰っても区は治められない。だが、彼なら名前だけでも充分だ。
「貴方は名前だけでも話が通ります。ですから」
「名前だけ。存在してないってバレたら?今までだってそうだったろ?それに北区は最近平和じゃないか」
 自分が収めていた区に、そこまで執着しないなんて。
「お前らだって、2代目だろ。なら、北区は2代目に収めさせればいいさ」
 上半身だけ伸びをする、教務イスがキシィと鳴いた。
「貴方が、2代目ではないのですか?」
「完全に、足を洗った。いや、俺は洗わせたんだ、だから絶対に戻らない……戻れないんだ。友人のために」
「そうですか、分かりました」
 遼は踵を返し、部屋を出ようとした。
「まぁお前が全裸で猿轡と目隠し付けてSMプレイ耐えられるってなら、考えてやっても良い」
 そう言うと本当にやりかねない笑みを浮かべていた。遼が、返事をしないでいると、
「また来いよ」
 そう言われ、
「もちろんですよ、またお伺いします」
 と返す。
 また来れば、彼を連れ戻すチャンスがあるかも知れない。教師になったって、関係ない。
北野甲冑、彼を連れ戻す為に……私は、また来る。
 そっと決意し、遼は部屋を出た。
 もちろん、彼女のために同性でも交遊的な事はしない。
 しかし、紅月は彼が廊下へ出ると更に笑みを歪ませた。
────南遼、リア充だって関係ない。絶対にこっち側に引き込んでやる。



「席付けー!次はあの、アカツキだぞ!」
 誰かがそう声を上げると、クラスがざわつきながら、一人一人が自席に着く。そうしないと、理不尽な攻撃を受ける事になるのは有名だ。噂に疎い僕でさえ知っている。
「紅月先生だー」
「次の授業盗撮大会じゃん」
 そして、この物理学、地獄という時間は紅月先生によって女子には天使に映るらしい。
 要するに、誰にも媚びない猫のような、冷血な容姿の彼は人気があるのだ。
 僕はただ怖いとしか思わないが。
 ざわつきがある程度収まったのを、見計らうように紅月鎧は教室のドアをゆっくりと開け、入ってきた。
 紅月が、声をかける前に号令がかかり、授業が始まる。紅月は適当にお辞儀をしチョークを片手に持つと、今日の授業範囲を説明した。その最中はずっとチョークを手で弄んでいる。
 僕は、彼の腕を不思議に思っていた。野球部か何かをやっていたのだろうか?
 それでなければ、あんな事、出来る訳が無い。
〝黒板に向かったまま、チョークを的確に投げ飛ばす事など……〟
 そもそも男女構わず3度目の注意の代わりにチョーク飛ばすとか。
「川中、ぼーっとすんな」
 前を向くと、その先には彼、紅月が不快そうに目を細めていた。
「あ、すみません」
 しまった、分析しようとしたのに逆に目に留まってしまうなんて。
「今日は俺も機嫌が悪いからな、2回目に投げてやる」
 彼の言葉に、東区を収めている、と不良で有名な東龍牙が言った。
「じゃあまだチャンスはあるな」
「お前の事は嫌いだから、お前は放課後呼び出しな?」
 紅月先生は彼の言葉にそう返す。
 何だか東の時だけ妙に当たりが強い気がする。いや、それを羨ましいとか思っていないが。
「ほら、早く板書しろ。消すぞ」
 仏頂面でそう言うと彼はまた続きを書き出した。
 本当に何が魅力的なのか分からない。女子はこんなののどこが好きなんだろう?全く謎だ。
 だって、人間としての可愛げもないし、メガネのフレームも怖いし、つり目も怖いし、まず人間性に引っ掛かりそうな髪色してるし、話し掛けただけでクビと胴体がバイバイしてそうな、本当に何の魅力もな……
シュカッ
 耳を掠め、何かが飛んできた。当たってたら相当痛かったと思う。当たらなかったのは、故意的なのだろうか?それとも、運が良かった?
「今日は集中力皆無だな、俺の短所でも数えてたか?」
 とりあえず僕は、控えめに首を横に降る。全力で否定したら怪しいからな。
「そうか、まぁ当たらなかったって事は、なんも考えて無かったんだな」
 やっぱり運だったのか?まぁ、あたらなくて良かった。
「初回限定だ、次は当てるからな」
 紅月先生は黒板に文字を書きながら言った。
「それと、いい加減その変な袖なんとかしろよ」
 僕は自分の袖を注意されたと分かったが、先輩からのお下がりで体格も違うからダボダボになってしまうのは仕方ない、と自分の中だけで言い訳をして納得した。
 授業が終わり、友人グループが僕の机に向かった集まる。
「何で紅月に喧嘩売ったんだよ?」
「自殺したいのか?」
「紅月の犬になるぞ」
 心配する友人達をよそにぼくは言う。この時は彼を見くびっていた。
「犬になるなんて、僕は正常だよ?」
 僕の言葉に友人らは笑う。
「このあざとい奴め、どうせこのクラスで1番可愛い女子を見ても自分の方が可愛いとか思ってんだろ?」
「うん、僕の方が間違いなく可愛いね」
 僕はダボダボな袖をブンブン振りながら当然のことのように言う。まぁ、当然だし。
「ったく、ナルシストが違う方向に逸れたな」
「ナルシストじゃない、僕は真実だ!」
「真実でも自分で自分を高評価すればナルシストだ」
「はぁ?逆に低評価な奴を見てみたい」
 と、話している最中に1人の少女が友人を割って僕の前に立つ。机を身を乗り出して叩かれた。
「あなた、ワタクシの紅月様に逆らうなんて死に値するということ、お忘れ?」
 目を光らせ、眼差しだけで僕を殺そうとする暁美才華。高2にもなって位置の高いツインテールが痛いお嬢様。まぁ、顔つきも可愛らしいから似合っているが……。
「ふぅ、今日のお弁当は何だろなぁー」
 僕は興味が無いので、とりあえず無視る。
「な、あなた。このワタクシを無視するなんて……」
 手が出そうなほど怒っている才華を見た彼女の友人が慌てた様子で彼女を僕から遠ざけた。
「あなた達、おやめなさい!あんな紅月様の魅力が分からない節穴はきちんとお目を入れて差し上げないと!」
「腐った目が入るくらいなら、節穴で良い」
 僕の態様に、友人も半ば呆れているのが分かった。
「お前のそのひょうひょうとした毒舌なんとかしろよ」
 とまぁ僕はこんな性格で、東くんみたいに紅月先生に食ってかかる度胸もなければ、暁美さんみたいに人を愛することも知らない訳だが。
「俺、購買組なんだけど」
 その言葉にハッとした。そして控えめに言う。
「今日は、お弁当無かったんだ」



