せかぐるっ

天ぷら盛り

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第1幕~林の町にて、、先行く二人、雨揺らぎ騒林追うは一人と、また一人

世界は同じ時を、でも世界の一つ一つは、ほんの僅かな差異を、、

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 何処とも知れない湖だった。
 湖面の先は遠く、霧深い。
 見渡そうにも、対岸が霞みようもない程深い霧だ。
 湖面のほとりに、小さな小屋がある。
 近付く程、霧の深まる小さな小屋だった。
 庭の木机に椅子が設えてあるが、ここの主の影は見当たらない。
 それならと、小屋のドアを叩こうと近付いた。
 しかし、近付くにつれ、木目の綺麗な小屋の輪郭がぼやけた…と、錯覚しそうになる。
 小屋に手を叩きかけようと、伸ばした直後だった。
『客人かぇ?
見覚えのある風体なのだぇ?』
 声は湖面からだった。
 霧深い中に、白く立ち上がる何かが見える。
 赤い点が二つ。
 湖面からこちらを覗きみるが、はっきりとは見えない。
 遠近感の狂いそうな霧の中、それは比較する対象も無く分からないが、見上げるほどの高さから赤い点が覗いていた。
 返答を催促するように、白い何かは赤い点を細めている。
「見覚えあるって事は、、
分かるの?
、、僕はあんまり覚えてない」
『、、そろそろかと思っていたのだぇ?
そうさね、、
私もほとんど、忘れてしまったのさぇ、、』
 高みの赤い点は、言葉を続ける。
『、、今で何度目なのかぇ?
私は百まで数えたのだぇ
、、でも、それ以降は飽きたのさぇ
君と会うのも、そうさね、、
、、何度目なのかぇ?』
 この〈記憶の保持者〉は、自身より多くを覚えているのだろうか?
「僕は、十ぐらいまで、、
だったような、、
あ、君の事は覚えてるよ
前より、大きくなってる、たぶん?」
『それは、創世者の核があった頃の話だろうさぇ?
カケラである君と会ったのは、そうさね、、
、、三十ほどには、顔を見合わせただろうさぇ?』
「意外と多い、、
五回ぐらいかと思ってたよ?」
 この〈記憶の保持者〉は大当たりだったらしい。
 確実に自身よりも多く、今より以前の世界を覚えているようだった。
「、、それで、なんだけど、、
今回はどうなのか、って思って、、
僕より知っているであろう君に、、
聞かせて貰える?」
 赤い点はスッと細まり、しばしの沈黙が流れる。
 声は幾時か、考え込んでいるのか、赤い点を瞬かせていた。
『そうさね、、
まずは君の、君自身の覚えている事を、、
だろうさぇ?
そして、私自身の記憶の確かさを、、
確かめさせて欲しいのだぇ?』
「ありがとう、、
それなら、、
まず、僕から、、」
 こうして、湖の主との…今回に置ける長い付き合いが始まった。
 幾度、繰り返したのだろうか?
 全容を覚えている者など、まずもっていない。
 記憶の確かさを、確かめられる者など、そうは多くない。
 そんな者と再び会えた事に、確かな喜びを感じた。
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