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第二章 俺の外れスキルは『ものマネ』 ~ジェミニ王国のディオの場合
第21話 召集
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俺達は二十階層に繋がる階段を上り、操作装置の上にダンジョンカードを置き攻略状況を記録した。さっきは記録する前にジャヴェロットに付いて行ったからな。
二人とも記録し終えるといつもの様に地上に戻るため、操作装置の『1F』と書かれた所を押した。すると足元に描かれていた転移陣が赤く光り出した!
「あれ!? レダさん? これは?」
「ああ、なにかおかしい、一度魔方陣から離れ、なっ 足が動かない!?」
えっ? な、なんだ? 俺の足も動かない――いや動かせない。床の魔方陣を見ると何か歪な形をした短剣のようなものが刺さっており、うす暗く輝いていた。なんだこの短剣は?
「ぎゃははははは、やっぱり念のため仕掛けておいて正解だった!」
無くなった腕を抑えながらスクロイが階段を上って来た。
「スクロイ!? 何をした? お前の仕業か」
「その魔方陣に刺さっている短剣は、特殊な牛の魔物の角を削って作った『壊の丑の刻の短剣』と言うらしい。転移用の魔方陣に突き刺すことで今の時空を崩壊させ結果、転移が暴走する現象を引き起こすんだとよ。『雷神の玉』が売っていた怪しい店でついでに買ったんだよ、使い捨てのくせに高かったし、ジャヴェロットの野郎は眉唾物だと言っていたがな、ぎゃははっ」
「転移を暴走させるだと!?」
「そうだよ、俺様は兄貴を買っているんだ、もしかしたらあのジャヴェロットの野郎にも勝っちまうんじゃないかって、だから『壊の丑の刻の短剣』を念の為に刺しておいたんだ、ぎゃははっ」
こんな時だけ俺を評価しやがって! くそ、不味い! 不味いぞ! ん? よし、手はまだ動くな。俺は魔方陣に刺さっている『壊の丑の刻の短剣』を抜こうとした――が掴もうとした手を弾かれた! くっ、ならば――剣でガシガシとぶっ叩いてみた。
バキンッ
剣がっ!? 折れたのは先生から餞別に貰って以来ずっと使い続けていた俺の『黒鉄の長剣』の方だった。不味い時間がない! こんな事になるなら『スライムの鳴き声』を消すんじゃなかったな、アレなら何とかなったかも。『Q・スライムの鳴き声』じゃ危険すぎるどうする? せめてレダさんだけでも――俺は男の子!
俺は隣にいたレダさんを両手で抱きかかえて、思いっきり魔方陣の外へ投げ飛ばした。
「きゃ、少年なにをする!?」
レダさんが起き上がって駆け付けようとする。
「レダさん! 来ちゃダメだ」
「へぇ、かっこいいな兄貴は、そうだ兄貴! 言い忘れていたんだが、行き先は魔力量によって変わるんだってよ、どうせ兄貴の事だ、魔力量も多かったりするんだろ? どこに転移されるのかな? ダンジョンの最下層かな? 魔物の森かな? 海の中かな? それとも雲の上かな? 楽しみだな、ぎゃははっ」
「何言っているんだ、普通にどこかの街の可能性もあるだろ?」
「そうだな、でもそうじゃないかもしれない、どっちにしろ兄貴をただ普通に帰すよりは俺様の気分が晴れるだろ? ぎゃははははははははははっ、ざまぁあっ!?」
興奮しすぎたのかスクロイはそそまま階段から転げ落ちて行った。
スクロイ、お前もう壊れているのか……。こんな結末になるなら、やはり情けを掛けるべきじゃなかったのかもしれないな。壊れる前にお前の兄として俺がとどめを刺してあげるべきだったんだろう――。
「――レダさん! すいません、いつも最後まで気を抜かないようにって言われていたのに……」
「それは私も同じだ、強敵に勝てて気を抜いてしまっていた――受け取れ!」
俺の胸に向かって鞘に納められた一振りの刀が投げ込まれた。
「これは!?」
「少年、どこに飛ばされるか分からないのに武器を持っていないのは致命傷だ。それを持っていけ、私の相棒『妖刀・昼行燈』だ、時間がないから能力は本人に聞け。所有者と認められればきっと答えてくれる」
「でも」
「勘違いするな、貸すだけだ、だから絶対に私の所へ返しに来い。私にとっての二番目の相棒を一番目の相棒に貸すだけだ! わかったな、絶対に戻って来るんだぞ。絶対だぞ! ディオ!」
「ははっ、初めて俺を名前で呼んでくれましたね」
「そうだったかな? なら戻ってきたら何度でも呼んでやる! だから――」
――転移陣の上に立っている俺の身体がうす赤く光り輝き――そして拡散した。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
気が付くと何もない大地に『妖刀・昼行燈』を抱いて俺は倒れていた。本当に何もない、山も森も木も花も草も鳥も虫も……。静かな風の音が聞こえるだけだ。
飛ばされた場所が海や空でなかったのはいいが、あれ? 転移の影響か身体がまだ上手く動かせないな――それにしても、ここはどこだ? 俺はいったいどこに飛ばされたんだ?……すいません、レダさん、すぐには、帰れない気がします――。
≪ピロン! 魔王候補を確認しました。残り9人です≫
そんな声が頭の中に聞こえた。
――ここは、この世界の真ん中にある広大な海に囲まれた今は不毛と化した大陸。
もう滅んでしまったが、昔は魔人族と呼ばれていた種族が支配していた大陸。
人々はこの大陸のことを『古の魔大陸』と呼んでいる。
外れスキル『ものマネ』を持ったディオがそれに気づくのはもっとずっと後になるだろう――。
『ジェミニ王国』、『ものマネ』のディオ編 【完】
●ディオの現時点でのステータス
―――――――――――――
ディオ (男、15歳)
種族:人間族
冒険者ランク:D
ジョブ:ものマネ士
スキル:ものマネ Lv8:『声マネ』、『技マネ』、『魔法マネ』、『顔マネ』
スロット1:『刺突放鷹』※東洋剣術Lv8の技
スロット2:『円月斬リ』※東洋剣術Lv4の技
スロット3:『燕返し』※東洋剣術Lv7の技
スロット4:『ライトニング』※中級攻撃魔法Lv3の技
スロット5:『Q・スライムの鳴き声』
称号:『スライムキラー』、『稀有種に好かれる男』、『魔王候補』
―――――――――――――
装備品:『妖刀・昼行燈』
―――――――――――――
二人とも記録し終えるといつもの様に地上に戻るため、操作装置の『1F』と書かれた所を押した。すると足元に描かれていた転移陣が赤く光り出した!
「あれ!? レダさん? これは?」
「ああ、なにかおかしい、一度魔方陣から離れ、なっ 足が動かない!?」
えっ? な、なんだ? 俺の足も動かない――いや動かせない。床の魔方陣を見ると何か歪な形をした短剣のようなものが刺さっており、うす暗く輝いていた。なんだこの短剣は?
