24 / 27
宴会 ~大聖女の料理を召しませ~
しおりを挟む葡萄が大好きです。
「「「・・・・・・」」」
死んだような目をそっと逸らすテオドロス。言葉もなく、笑顔のまま顔が固まったその弟カエサリオンと彼らの父王。
「聖女様の料理は葡萄を必ず用いると耳にしておりましたが、これは」
施政者としての長年の鍛錬(元は亡国の王なので、どうぞ察してあげて下さい。涙なくして語れないほどのご苦労をされておいでなのです!)の賜物か復活が早かったのはジディンクス国王だ。
「く、果物多いんですね!」
苦しまみれの一言を口にしたのはカエサリオン。口元が僅かに引き攣っている。
というより、テーブルを埋める料理には肉も魚もない。野菜と果物中心の料理だ。
「はい!聖女の料理なので!」
すでに席についている賢者テレス・ムィートからは何やら悟りを開いた超越した無を感じた。
((無!!な、なるほど!))
二人の王族は賢者から学んだ。
そこで自らの身内から学ばなかったのは彼らがテオドロスをよく知っていたためだ。
林檎とサツマイモを煮た料理。
林檎、梨、レタスに白いドレッシングがかけられている。
サツマイモとカボチャの煮物。
林檎をバターで焼いた物。
極めつけが干しぶどうそのものとしか思えない、蒸しパン。
共通してすべてに干しぶどうが使われている。給仕をしている者達の顔も蒼白だ。
((思わぬ聖女様の欠点だ))
欠点と言葉にするのは不敬である。
勿論、絶対に口に出来ない。
天罰必至だからだ。
「ホッホッ、さてはて陛下。どうぞお席に。聖女の料理は出されたならば全て食べるのが礼儀ですぞ」
((な、何と!))
「甘い物がお好きなんですね」
「砂糖が貴重なため、砂糖なしの料理ばかりですわ」
砂糖は使ってないのか。
若干、親子に安堵が走った。
たが、彼らの傍にいたテオドロスはフッ、と悲しい笑みを浮かべた。
「甘いですよ、十分に。誰が料理したと思うのです。彼女の料理は祝福されているので極上の甘味です。それに砂糖は使ってませんが蜂蜜は使用してます。それも極上の物で、聖なる蓮から採取された物。熊サイズの白蜜蜂が恐ろしい羽音立てて献上しに来た時は、正直生きた心地すらしませんでした」
言っているテオドロスの顔は最早諦めに近い表情さえある。
「肉も魚も聖女は食せません」
「えぇ、聖女である私にそれが許されたのは七歳まででした。父母はもう一生肉を食べられない私の為に七歳の誕生日に、家に数羽しかいなかった雄鶏を潰してご馳走を作ってくれました。ですので、私にはもうそれに勝るご馳走は存在しないのです。両親か亡くなって後は、どちらも色さえ分からなくなりました。見えなくなったのです。恐らく一生、見えないままなのでしょう」
((何とむごい))
そして、彼らは粛々とテーブルについた。
尚。
テーブル上の料理は全て平らげられた。
聖女を除く全員の顔には、成し遂げた、という明らかな達成感が漂っていた。
「おいしゅうございました」
涼しい顔で臆面もなくこう言い切った賢者テレス・ムィートに王族二人が心底、敬服の視線を送った。
後日。
超ドでかい熊サイズの白蜜蜂が凶暴な羽音を立てながら、巨大な自身の蜜蜂の巣を持って聖女の庭に移住(!)して来た時、ジディンクス国の民達は、震え上がって自宅からこっそり覗き見ていた。
聖女の庭にいる神獣たちは、決して優美で無害な幻想の生き物などではない。
どの神獣も聖女に仇なす者全てを葬り去るためだけにそこにいるのだ。
勇者でなくなり、その加護を喪った大聖女は神獣達の庇護の元、平穏に暮らしている。
コメント
暗い話が続いたので息抜きにと書いたのですが、やはり暗い話になりました。
聖女の料理として登場したのは、実際の料理。但し、レーズンは入ってません。
カボチャとサツマイモの料理はいとこ煮です。サツマイモと林檎を煮た料理には特に名前がありません。蜂蜜を使用し、風味付けにレモン汁を少々。風邪引いた時などに作って食べます。
作者は林檎も好きで、これはいつも林檎大目にたっぷり作ります。
林檎と梨と書きましたが、実際は林檎、柿、レタス、キュウリ、レーズン。この風変わりなフルーツサラダは秋だけしか食べられない。シーザードレッシングが妙に良く合います。
林檎にバターと砂糖で煮る、というかフライパンで焼くが正しい表現なのか。
おいしいですよね。大好きです。
最後にレーズンパン。これは現在、販売されているヤマザ○のレーズンパンが参考。
トー○トの某お菓子とのコラボ。
レーズンぎっちり!(笑)
きっと、レーズンを愛してやまない聖女たちを魅了する事、請け合いです!
因みに。
作者もレーズンラブです。
先日、ドライカレーの為に購入したレーズン一袋をその日の内に完食してしまいました。ついつい。(苦笑)
そして、おめでとう!
カエサリオン。
君の名前は勿論!カエサルと女王クレオパトラの息子から取りました。
ところで女王クレオパトラですが、彼女は七世。プトレマイオス王朝には他にもクレオパトラの名がつく王女がいます。鼻が~という逸話が残っておりますが、それほどの美女でなかった説の方が今は有力ですね。
どちらか言うと話上手の才女だったと。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

RD令嬢のまかないごはん
雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。
都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。
そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。
相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。
彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。
礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。
「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」
元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。
大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる