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第2幕~林木の深きにて、、寝迷う老木、火翳して魔女は蒼海の故地へ、待つ人は海口に
つぶが大きくて美味いぜ…この甘酸っぱさがよ?
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護衛の依頼にも終わりが見え、夕刻。
中継所に戻ろうとした頃合いだ。
「んー、あれは、、
熊だな」
一行の先頭に立つ、ルルヒラが剣を構える。
「おう、ウキワグマか、、
久々に見たぜ
狩ってくかよ?」
シキョモンも同様、斧を片手にだ。
肥満の、見るからに億劫そうな【ウキワグマ】が木を背に座っている。
小腹がたるんだ胴の他は、ダンジョンの外界に見る熊と、それ程に違いは無い。
こちらに気付いたのか、小腹をプクー、っと膨らませ宙に浮き上がった。
そして、軽く口を開け、ゲップと共に吐き出されるのは、輪状に拡がる白い息吹だ。
ゆっくりと一行の方へ向かって、進む息吹。
「おい避けるぜ
あれに当たったら…」
一行は息吹の範囲の外へ飛びすさった。
「魔物が寄ってきやがるんだぜっ、、」
ルルヒラは息吹を迂回した。
そのまま、木の幹を足場に直角に跳ねる。
【ウキワグマ】に向かって跳び、剣を振り上げた格好だ。
しかし、宙浮く肥満は再びゲップし、手足をばたつかせながら、宙を噴出した。
「んー、意外に、、
速いな、しかし、、」
剣尖は届かず、プカプカ流れる肥満を横目に着地する。
肥満の流れる勢いはそれなりにあり、断続的に輪状の息吹を吹き出しては、遠ざかっていく。
シキョモンが斧を投げたが、当たらない。
そして、林立の間をバタバタ泳いでいき、肥満の姿は見えなくなった。
「逃がしちまったぜ…
夕飯にしようかと、思ったのによ、、」
「あー、済まんな、、
外してしまったな」
【ウキワグマ】は他の魔物を呼び寄せるゲップで、冒険者からは煙たがれつつも、その肥満の肉は柔らかく食べやすくて人気との事だった。
「魔物が寄ってくる前によ?
さっさと行こうぜ」
一行は帰りの道で荷車を引きながら、中継所に着いた。
中継所に残っていた木工職人の仕事は、それなりに進んでいて、簡単な木材置き場が建てられた他に、小屋数軒が並んでいた焼け跡は綺麗に馴らされ、また建て直すらしかった。
木材置き場に丸太を並べ、あとは帰るだけだ。
四方に柱のある屋根間へ、荷物を取りに向かった所だった。
つり目の少年が睨みを効かせている。
「おいっ!そこの白髪野郎めっ!俺と勝負しろっ!」
今朝方、他の組合員に連れられているのを見掛けた、見習い期間中らしいラキタ少年だった。
剣を構え、冒険者の標準的装備の外套を身に付けている。
「おい若白髪の旦那…
こいつ、どこの坊主よ?」
訝しげなシキョモン。
普通は、このダンジョン内に子供が入り込む事は余り歓迎されない。
「あー、この前、、
依頼で少しな?」
何やら、思い至ったらしい。
「おう、あれかよ?
孤児院の悪ガキ、っつう、、」
ラキタ少年に向き直った。
「おい坊主、、
それは子供が振り回すもんじゃないぜ?」
「うるせえっ!お前には聞いてねえっ!このくそハチマキめっ!」
この前と同様、威勢は衰えていないらしく…何処に隠してたのか、シキョモンに向かって小石を投げてきた。
ヒュン、といい音をたて、シキョモンの真横を通過する。
「次は当てるぞっ!分かったら、俺と勝負しろっ!この白髪野郎のくそ野郎めっ!」
「あー、いや、、
他の組合員は何処に行ったんだ?」
聞く所、【魔窟変】の地勢変化の調査に同行してるはずだ。
それらしい組合員の姿は無い。
「うるせえっ!いくぞっ!この野郎っ!」
剣を向けたまま突進してきた。
…と、思ったらルルヒラの脇を掠め、向き直ったラキタ少年だ。
「構えろっ!この野郎っ!勝負だって言ってるだろっ!」
「あー、いや、そうだな、、
今度にしないか?」
ラキタ少年は、その言を聞きつり目を怒らせた。
「ふざけやがってっ!もう、知らないぞっ!この白髪野郎めっ!」
言い、さっきと同じく、剣を向けた突進だ。
避ける。
歳の割に背が高いであろうラキタ少年だが、力任せに頼っているらしく、剣を突く際の鋭さも無いまま通過した。
向き直るラキタ少年の、剣の柄尻に足を伸ばし、爪先で小突いて終わりだった。
撥ねた剣を、拾ったのはシキョモンだ。
「おい、どうするよ?
危ない坊主だぜ…」
「あー、そうだな、、
シキョモン、、
剣を、、」
ラキタ少年の剣を受け取った。
「返せっ!それは俺のだぞっ!この白、、」
言い終わる前に手渡す。
一瞬、キョトンとしたラキタ少年だが、すぐ持ち直した。
「なんだよっ!やる気かっ!この野郎っ!」
「あー、持ち方がな?
例えば、そうだな、、
手をかけるように、だな、、」
脇から、ラキタ少年の手を示し、隣で剣を抜いた。
そして、見本に構える。
肘を引き、両足を開いて、剣尖は前方を指している。
「んー、これぐらいだな
突く時は、こっちの方がいいな」
ラキタ少年を脇見に言う。
「、、くそっ!やればいいんだなっ?!くそっ、、!こうっ、かよっ?!」
見真似で、同じような構えだ。
ただ、剣の持ち手はやや安定せず、剣尖がぶらつく。
「あー、片手をこう、、
添えてだな?
そして、、」
後ろに引いた足を踏み出し、突く。
一瞬、停滞した空気が遅れて流される。
添えた手は離され、剣尖から長く伸びるような立ち姿に、ラキタ少年はやや圧倒された。
多少の驚きを滲ませる少年の傍ら、シキョモンが声をかける。
「おい坊主、、
あんまり悪さしないんだぜ?
若白髪の旦那、、
そろそろ帰るぜ」
「あー、そうだな、、
そういえば、ラキタ、、?
他の組合員は?」
腰に吊るした鞘に剣をしまう。
「知らねえっ!置いてきたっ!あのくそ野郎めっ!」
どうやら、性懲りも無く冒険者ごっこの続きに勤しんでいたらしい。
「あー、そうなると、な、、
また、あの依頼か、、」
「おう、見た事あるぜ
葡萄パンが評判良くてよ?」
屋根間の荷物を手に、帰り支度だ。
以前、受けた孤児院の依頼がまた組合で発注されていないか、気になる所だった。
「んー、帰るか、、
ラキタも一緒に連れていくか、、」
「おう、その方がいいぜ
おい坊主、、
葡萄パン頼むからよ?」
ラキタ少年の頭を叩きながら、【杉林、中継】との立て札の方へ向かった。
「おいっ!勝手に決めるなっ!くそハチマキっ!」
罵声を飛ばしつつも、追う。
ラキタ少年も特に抵抗する事も無く、帰り支度の整った一行に加わった。
途中、【魔窟変】を調査中の組合員とも鉢合って、ラキタ少年が拳骨をくらっていたのは、当然の叱責だろう。
《林のフォリンズ》の町に着き、組合で報告を済ませてから宿に戻った。
中継所に戻ろうとした頃合いだ。
「んー、あれは、、
熊だな」
一行の先頭に立つ、ルルヒラが剣を構える。
「おう、ウキワグマか、、
久々に見たぜ
狩ってくかよ?」
シキョモンも同様、斧を片手にだ。
肥満の、見るからに億劫そうな【ウキワグマ】が木を背に座っている。
小腹がたるんだ胴の他は、ダンジョンの外界に見る熊と、それ程に違いは無い。
こちらに気付いたのか、小腹をプクー、っと膨らませ宙に浮き上がった。
そして、軽く口を開け、ゲップと共に吐き出されるのは、輪状に拡がる白い息吹だ。
ゆっくりと一行の方へ向かって、進む息吹。
「おい避けるぜ
あれに当たったら…」
一行は息吹の範囲の外へ飛びすさった。
「魔物が寄ってきやがるんだぜっ、、」
ルルヒラは息吹を迂回した。
そのまま、木の幹を足場に直角に跳ねる。
【ウキワグマ】に向かって跳び、剣を振り上げた格好だ。
しかし、宙浮く肥満は再びゲップし、手足をばたつかせながら、宙を噴出した。
「んー、意外に、、
速いな、しかし、、」
剣尖は届かず、プカプカ流れる肥満を横目に着地する。
肥満の流れる勢いはそれなりにあり、断続的に輪状の息吹を吹き出しては、遠ざかっていく。
シキョモンが斧を投げたが、当たらない。
そして、林立の間をバタバタ泳いでいき、肥満の姿は見えなくなった。
「逃がしちまったぜ…
夕飯にしようかと、思ったのによ、、」
「あー、済まんな、、
外してしまったな」
【ウキワグマ】は他の魔物を呼び寄せるゲップで、冒険者からは煙たがれつつも、その肥満の肉は柔らかく食べやすくて人気との事だった。
「魔物が寄ってくる前によ?
さっさと行こうぜ」
一行は帰りの道で荷車を引きながら、中継所に着いた。
中継所に残っていた木工職人の仕事は、それなりに進んでいて、簡単な木材置き場が建てられた他に、小屋数軒が並んでいた焼け跡は綺麗に馴らされ、また建て直すらしかった。
木材置き場に丸太を並べ、あとは帰るだけだ。
四方に柱のある屋根間へ、荷物を取りに向かった所だった。
つり目の少年が睨みを効かせている。
「おいっ!そこの白髪野郎めっ!俺と勝負しろっ!」
今朝方、他の組合員に連れられているのを見掛けた、見習い期間中らしいラキタ少年だった。
剣を構え、冒険者の標準的装備の外套を身に付けている。
「おい若白髪の旦那…
こいつ、どこの坊主よ?」
訝しげなシキョモン。
普通は、このダンジョン内に子供が入り込む事は余り歓迎されない。
「あー、この前、、
依頼で少しな?」
何やら、思い至ったらしい。
「おう、あれかよ?
孤児院の悪ガキ、っつう、、」
ラキタ少年に向き直った。
「おい坊主、、
それは子供が振り回すもんじゃないぜ?」
「うるせえっ!お前には聞いてねえっ!このくそハチマキめっ!」
この前と同様、威勢は衰えていないらしく…何処に隠してたのか、シキョモンに向かって小石を投げてきた。
ヒュン、といい音をたて、シキョモンの真横を通過する。
「次は当てるぞっ!分かったら、俺と勝負しろっ!この白髪野郎のくそ野郎めっ!」
「あー、いや、、
他の組合員は何処に行ったんだ?」
聞く所、【魔窟変】の地勢変化の調査に同行してるはずだ。
それらしい組合員の姿は無い。
「うるせえっ!いくぞっ!この野郎っ!」
剣を向けたまま突進してきた。
…と、思ったらルルヒラの脇を掠め、向き直ったラキタ少年だ。
「構えろっ!この野郎っ!勝負だって言ってるだろっ!」
「あー、いや、そうだな、、
今度にしないか?」
ラキタ少年は、その言を聞きつり目を怒らせた。
「ふざけやがってっ!もう、知らないぞっ!この白髪野郎めっ!」
言い、さっきと同じく、剣を向けた突進だ。
避ける。
歳の割に背が高いであろうラキタ少年だが、力任せに頼っているらしく、剣を突く際の鋭さも無いまま通過した。
向き直るラキタ少年の、剣の柄尻に足を伸ばし、爪先で小突いて終わりだった。
撥ねた剣を、拾ったのはシキョモンだ。
「おい、どうするよ?
危ない坊主だぜ…」
「あー、そうだな、、
シキョモン、、
剣を、、」
ラキタ少年の剣を受け取った。
「返せっ!それは俺のだぞっ!この白、、」
言い終わる前に手渡す。
一瞬、キョトンとしたラキタ少年だが、すぐ持ち直した。
「なんだよっ!やる気かっ!この野郎っ!」
「あー、持ち方がな?
例えば、そうだな、、
手をかけるように、だな、、」
脇から、ラキタ少年の手を示し、隣で剣を抜いた。
そして、見本に構える。
肘を引き、両足を開いて、剣尖は前方を指している。
「んー、これぐらいだな
突く時は、こっちの方がいいな」
ラキタ少年を脇見に言う。
「、、くそっ!やればいいんだなっ?!くそっ、、!こうっ、かよっ?!」
見真似で、同じような構えだ。
ただ、剣の持ち手はやや安定せず、剣尖がぶらつく。
「あー、片手をこう、、
添えてだな?
そして、、」
後ろに引いた足を踏み出し、突く。
一瞬、停滞した空気が遅れて流される。
添えた手は離され、剣尖から長く伸びるような立ち姿に、ラキタ少年はやや圧倒された。
多少の驚きを滲ませる少年の傍ら、シキョモンが声をかける。
「おい坊主、、
あんまり悪さしないんだぜ?
若白髪の旦那、、
そろそろ帰るぜ」
「あー、そうだな、、
そういえば、ラキタ、、?
他の組合員は?」
腰に吊るした鞘に剣をしまう。
「知らねえっ!置いてきたっ!あのくそ野郎めっ!」
どうやら、性懲りも無く冒険者ごっこの続きに勤しんでいたらしい。
「あー、そうなると、な、、
また、あの依頼か、、」
「おう、見た事あるぜ
葡萄パンが評判良くてよ?」
屋根間の荷物を手に、帰り支度だ。
以前、受けた孤児院の依頼がまた組合で発注されていないか、気になる所だった。
「んー、帰るか、、
ラキタも一緒に連れていくか、、」
「おう、その方がいいぜ
おい坊主、、
葡萄パン頼むからよ?」
ラキタ少年の頭を叩きながら、【杉林、中継】との立て札の方へ向かった。
「おいっ!勝手に決めるなっ!くそハチマキっ!」
罵声を飛ばしつつも、追う。
ラキタ少年も特に抵抗する事も無く、帰り支度の整った一行に加わった。
途中、【魔窟変】を調査中の組合員とも鉢合って、ラキタ少年が拳骨をくらっていたのは、当然の叱責だろう。
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