「りょー!」
 遠くの方からそう聞こえ、パタパタと上履きを鳴らしながらこちらへ向かってきたのは、遼の最愛の恋人、神咲瑠子。
 ポニーテールを揺らしながら、満面の笑みでこちらに駆け寄る姿は本当に天使だった。両手を広げていたので、抱きとめた。
「何で?何でりょーがいるの?」
 不思議そうに問うてくる彼女の表情が可愛すぎて、ニヤけた顔を見られたくなかった。だから、遼は彼女の頬をつまんだ。突然の事で驚くが、何で何で、とまだ納得していなかった。
 いつもはお互いに下校途中にある、公園で待ち合わせそこで毎日大体同じ時間に落ち合う。そこで話し続けるか、どこかに遊びに行くかは、2人の気分次第である。
 だから、待ち合わせ場所でもない自分の学校にいた遼を不思議に思うのは当たり前だった。しかし、紅月に会うついでで1階をさまよっていたと思いたくない。あくまで、彼女に会うため、紅月に会うのがついでだった。
「強いて言うなら」
 遼は勿体ぶる様に、彼女の瞳をまじまじと見る。しかし、彼女は遼に言って欲しいのか、先走って言うことをしなかった。
「君に、会いたかったから、かな」
 遼は唯一家族と瑠子にタメ口を聞く。西は歳下だが、君付けや、敬語は忘れない。
「もー!ズルイ!私もりょーに会いに行きたい!」
 遼は瑠子の頭を撫でると優しく言った。
「ダメ、うちは景気悪いから。絶対ダメ、会いたかったらすぐ電話してって言ってるでしょ」
 瑠子はそう言われ、大人しく頷いた。
「うん」
 ちなみに遼が住んでいる南区は荒れていて、彼が通う学校は男子校のため尚更だった。
「じゃ、帰ろうか」
「あ、私、まだHR終わってないの。用があって下に降りてきただけだから、もう少し待っててね?」
「分かった。待ってる」
 その言葉を聞くと、彼女は嬉しそうに微笑みまた走り出した。何度か名残惜しそうに振り返っていたが、ついに曲がり角に吸い込まれ、姿は消えた。









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