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第一話 勇者と魔王と入学
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「アイリス・オリヴィエです。よろしくお願いします」
花々が咲き誇り、多くの人間の新生活が始まる晴れ晴れしい春。俺はそんな季節を普通の男子と同じように学校で迎えていた。
しかし普通の男子とは違う点があった。俺が今立っているこの学校は女学校であり、桂によって長い髪を靡かせ、スカートを履いていたのだ。そして季節とうってかわって、俺の心に晴れ晴れしさなどはなかった。
─────────────────────────────────────────
話はアランと話していたあの日まで遡る。
「魔王の娘だと……!?一体どういうことだ!?」
「どういうことも何もお前の次の任務の話だ」
「ますますわからんぞ。タチの悪い冗談はやめろ……!」
「……俺が魔王に関して冗談なんか言うかよ」
アランの言うことは尤もだった。魔王の強さを知っている者ならば、決してそれに関連したことを軽率に口にすることなどはない。
だがそれだけに俺は理解のできない現実に困惑をしていた。
「困惑をさせてしまったようで申し訳ございません勇者様。ですが私が先ほど言ったことは純然たる事実でございます」
「……だったら魔王の娘がこんなところまで何の用だ?」
「この度人間の学校に入学させていただきたいと思っております」
「は?」
アランの口からも少女が魔王の娘であると紹介されたことを踏まえても、耳を疑う言葉の連続だった。
魔王の娘が人間の領地に赴き勇者の前に姿を晒していることも勿論だったがそれ以上に理解ができなかったのは─────────────
「学校に入学するって言ったのか……?お前が……人間の……?」
「はい」
「何もかもがわからんが……何故それを俺に言う?」
「この度、勇者様には私の学校生活にお力添えを頂きたいと思っているのです。もっといえば勇者様に共に入学をしていただいた上でです」
「まるで意味が……いや、これは分かるか。……監視だな?」
「その通り。察しがいいじゃないか。だがそれは人間側、国王の利害だ」
「何?」
「私がこの度人間領に踏み入り、学校に入学するに当たって、我が父……魔王アレクシス・エルヴァリオは一つ条件を提示してきました。それが───」
「勇者アーサス・オリヴァー。あなたが共に入学をし、私の警護に当たってくださることにほかならないのです」
益々意味がわからなかった。こいつが魔王の血を引く魔族だと言うのならば、恐らく対抗できる人類は俺を始めとして一握りだ。
それは実際に勇者を幾度となく退けた魔王が一番分かっていることだろう。にも拘らず───
「俺が魔王の娘の警護だと……?あんたは自分で何を言っているのか分かっているのか?」
「はい。父の提示したこの条件が人類の皆様方にとってはこれ以上なく利することであるということは。国王様も二つ返事で御同意してくださりました」
「だったらなんで……」
「父と私にとってもそれがこれ以上なく利するところだったのです。利害の一致ならぬ利利の一致ですね。ふふっ」
「……いざとなった場合は俺はあんたを斬るってことだぞ」
大してうまくもないことをうまく言ってやったと言わんばかりにこちらの顔を伺いながら、次の言葉を待つ様子が何か癇に触ったので俺は気づかない振りをし、そう言った。
「ええ、勿論。そのいざは決して来ないと思いますが」
「そうかそうか。決まったか。流石勇者様、貴方にしか出来ない役割だと知るや否や乗り気とは不肖私めは感動の至りでございまするな」
忘れた頃にアランが茶々を入れてきて不愉快だったが、こちらも感情は表に出さないように努め無視を決め込んだ。
「アラン。先ほどお前は国王の利と言ったが、彼女が人間の学校に進学することは国王様が承知した上か?」
「ああそうだ。でなくてはまずここに彼女が一人でいることもない、ということくらいお前もわかっているだろう?無駄な質問をするな」
「このまま二種族間の戦争が長引き、戦火のみが増えていくことは国王も魔王も望まぬところだった。そんな中でこちらにとって都合のよすぎる条件を、魔王は提示してきた」
「魔族と人間は長い間決して相容れぬ関係であり、それ故に現在まで闘争の歴史が続いてきたと考えられている。そんな中で魔族の血が最も濃い魔王の直系の娘がもし人間の学校を何の滞りもなく卒業したとしたら両国にとって相当の衝撃だろう」
「長い歴史でこの試みができそうなのは、単に危険を省みない彼女の決意と、魔王の意思。そして聖剣に適合したお前が魔王からも指名されたということだ。これはお前にしかできない、俺たちの旅の最終目的地だ」
「俺にしか……できない……」
聖剣を引き抜いてから、自分の役割を信じるかのように魔族を殺し進んできた。それが平和に繋がると信じて……。
その果てがこうして突拍子のない形で実感が湧くとは夢にも思っていなかった。
そして俺にこの話を断る道理などは無かった。
「さてアーサス。言い忘れていたが今回お前が入学する学校は王国立リリーローザ高等術女学校だ」
「そうか。名門だな。リリーローザ……。は?」
この部屋にこの男が入ってからというものの、療養中の身体に衝撃が走る話の連続だったが、魔王の娘以上に理解が追い付かなかった。
「俺は何としてこの女の警護に当たると言ったっけ?」
「生徒だ」
「そうか。リリーローザの入学資格は?」
「一般教養は勿論。それに加え、高い魔術及び剣術等に対する理解。そして女であることだ」
「お前喧嘩を売っているのか?」
「お前身長はいくつだった?」
「……165だ」
「よし女だな。入学おめでとう」
数年連れ添った戦友は俺の地雷をピンポイントに踏み抜き、俺はまだ傷で痛む163cmの身体をベッドから跳ねさせ、殴りかかった。
花々が咲き誇り、多くの人間の新生活が始まる晴れ晴れしい春。俺はそんな季節を普通の男子と同じように学校で迎えていた。
しかし普通の男子とは違う点があった。俺が今立っているこの学校は女学校であり、桂によって長い髪を靡かせ、スカートを履いていたのだ。そして季節とうってかわって、俺の心に晴れ晴れしさなどはなかった。
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話はアランと話していたあの日まで遡る。
「魔王の娘だと……!?一体どういうことだ!?」
「どういうことも何もお前の次の任務の話だ」
「ますますわからんぞ。タチの悪い冗談はやめろ……!」
「……俺が魔王に関して冗談なんか言うかよ」
アランの言うことは尤もだった。魔王の強さを知っている者ならば、決してそれに関連したことを軽率に口にすることなどはない。
だがそれだけに俺は理解のできない現実に困惑をしていた。
「困惑をさせてしまったようで申し訳ございません勇者様。ですが私が先ほど言ったことは純然たる事実でございます」
「……だったら魔王の娘がこんなところまで何の用だ?」
「この度人間の学校に入学させていただきたいと思っております」
「は?」
アランの口からも少女が魔王の娘であると紹介されたことを踏まえても、耳を疑う言葉の連続だった。
魔王の娘が人間の領地に赴き勇者の前に姿を晒していることも勿論だったがそれ以上に理解ができなかったのは─────────────
「学校に入学するって言ったのか……?お前が……人間の……?」
「はい」
「何もかもがわからんが……何故それを俺に言う?」
「この度、勇者様には私の学校生活にお力添えを頂きたいと思っているのです。もっといえば勇者様に共に入学をしていただいた上でです」
「まるで意味が……いや、これは分かるか。……監視だな?」
「その通り。察しがいいじゃないか。だがそれは人間側、国王の利害だ」
「何?」
「私がこの度人間領に踏み入り、学校に入学するに当たって、我が父……魔王アレクシス・エルヴァリオは一つ条件を提示してきました。それが───」
「勇者アーサス・オリヴァー。あなたが共に入学をし、私の警護に当たってくださることにほかならないのです」
益々意味がわからなかった。こいつが魔王の血を引く魔族だと言うのならば、恐らく対抗できる人類は俺を始めとして一握りだ。
それは実際に勇者を幾度となく退けた魔王が一番分かっていることだろう。にも拘らず───
「俺が魔王の娘の警護だと……?あんたは自分で何を言っているのか分かっているのか?」
「はい。父の提示したこの条件が人類の皆様方にとってはこれ以上なく利することであるということは。国王様も二つ返事で御同意してくださりました」
「だったらなんで……」
「父と私にとってもそれがこれ以上なく利するところだったのです。利害の一致ならぬ利利の一致ですね。ふふっ」
「……いざとなった場合は俺はあんたを斬るってことだぞ」
大してうまくもないことをうまく言ってやったと言わんばかりにこちらの顔を伺いながら、次の言葉を待つ様子が何か癇に触ったので俺は気づかない振りをし、そう言った。
「ええ、勿論。そのいざは決して来ないと思いますが」
「そうかそうか。決まったか。流石勇者様、貴方にしか出来ない役割だと知るや否や乗り気とは不肖私めは感動の至りでございまするな」
忘れた頃にアランが茶々を入れてきて不愉快だったが、こちらも感情は表に出さないように努め無視を決め込んだ。
「アラン。先ほどお前は国王の利と言ったが、彼女が人間の学校に進学することは国王様が承知した上か?」
「ああそうだ。でなくてはまずここに彼女が一人でいることもない、ということくらいお前もわかっているだろう?無駄な質問をするな」
「このまま二種族間の戦争が長引き、戦火のみが増えていくことは国王も魔王も望まぬところだった。そんな中でこちらにとって都合のよすぎる条件を、魔王は提示してきた」
「魔族と人間は長い間決して相容れぬ関係であり、それ故に現在まで闘争の歴史が続いてきたと考えられている。そんな中で魔族の血が最も濃い魔王の直系の娘がもし人間の学校を何の滞りもなく卒業したとしたら両国にとって相当の衝撃だろう」
「長い歴史でこの試みができそうなのは、単に危険を省みない彼女の決意と、魔王の意思。そして聖剣に適合したお前が魔王からも指名されたということだ。これはお前にしかできない、俺たちの旅の最終目的地だ」
「俺にしか……できない……」
聖剣を引き抜いてから、自分の役割を信じるかのように魔族を殺し進んできた。それが平和に繋がると信じて……。
その果てがこうして突拍子のない形で実感が湧くとは夢にも思っていなかった。
そして俺にこの話を断る道理などは無かった。
「さてアーサス。言い忘れていたが今回お前が入学する学校は王国立リリーローザ高等術女学校だ」
「そうか。名門だな。リリーローザ……。は?」
この部屋にこの男が入ってからというものの、療養中の身体に衝撃が走る話の連続だったが、魔王の娘以上に理解が追い付かなかった。
「俺は何としてこの女の警護に当たると言ったっけ?」
「生徒だ」
「そうか。リリーローザの入学資格は?」
「一般教養は勿論。それに加え、高い魔術及び剣術等に対する理解。そして女であることだ」
「お前喧嘩を売っているのか?」
「お前身長はいくつだった?」
「……165だ」
「よし女だな。入学おめでとう」
数年連れ添った戦友は俺の地雷をピンポイントに踏み抜き、俺はまだ傷で痛む163cmの身体をベッドから跳ねさせ、殴りかかった。
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