幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

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幼馴染の妹ルート

2-11_姉との直接対決

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やはり平和は良い!
詩織と出かけたのは少し遅い時間だったけれど、近場のデートでも十分楽しめた。

特に何かを買ったわけじゃない。
特に何かをしたわけじゃない。

でも、近場のショッピングモールで服を見たり、ゲーセンでプリクラを撮ったり、なんでもないことだったけれど、十分楽しかった。

詩織の表情を見ても、ここ数日の不満そうな色は全くなく、僕と一緒で楽しんでいたようだった。

もちろん、デートの終わりには彼女の家まで送ることは必須事項だろう。
中野家(詩織の家)の前まで来て、玄関前でわかれを惜しんでいた。





「お兄ちゃん、今日は楽しかったですね」

「うん、変に卑屈になっていた自分が恥ずかしいよ」

「私は、一緒に一つ試練を乗り越えられた気がしていて、もっとお兄ちゃんのことを好きになりましたけど?」


僕は詩織のほっぺたを両方摘まんで言った。


「どれだけ優等生なこと言ってんだ。もっと恨み言くらい言ってくれ」

「おにゅいひゃん、いひゃいれす」


僕はすぐに詩織を離した。


「遠慮が無くなってきたのは嬉しいですけど、私、痛いのを喜ぶ嗜好はありませんからね?」

詩織は両頬を掌でマッサージしながら言った。


別に痛い思いをさせたいわけじゃない。
引っ張ったのも、軽くだ。

詩織が『痛い』と言ったのもイメージというか、ノリというか、流れというか、そんな感じだろう。
現に、詩織は頬を引っ張られてニコニコしている。

言うならば、お互い本音を話し合ったことでもう一段階仲良くなれたといったところ。

僕と詩織はもう大丈夫。
付き合い始めの少しギクシャクする期間は比較的短めで、早速、軌道に乗ったと考えていいだろう。





幸せな気持ちのまま、すぐに帰ればよかった。
中野家の玄関前で詩織とイチャイチャしていたことが良かったのか、悪かったのか、後でゆっくり考える必要があった。




(ガチャ)突然玄関が開いた。


中から顔を出したのは、ウルハだった。


「あら、二人ともおかえり。ユージ、ちょっと中でお茶でも飲んでいかない?なんならご飯を食べて行ってもいいわよ?」


この誘いに考え無しで乗る人が果たしてどれくらいいるだろう。
ただ、僕達の場合は選択肢がなかった。

詩織と付き合う上で、ウルハとのことは避けて通れない事柄だった。





ウルハに促されて、中野家にお邪魔するとご両親は不在だった。
僕と、詩織と、ウルハ……3人だけだった。

早速、居心地の悪さは感じたが、この状態の場所に詩織を一人置いていくことなんて出来ない。

リビングのソファに座って、出されたコーヒーを飲むことになった。
僕はソファに座り、すぐ横に詩織が座った。

ウルハは、ローテーブルをはさんで真向かいに座った。


「「「……」」」


とにかく、空気が重かった。
世界一空気が重い空間がここにはあった。





「この中だと、詩織?最初にあなたは私に言いたいことがあるんじゃないかしら?」

「別に、お姉ちゃんに言いたいことはありません。私とお兄ちゃんのことを邪魔しないでくれれば」

「あなたが言いたいことはそんな事じゃないでしょう?」

「……」


詩織が苦い顔をした。
姉妹だけが分かる何かなのか!?


「私は『中野ウルハの妹』じゃない!私は『中野詩織』です!」

「そう!それを待っていたわ!」


ウルハは笑みを浮かべた。
なにが嬉しいのか、僕にはさっぱり分からない。


「でも、そんなの当り前じゃない!」


ウルハが髪をかき上げて言った。


「詩織は、自分が正当に評価されないと思っていたようだけど、努力したら何でもできたでしょ?」


詩織の日々の努力とプレッシャーは相当なものだった。
こんな簡単な一言で片づけられるようなものじゃないはずだ。


「努力しても、実を結ばない人だって多いわ。でも、詩織は頑張れば実を結ばせることができる。私の妹だもの」

「……」


詩織にとって、姉の言ったことは絶対。
言い合いになることはない。
それだけ、ウルハの発言力が強いのだ。

詩織は、徐々にウルハの言葉に飲まれ始めていた。


「ユージとのことはどうなの?」


更にウルハが続けた。


「お兄ちゃんのことも本気です!」

「でも、ユージは私のものよ?その指輪も本当は私のものなんでしょ?」

「違っ……これは、お兄ちゃんから私がもらったもの!お姉ちゃんはもらえなかったものなの!」


珍しく、詩織が感情的だ。
ウルハは、詩織の一番の弱い部分、触れてほしくない部分を的確にとらえてくる。


「その、少しサイズが合っていない指輪が全てを物語っているわ。ユージに関しては、詩織は私の代わりでしかないわ」

「そんなことない!私はお兄ちゃんと付き合ってるの!」

「そうね。でも、それは本当の詩織の本心からの希望かしら?私に勝ちたいんでしょ?だから、私が最も大事にしているものを私から奪いたいんでしょ?」

「違う!お兄ちゃんをフったのはお姉ちゃん!私を選んだのはお兄ちゃんだもん!」

「私の大事なものを奪ったのだから、詩織の勝ちでしょ?今回の件、私もすごく反省しているの。もう、いいでしょう?ここら辺で『元鞘』がいい頃合いじゃないかしら?」


ウルハが、見えないリンゴでも持っているように右手を上げて話した。


「違う!私はお兄ちゃんが大好き!ずっと昔から見ていた!ずっと好きだった!」

「そうね。でも、詩織はずっと私の妹よ。生まれた時から。本能的に姉である私に勝ちたかった。だから、ユージが必要だった。そこで、私は改めて宣言しようと思うの」


ウルハがソファを降りて床に正座した。
詩織は信じられないものを見ているといった表情で、ウルハの動きの1つ1つを全て見過ごさないように注目していた。


「詩織……私の負けよ。完全に負けたわ。自分の浅はかさも知ったわ。だから、ユージを返してちょうだい。ユージは私の人生において欠くことができない大切な人なの……」


ウルハは視線を僕の方に向けて続けた。


「ユージももう、感じているはずよ?詩織ではダメだと。結局いつかは物足りないと思うのよ。それは詩織が悪いんじゃない。ユージが求めているのが私なのだから」

「……」

「詩織がどんなに可愛くても、どんなに優秀でも、ユージにとっては代替品。本物は私なの」


本心から言えば、言葉が出なかった。
僕は、ウルハの言うように、心の底ではウルハを求めているのかもしれない。

詩織のことが好きな気持ちに嘘はない。
彼女は、僕にとって『新しい価値観』。

『ウルハじゃなくてもいいんだ』という、新しい価値観。
でも、それはウルハが傍にいる場合、ひとり立ちできるだけの強い価値観なのか……


「詩織のことも邪険にしているわけじゃないの。これからもユージと仲良くしてほしいわ。妹として。詩織は私のたった一人の妹なのだから。とてもかわいい妹だと思っているわ」


ウルハは頭が良すぎた。
頭が良すぎて、何を言っているのか僕には理解が及ばなかった。

ウルハはゆっくりと立ち上がると、詩織に近づいた。
そして、彼女の肩に手を置いて言った。


「詩織、指輪とユージを私に返してちょうだい」


詩織がぶるぶると肩を震わせ、首を振った。


「違う!私はお兄ちゃんが好きなの!本当に好きなの!」

「そんな、自分に言い聞かせないといけないようなものは本心じゃないわ。もういいのよ。私の負けなのだから。詩織、あなたの勝ちよ。もう頑張らなくていいのよ」

「違う!私はお姉ちゃんに勝ちたいから、お兄ちゃんと付き合ったんじゃない!」


詩織は頭を抱えながら答えた。
すごい汗だ。


「でも、詩織?あなたの芸能活動。ユージと付き合いながら続けられるものなの?動画配信もそう。学校での『微笑み姫』も、誰とも付き合っていないから価値があったんじゃないの?」

