かつて愛した世界の片隅で ~世界を救済した勇者の後日~

月宮 ゆら

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番外編 有罪 ~許されざる罪~

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 ただ運命に逆らっただけだった。


 「どうして」
 鬼のような形相の父への問いは、果たして声になっていただろうか?
 床に投げだされた哀れな娘の体を母が狂ったように蹴りつけている。
 「この、売女め!!よくも息子を!」
 母を止めたくても、もう体が、声さえ出ない、視界の隅で弟が薄く笑うのが見えた。
 ー 嵌められた ー
 「死ね!一族の面汚しめ!そうでもなければ城上家に申し開きできん!!」
 「こんな真似を聞いたら菖蒲様は」
 「夫を寝取られた女の選択肢など一つですよ!あぁ、もう!あちら様に顔向けできやしない!この泥棒猫めが!折角の良縁を、よくもまあ!この!この!」
 「城上家の菖蒲姫に一体何の不満があったのやら、ねぇ?兄さん」
 この、腹黒め!!
 自分を散々おだてて、こんな真似するように誘導しておいて、何て弟なんだ!

 ー 菖蒲 ー

 すまない。ほんの軽い遊びのつもりだったんだ。君を裏切るつもりなんて微塵もなかったんだ!

 薄れゆく意識の中で何ら非のない婚約者まで巻き込んでしまう罪の意識に呑まれた。



 何という悪夢なのか。

 神とはこのように残酷な仕打ちをする存在だったのか。

 折角、転生したというのに現世において何百年と生き永らえる罰を受けた。
 仕方ない。
 前世だけならばまだしも、現世においてまで過ちを犯してしまったのだ。
 だが。
 神よ!何も、何の罪のない前世の婚約者までこんな非道な魔王討伐に巻き込まなくてもよいのではないのか?!

 現世も、今代の勇者達一行から向けられる視線に好意は一切ない。特に周囲に混合されるという実害まで被る現剣聖の拒絶ぶりは凄まじい。
 自分一人ならば必ず石礫が投げつけられ、生ゴミを放られ決して歓迎されないものを、今代の勇者達と一緒となれぱそれらは鳴りを潜める。
 「アレと一緒とかねぇから!」
 あぁ!気色悪ぃ、気分最悪だわ!と喚きながら、剣聖はしっかり聖女の背後に陣取り、決して己を近づかせようとはしない。額に刻まれた神の反逆者の入れ墨は、容赦情けなく激痛を与え、行動不能にする。
 「ホレ!そこまでじゃ」
 うっかり、前世の話まで漏らしてしまい、裏切った相手が聖女の前世の疑いがある、などと告げた途端、賢者も氷のような態度に変わった。
 「お主があの尊いお方のお側にいるなど本来、言語道断なのじゃ!全く!魔王領の道案内さえなければこの場で縊り殺し、聖女の身辺の安寧を守護できたものを」
 ブルブルと怒りに震える賢者に、周囲の温度は氷点下だ。
 「この阿呆がまかり間違って勇者にして聖女たるアメリアローズ様に何ぞ害でも成したら一大事。各々方、努々油断なされるな」
 
 結果。縛り上げられた。
 「芋虫!ははは!こりゃいい!」
 聖女の眉は不快げに一瞬寄ったが剣聖はひどく可笑しいようで腹を抱えて笑った。
 「これが一番じゃて!」
 


 コメント
 馬鹿の見本、元剣聖の末路です。
 そして、何をどう勘違いしてるのか、自分のせいで菖蒲が勇者になった、とか自惚れていますが、全くの見当違いです。
 ただ単に菖蒲が勇者に相応しかっただけ。
 本当にイタい男です。

 前世のやらかしに関しては、まあ、実弟に嵌められた事を差し引いてもやってる事はやってます。妊娠が発覚し、相手の娘は即座にその場で殺されています。下男や下女の命など虫けら同然、という価値観のある時代ですので仕方がありません。
 この場合、非があるのは由美の方、だというのが世間の常識なのです。
 それから馬鹿が遊びのつもりだった、と言っているのは言い訳です。
 つまり、こいつはどうしようもないレベルの正真正銘の屑だ、という事です。

 そんな屑を話にするな?
 はい、すみません。ごめんなさい。
 これはこの先の番外編の伏線なので、どうしても(作者も不本意なんです)省く事ができなかったのです。不可抗力なんです。




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