かつて愛した世界の片隅で ~世界を救済した勇者の後日~

月宮 ゆら

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宴会 ~大聖女の料理を召しませ~

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 葡萄が大好きです。


 「「「・・・・・・」」」
 死んだような目をそっと逸らすテオドロス。言葉もなく、笑顔のまま顔が固まったその弟カエサリオンと彼らの父王。
 「聖女様の料理は葡萄を必ず用いると耳にしておりましたが、これは」
 施政者としての長年の鍛錬(元は亡国の王なので、どうぞ察してあげて下さい。涙なくして語れないほどのご苦労をされておいでなのです!)の賜物か復活が早かったのはジディンクス国王だ。
 「く、果物多いんですね!」
 苦しまみれの一言を口にしたのはカエサリオン。口元が僅かに引き攣っている。
 というより、テーブルを埋める料理には肉も魚もない。野菜と果物中心の料理だ。
 「はい!聖女の料理なので!」
 すでに席についている賢者テレス・ムィートからは何やら悟りを開いた超越した無を感じた。
 ((無!!な、なるほど!))
 二人の王族は賢者から学んだ。
 そこで自らの身内から学ばなかったのは彼らがテオドロスをよく知っていたためだ。
 林檎とサツマイモを煮た料理。
 林檎、梨、レタスに白いドレッシングがかけられている。
 サツマイモとカボチャの煮物。
 林檎をバターで焼いた物。
 極めつけが干しぶどうそのものとしか思えない、蒸しパン。

 共通してすべてに干しぶどうが使われている。給仕をしている者達の顔も蒼白だ。
 ((思わぬ聖女様の欠点だ))
 欠点と言葉にするのは不敬である。
 勿論、絶対に口に出来ない。
 天罰必至だからだ。
 「ホッホッ、さてはて陛下。どうぞお席に。聖女の料理は出されたならば全て食べるのが礼儀ですぞ」
 ((な、何と!))
 「甘い物がお好きなんですね」
 「砂糖が貴重なため、砂糖なしの料理ばかりですわ」
 砂糖は使ってないのか。
 若干、親子に安堵が走った。
 たが、彼らの傍にいたテオドロスはフッ、と悲しい笑みを浮かべた。
 「甘いですよ、十分に。誰が料理したと思うのです。彼女の料理は祝福されているので極上の甘味です。それに砂糖は使ってませんが蜂蜜は使用してます。それも極上の物で、聖なる蓮から採取された物。熊サイズの白蜜蜂が恐ろしい羽音立てて献上しに来た時は、正直生きた心地すらしませんでした」
 言っているテオドロスの顔は最早諦めに近い表情さえある。
 「肉も魚も聖女は食せません」
 「えぇ、聖女である私にそれが許されたのは七歳まででした。父母はもう一生肉を食べられない私の為に七歳の誕生日に、家に数羽しかいなかった雄鶏を潰してご馳走を作ってくれました。ですので、私にはもうそれに勝るご馳走は存在しないのです。両親か亡くなって後は、どちらも色さえ分からなくなりました。見えなくなったのです。恐らく一生、見えないままなのでしょう」
 ((何とむごい))
 そして、彼らは粛々とテーブルについた。
 尚。
 テーブル上の料理は全て平らげられた。
 聖女を除く全員の顔には、成し遂げた、という明らかな達成感が漂っていた。
 「おいしゅうございました」
 涼しい顔で臆面もなくこう言い切った賢者テレス・ムィートに王族二人が心底、敬服の視線を送った。


 後日。
 超ドでかい熊サイズの白蜜蜂が凶暴な羽音を立てながら、巨大な自身の蜜蜂の巣を持って聖女の庭に移住(!)して来た時、ジディンクス国の民達は、震え上がって自宅からこっそり覗き見ていた。

 聖女の庭にいる神獣たちは、決して優美で無害な幻想の生き物などではない。
 どの神獣も聖女に仇なす者全てを葬り去るためだけにそこにいるのだ。
 勇者でなくなり、その加護を喪った大聖女は神獣達の庇護の元、平穏に暮らしている。



 コメント

 暗い話が続いたので息抜きにと書いたのですが、やはり暗い話になりました。
 聖女の料理として登場したのは、実際の料理。但し、レーズンは入ってません。
 カボチャとサツマイモの料理はいとこ煮です。サツマイモと林檎を煮た料理には特に名前がありません。蜂蜜を使用し、風味付けにレモン汁を少々。風邪引いた時などに作って食べます。
 作者は林檎も好きで、これはいつも林檎大目にたっぷり作ります。
 林檎と梨と書きましたが、実際は林檎、柿、レタス、キュウリ、レーズン。この風変わりなフルーツサラダは秋だけしか食べられない。シーザードレッシングが妙に良く合います。
 林檎にバターと砂糖で煮る、というかフライパンで焼くが正しい表現なのか。
おいしいですよね。大好きです。
 最後にレーズンパン。これは現在、販売されているヤマザ○のレーズンパンが参考。
 トー○トの某お菓子とのコラボ。
 レーズンぎっちり!(笑)
 きっと、レーズンを愛してやまない聖女たちを魅了する事、請け合いです!
 因みに。
 作者もレーズンラブです。
 先日、ドライカレーの為に購入したレーズン一袋をその日の内に完食してしまいました。ついつい。(苦笑)

 そして、おめでとう!
 カエサリオン。
 君の名前は勿論!カエサルと女王クレオパトラの息子から取りました。
 ところで女王クレオパトラですが、彼女は七世。プトレマイオス王朝には他にもクレオパトラの名がつく王女がいます。鼻が~という逸話が残っておりますが、それほどの美女でなかった説の方が今は有力ですね。
 どちらか言うと話上手の才女だったと。









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