かつて愛した世界の片隅で ~世界を救済した勇者の後日~

月宮 ゆら

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回顧 ~賢者~

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 初めは私とテオドロスしかいなかった。

 「なるようになれって事か、これ?」
 「なるようになるのでしょうかねぇ」

 今回の魔王討伐は番狂わせが多かった。まず、私の存在そのものが番狂わせで、天の四職を二つ兼任する存在が現れた事は有史開闢以来の慶事であった。
 私は勿論、これが慶事などではない事を知っていた。
 だが、馬鹿正直にそれを周囲に打ち明ける気もなかった。
 当然、私への期待は高くなり早い話、どこの国も私が勇者に選出された時点で後の栄誉やら手にする報償、魔王が蓄えている金銀財宝に目がくらみ、魔王討伐に参加したいという申し出が殺到した。

 実力なき者、ただ去るべし。

 この一つの真理に基づいて選出しようとした所、誰も残らなかった。これには流石に腹が立ち、
 「魔王討伐は遊びではない!覚悟も力もなく志願するなど、言語道断!我らの行く手を阻む者、即ち人類の敵も同然ぞ!」
 と説法する羽目になった。

 全くもって度し難い。

 この馬鹿げた騒動の中で唯一の救いは、賢者テレス・ムィートと出会えた事だ。
 矍鑠とした老人で齢80を越えてはいるが、実に賢者らしく古今東西の歴史や文化に詳しく、彼と出会えた事は私の生涯に渡る祝福であろう、と確信を抱かせた。
 この時点でこれ以上、魔王討伐のために人員を集める必要がなくなった。
 
 「神の啓示は示されたり!我ら集いし三名は只今より魔王討伐の旅路に赴かん!」

 こうして。
 魔王討伐の旅路は始まった。




 さて本来、魔王討伐は四職が揃う必要があった。そう。私は元々聖女としてのみ参加する予定だったのだ。

 それは、当然の事だが討伐の旅路を困難にし、その旅程を長引かせるという結果になった。

 「うむ。やはり天の四職が揃わねばただでなくても容易ならざる討伐が長引く結果となる訳ですな」
 「相応しい存在がいないのだから仕方あるまい。まぁ、兼任ゆえ私にも至らぬ所が諸々露わになっている」
 「ま、実力もないのが勇者になるよかマシだな。しかし、あの志願者共。本気で何考えてたんだろうな」
 それを聞いたテレスは「ホホホホ」と食えない感じの笑い声を上げた。
 「そこはホレ、我らが勇者殿はこの様に薔薇の花の如き美貌の持ち主。あわよくばその婿に、と志願した所で少しも可笑しい事はあるまい。むしろ自然な事じゃ」
 テオドロスは顔を顰めた挙げ句に、
 「馬鹿だな。そらつける薬ねぇわ。自分よりずっと強い女に弱っちい癖に一丁前に求婚?馬鹿の見本にでもなりてぇの?」
 と鼻で笑った。

 賢者テレス・ムィートの願いは学問の都ペレスウィーナへの永住であった。
 死ぬ時は素晴らしい本たちに囲まれて死にたい、と願われた私は、
 「神の名の下に。我が友情と親愛に誓って、貴方の願いを叶えて差し上げます」
 と少しだけ寂しい気持ちを抱きつつも、そう約束を交わした。


 訂正報告

 10月18日。文中、イレギュラーを番狂わせ、と表現を変えました。

 また、誤字脱字はなるべく今後も訂正していきますので、どうぞよろしく。




 
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