18 / 27
慰問 ~聖女の再訪~
しおりを挟む幸せの定義とは、必ずしも万民にとっての正解とは言えない。
剣聖と決別した勇者達が眠る礼拝堂はもう残っていない。
ただその跡地にレリーフが刻まれている。
聖女ロザリアを安置し、そのままその場で事切れた勇者アイオロスの姿が刻まれたものである。これが神の御業である、という伝承もある。真実確かな事はこの地が未だに不可侵の領域である事。
人も魔物も一切を拒む場所だと言う事。
それは間違いなく、神の警鐘でもある。
魔王討伐以外で彼らの眠るこの場所を訪れた勇者達はいない。
いや、それは何も勇者達だけではない。世界の誰も、この非業な運命を辿った勇者達の眠りを必要以上に妨げる事を避ける。
レリーフの前は様々な花が捧げられている。過去、この場所を訪ねた聖女達の象徴物である聖なる花々だ。
これらは枯れる事無く、咲き続くている。聖女が起こす奇跡の一端でもある。
聖女ロザリアは聖女の中でも特別な存在だ。彼女はその数奇な運命ゆえに、死後に象徴物が二つに増えた、ただ一人の聖女だ。
生まれもった象徴物は白薔薇。
死後、神によって選ばれた象徴物は葡萄。
聖女ロザリアは葡萄園を営む両親の元に生まれた娘だった。
彼女の死後、葡萄は聖女の料理として必ず使われる事になり、聖女達が最も好む果物となったのである。
この日。
聖女アメリアローズは剣聖テオドロスに願い、再びこの地を訪れた。
勇者の資格を喪った彼女がこの場所に赴く事を最初、テオドロスは反対した。
だが、聖女アメリアローズにはこの剣聖と決別した勇者達の一勇である聖女ロザリアから洗礼名を貰った浅からぬ縁がある。
魔王領を脱出する際は、魔王の首を取り戻さんとする魔物達の死に物狂いとしか言いようのない執拗な猛攻を受けたため、立ち寄る余裕などなかった。
特に望むものもなかった、滅多にない聖女の願いに、ジディンクス王は直ちに賢者に書簡を送り、速やかに自国兵士らを纏め上げた。聖女達の旅に同行させるためである。テオドロスはその間も諦め悪く、聖女を説得しようとした。
剣聖であるテオドロスはこの地との相性が最悪だ。何しろ彼の地で眠る勇者達は他ならぬ剣聖と決別している。
テオドロスには何ら罪はないのだが、彼は剣聖である、というだけでこの場所に近寄るだけで背筋が凍り、膝が笑い、体中から力が抜けるなど殆ど人事不省の憂き目にあう。剣聖と決別した勇者達の拒絶によって。
よって。
全力で行きたくなかった。
「まぁ、賢者テレス・ムィート!」
「ほっほっほっ!向かう先が先ですので参りましたとも!彼の地ではテオドロスは役に立ちませぬゆえ」
「じいさん!何、オレに責任あるみてぇな言い方してんだよ!あんな、オレだって不本意なんだよ!自分の意志でどうにかこうにか出来るんなら、最初からアメリアを説得しようとしてねぇよ!」
「じゃぁかぁらぁ、こうして儂が来たのじゃろうて!剣聖と決別した勇者達を悪し様に言うてはならぬぞ!」
「ひとっことも!言ってねぇよ!!」
「態度がそう言っておるのじゃ!」
魔王討伐の旅路ではお馴染みだった二人の掛け合いに聖女アメリアローズは微笑みを浮かべた。
光に照らされ浮き彫りとなったレリーフ。
眠る聖女の顔は、あどけなさを感じるほどに安らかなものだ。
ーローズ様、アメリアが参りましたー
コメント
聖女ロザリア(ローズ)は白薔薇(オールドローズ)を象徴物とする聖女です。
イタリアなどでは花嫁の花冠として使われる事もある薔薇で、薔薇の一般的な姿でなく野の花の如き清楚な見た目です。
個人的に作者はこの花を特に愛しておりますが、日本では一般的に赤いオールドローズを良く見かけますね。薔薇の原型で野ばらと同じく生命力が強く、育てやすいのが人気の理由でしょうか。
葡萄園に生まれた彼女は他の聖女達よりは幾分、裕福な家庭で生まれ育ちました。
この為、死後の象徴物が葡萄になりました。また果実を象徴物とするのも聖女ロザリアだけです。因みに勿論、白葡萄。
白葡萄の干しぶどうもありますね。食べ比べてみると味が違います。
ロザリアは聖女であったのに、魔王討伐に至るまで凡そ聖職らしい事もしていません。
これはこの当時、神殿がまともに機能していなかった、などの事情があります。
それでも聖女としての資質はあり、(というよりもそれしかない)魔王討伐の旅に向かう事になったのです。
聖女ロザリアの悲運はこの時、確定していた、と言っても過言ではないでしょう。
因みに。
ロザリアが葡萄園に生まれた背景があったため、ゴージャスで一般的な白薔薇の姿がどうしてもしっくり来なかったので同じ白薔薇でもオールドローズなら、と象徴物が決定しました。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

RD令嬢のまかないごはん
雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。
都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。
そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。
相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。
彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。
礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。
「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」
元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。
大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる