せかぐるっ

天ぷら盛り

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第1幕~林の町にて、、先行く二人、雨揺らぎ騒林追うは一人と、また一人

子供は大人に世話を焼かせてこそ、ちょうどいいのよ、、って言ってもねえ

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《ニチリア、西の深木林》は案外、思った程暗くはない。
 木々間にスペースがあるせいか、日差しの差し込む余地が幾分あるようだった。
 それなりに起伏のある場所はままあるものの、どちらかと言えば平坦な足場が動きにくさを、それほど感じさせない。
【パライズマッシュ】が計五体。
 足元の尖った枝を投げ、目眩しに剣を一突き。
 目眩しに掛かった数体を余所に、確実に一体ずつ仕留めていく。
 近づいた際に噴出される黄色の胞子も、側面に半歩動くだけで、胞子の勢いからは免れる。
 要は、正面にわざわざ立ち尽くすような事が無ければ、いいだけの話だった。
 キノコとの対面を避けつつ、剣を振るっていく。
「んー、しかしな
やはり奇妙だな、魔物というのは、、
どう見ても、、キノコが動いているようにしか見えないな、、」
「魔物ねえ、、
定説では、【ダンジョンの核晶】が生態系を狂わせる、、
って事みたいよ?」
 ダンジョンには、【ダンジョンの核晶】と呼ばれるものが大抵の場合、そのダンジョンの中心部付近にあるとの事だった。
 【ダンジョンの核晶】を砕けば、それ以降、生態系の狂った生き物は年々減り、元の生態系に戻った…という与太話の類かどうか…。
 そういう判断の難しい噂も、ある事はあった。
「んー、【ダンジョンの核晶】か
この森のは確か、、」
「見付かってなかったわね
どう?探してみる?」
 この《ニチリア、西の深木林》の核晶を仮に見つけたとして、その後の扱いがどうなるかは微妙なものだと思ってよい。
 ニチルイン王国としては、この森は今後も資源として活用したいであろう所に、核晶を砕いたと吹聴すれば獄に繋がれるのが自然の流れに思えた。
「あー、探すと言えばな
子供は居ないのか?」
 剣を薙ぎ、跳ねるキノコを切り裂く。
 これで五体、最後の一匹と思ったが、背に聞こえたのは跳ねる音だ。
 振り向き様に剣を薙ぎ払う…より早く、火球がキノコに直撃するのが見えた。
 もう一体、林の合間に隠れていたらしい。
「どう?私の早撃ちは?
なかなかのものよね」
 自画自賛にほくそ笑む、ユエリだ。
 確かに彼女の弾速は、在学中でも他の教習生に比べ一段二段、勝るものだった。
 初歩の【火操術】とは言え、勢いに乗った火球はキノコの背後の木を貫通させるものだから恐ろしい。
「初歩の【火操術】だからこそ、扱い次第で幾らでも使えるのよね」
 微細にして、迅速…それが彼女、ユエリの扱う【プラーナ気操術】の評価だった。
「んー、なるほどな
で、子供は?」
「さあ?本当に居るのかしら?
けっこう歩いたわよね?」
 一応、それなりに踏み慣らされた道を歩いて今に至る。
 ダンジョンマップを見ても、特に子供が迷いそうな道は今の所無い。
「さて、、
そうなると奥か?やはり」
「ううん、微妙ねえ、、
どっかその辺で動けなくなってないかしら?」
「、、んー、そうだな
それか道を大きく外れたか、か?」
【パライズマッシュ】の痲痺毒は、大の大人でも半日は動けなくなる。
 その辺りに子供が転がっている事も十分、考えられるが歩いた道筋に子供が転がってる様子は無かった。
「んー、しかしな
キノコの殺傷性は低いと見ていいはずだな?」
「そうねえ、、
せいぜいが痲痺毒回って、全身殴打ぐらいよね」
 キノコの背丈はまばらだが、子供の背丈よりは低い。
 弾性のあるキノコに滅多打ちにされても、全身打撲程度で済むはずだ。
「んー、そうなるとな
別の魔物に襲われたか、、
それとも、未発見の道に迷い込んだか、、」
 ダンジョンマップを見ながら言う。
 このダンジョンマップは、冒険者組合を出る際に受付嬢から渡されたもので、それなりに信頼性はあると思ってよい。
 未発見の道という線はどうにも怪しい。
「そうねえ、、
奥か、それとも別の魔物か、よね
でもねえ、、
このキノコ君達を掻い潜って奥まで行ける?
子供よ?無理じゃないかしら?」
 つま先でトントン…と、キノコを小突きながら言う。
 士官教習生ほどに…とは言わずとも、そこそこなりに鍛錬を積んだ者で無ければ、キノコ数体を相手取るのは難しい。
「、、むー、分からんな
どうする?」
「、、さあね、お手上げかしら?
もう一度、見回ってみましょうよ?一応、、」
 来た道を戻りつつ、脇道にやや逸れつつ…見付かったのは新手だった。
【ダブルホーン・ラビット】
 兎だ。
 ただし、凶悪なツノが額から縦に二本並んでいるが…。
「あれで一突き…
されたら痛そうねえ」
 向かって来るのは、計四体だ。
 彼女は杖を横に薙いだ。
 途端、兎の進行先に溝が走り、次々とハマっていく。
【土操術】のこれまた初歩だ。
 溝に突っ伏す兎はもがき、そこに見舞われるのは剣の切っ先。
 ルルヒラは瞬時、溝から這い上がりそうなものから順に屠っていく。
「んー、今日の晩飯は兎も追加か?
豪勢になってきたな」
「キノコと兎の湯で汁かしらね?
味付けは塩一択よ
もちろん、一度こんがり焼いてからね」
 火球を溝にハマった兎に計四つ、撃ち込んでいく。
「さて、、
居ないな、しかし、、」
「もう、夕方ねえ、、
夜営でもしてく?」
 既に空は赤らんでいる。
 もう間も無く、空も暗がりを降ろす頃合いだ。
 二人で枝を掻き集め、火を付け幾らも立たない内だった。
「あ…居ましたね
何処まで行ったかと、心配してたんです」
 冒険者組合の受付嬢がひょっこりと顔を出したのだった。
「あの…見付かりましたよ
他の冒険者の方が、帰り際に拾ったそうでして」
「へえ、、
他の冒険者が、そうねえ」
 子供が見付かったのはいい事のはずだが、何故か項垂れるユエリだ。
 気持ちは分からなくもない。
「あ…報酬の方はちゃんとお支払いさせて頂きますよ?
ですから、そんなに気落ちせずに…」
「そうね、、
くたびれたわ
何でか急に、、はあ」
 最後のため息が、ユエリの心情を物語っている。
「あー、いや、、
無駄では無かったな
今夜の晩飯も手に入ったしな」
 気落ちさせたままというのも、それはそれで具合が悪い。
 すかさずフォローする。
「そ…そうですよ
ダブルホーン・ラビットにパライズマッシュなら、、
キノコと兎のサイコロステーキなんて豪勢ですよね?」
「、、うん?サイコロステーキねえ
それも悪くないわ」
 幾分、気を取り直したのか、暗がりに包まれかけた林道を帰路へ。
《林のフォリンズ》に着いたのは、辺りを夜闇が覆い尽くしてからだった。
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