6 / 27
邂逅 ~この剣を献げる~
しおりを挟む美しい女は数多に、星の数ほどにいる。
だが、目の前にいるこの女が、ただの女と同列に語る事も比較する事も出来ない存在である事を理屈抜きで悟った。
この身を、この命を献げるに相応しい神の加護を受けたこの世でただ一人の女。
前代未聞な事に勇者と聖女を掛け持つ異色の存在。
そんな女に必要とされる、望外の喜び。
「この剣を勇者のために献げる。この一振りを聖女のために献げる。我が剣は我らの行く手を遮る悪を薙ぎはらい、必ずや宿願を果たさん」
格式ばった儀式は苦手だが剣聖に選ばれた時にこの儀式形式を叩き込まれた。
曰く、剣聖は勇者の剣であり、聖女の盾である。のだとか。
「まっ、早い話があんたを守ればいいって事だろ?」
矛先を向けた女は、ゆっくりとこちらに目を向けた。何という強い眼差しなのか。
宝玉よりも尚美しい、黒曜石の瞳。濡れたような光沢を持つ黒髪。
この世で勇者のみが纏う色彩。
白い顔は笑顔一つで容易に国を滅ぼすだろう容貌。微かに赤い唇は笑み一つなくてもその魅力を損なわせない。
「まず己を守りなさい。私は己の身を守る位なら造作もない」
己が弱者である事を許されない存在、それが勇者だもんなぁ。
たがよぉ、オレも剣聖に選ばれた以上、やる事はやらなきゃなんねぇ訳でな。
「まぁまぁ、そう肩に力入れすぎず気負わずにやろうぜ?魔王討伐なんて簡単に済む訳ねぇし、長い道のりになるんだからよ。互いに助け合うためじゃなきゃ、神だってオレらを選ばれた訳がねぇ」
「剣聖。そうですね。貴方の言う通りです。幾ら神の加護を得たにしても所詮私も人間。完全無欠とは行きません。助け合うために貴方が、そして賢者が選ばれるのでしょう。真理を悟っているのね」
おい、今明らかに見直しやがったな?
んで、何か?名前すら呼ぶ気ねぇのか?
「テオドロスだ、そう呼んでくれ」
「テオドロスですか。古代の識者の名前ですね。流石に滅んだとは言え、一国の王子。素晴らしい名前です。私はアメリア、聖女になった時にアメリアローズと洗礼名を授かりました」
あぁ、確か聖女の本質を魔王の魔の手から守護するためだったっけ?
ホントに意味あんのかね?
まぁ・・・名付けた連中の正直な感想が滲んだ名前だよな。
確か象徴物が夏椿、沙羅の花だっけ?
あぁ、なるほど。
清楚な神の花のあの姿こそ、この聖女の本質そのものなのかも知れない。
だがそういやぁ。勇者は選出される際に生まれ持った色彩から黒色へと変貌し、生涯二度と戻らないと聞くが。
果たして我が聖女様は一体どの色をもって生まれたのやら。
実に興味深いじゃねぇか。
コメント
剣聖はお笑い、ツッコミ担当です。(笑)
いや、ただ単に根が単純で素直なだけなんですが。凡そ王族らしくありませんが、彼は出生時、いずれ栄光を掴む光の化身と予言されている、傑出した王子なのです。
※大変残念な事に、「本来は」という但し書きがつくところが何とも。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

RD令嬢のまかないごはん
雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。
都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。
そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。
相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。
彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。
礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。
「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」
元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。
大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる