異世界でも油こそ正義!!

雑食ベアー

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準備編

第4話 商談成立

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 今、目の前に見えたる天秤の看板が目印の協会に到着したミチオだが建物を見てその大きさに驚愕している。

「マハラジャ宮殿?」
と思わず呟いてしまった。
それもそのはず、自由都市ニッカウでは海千山千の商人達が蟲毒のようにひしめき合い商業はもちろん、
政治や自治にも多大な影響を持っているのだ。
そんな拠点が貧相な訳がない。
ミチオは戸惑いながらも協会へ入っていく。

 協会の中は、先程の広場よりも人だかりが凄かったが熱気よりも静寂に包まれていた。
キョロキョロと周りを観察していると、一部の商談スペースらしき所では商品のプレゼンらしきものをしており、
他にはカウンターらしき所で手続きをしている人、壁に貼られている卸値を確認している人などが見受けられる。
ミチオはカウンターらしき所へ歩いていくと..

「ようこそ! ニッカウ協会へ、本日はどの様なご用件でしょうか?」
ショートヘアーの元気一杯な感じがする中性的な女の子がミチオに尋ねた。
なぜ女性と断定できたのは、手のひらに程よく収まりそうな女性の武器を有していたからだ。

「こちらの都市で商売をしたいのですが、どちらで受付しておりますか?」

「新規入会でございますね。それではこちらの書類に内容を記入してください。」
 えーと、なになに.. 名前欄に苗字はNGだからミチオにしないとな..
すらすらと東共通語で書類に記述していく.. 権能の言語パック様様だ! 書き終えて書類を受付嬢に返す。

「確認いたしますね。ミチオ様、特に問題はありませんので、入会費の1万Rをお支払いいただければご入会できますよ」

 へ? 入会費??

「物納でなんとかなりませんか?」

「申し訳ございません。物納はできない決まりなのです。
もし、手持ちがないのでしたら、
お手数ですがあそこにある買取窓口で品物をお売りいただいて、再度こちらに入会費をお支払いください」

 セーフ! 所持金はないから買取所が在って良かった!!
一息ついて買取窓口へ向かう。

「あの、品物の買取をお願いしたいのですが.. どのようなものでもよろしいのでしょうか?」
買取窓口にいる妙齢でキレイなマダムっぽい女性に聞いてみる。

「流石に値段が付かないものは無理だよ」

「そうですよね」

「で、何を出してくれるんだい?」
こちらを品定めするような目つきで問いかけてくる。

「こちらになります」
カウンターにアルミホイルで包んだ白い粉を2種類見せる。

「これは塩です」

「ここまで、高品質なのを見るのは久しぶりだね」

 う~む、精製された塩は一応は手に入るのか.. しかし、次はどうだ!

「次は砂糖になります」
一瞬、買取窓口の周囲に静寂が訪れた。

「この真っ白いのが砂糖だって! 冗談はおよし!!」

 ビンゴ! 露店歩きをしている時に、
塩が混ぜ物されていた物や、色の付いた砂糖が高額だったりと情報は入手していたので、
セポマで塩と砂糖にアルミホイルを購入して換金の準備しておいた。

「どうぞ、味見してください」
と言いながらミチオは塩と砂糖を相互に摘まんで舐めた。これで毒性があることは無いと証明する。

「甘い! それに雑味がなくスッキリしている..」
砂糖を舐めたマダムは驚きのあまり軽い放心状態に陥っていると思われる。

 やはり、塩・砂糖・香辛料は異世界の伝家の宝刀であり、3種の神器だな~

「この砂糖はどれくらいの量があるんだい?」
ギラつく目つきで聞いてくるマダム。

「2万R分をお売りしますよ」
ミチオは試すように答えた。

「ふん、残りは自身で売りさばく訳かい.. トーマス! ここを代わりな!!」

「マティーさん、窓口をお代わりします」

「坊や、ついてきな!」
なんだか、「40秒で仕度しな!」で有名なキャラを思い出した。

 先程いた窓口に向かい受付嬢から書類を受け取って、奥にある部屋に向かう
マティーを追うミチオだった。

「まずはお互いに自己紹介しようか、私は商人協会をまとめているマティーだよ」
(驚いた。まさか協会のトップだったとは..)

「私は料理人のミチオと言います。本日、このニッカウに着いたばかりです」

「料理人のミチオだね.. だけど、商人協会に加入したいと..」
再度、値踏みするような目でこちらを見る。

「私は自身の店を持ちたいのですが、それにはこちらの協会に入会しないと難しいと耳に挟んだので参りました」

「ふん、事実だね。だけど、入会費を払えない料理人がなぜ、こんな希少な砂糖を持っている」

「逆に料理人だからこそ、品質の良い調味料を持っているのですよ」

「それで良しとしておこう。しかし、こんな上品質の砂糖を作っている場所なんて聞いたこともないよ!! それはどうする!?」

「目の前にあるものをお疑いされるのですか? 実際に工場はありますよ」

「場所は?」

「お教えできません」
お互いの目線が激しくぶつかり合い、気温が数度上昇したように感じた。

「ふぅ、致し方ないね。で、その砂糖はどれくらいの量がある?」
マティーが折れた形でミチオに問うた。

「…… 1キロ」
少し考えてミチオは答えた。

「まだ、あるだろう?」
鋭い眼光で、マティーは問うてきた。

「む、しかし料理に使うからそれ以上は無理だ」

「ほ~ぅ、ならもし商人協会にこの真っ白い砂糖を1キロと卸してくれたらば、
入会費免除でブロンズランクに調理用屋台と当分の宿代などを協会で負担してやろう! どうだ?」

