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警鐘 ~出逢いと別れは繰り返される~
しおりを挟む我々は何度も巡り会う。
そして魂の輪廻の輪の循環の中で一時の微睡みを与えられ、一時羽を休める。
聖女の庭にて。
自身らの魔王討伐に関する回顧録を、勇者兼聖女であった特殊な視線からの意見も欲しいと賢者テレス・ムィートに請われ、彼が纏めた回顧録に目を通しながらふと、後の世に続くだろう勇者達のための一言を書き添えてはどうか?という前置きを添えて勇者達が本能的に悟る事を、世の常識とする事で少なくともアドタイクスのような愚者の誕生をなくそう、と提案した。
ー悲しいが一度あった事は二度あるー
その恐れを否定できない。
しかし、これ以上は勇者や剣聖、賢者の魂の輪廻を崩す事は出来ない。
アメリアはこんな愚かな警鐘をまさか己が鳴らすことになるとは、と若干苦々しい思いになりながら筆をとった。
我ら勇者、聖女、賢者、剣聖はそれぞれに、その魂が何度も輪廻を繰り返し、魔王討伐という重い任務を果たしている。
その使命ゆえ何度も輪廻を繰り返す定めにあるが、それぞれの魂が疲弊しないようにと配慮されており、実はこの世に勇者達の魂は複数存在する。
かくゆう我らとて既に複数回、転生を繰り返している。幸いであるかは別に、我らに前世の記憶はない。
しかし、何度となく巡り会う運命にあるためか、互いへの友愛と尊敬とは自然と発生する。その感情を形容し表現する言葉を迷うほどには、ごく自然と。
例えば、空が青い事が当たり前の事であるように。
花が咲き、蝶や蜂が集まるように。
川が海へと流れてゆくように。
木の葉が散り、風に舞うように。
我らの絆こそ、永遠に不滅なのです。
ただそれを聖女以外、誰も知らぬままでいただけなのです。
この大聖女アメリアの覚え書きと初め題された記述は賢者テレス・ムィートにより、
『大聖女アメリアの警鐘』
と題され手記として世に公表された。
それは、公表されるや否や、世の中に激震を齎した。
勇者であるか、そうでないのかを分け隔てるものが何なのか。
その選出が一体どんな基準に基づいているものなのか。
そして。
次に選出されるのは一体、どういった者になるのか。
その人物をどう早く把握できるのか。
この騒動に賢者テレス・ムィートは、
「神の御心を無闇に推し量ってはならぬ!その御心を知る者、勇者と聖女のみ!」
と強く警告した。
これに関してはテオドロスやジディンクス王も苦々しい顔を揃えた。
良い意味で良く似た親子である。
「勇者達の存在意義を損得で図るなや」
苦虫を噛み潰したような顔をする息子を見る。この息子を、生きて戻れる保障など何一つない魔王討伐に送りださなければならなかった、自らや次男の苦悩を世の中は一体何だと思っているのか。
王位継承権を返上する、と口にした息子にその必要はない、と声に出来なかった己の悲哀を何と心得るのか。
聖女ロザリアの家族は、彼女の死後、彼女の生まれ育った葡萄園から離れる事を拒み、そこに骨を埋めた。
賢者イディオンの家族はグレンディア帝国の庇護は受けた。が、最後はイディオンの近くに、と望み遺骨が埋葬された。
そして、現代。
大聖女アメリアの家族は、娘が勇者まで兼ねると聞くと、母親が卒倒し気の病に伏した。父親の看病も虚しく儚くなると、父親はこれを追って後追い自殺して果てた。
この愚かしい騒動に対して沈黙しては、そうして陰で涙を飲み耐えたであろう先人たちが余りに報われない。やるせない。
最早、死者は語れぬ。
せめて、己がその警鐘を鳴らす役割を果たさねば、先人たちに申し開きも出来ない。
ジディンクス王は賢者テレス・ムィートに、勇者達を送りださなければならなかった家族達の苦悩や、流した涙を軽んじて欲しくないと書簡を送った。
賢者テレス・ムィートはそこにジディンクス王の静かな怒りを察した。
側でこの書簡を読んでいた息子が、声もなくボロボロと涙を零すに至り、心を定めた。
勇者達の栄光の陰にはその家族達の血の涙がある。
そこには富貴の差などない。
生きて戻れぬかも知れない旅路の後押しをそれでもせねばならない悲哀を。
勝利を望まなければならない苦痛を。
一体、誰がどう、理解するというのか。
時折知らされる戦況に一喜一憂し、地図を開き、一行の足跡を確かめ思いを寄せながらその安全をどれほど祈願したか。
生きていて欲しいとさえ、その背負った責務ゆえに祈る事さえ許さなかった自分達家族が唯一、公に許されていた祈りは確かに救いではあったが、同時に自分達にとりどれほどに理不尽であったか。
一体、誰にどう、語れば分かるのか。
我らの苦悩を、悲しみを。
世の全てに敢えて問おう。
それでもただ耐えていれば良かった、と言うのであるならば、その痛みを是非とも味わってみるといい。
眠ろうにも眠る事も出来ず。
食べようとしても、食欲もなく。
ただ待つことしか出来ない無力感と虚無感とに自らの命を諦めないでいられる自信がそれでもあるのならば。
この『世に問う』は剣聖テオドロスの父王アルデバラン、賢者テレス・ムィートの息子ロビンの連名による異例の記述として、世に公表された。
そして世に、沈黙が齎された。
勇者達が光であれたのは、
その家族が陰となっていたからだと、世の全てがようやく気付いたのである。
コメント
ジディンクス王!とうとうお名前が!
って、やっぱり聖○士星矢から。
顔は厳ついが心優しい牡牛のあのお方。
いらっしゃいませ!
あっ、ついでに賢者テレス・ムィートの息子ロビン君。
ロビンって、キ○肉マンからだよ。
分かるかな?ハハハハハ・・・
そして二人とも、いや、それぞれの家族全員ですけど、激オコです。
活火山レベルで、激オコです!
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