「要らない!要らない!私はお兄ちゃんがいてくれたら、他には何も要らない!」

「あなたが自分を高めるために、自分で始めたことなのでしょう?ユージと付き合うことで全てを捨ててしまって、それで、詩織は自分の魅力を維持し続けることができるの?」


詩織の動きが止まった。
目には絶望の色が見える。


「あなたの言っていることと行動は、矛盾しているわ。それは、私から言われなくても、自分で本当は分かっているのでしょう?

「……」

「ユージは優秀よ?あなたがずっと惹きつけていられるからしら?ユージが求めているのは私なのよ?」


詩織は左手の薬指の指輪をそっと触った。
僕と目が合った時、詩織の目には涙が流れていた。



「お兄ちゃん、これから私の部屋に来てください……」



僕の頭の中ではエマージェンシー・コールがビンビンとうるさいくらいに鳴っていた。
これで、言われるがままに詩織の部屋に行ったら、なにかが終わってしまう。
なにかが壊れてしまうような気がしていた。

ただ、逃げ出すことはできない。

なぜなら、僕は詩織の彼氏なのだから。





僕と詩織は階段を上がり、詩織の部屋に向かった。


初めて入る詩織の部屋。
正確に言うと、すごく昔は入ったことがあるけれど、それがいつなのか分からないくらいの昔。

初めて入る彼女の部屋は、もっと雰囲気がいい時に来たかった。

すごく整理整頓されていた。
彼女の性格が部屋の中に現れていた。
室内は、詩織のにおいがしたし、詩織を感じる最高の環境だった。

彼女に促されて、彼女のベッドに座ったけれど、少し複雑な気持ちだった。

もっといい雰囲気の時だったら、確実に押し倒している。
僕にその気がなくても、本能がそうさせただろう。



でも、今は、そんな感じじゃない。


「お兄ちゃんどう思いました?あ、私の感じたことを先に言いますね?」


僕の意見に影響された内容ではなく、彼女が本心を伝えたいという表れだろう。


「私の本心は、だいぶお姉ちゃんに言われちゃった気がします。それこそ、自分でも見ないようにしていた心の暗い部分まで……」

「……」

「私がお兄ちゃんを好きなのは本当なんです。嘘偽りなく。ただ、お姉ちゃんに勝つためにお兄ちゃんと付き合いたかったのか、お兄ちゃんと付き合いたいからお姉ちゃんに勝ちたかったのか、それはもう私にも分かりません」


少し寂しそうな表情を浮かべる僕の彼女。
ちらりとこちらを見て、今度は僕の感想を求めた。


「私は、お姉ちゃんの代わりですか?」

「そうは思ってないよ。ただ、僕はウルハと付き合っていたと思っていたから、『彼女と言えばウルハ』ってイメージはあるかな。詩織ちゃんと無意識にでも比較したことがないと言えば嘘になる……ね」

