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第1幕~林の町にて、、先行く二人、雨揺らぎ騒林追うは一人と、また一人
そろそろお昼ねえ、、ああ、葡萄パン食べたちゃったわ、全部、、
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依頼も残す所はあと、〈骨のある魔物の骨〉だけだった。
まだ昼前の、少し早い時間帯だ。
「ううん?美味しいわね
この葡萄パン、、
つぶが甘酸っぱいわ」
依頼の報酬で受け取った、フォリンズ葡萄パン五個入りの袋を片手に歩く。
《ニチリア、西の深木林》の奥へ向かう所だ。
「ですよね…でも、その葡萄、、
魔物化すると厄介なんですよ
昼日中は起きませんけどね…」
【歩く大木】と、そのまんまな異名を持つ【フォーク・ウッド】の枝に、ぶら下がっている事があるらしい。
どうも夜行性らしく、夜にならなければ目覚めないとの話だった。
「んー、それでな?
この道、どうも地図と違くないか?」
ダンジョンマップを見、しきりに確認している。
「あ…魔窟変ですね
組合の報告で聞いてます」
【魔窟変】とは、ダンジョン内の地形が時折、変化する事を指す。
数日前に通った道のつもりで歩けば、まったく別の方向へ進み、道に迷う事も珍しくない。
ダンジョンに入った者が帰って来ず、組合に捜索の依頼が入る事も、ままあった。
「つくづく、人外魔境よねえ、、
ダンジョンって、、」
片眼鏡で周囲を見渡しながら、フォリンズ葡萄パンを頬張るユエリだ。
【望遠レンズ・モノクル】は彼女の標準装備の一つとなりそうだった。
「ああ、向こうに蜂ね
これのやつ、、」
ショテルダガーを手に示す先には、【ショテルダガー・ビー】が飛んでいるようだった。
「蜂…ですか、そうですね、、
巣に近付かなければ、襲ってこないので…」
【魔窟変】での遭難対策を兼ねているようで、サクイヤは赤い紐を取り出し、木々の間に結んでいく。
【ショテルダガー・ビー】は、蜂なりにだが大型で尾の先端に半円状の刃針を持つ、敏捷で殺傷性の高い魔物だ。
刃針に毒は無いとの事だが数が多く、目をつけた相手に延々と援軍を差し向けるらしい。
以前、迂回して避けたのは正しかったようだ。
「あー、そうだな
骨も無いしな、、
骨のあるやつ、何処にいるんだ?」
先ほど、コダチリ草の密生地帯で回収したダブルホーン・ラビットの他、まだそれらしき魔物にはお目にかかれていない。
「そろそろ…出ますよ、多分、、
いきなり来るので、気を付けて下さい、お二人とも…」
木々の合間を縫い、サクイヤは二人を背後に追わせ、慎重に進んでいく。
上をチラチラ見上げては警戒する事、重厚だった。
「ううん?上ねえ、、
何が出…」
赤い影が直下降した。
サクイヤは、飛びすさり、片刃斧を振り下ろす。
「まだ…来ます」
ルルヒラは後ろから飛び出し、剣を対空に斬り上げた。
弾けたのは、どうやら尖った嘴の先端部分で、襲撃者は木に身を打ちつけられ昏倒している。
「イッキツツキ…ですよ」
【イッキツツキ】とは、赤混じりの羽毛の鳥だった。
尖った嘴は鋭く…先の尖った、木を掴むのに適した趾足を持つ脚部は、小柄な体格に比べて大きい。
続く、イッキツツキがもう二体。
一体は、ユエリの足元へ嘴ごと突き刺さり、地面に足をつけ引っこ抜くと、そのまま木の幹へと駆け登った。
危うく、避けたといった風のユエリだ。
「危ないわねえ、、
、、でも、飛べないのかしら?」
再襲撃の為か、一度枝に登り直す必要があるらしい。
登り切る前に、杖からの火球をお見舞いした。
他方のもう一体も、ルルヒラの剣に撃退され、宙に弧を描きつつ落下する所だ。
「あ…もう一羽、ですね」
今にも急降下しそうなイッキツツキだったが、枝に向かって跳躍したサクイヤの方が早い。
掴んだ枝を支点に、体を向こうに回したサクイヤ嬢の斧が翻る。
まま枝を離し、自然落下するサクイヤの足元に、傷を負ったイッキツツキが落下した。
「んー、五体だな
そういえば、骨とで分けるのか?」
「いえ…組合の方でやってくれますよ
報酬の受け取りは後日となりますが…」
この〈骨のある魔物の骨〉の依頼は、多数の冒険者に出されているらしく、骨の回収量に応じた報酬も計算され、後払いになるらしかった。
その場での受け取りは、参加者に気応石四種の内一つらしい。
【気応石】とは、元はただの雑多な石だったものを、【外気法】の【属気付与】の操気に長い間晒す事で、【火応石】【水応石】【風応石】【土応石】等と、各属気に応じた性質を持つに至った石だ。
時折、天然由来の【気応石】も発掘される事があり、そうしたものは属気の浸透が深く、また大きさもそれなりのものがあり、価値が高いとされる。
「、、気応石、どれにしようかしらね?」
彼女、ユエリのような【外気法】を扱う操気術者にとって、自身の属気に応じた【気応石】はそれなりに需要がある。
身に付ける事で、属気に応じた操気術のキレが増すらしい。
彼女の【魔銀の気手繰りドクロ】にも、【火応石】が内蔵されている。
「んー、どれがいいんだ?
俺は別に、どれでもいいんだが、、」
参加者につき、一つとの事だった。
「お二人は…どの属気を?」
「あー、外気法は、あんまりな?」
どうやら、苦手らしいルルヒラ。
「私は、そうねえ、、
色々かしら?
光らなかった事は、今の所、、
無いのよね、それが、、」
士官教習所で【気応石】は属気の適正を判断する目的でも使われ、各【気応石】に操気を流し込んだ際の輝き具合で、大まかに判断される。
基本になる四種の各【気応石】では、いずれにしても目を眩ませるほどの輝きを放ったユエリだった。
「んー、金応石、、
氷応石もだったか?ユエリは、、」
「そうねえ、、
変わりどころだと、、
闇応石も多少、光ってたわね
それと、天応石も、、
サクイヤは、どうなのよ?」
「わたし…ですか、、
わたしもそれほどには…
強いて言えば、水応石ですね
他は全然…灯りもしなかったですよ?」
才能の無い者には、ピクリとも反応を示さないのが【気応石】だ。
持つ者と持たざる者の差が、如実に明かされると言ってもいい。
ユエリの場合、士官教習所に特待生として招かれた事からして持つ者と言えるが、才能の配分は少々不公平だと、陰口を叩く者も少なからず居た。
「まー、俺にはこれがあるからな、、
さて、回収するか」
腰に吊るした剣を示しつつ、イッキツツキを袋に放って行く。
「ですね…前衛なら、任せて下さいね?」
「そうね、それじゃ頼んだわ
ああ、、
攻撃通させないでよね?」
「あー、そうだな、気を付ける
、、よし、行くか」
イッキツツキを袋に詰め、向かう先は深木林の更に奥だ。
まだ昼前の、少し早い時間帯だ。
「ううん?美味しいわね
この葡萄パン、、
つぶが甘酸っぱいわ」
依頼の報酬で受け取った、フォリンズ葡萄パン五個入りの袋を片手に歩く。
《ニチリア、西の深木林》の奥へ向かう所だ。
「ですよね…でも、その葡萄、、
魔物化すると厄介なんですよ
昼日中は起きませんけどね…」
【歩く大木】と、そのまんまな異名を持つ【フォーク・ウッド】の枝に、ぶら下がっている事があるらしい。
どうも夜行性らしく、夜にならなければ目覚めないとの話だった。
「んー、それでな?
この道、どうも地図と違くないか?」
ダンジョンマップを見、しきりに確認している。
「あ…魔窟変ですね
組合の報告で聞いてます」
【魔窟変】とは、ダンジョン内の地形が時折、変化する事を指す。
数日前に通った道のつもりで歩けば、まったく別の方向へ進み、道に迷う事も珍しくない。
ダンジョンに入った者が帰って来ず、組合に捜索の依頼が入る事も、ままあった。
「つくづく、人外魔境よねえ、、
ダンジョンって、、」
片眼鏡で周囲を見渡しながら、フォリンズ葡萄パンを頬張るユエリだ。
【望遠レンズ・モノクル】は彼女の標準装備の一つとなりそうだった。
「ああ、向こうに蜂ね
これのやつ、、」
ショテルダガーを手に示す先には、【ショテルダガー・ビー】が飛んでいるようだった。
「蜂…ですか、そうですね、、
巣に近付かなければ、襲ってこないので…」
【魔窟変】での遭難対策を兼ねているようで、サクイヤは赤い紐を取り出し、木々の間に結んでいく。
【ショテルダガー・ビー】は、蜂なりにだが大型で尾の先端に半円状の刃針を持つ、敏捷で殺傷性の高い魔物だ。
刃針に毒は無いとの事だが数が多く、目をつけた相手に延々と援軍を差し向けるらしい。
以前、迂回して避けたのは正しかったようだ。
「あー、そうだな
骨も無いしな、、
骨のあるやつ、何処にいるんだ?」
先ほど、コダチリ草の密生地帯で回収したダブルホーン・ラビットの他、まだそれらしき魔物にはお目にかかれていない。
「そろそろ…出ますよ、多分、、
いきなり来るので、気を付けて下さい、お二人とも…」
木々の合間を縫い、サクイヤは二人を背後に追わせ、慎重に進んでいく。
上をチラチラ見上げては警戒する事、重厚だった。
「ううん?上ねえ、、
何が出…」
赤い影が直下降した。
サクイヤは、飛びすさり、片刃斧を振り下ろす。
「まだ…来ます」
ルルヒラは後ろから飛び出し、剣を対空に斬り上げた。
弾けたのは、どうやら尖った嘴の先端部分で、襲撃者は木に身を打ちつけられ昏倒している。
「イッキツツキ…ですよ」
【イッキツツキ】とは、赤混じりの羽毛の鳥だった。
尖った嘴は鋭く…先の尖った、木を掴むのに適した趾足を持つ脚部は、小柄な体格に比べて大きい。
続く、イッキツツキがもう二体。
一体は、ユエリの足元へ嘴ごと突き刺さり、地面に足をつけ引っこ抜くと、そのまま木の幹へと駆け登った。
危うく、避けたといった風のユエリだ。
「危ないわねえ、、
、、でも、飛べないのかしら?」
再襲撃の為か、一度枝に登り直す必要があるらしい。
登り切る前に、杖からの火球をお見舞いした。
他方のもう一体も、ルルヒラの剣に撃退され、宙に弧を描きつつ落下する所だ。
「あ…もう一羽、ですね」
今にも急降下しそうなイッキツツキだったが、枝に向かって跳躍したサクイヤの方が早い。
掴んだ枝を支点に、体を向こうに回したサクイヤ嬢の斧が翻る。
まま枝を離し、自然落下するサクイヤの足元に、傷を負ったイッキツツキが落下した。
「んー、五体だな
そういえば、骨とで分けるのか?」
「いえ…組合の方でやってくれますよ
報酬の受け取りは後日となりますが…」
この〈骨のある魔物の骨〉の依頼は、多数の冒険者に出されているらしく、骨の回収量に応じた報酬も計算され、後払いになるらしかった。
その場での受け取りは、参加者に気応石四種の内一つらしい。
【気応石】とは、元はただの雑多な石だったものを、【外気法】の【属気付与】の操気に長い間晒す事で、【火応石】【水応石】【風応石】【土応石】等と、各属気に応じた性質を持つに至った石だ。
時折、天然由来の【気応石】も発掘される事があり、そうしたものは属気の浸透が深く、また大きさもそれなりのものがあり、価値が高いとされる。
「、、気応石、どれにしようかしらね?」
彼女、ユエリのような【外気法】を扱う操気術者にとって、自身の属気に応じた【気応石】はそれなりに需要がある。
身に付ける事で、属気に応じた操気術のキレが増すらしい。
彼女の【魔銀の気手繰りドクロ】にも、【火応石】が内蔵されている。
「んー、どれがいいんだ?
俺は別に、どれでもいいんだが、、」
参加者につき、一つとの事だった。
「お二人は…どの属気を?」
「あー、外気法は、あんまりな?」
どうやら、苦手らしいルルヒラ。
「私は、そうねえ、、
色々かしら?
光らなかった事は、今の所、、
無いのよね、それが、、」
士官教習所で【気応石】は属気の適正を判断する目的でも使われ、各【気応石】に操気を流し込んだ際の輝き具合で、大まかに判断される。
基本になる四種の各【気応石】では、いずれにしても目を眩ませるほどの輝きを放ったユエリだった。
「んー、金応石、、
氷応石もだったか?ユエリは、、」
「そうねえ、、
変わりどころだと、、
闇応石も多少、光ってたわね
それと、天応石も、、
サクイヤは、どうなのよ?」
「わたし…ですか、、
わたしもそれほどには…
強いて言えば、水応石ですね
他は全然…灯りもしなかったですよ?」
才能の無い者には、ピクリとも反応を示さないのが【気応石】だ。
持つ者と持たざる者の差が、如実に明かされると言ってもいい。
ユエリの場合、士官教習所に特待生として招かれた事からして持つ者と言えるが、才能の配分は少々不公平だと、陰口を叩く者も少なからず居た。
「まー、俺にはこれがあるからな、、
さて、回収するか」
腰に吊るした剣を示しつつ、イッキツツキを袋に放って行く。
「ですね…前衛なら、任せて下さいね?」
「そうね、それじゃ頼んだわ
ああ、、
攻撃通させないでよね?」
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