「…… その条件にプラス準備金をいただきたい。それと宿代は何日までだ。」

「ならば、準備金に5万R、宿代は屋台の開店までとするかね..」

「その条件で飲もう..」

「それと出来ればじゃが、再度仕入れできた場合は店売りではなく、協会に卸して欲しいね」

「仕入れできれば、ですけどね..」

「よし! 商談は成立だ!! まぁ、何か困った事がある場合は、個別で相談に乗るからね!」
マティーは妖艶な表情で手を伸ばしてきた。

「こちらとしても助かりました」
ミチオは笑顔でマティーの手を握り、握手した。

「色々とあるから、ここで少しお待ち!」
マティーが部屋を出ていた。
場の空気が弛緩したことで、ミチオはその場で一息ついた。

(もうちょっと行けたかな?)
ミチオは先程の商談について考えたら、もう少し行けた感触があったが..
(いや、ここでやりすぎると今後の影響が出てくるな)
『出る杭は打たれる』どこの世界でも共通なはずだ。

 バーン! と扉が開く音が鳴り響くと共にマティーと最初の受付嬢が現れ、対面のソファーに座り込む。

「この娘は、ミチオの担当受付にしたミスティだよ!」

「改めまして、協会で受付を担当しているミスティです」

「改めまして、料理人のミチオです」
無難に挨拶をする両者だが、ミスティを見てみると困惑している様に観えた。
それもそのはず、マティーが問答無用に連れて来たからだ。

「ミチオ、砂糖をこの瓶に入れな!」
ドンっと、やや大きめの蓋の付いたガラス瓶を出した。

 ミチオはカバンから砂糖の入った袋を取り出し、ガラス瓶に砂糖を移し替える。
その間ミスティは驚いた表情していたが、マティーからの指示を受け天秤を持ち出してきた。
移し替えたガラス瓶をマティーに渡すと天秤の片方へ置き、いつの間にかある金属製の物体を天秤の開いている方へ載せた。

「ふむ、確かに1キロだね。よし! 手続きといくかい!」
マティーさんは、確認するとミスティさんにこれまでの商談について説明した。

「かしこまりました。この場で先程の続きをいたします」
とミスティが受け入れた。

「私は一旦、他の報酬などの用意をしておくから、頼んだよ!」
と言う間に部屋から忽然と消えた.. その様は正に疾風迅雷の如し..

「では、入会費は大丈夫ですので当協会の事をご説明します」
説明された内容をまとめるとこちらになる。

◆◆

・商人協会では協会員にランクが設定される。
・新規協会員はブロンズランクに設定される。
・ランクは、都市への納税額と協会への貢献度や寄付額によって変化していく。
・ランクにより、商売の形態も変化する。
 ブロンズ:都市内での露店または屋台での営業許可書が発行される。
 シルバー:都市内での商店と住居の購入許可書が発行される。
 ゴールド:自由都市での身分証が発行される。商会を設立できるようになる。
・犯罪などを犯した場合は脱会処分となり、財産没収の上、奴隷落ちする。

◆◆

「質問、シルバーからブロンズに降格した場合、購入した商店での販売は禁止なのでしょうか?」

「大半は、特例処置として商店での販売を許可しておりますが、
都市への納税が滞っている場合は、強制的に店と住居を現金化されますので、
屋外活動となります」

「となると、ゴールドでの身分証は?」

「これも税金の滞納がなければ、失効されません」

「……」

 少し考えていると、バタンと扉が開かれた音がした思ったら、
マティーが現れた。

「手続きはどこまでいったかい?」

「後は会員証を発行して渡すだけです」

「それじゃ、ミスティは会員証を発行してきてくれないかい」
ミスティは了承し、入れ替わるように両者の位置が変わった。

「まずは、現金の5万Rだ」
マティーが5枚の紙を取り出して渡してきた。
渡された紙を見るとチュートリアルで見た紙幣とそっくりだった。

「屋台に関しては、後で協会が保有しているのを見せるから自由に選びな!
宿についても手続きは済んでいる。
場所は協会の斜め向かいにある【さざなみの癒し亭】だ。
受付で私の名を出せば大丈夫だよ」

「わかりました。 会員証を受け取ったら宿に行って休みますので申し訳ないのですが、
屋台は明日に拝見してもよろしいでしょうか?」

「それなら、明日にでもミスティか、私に声をかけな」

「ありがとうございます。助かります」
 コンコンとノックが聞こえ、マティーが許可を出すとミスティが入室した。

「こちらが会員証となります」
ミチオの前に銅のプレートが差し出される。

「紛失や盗難などで会員証を喪失した場合は、受付で再発行可能ですが発行料が発生しますのでお気をつけてください」
ミスティが注意喚起を促す。

「承知いたしました。では、宿にいってきます。色々とありがとうございました」
2人に別れのアイサツをしてミチオは協会を立ち去った。
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