「それは、私的には中々にきつい事実ですね……」


詩織が苦笑いしている。
これは言わない方がよかったかもしれない。


「お兄ちゃんのお陰で、私はお姉ちゃんに勝ちました。あんなお姉ちゃん見たことがないので、本心だと思います」

「そか……」

「私の予想では、もっと感情的に掴みかかってくると思っていました」


僕もそれは容易に想像できる。


「場合によっては、お兄ちゃんか私が刺されると思って、ここ数日、包丁は隠していたほどです」


お母さん、さぞ困ったろうな……


「本当の本当を言うとしたら、この指輪にはそれほど思い入れはないんです……」


詩織が左手の指輪をくるくると回転させながら言った。
指に対して、指輪が少し大きいので、落ちないまでも自由に動かせるのだ。


「お姉ちゃんの幸せまで考えたら、お兄ちゃんをお姉ちゃんに返した方がいいのかもしれない……もう、私はお姉ちゃんに勝負を挑む必要はないので……」


詩織は下を向いている。
髪が重力に倣って彼女の横顔を隠してしまった。


「お兄ちゃんが、お姉ちゃんを好きで、お姉ちゃんがお兄ちゃんを好きなら、妹の私はお姉ちゃんに譲らないといけないのかもしれない……」


詩織の肩は震えたいた。
僕は、彼女の肩を抱いた。
目の前で崩れていく彼女の心をつなぎとめるように。


「でも、嫌なの……」

「……」

「私のわがままかもしれないけど、せっかく、お兄ちゃんと付き合えたのに、お姉ちゃんに渡すなんて嫌なの!」


詩織は、涙も鼻水も出ちゃってる状態で僕に言った。
すごくカッコ悪いけど、すごくかわいい。
今までで一番輝いている彼女の表情。

僕はティッシュで、彼女の顔を拭いてあげながら言った。


「僕は、やっぱり、詩織のことが好きだよ。今も、なんて言って引き留めようか色々考えてるし……」

「ぷっ……、それ、私に言っちゃったらダメなやつじゃないですか」

「僕の中では、ウルハとは付き合っていた。でも、ウルハとは終わったんだ」


ぐずぐずの顔で次の言葉を待ってくれている僕の彼女。


「僕は、これからは、詩織と過ごしたいよ」

「お兄ちゃん……」

「ベッドの上だと、いつ詩織を押し倒してしまうのか理性の方が心配だよ」

「お兄ちゃん、雰囲気台無し……」

「ウルハには、あとで二人で伝えよう」

「わかってくれますかね?」

「大丈夫だよ。彼女は頭がいいから。すぐには理解してくれなくても、時間をかければ大丈夫」

「お兄ちゃんがそう言うなら……」





「……包丁は、すぐに見つからない場所に隠してあるんだよね?」

「微妙に自信がないところが、お姉ちゃんをよく知っているんだと感じさせられます」

詩織の今日何度目かの苦笑い。


「じゃあ、お付き合い続行ということで……」


詩織が、ベッドに座ったまま目を瞑って、少し顎を上げてキス待ちの顔をした。


「押し倒されるのは、もうちょっと先になると思いますけど、前払いでキスを……」


据え膳喰わない理由はない。
僕は詩織を優しく抱きしめて、ゆっくりと唇を重ねた。


「んっ……」


物語ならば、ここで終わりだろう。
きれいなエンディングだ。


「んっ!んんっ!」


僕は、そのまま少しずつ体重をかけて、詩織をベッドに押し倒していった。


「もう、お兄ちゃん!キスだけって言ったのに!」


彼女様はおこでいらっしゃる。
もちろん、冗談だよ?
冗談で押し倒しただけだからね?


「もう、しょうがないお兄ちゃんですね!二人ともこんな真っ赤な顔で降りて行ったら、お姉ちゃんに2秒で刺されます!」

「じゃあ、落ち着くまで少し時間があるから、もう一度キスということで……」

「もう!絶対お兄ちゃん、あと2~3回押し倒す流れでしょ!」


全部バレてた。
さすが、長い付き合い。


僕たちは、これまで通り付き合っていくのだろう。
最初にすべきことは、1階に降りてウルハに二人のことを報告することか。

時間はかかるだろうけど、きっと彼女も受け入れてくれるだろう。
また3人でお茶を飲むときも来るかもしれない。

時間はたっぷりあるのだから、時間をかけて解決していけばいいだけだ。


「じゃあ、行きますか!」

「そうだね」


僕の彼女が横で笑ってくれている。
これだけで僕は十分なのだ。
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