せかぐるっ

天ぷら盛り

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第1幕~林の町にて、、先行く二人、雨揺らぎ騒林追うは一人と、また一人

おい代理っ、、まずいぜ…ベアハンドだっ。中継所に出やがったっ…

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 垂直に背の高い【クアッキ杉】が燃える。
 木の葉に火の粉を散りばめ、燃え盛るのを傍目に駆ける。
 燃える橙火の色を若白髪に写し出されて、ルルヒラの駆け足は【身体強化】済みだ。
 中継所に辿り着いた時には既に、先ほどの小屋を含む数軒も、切り並べられた木材も、黒く焦げつき燃え拡がっていた。
 冒険者か伐採業者か、既に分からなくなった焼死体の匂いが些か、キツく感じる。
 被害者はそれほど多くはないが、逃げ遅れた者の末路は目に映った浅黒い巨体が物語っていた。
「むー、あれか、、
いや、大きいな、しかし」
 逆三角形に近い、盛り上がった体躯でパッと見は巨大なゴリラ…と言った印象だが、尖った口先、よくしなりそうな後ろ脚がゴリラとは別物である事を認識させる。
 そして、【ベアハンド・マウンテン】の名が示すように、丸太を握っているのかと錯覚しそうな、巨大な前腕が暴力的な気配を濃厚に纏っていた。
 前腕の赤熱する爪からは煙が漂い、犠牲者を引っ掛け、尖った口先で啜っている。
「あー、いや、、
食事中だったか、いや、、」
 あまり緊張感が無いものの、やはり多少の薄気味悪さを感じたのか、何とも言えない間の悪さだ。
【ベアハンド・マウンテン】は、犠牲者を投げ置いて、剣を構えるルルヒラに向け、瞬間…。
 後ろ脚をしならせ、高く跳躍した。
 反動で地面が揺れ、やや体勢の傾きそうなルルヒラの真上から、巨腕による渾身の一振りだった。
【身体強化】を施していなければ、押し潰されたかもしれない。
 しかし、そんな巨腕の真下を潜り抜け、振り返り様に剣を振るう。
 側で目の当たりにすれば、自身の倍はあろうかと言う巨体だ。
 剣尖が巨体の身を引き裂く…その傍目に巨大な質量を感じ、踏み足を斜めへ流した。
 目前を巨腕が、横殴りに通過する。
 赤熱する爪からの煙で視界が奪われ、とって返す熱爪に対し、腕を上げた。
 爪の先端に引っ掛かったのは昨日、購入したてのガントレットだ。
 勢い、跳ね飛ばされたが、宙で体勢を整え着地する。
 咄嗟に【武装強化】を施したガントレットも無傷だったが多少、危うい思いはあった。
「、、んー、近接は、、
分が悪いな、、」
 煙で目が染みたのを、擦るルルヒラ。
 正直少しだが、侮っていたような所もある。
 士官教習所でも並ぶ者のほとんど無い、高みへと達した彼からすると、少しながら意外な心地だった。
 しかし、どうやら【ベアハンド・マウンテン】も似たような心地なのかは定かではないが、彼の剣尖が傷付けた後ろ脚の膝部分を、巨腕で擦っている。
 そして、右の巨腕をルルヒラへと向けた。
 赤熱した爪から、指の本数と同じ火球が五つ…ルルヒラへ向け撃ち出された。
 前のめりに掻い潜る。
 上を掠める火球の幾つかを、剣で打ち払い…しかし、軌道を変えた火球が、折り返しルルヒラを追う。
 そこに更なる火球の弾幕を追加する、【ベアハンド・マウンテン】だ。
 剣で払い飛ばした火球を除き、六、七と器用に手繰るのは魔物の生得由来の、【火操術】に酷似したものらしい。
 軌道を変え、迫る火球を避け、払い、巨体目掛けてすれ違い様に斬りかけるが、火球による邪魔をいなすのに剣の軌道を変える、という始末だ。
「あー、始末が悪いな、しかし、、」
 火球の数を五、四、と減らすのも束の間、また更に弾幕が追加され、十、九、と数え直す一方だった。
「、、らちが明かない、、
か?」
 ルルヒラは火球の群れを跳び抜け、立ち尽くす。
 迫る火球に傍から見れば、棒立ちと映った事だろう。
 しかし…。
 一瞬の僅かな揺らめき。
 火球は彼目掛けて直進し、目前に差し迫った時だ。
 一閃。
 足を踏み入れ、剣を薙ぎ払った。
 火球の群れが一振りで掻き消えたのは【剣気】によるものだろう。
 そして、踏み出した足のまま、勢い、二閃。
 揺らめきが空をそよぐ。
【ベアハンド・マウンテン】は目視で、僅かな空気の揺らぎに危険を感じたのか、高く跳躍した。
 そして、ルルヒラ目掛けて、斜めに巨腕を向け急降下の体勢だ。
 地面を先へと踏み込む、ルルヒラと交差する。
 そして…。
 三閃目は必要無かった。
 巨腕は巨体を離れ、高く浮きそのまま、自然落下に任せている。
 もはや、無いものを振り降ろした体勢のまま【ベアハンド・マウンテン】は、その場に項垂れ落ちた。
 剣を振り上げた体勢のまま、後ろに巨体の倒れる音を聞く。
「んー、終わり、、
か?」
 振り返った先には、もがく巨体だ。
 仕留めようかと、動いた所に駆けてきたのは、サクイヤだった。
「あ…やれたんですか?」
 やや驚きを含む声に応じる。
「んー、これからだな、、
ユエリは?」
「火災の…消火に当たってます」
 気付けば、ポツポツと…空模様は雨に差し掛かっていたようだ。
 都合のいい事だが、偶然では無いだろう。
 ユエリの【天操術】と【水操術】の組み合わせによる、応用だと思われる。
 雨雲が空を覆っていた。
「あー、苦しませるのも、、
良くないな」
 剣に手をかけ、【ベアハンド・マウンテン】の首を斬り落とす。
「はぐれ…ですか、、
おそらくは…」
 近くに家族連れの群れが居ないか見渡し、多少…戦々恐々とするサクイヤ。
「んー、そうだな
、、一応、ユエリの方を、、
見てきてくれないか?」
 おそらく消耗してる事は、雨音の勢いが強まっている事からして確かだろうと思えた。
「ですね…ルルヒラさんは?」
「んー、俺はそうだな、、
そこの荷車は使ってもいいのか?」
 焼け残ったものの中で、比較的無事な荷車を指して言う。
「そうですね…魔物用の方なら、、
後で返せば大丈夫ですよ?
上手く乗りますかどうか…」
【ベアハンド・マウンテン】の死骸を眺め見やる。
 切り分ければ、どうにか乗りそうだった。
「では…ユエリさんの様子、見てきますね
ルルヒラさんも、どうかお気を付けて…」
 そう言って、来た方向へ戻っていく。
「あー、で、、
いや、回収するか、、」
 雨音強まる中、【ベアハンド・マウンテン】を切り分けていく。
 ぶつ切りで雑ながらも、ちょうどいい大きさにしたものを荷車へと積み重ねていった。
 シートを被せて、シートごと荷車を紐で結びつけて、完了だ。
「んー、これぐらいか、、」
 一応、犠牲者の遺体も目に付く限りは、シートの上に寝かせて置いた。
 火の勢いも、先ほどと比べると弱まってきている。
 このダンジョンの中腹、《クアッキ杉林》が丸々燃え尽きる事は、ユエリのデタラメな操気術のお陰なのか避けられたようだった。
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