せかぐるっ

天ぷら盛り

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第1幕~林の町にて、、先行く二人、雨揺らぎ騒林追うは一人と、また一人

やる気無いのかしらねえ?やっぱり、、ご飯抜かすわよ?

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 再び《ニチリア、西の深木林》へと赴いた二人。
 ダンジョンマップを見ながら、跳ねるキノコ【パライズマッシュ】の群れを掻い潜っていく。
 今も計七体、対峙する格好だ。
【プラーナ操気術】には、【内気法】と【外気法】がある。
 飛び出してきたキノコを今、直撃した火球が【外気法】の【火操術】だ。
 余計な力をキノコごときに使うのもどうかと思ったのかどうか、定かではないがこのダンジョンに来てからは、ユエリの定番になりつつあった。
 そして、【内気法】
 ルルヒラの剣尖が振るわれる度、剣を掴む手から滲んだ気の圧迫が標的を屠っていく。
【内気法】により、身体能力の上がった体に満遍なく充足された気を、武器を伝い放つ…【剣気】と呼ばれるものだった。
 剣閃が飛ぶ。
 跳ねるキノコを垂直に、縦に割った後、剣閃は背後の木立の枝を切り落としていく。
「んー、やはり過剰か?
いや、たまには使っておかないと、こう、な?」
 在学生時代、【剣気】をまともに扱えたのは彼を含めれば、士官教習所の教官を含めても、ごくごく僅かだった。
 ニチルイン王国軍ですら、数える程度にしか居ないとの事で、嘱望された才能と言っても間違いではないだろう。
「いつ見てもあれよね、、
あんた、同じ人間なのか疑っちゃうわ」
 扱いを誤れば、周囲の人間を傷付ける他、【剣気】によって我が身を引き裂いてしまう事もあるのだとか…。
「内気法ねえ、、
私はこうやって、ぶっ放す方が好きなのよ」
 杖を高く掲げた。
 杖の指し示す先に、熱気が流線となり収束する。
 跳ねるキノコを背後から貫く熱気は、収束先で巨大な火球へと、見る見る内に成長していった。
 見れば最後のキノコも、背後から貫かれ内側から燃えていく所だ。
「、、あー、それ以上は必要無いんじゃないか?」
「そう?まあ、、
ここで使っても、山火事になっちゃうものね」
 杖をサッと引くと、巨大な火球は徐々に萎んでいき、最後に煙を残して掻き消えた。
 彼女が使ったのは【外気法】の【火操術】、【風操術】の応用だろう。
【外気法】は初歩を覚えて以降は、個々の研鑽に頼る他無い。
 と言うのも、自身のイメージをどれだけ【外気法】で表現出来るか、との事らしかった。
 加えて、彼女が先ほど扱った、【火操術】なり【風操術】なりで、個々人に適正のバラつきがあるらしく、【外気法】を修めるにはやはり、個々人の研鑽以外に有効な手立ては無いとされる。
「外気法を学ぶのにはね?
人生に学ぶのが一番なのよ、、
って聞いたわ」
「、、んー、教習長が、か?」
「そうそう、教習長がねえ」
「んー、なるほどな、さて、、
行くか」
 パライズマッシュを大袋へ放り込み、先を歩く。
 昨日通った道をなぞり、奥まった林の中へと歩を進めていく。
「宝箱ねえ、、
どこにあるのよ?」
「んー、さてな?
そうそう、見付かるものじゃない、、
って話だったな」
「まあ、、
そりゃ、そうでしょうけど、ねえ?
何かいい手はないかしら?」
「んー、そうだな、、
これでも使うか?」
 取り出したのは、片眼鏡。
【望遠レンズ・モノクル】だ。
「ああ、これね
まあ、一応付けとくわ」
 言いながら、ユエリは片眼鏡をかける。
 そのまま、首を巡らせながら歩く事、歩く事…。
「ああ、新手ね
どうする?逃げる?」
 当然ながら、片眼鏡のないルルヒラには見えなかった。
「んー、どんな奴だ?」
「そうねえ、、
見た所、あれは蜂ね、たぶん
けっこう多いわ」
「あー、蜂か、、
苦手だな、しかし、、」
 なんとなくだが、的が小さいだけに攻撃が当てにくく、俊敏な動きでチマチマ攻撃されそうな、未来図が思い浮かぶ。
「あれは避けた方が無難、、
かしらね?
目視出来るだけで、十体はいるわ
なんだか、でっかい剣みたいの生えてるわよ?」
 数が多く、殺傷性の高い…おそらく剣のような針なんだろうか?
 避けるに越した事は無い。
「、、あー、でっかい剣、か
止めとくか、、」
「それなら、、
迂回した方が良さそうね」
 多少、踏み慣らされた道を外れるが、脇道を進んだ方が良さそうだった。
「まー、無傷で進める保証も無いしな」
「それも、そうね」
 仮に、件の蜂の、剣のような針が毒針なら、身を掠めるだけでも危ない。
「、、慎重ねえ、まあ、、
それぐらいでちょうど、いいのかしら?」
「んー、そうだな
変に過信せず、慎重に行くか」
 脇道に逸れ、迂回ルートを進む。
 踏み慣らされた道と比べると、多少の足場の悪さでやや動きにくい。
 歩いている内に、昨日に引き続き二度目の邂逅があった。
【ダブルホーン・ラビット】だ。
 額から縦にツノが二本並ぶ、兎だ。
「昨日は、ご馳走になったわね
お昼はあれでいいかしら?」
「んー?兎の丸焼きか、、
悪くないな」
 数は三体だ。
 駆ける兎の突進を剣で捌いた。
 前のめりになった兎へ、剣を突き入れる。
 背後を狙う兎を背に見ながらだ。
 続けて、飛びかかってくる二体、計四本のツノは片方は足元、もう片方は背中へ。
 軸足を引き、足元をかすめる二本ツノを見ながら剣を薙ぎ払った。
 ぼとり…と落ちる兎。
 最後に足元の兎へ剣を向けて、終わりだ。
「さあて、丸焼きの準備ね
落ち葉集めといて、ルルヒラ」
 兎の一体は大袋へ放り込み、残り二体の兎の皮を剥ぎ取る。
 ナイフで切れ目を入れ、血抜きをしつつ【水操術】で綺麗に洗い流した後は、携帯してる塩を満遍なく塗り込む。
 次に、二頭の兎の耳、後ろ脚に鉄串を刺し込んだ。
 あとは、ちょうどいい高さの木々の枝に鉄串ごと引っ掛け、下から炙り焼くだけだ。
「んー、こんなもんか?」
 枯れ枝、落ち葉を集めたところで、【火操術】で発火を促す。
「うん?頭の方焼き足りないわね」
 焚き火で下から炙る他、ユエリが時々、焼きの甘い所を発火で炙っていく。
「んー、もう少しか?」
「うん、あとはお腹の裏の部分ね」
 杖を向け、焼きの足りない部分を程良く焼いて完成だ。
「あー、出来たな
食べるか、、」
 野営用の素っ気ない皿に、焼き上がった兎を乗せかぶりつく。
「まずまずの出来ねえ
表面程良く、中は油滴る定番よ
塩気が効いてるわ」
「むー、この兎な?
内蔵も食べていいのか?」
「ううん、そうねえ、、
腸の部分は捨てちゃいなさい
、、無理そうならね」
「んー、コリコリしてるな
これは大丈夫そうか、、」
「そっちはね、、
無理だと思ったら吐き出すのよ」
 二人共に頬張る内に、ほぼ兎の骨だけが残った。
「、、さあて、行きましょうよ」
「んー、しかし、眠いな
いや、何でもない
、、行くか」
 腹も膨れ、軽く睨まれつつ探索を再開した。
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