かつて愛した世界の片隅で ~世界を救済した勇者の後日~

月宮 ゆら

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真実(ひみつ) ~勇者の裁き~

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 世界が勇者の再臨を知れば希望となる。

 だが、世界が勇者の報復を知れば絶望へと変わるだろう。



 「とことん、愚かな馬鹿とは言え」
 「いやいや、あんな馬鹿に延々と報復するとかねぇわ。ありゃ、どんなに時間かけても学習できない猿以下の生きモンだぜ」
 賢者と剣聖はどこか遠くに目を向けながら愚痴った。色々、有り得ない。
 彼等の評価に勇者は形のよい唇に笑みを浮かべた。男性にしては色気のある微笑だ。
 ー考えたくもないのだが、勇者という存在は皆こうも美しく目を引く美貌を誇る存在なのじゃろうか?男でもこの美貌と色気。うぅむ。アメリア様の事でも学習したつもりではあったが、所詮つもりはつもりじゃということ。よもやとは思うが・・・いやいや、考えるのも悍ましい。どちらにせよ、あれは愚者の成れの果て。二度とは関わるまいてー
 賢者テレス・ムィートは、智を探求する賢者には珍しく己の知りうるべき事柄の選別にかけては他の追随を許さない分別を弁えていた。
 そこには彼が体験しなければならなかった、諸々が多大な影響を及ぼしている。

 「大聖女アメリア。僕を責めるかい?」
 「いいえ。ですが彼を苦しめても何ら益のない行い。ただ御身の平穏を阻害するのではないかと」
 アメリアの言葉にアイオロスは、その整い過ぎた美貌に凄惨な笑みを浮かべた。
 ー並の人間なら震え上がるほどの笑みー
 「僕の身に平穏?そのようなものがあると、本気で思うのか?僕らの魔王討伐は失敗だった。誰一人!生還できなかった討伐など何を誇れる!」 
 その強い声音に空気が、大地が震えた。
 ここは神によって不可侵となった地である。
 にも関わらず、勇者アイオロスの並外れた聖力によって震え上がったのだ。
 「アイオロス様。今生の聖女はこの私。貴方様の聖女ロザリア様ではございません。ですが、聖女として十数年、ロザリア様の名と共におりました、聖女の理に鑑みれば私はロザリア様の妹に相違ありません」
 その言葉に、アイオロスはようやく顔を上げた。類い希なる勇者アイオロスがまさか死後においてさえ、このような激情を抱いていた事実はその場にいた多くの者に衝撃を与えた。
 「あの男に、死の温情を与えてはならない。聖女がその身の喪失を伴う奇跡を願わなければならなかったのは、あの男の不誠実さが故であり、その腐りきった穢らわしい根性ゆえだ」
 「それを否定は致しませんが、それだけではないかと。ロザリア様は魔王討伐のまで聖女らしき修行の一切を行われませんでした。聖女であってもその資質を伴わなかったのです。恐らく剣聖がいたとしてもご自身の体の喪失を伴う奇跡を願われたかと」
 「あぁ、そうだね。だが、あれほど酷い姿にはならなかったはず」
 「残念ですが」
 アメリアはそっとレリーフの方へと視線を送る。何と安らかな死に顔なのか。
 そして素早く口にしたのは防音の呪文。
 「聖女の真実は貴方が思うよりも残酷なのです」
 真実を告げる事が今、道を過ち引き返す事さえできない貴方にしてあげられる事。
 「聖女がその身の喪失を伴う奇跡を願ったのなら、それは彼女の我欲による奇跡のため。私たち聖女には全てにおける公平さと善性が求められております。奇跡は我欲では起こせない。それでもそれを願えば当然、その身を差し出すしかありません」
 言われたアイオロスは固まり、ぎこちない仕草でレリーフへと視線を送った。
 「僕の聖女ロザリア。君は一体何の為にその身を差し出したんだ?」
 サラサラと、やがて砂のようにその存在が消えて行った。
 アイオロスの身が完全に消えるとアメリアはその顔に珍しく怒りを浮かべた。
 「勇者アイオロス。貴方の魂こそ私たち番狂わせの勇者たちの一勇、勇者になる筈だったのです。言ったはずです。私たちは何度も巡り会うのだと」

 勇者の魂は再び後の世で勇者となる。
 また聖女も然り。
 剣聖だったアドタイクスはその資格を失った為無事に現在、剣聖テオドロスがその任に当たっている。
 神の慈悲により、何度も輪廻を繰り返さなぬようその魂が複数存在しても、一人欠ければその負担は何処かにかかるのだ。
 (本当に困った方。神々を悩ませていた原因が己だと気付かないなんて)

 神に最も愛された勇者。
 それ故に神ですら、かの存在に何かを強制する事ができなかった。 
 アメリアが勇者と聖女の二勇を兼任する事になった責任は、神と勇者アイオロスにこそあったのだ。



 コメント
 
 アメリアにはこの事実を誰にも打ち明けるつもりはありません。
 神と勇者アイオロスに対して冒涜的な意見が議論される恐れがあるからです。
 そんな事があっては一大事!天罰が下るし、天災が起こる。
 神々の最愛の寵児、それが勇者アイオロスなので彼を悪く言おうものならば、老若男女の一切関係なく、天罰必至。
 故に、アメリアもまた過去の聖女達と同様に沈黙を守ります。この事は聖女の真実ゆえ、聖女達は皆この事実を知る事になります。それでも彼女たちは聖女ロザリアを母として崇拝しているのです。
 ・・・いい子たちだな・・・



 おかしい・・・何だか勇者アイオロス様はまるで地縛霊みたいな感じに。
 ほら、暗い過去話繰り出してるし、何ならポルターガイストみたいな現象まで、空気震わせ、地を揺らしているし(笑)
 そしてそれを鮮やかに除霊する大聖女アメリアの図になってしまった気が(ひそっ)

 何でこうなったし?


 次回は勇者アイオロス様の番外編。
 暗いお話です。(またこれ💦)









 





 


 
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