せかぐるっ

天ぷら盛り

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第1幕~林の町にて、、先行く二人、雨揺らぎ騒林追うは一人と、また一人

あー、いや、、ヤル気が無いわけでも無くてな?

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 林道の町《林のフォリンズ》
 脇道に目を向ければ、整備された路鉢の上に木が立ち並ぶのを町の何処に居ても、見る事が出来る。
 小綺麗な清潔感のある町だ。
 目に映る木は、建物の枠組みに使われる事も多い【クアッキ杉】だ。
 この町のほとんどの建物は、クアッキ杉を使っているという話で、間近に【ニチリア、西の深木林】がある事から林業の盛んな町でもある。
「へえ、、
伐採ねえ、でもううん、、
木は無くならないのかしら?」
 冒険者組合の建物の中だ。
 ユエリ、ルルヒラの他、受付嬢が丸テーブルを囲んで腰掛けている。
「そうですね…木が無くなるという話は聞いた事ないですよ?
ダンジョン内では、生き物の成長が促進されるようなので…」
「んー、なるほどな
切っても切っても、生えてくるのか、、」
「あ…実を言うとですね?
魔物化するんですよ、あれ…」
 何となく、気味の悪そうな表情を浮かべる受付嬢。
 この受付嬢、案外ノリがいいのかもしれない。
「魔物化ねえ、、
キノコも跳ねてたもんね
そりゃ、魔物化ぐらいするでしょうよ」
「そうなんですよ…それでですね?
特に入り口付近の木は伐採する事になっているんです
奥に行けば…逢えますよ」
【フォーク・ウッド】というらしい。
「あ…でもでも、気を付けて下さいね?
枝を伸ばしたり、実を飛ばしたりするようなのも居ますから、、」
「、、まるで、見て来たような口ぶりね?」
「あ…そうなんですよ
わたしも非番の日は冒険者やってるので」
 どうやら、この受付嬢…受付嬢は受付嬢でも、ただの受付嬢では無かったらしい。
【フォーク・ウッド】がダンジョンの奥に棲息するというのだから、彼女の冒険者としての腕もそれ相応だと言えそうだった。
 思えば、先刻。
 単身で、ルルヒラ、ユエリを探しに来たのだから当然と言えば当然だった。
「、、んー、さてな
そろそろ、、」
「うん?出来たのかしら?」
 香ばしい匂いが、漂ってくる。
「あ…取って来ますよ」
 そう言って奥へ行き、盆を手に戻って来た。
「はい…キノコと兎の塩漬け炙り汁、、
それから、キノコと兎のハーブ焼きサイコロステーキですね
どうぞごゆっくり…」
 と、言いつつ何故か元の席に腰掛ける。
 丸テーブルの上には、やはりと言うか何故か…どう見ても三人前だ。
「さて…どうしたんですか?
早くしないと冷めてしまいますよ」
 手にフォークを持ち、一口サイズに切られた兎肉を口の中へ。
「あむ…む
お…美味しいですよ
兎肉の柔身部分が油を吸って、肉汁と共に口の中に拡がりますね
程良い焼き加減のなせる業です」
「、、あー、仕事はいいのか?」
「いえ…わたしの事はお構いなく、、
さ…お二人とも召し上がって下さい」
 受付嬢の勤務態度は果たして大丈夫なのか…と、疑問を抱きつつも、抗い難い食欲をそそる実況には耐えられなかった。
「うん?これは、、
キノコの独特の甘苦さを抑えつつ、塩漬けで引き立てたというわけね
美味しいわ、やっぱり」
 こちらもやはり、好評だ。
 そんなこんなで、疑問を受付嬢に投げかける事も無く、綺麗に完食された三人前がテーブルの上に並んでいた。
「、、んー、食べたな、しかし」
「食べたわね、しかし」
「…ですね、しかし?」
 その後は食べるものも食べ、パライズマッシュ、ダブルホーン・ラビットの清算も済ませてあったので、宿へ戻ったのだった。



 明くる朝。
 宿の部屋に備え付けられたベッド二つに、対面する形で向き合う二人だ。
「んー、で
どうする?」
 彼、ルルヒラの故郷までのルートは、この町からだと主に二つ。
 一つは彼女、ユエリの故郷へ向かって南に通過する、無難なルートだ。
 もう一つは、《ニチリア、西の深木林》へ入り、同じく南へ通過するルート。
 距離の面でも、危難の面でも、ユエリの故郷を通過するのが一般的だ。
 しかし、目の前にあるダンジョンを黙って見過ごす事は、彼女には出来ないようで…。
「もちろん、西の深木林ね」
「、、まー、そうだろうな
しかし、そうなると準備が必要か?」
 彼は特に、急ぎで故郷に戻ろうという訳でもない。
 ダンジョンの探索に幾ら時をかけようと、それはそれで良かった。
「準備ねえ、、
野営一式、そんで、、
携帯食のパン、塩飴、水、、
と、お腹の方は最低限でこれぐらいよね
それから、私とあんたの武装ね
ダンジョンも層が深まるにつれ、魔物も凶悪になるって話だから、、
新調した方が、いいのかしら?」
「んー、そうだな、、
森を突っ切るとなると、核晶付近を通過する事になるな、おそらく、、」
【ダンジョンの核晶】に近づくのに比例して、魔物は凶悪になり、トラップの類も多発しやすくなる傾向がある。
 その分、宝箱も発生し易くなり、その中身もそれに相応しいものになるとの事だった。
「宝箱、気になるわね
一体どうして、自然発生するのか、、
不思議でしょうがないわ」
「んー、宝箱か、、
実地講習の時、一つ見付けたな
、、これだ」
 小袋から取り出したのは、片眼鏡だ。
「、、あー、それと
これもだな」
 言って、ユエリに紙切れを渡す。
「なによ?、、ええと、
‐【望遠レンズ・モノクル】
使用者に遠見を可能とさせる片眼鏡。
なお、障害物の先は見えないので注意‐
、、ふうん?こんなの持ってたの?」
「、、あー、隠してたんだ
すまん、、」
「まあ、いいわ、、
ちょっと使わせて」
 そう言って、片眼鏡をかける。
「、、ううん?特に変わらないわよ、、
、、って近くなったわ
壁よ、壁が近いわ」
 どうやら、この【望遠レンズ・モノクル】はよく見ようとすると、対象物を至近距離で見れるらしい。
 距離の調整も、使用者の意識に合わせているようだった。
「、、なるほどねえ
これが噂に聞く、【アーティファクト】か、、
よく見つけたわね」
 冒険者が時折、宝箱から変わった物品をダンジョンから持ち帰る事がある。
「んー、たまたまだな
運が良かったんだ」
 ユエリは部屋の窓を開け、外を眺め見ている。
「うん、なるほどね
偵察にもぴったりだわ」
 片眼鏡で見れば、見たい距離感で対象を見る事が出来る。
 ただし、障害物の多い所では、例えば彼女の言う偵察に用いる場合では、使用者の立ち位置も気にしなければいけない。
「ふうん、なるほどねえ
開けた空間での使用が肝要、ってとこかしら、、
さて、それで準備の話に戻るとね?」
 片眼鏡をルルヒラに、手渡し言う。
「私とあんたには、武装が必要、、
そんでもって、ダンジョンには宝箱もあれば、昨日食べた美味しい食材もあるわけね
それから、路銀稼ぎ、、
これも重要よ」
「、、んー、今日も行くのか?」
「決まりよ、決まり」
 そんなやり取りの後、二人は宿を後にした。
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