15 / 27
番外編 有罪 ~許されざる罪~
しおりを挟むただ運命に逆らっただけだった。
「どうして」
鬼のような形相の父への問いは、果たして声になっていただろうか?
床に投げだされた哀れな娘の体を母が狂ったように蹴りつけている。
「この、売女め!!よくも息子を!」
母を止めたくても、もう体が、声さえ出ない、視界の隅で弟が薄く笑うのが見えた。
ー 嵌められた ー
「死ね!一族の面汚しめ!そうでもなければ城上家に申し開きできん!!」
「こんな真似を聞いたら菖蒲様は」
「夫を寝取られた女の選択肢など一つですよ!あぁ、もう!あちら様に顔向けできやしない!この泥棒猫めが!折角の良縁を、よくもまあ!この!この!」
「城上家の菖蒲姫に一体何の不満があったのやら、ねぇ?兄さん」
この、腹黒め!!
自分を散々おだてて、こんな真似するように誘導しておいて、何て弟なんだ!
ー 菖蒲 ー
すまない。ほんの軽い遊びのつもりだったんだ。君を裏切るつもりなんて微塵もなかったんだ!
薄れゆく意識の中で何ら非のない婚約者まで巻き込んでしまう罪の意識に呑まれた。
何という悪夢なのか。
神とはこのように残酷な仕打ちをする存在だったのか。
折角、転生したというのに現世において何百年と生き永らえる罰を受けた。
仕方ない。
前世だけならばまだしも、現世においてまで過ちを犯してしまったのだ。
だが。
神よ!何も、何の罪のない前世の婚約者までこんな非道な魔王討伐に巻き込まなくてもよいのではないのか?!
現世も、今代の勇者達一行から向けられる視線に好意は一切ない。特に周囲に混合されるという実害まで被る現剣聖の拒絶ぶりは凄まじい。
自分一人ならば必ず石礫が投げつけられ、生ゴミを放られ決して歓迎されないものを、今代の勇者達と一緒となれぱそれらは鳴りを潜める。
「アレと一緒とかねぇから!」
あぁ!気色悪ぃ、気分最悪だわ!と喚きながら、剣聖はしっかり聖女の背後に陣取り、決して己を近づかせようとはしない。額に刻まれた神の反逆者の入れ墨は、容赦情けなく激痛を与え、行動不能にする。
「ホレ!そこまでじゃ」
うっかり、前世の話まで漏らしてしまい、裏切った相手が聖女の前世の疑いがある、などと告げた途端、賢者も氷のような態度に変わった。
「お主があの尊いお方のお側にいるなど本来、言語道断なのじゃ!全く!魔王領の道案内さえなければこの場で縊り殺し、聖女の身辺の安寧を守護できたものを」
ブルブルと怒りに震える賢者に、周囲の温度は氷点下だ。
「この阿呆がまかり間違って勇者にして聖女たるアメリアローズ様に何ぞ害でも成したら一大事。各々方、努々油断なされるな」
結果。縛り上げられた。
「芋虫!ははは!こりゃいい!」
聖女の眉は不快げに一瞬寄ったが剣聖はひどく可笑しいようで腹を抱えて笑った。
「これが一番じゃて!」
コメント
馬鹿の見本、元剣聖の末路です。
そして、何をどう勘違いしてるのか、自分のせいで菖蒲が勇者になった、とか自惚れていますが、全くの見当違いです。
ただ単に菖蒲が勇者に相応しかっただけ。
本当にイタい男です。
前世のやらかしに関しては、まあ、実弟に嵌められた事を差し引いてもやってる事はやってます。妊娠が発覚し、相手の娘は即座にその場で殺されています。下男や下女の命など虫けら同然、という価値観のある時代ですので仕方がありません。
この場合、非があるのは由美の方、だというのが世間の常識なのです。
それから馬鹿が遊びのつもりだった、と言っているのは言い訳です。
つまり、こいつはどうしようもないレベルの正真正銘の屑だ、という事です。
そんな屑を話にするな?
はい、すみません。ごめんなさい。
これはこの先の番外編の伏線なので、どうしても(作者も不本意なんです)省く事ができなかったのです。不可抗力なんです。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

RD令嬢のまかないごはん
雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。
都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。
そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。
相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。
彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。
礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。
「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」
元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。
大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる