せかぐるっ

天ぷら盛り

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第2幕~林木の深きにて、、寝迷う老木、火翳して魔女は蒼海の故地へ、待つ人は海口に

あァ、そォいやァ、サクイヤァ?兄ィちゃんのなまくらァ、鍛ェ直すんだったァな?

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 林木の深まった杉林の中だ。
 立ち並ぶ林立の中に途中、開けた空間が広がっている。
【杉林、中継】と彫られた立て札は、ほんの数日前の火災で焦げつく事も無く、伐採業者の一行をいつものように迎えた。
【ベアハンド・マウンテン】の襲撃の犠牲者の遺体は既に片付けられたようで、死肉の焦げる異臭も雨に流された後だった。
 見れば、ほぼ全焼した小屋が数軒。
 その中に燃え残った小屋が一軒、焦げつきはあるものの焼け残っているようだ。
 既に中継所の再建は始められていたようで、四方の柱に屋根を被せただけの、簡単な屋根間が新たに建てられている。
 燃えた杉林の辺りだ。
 屋根間の中央には焚き火跡が残っている。
 伐採業者や木工職人達は、ここで食事を取っていたのか、天井から吊るされた大きな鍋がぶら下がっていた。
「今日は頼んだぜ、、
若白髪の旦那」
 木こり姿にハチマキを巻いた伐採業者の一人で、護衛の依頼主のシキョモンだ。
 彼の声がかかった先には若白髪の、外套を纏った冒険者らしい格好で、胴、腕、足だけの簡易な鎧を身に付けている、まだ若い男だ。
「あー、旦那か、、
そんな年齢でも無いんだけどな?」
 顔付きには若々しい張りがあるが、若白髪のせいか実年齢より老けて見えるらしい、ルルヒラだ。
「よく言うぜ…
あんな美人さん、連れてよ?」
 彼の言う美人さん…とは、ここには居ないユエリの事だ。
 今現在、【念動】切れで操気術の扱えない彼女は《林のフォリンズ》の町に居残っている。
 今日も組合で暇を持て余しているか、二頭の【ニチリア紅毛】を駆らせるかしている事だろう。
 シキョモンのからかい混じりの言に、納得したように頷く面々も多かった。
 一行の面々はシキョモンを始めとする伐採業者、ルルヒラを含む冒険者に、【フォリンズの種火】の木工職人数人だった。
「よし、、
かさばるもんは置いて、さっさと行こうぜ」
 木工職人と冒険者数人は、その場で作業の続きをするのか別れ、一行は林立の中を進んで行く。
 途中、【クアッキ杉】を含む年輪の多そうな木を見上げては、背丈の高いものに紐を巻いて印を付けている。
「魔物化するんだぜ…
だからよ?」
「んー、確か聞いたな」
 育ち過ぎる前に切り倒すようだ。
 このダンジョンの中腹《クアッキ杉林》には、経年により魔物化する【フォーク・ウッド】とやらは、それほど居ないらしい。
 ダンジョンの入り口に近い、浅い層も同様との事だった。
「こうやって印を付けとくんだぜ
そしたら、冒険者の連中で切り倒してくれる奴も居るんだからよ?」
「んー、なるほどな」
《林のフォリンズ》の町出身の冒険者に、斧を得物とする者が多い理由は、それらしい。
 伐採業者も当然ながら得物は斧で、木々が【フォーク・ウッド】化するのを防ぐ目的も兼ねている。
 ここに来る途中、魔物を斧で斬り伏せる姿もそれなりに見受けられた。
 比較的、戦える者が伐採業者の面々にも多い。
「これはもう
切っといた方がいいぜ」
 育ち過ぎた木を見付けては、幾人かが一行から別れ伐採に取り掛かるらしかった。
 冒険者は、斬り分け作業中の伐採業者の警戒に当たるとの事だ。
 そして引いてきた荷車に、丸太サイズとなった木を乗せ中継所に運び入れる。
「おう、、
端、持ってくれや」
 簡単な作業の手伝いも、護衛の依頼には含まれていた。
 シキョモンの掛け声に合わせて、丸太サイズの端を抱えて、荷車の台へ。
「若白髪の旦那は力あるぜ…
見えねえのによ?」
「んー、身体強化があるからな」
【内気法】の【身体強化】で、気穴に気を固定した体は力仕事にも打ってつけだった。
 ルルヒラはその後も時折、出る魔物を倒しては警戒及び、簡単な手伝いに明け暮れていた。



 丸テーブルに腰掛けるのは三人。
 昼食を取る、受付嬢でたまに冒険者のサクイヤ。
 工房長にして、この冒険者組合の組合長代理も兼任するカガシン。
 そして、今は操気術が使えないせいか、杖も帽子も無く替え用の丈の長いワンピースに身を包むユエリだ。
 いつもの魔女姿を解禁するのは、【念動】切れが完治するまで、お預けらしい。
 三人は燻製肉の塊が大きいクリームシチューにありついている。
〈骨のある魔物の骨〉の依頼の際、ルルヒラに狩られた【ベアハンド・マウンテン】以外にも、カガシンを含む冒険者が狩った家族連れが居たとの事だ。
「あァ、流石にィなァ、、
ちィと飽きたァな?
こォの硬ェ肉がァくどいぜェ、、」
 冒険者組合には、冒険者達が狩った依頼の魔物の余りを調理するサービスもあって、安価な日替わりメニューとして提供されている。
「煮詰めが甘かったのよ、、
あと半日ぐらいね
この硬さだと、、
それと、調理前の叩き込みも、かしら?」
「そうですね…でも、、
シチューの方は上手くとろけてますよ?」
 手厳しい意見のユエリにすかさず、フォローを入れるサクイヤ。
 側で立ち聴くのは、女の子と男の子だ。
「ええっ?おいしくないのっ?!うそっ!?」
「言ったよ、僕
叩かないとヤバいって、、」
 この前、〈ラキタ及び、他ニ名の捕捉〉の依頼で、ラキタ少年に連れ添っていた二人だ。
 冒険者組合の雑務に、カガシンが雇ったらしい。
 組合員見習い、という話だった。
 二人とも頭巾を被り、前掛けエプロンを付けているのは、大体の組合員に共通する格好だ。
 次いでに言えば、二人より少し年長のラキタ少年も、組合員見習い兼、冒険者として《ニチリア、西の深木林》に向かった。
「ラキくん、だいじょぶなのっ?ねえっ?!」
「魔窟変っていうの
ヤバいよ、ラキ君、、」
 組合は【魔窟変】での、ダンジョン内の地形の変化を調査中だ。
 冒険者の護衛に付き添われ、ラキタ少年も他の組合員に同行するようだった。
「まァ、一番まじィのはァな?
こォの前、おらァが仕留めてェ置いたからァな?
あァの悪ガキィにァ、お使いだろォぜェ?」
 今朝方、駄々を捏ねるラキタ少年をけしかけた、見た目通りの髭面スキンヘッドに適う、悪親父ぶりを発揮したのだった。
「これで…そうですね
ラキタ君が帰らぬ人となったら、、
組合長に叱られますね…?お父さん?」
 多少、ビクリと顔を引き吊らせたものの、言い返す。
「サクイヤァ、、
あァの女にァ、黙ってェおくんだぜェ?
まァだ、死ィにたくねェからァな、、」
 この組合長代理兼、悪親父に怯えさせるのだから、組合長は恐ろしい人物らしい。
「組合長ねえ、、
そういえば、見た事ないわね?
一体、どんな化け物なのよ?」
 カガシンの口ぶりからすると、【ベアハンド・マウンテン】の家族連れを冒険者の一隊と共に相手取った彼よりも、一段上のように聞こえた。
「いえ…母ですよ?
でも、確かに化け物じみてますね、、
他所の町の組合長も兼任しているので…
近頃はどこに向かったやら、、
分かりませんが…」
「ふうん、、?
とんでもない人みたいね、、?」
 冒険者組合協会の重鎮との事で、他の冒険者組合との連帯や《ニチルイン王国》側との折衝などに当たっているとの事だった。
「あァ、とんでもねェ女だァな
おらァに仕事ォ押し付けェからに、、
それでェ、あァちこちィ飛び回ってるとォくらァな?」
 こう言うが、普段は余り働いているようには見えないカガシンだ。
 だが、組合で見掛けない日はやはり【フォレンズの種火】なり、依頼の発注元との商談なりで働いているらしい。
「さあて、、
今日もひと駆け行ってくるわ
それじゃ、お仕事頑張るのよ?」
 そう言って、組合の建物を出る。
 宿に戻って、日課となった二頭の【ニチリア紅毛】の散歩…もとい早駆けを兼ねた、ハーブ類の充足を目論むユエリだった。
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