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勇者 ~それは幸せな答え~
しおりを挟む勇者になる、という事は、きっとこの世界を愛するという事なのです。
そして、その思いを抱き続けられるかどうかを、天から試される存在なのです。
まだ慣れない。
アメリアは甦ってから体の違和感や戸惑いを感じるたびに、思う事があった。
魔王討伐の旅路にあった頃の、灼熱にも似た強烈な使命感や心を充たしていた信念の正体が、まるで。
もう一人、別の誰かの人格があったかのようだった、と。
違和感はあっても嫌悪はなく。
戸惑いはあるが、どこかで懐かしくもあり、それはまるで、もう一人の自分自身のようでもあり、
そして共に生を受けた姉妹の如く。
「あれは、貴女だったのかしら?」
転生という事象が起きる時、前世の記憶というものは大抵、現世の人生の過程で失われていくものなのだという。
この過程を信じるならば、聖女アメリアローズこそ勇者との二足のわらじが最適な存在だった、と言える。
アメリアローズは聖女である。
神が祝福と共に彼女に与えた運命だ。
城上菖蒲は勇者となった。
アメリアローズの前世での人格は、アメリアローズが勇者の責務を背負った瞬間、その本来の気質そのままに、強烈なまでに悪を断じて怯まぬ、果断な武家の娘のまま現世に甦った。
その前世の記憶をもちながら、尚、世界と人々を愛する心を持つという事。
決して美しいばかりではない、この世界をそれでも慈しめる心を持つという事。
実は勇者とは、ただ単にこの二つの絶対的な要素を備えているか否かだけで選ばれてしまうほどに単純な存在でもあった。
勇者として漆黒の髪と黒真珠の瞳を携えていたが、これらは前世での城上菖蒲のそれと全く同じく。
今世の勇者の姿こそ、この城上菖蒲その人の姿に他ならなかったのだ。
彼女の使命は魔王を討ち滅ぼす事。
そして。
彼女の願いは。
「上手そうだろ?」
「わざわざ届けてくれなくても」
「上手いものは一人で食べるより、二人で食べたほうがより上手い!」
仲睦まじい様子で肩を寄せ合う二人の姿にこそ答えがある。
それは。
彼女の我が儘な願い。
『生まれ変わりがもしもあるのなら。神様、どうかお願いです。わたくしの一生は決して不幸でなかったかわりに、不運に見舞われ、こうして死ななければならない。なれど今度生まれ変わるのなら、どうかわたくしを決して裏切らず、共に生き、共に死んでくださるような殿方に巡り会い、互いに信頼し合い結ばれ、永遠に幸せに暮らせますように』
かつて。
彼女が愛した世界の片隅で。
勇者に選ばれるに相応しい程、果断な娘が、ひっそりと儚く命を落とした時に、心から願った祈りは、聖女の庭を囲む神獣達に見守られ、穏やかに暮らす聖女の姿に投影されて、融合した。
そう。
ようやく、城上菖蒲の願いは時間も世界をも跳躍した形で成就したのだ。
コメント
城上菖蒲は、初めから勇者としての役割を与えるために誕生させました。
彼女は作者の伯母が原型。大正時代生まれの正真正銘のハイカラさん。
ハイカラさんというと、某紅○さんが連想されがちですが、伯母はオールマイティ。
家事なんでもござれ!の万能ウーマン。
お洋服だって自分で型を作り、裁断、縫合してしまうし、サラッとフランス料理を拵えるようなお方でした。
(とても美しいコンソメのジェレ。昭和の頃、まだフランス料理なんてお高いレストランでしか、の時代に出され、食べ方すら?のついた幼い作者は苦笑した伯母に笑顔でスプーンで食べていい、と言われてますます困惑し、見かねた亡き母に取り皿にとってもらいました)
近年、連れ合いだった伯父が亡くなり、遺影をと飾った写真は、伯母が自分で縫った洋服で伯父と撮った写真。
懐かしさと慕わしい想いが去来し、この作品の原型が形を成したのです。
※次回から微ざまぁ回です。
ただ、胸クソ展開注意ですので、あしからず。苦手な方はここで終了して下さい。
本編は番外編を挟んで再開します。
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