「ぎゃははははは、やっぱり念のため仕掛けておいて正解だった!」
無くなった腕を抑えながらスクロイが階段を上って来た。
「スクロイ!? 何をした? お前の仕業か」
「その魔方陣に刺さっている短剣は、特殊な牛の魔物の角を削って作った『壊の丑の刻の短剣』と言うらしい。転移用の魔方陣に突き刺すことで今の時空を崩壊させ結果、転移が暴走する現象を引き起こすんだとよ。『雷神の玉』が売っていた怪しい店でついでに買ったんだよ、使い捨てのくせに高かったし、ジャヴェロットの野郎は眉唾物だと言っていたがな、ぎゃははっ」
「転移を暴走させるだと!?」
「そうだよ、俺様は兄貴を買っているんだ、もしかしたらあのジャヴェロットの野郎にも勝っちまうんじゃないかって、だから『壊の丑の刻の短剣』を念の為に刺しておいたんだ、ぎゃははっ」
こんな時だけ俺を評価しやがって! くそ、不味い! 不味いぞ! ん? よし、手はまだ動くな。俺は魔方陣に刺さっている『壊の丑の刻の短剣』を抜こうとした――が掴もうとした手を弾かれた! くっ、ならば――剣でガシガシとぶっ叩いてみた。
バキンッ
剣がっ!? 折れたのは先生から餞別に貰って以来ずっと使い続けていた俺の『黒鉄の長剣』の方だった。不味い時間がない! こんな事になるなら『スライムの鳴き声』を消すんじゃなかったな、アレなら何とかなったかも。『Q・スライムの鳴き声』じゃ危険すぎるどうする? せめてレダさんだけでも――俺は男の子!
俺は隣にいたレダさんを両手で抱きかかえて、思いっきり魔方陣の外へ投げ飛ばした。
「きゃ、少年なにをする!?」
レダさんが起き上がって駆け付けようとする。
「レダさん! 来ちゃダメだ」
「へぇ、かっこいいな兄貴は、そうだ兄貴! 言い忘れていたんだが、行き先は魔力量によって変わるんだってよ、どうせ兄貴の事だ、魔力量も多かったりするんだろ? どこに転移されるのかな? ダンジョンの最下層かな? 魔物の森かな? 海の中かな? それとも雲の上かな? 楽しみだな、ぎゃははっ」
「何言っているんだ、普通にどこかの街の可能性もあるだろ?」
「そうだな、でもそうじゃないかもしれない、どっちにしろ兄貴をただ普通に帰すよりは俺様の気分が晴れるだろ? ぎゃははははははははははっ、ざまぁあっ!?」
興奮しすぎたのかスクロイはそそまま階段から転げ落ちて行った。
スクロイ、お前もう壊れているのか……。こんな結末になるなら、やはり情けを掛けるべきじゃなかったのかもしれないな。壊れる前にお前の兄として俺がとどめを刺してあげるべきだったんだろう――。
「――レダさん! すいません、いつも最後まで気を抜かないようにって言われていたのに……」
「それは私も同じだ、強敵に勝てて気を抜いてしまっていた――受け取れ!」
俺の胸に向かって鞘に納められた一振りの刀が投げ込まれた。
「これは!?」
「少年、どこに飛ばされるか分からないのに武器を持っていないのは致命傷だ。それを持っていけ、私の相棒『妖刀・昼行燈』だ、時間がないから能力は本人に聞け。所有者と認められればきっと答えてくれる」
「でも」
「勘違いするな、貸すだけだ、だから絶対に私の所へ返しに来い。私にとっての二番目の相棒を一番目の相棒に貸すだけだ! わかったな、絶対に戻って来るんだぞ。絶対だぞ! ディオ!」
「ははっ、初めて俺を名前で呼んでくれましたね」
「そうだったかな? なら戻ってきたら何度でも呼んでやる! だから――」
――転移陣の上に立っている俺の身体がうす赤く光り輝き――そして拡散した。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
気が付くと何もない大地に『妖刀・昼行燈』を抱いて俺は倒れていた。本当に何もない、山も森も木も花も草も鳥も虫も……。静かな風の音が聞こえるだけだ。
飛ばされた場所が海や空でなかったのはいいが、あれ? 転移の影響か身体がまだ上手く動かせないな――それにしても、ここはどこだ? 俺はいったいどこに飛ばされたんだ?……すいません、レダさん、すぐには、帰れない気がします――。
≪ピロン! 魔王候補を確認しました。残り9人です≫
そんな声が頭の中に聞こえた。
――ここは、この世界の真ん中にある広大な海に囲まれた今は不毛と化した大陸。
もう滅んでしまったが、昔は魔人族と呼ばれていた種族が支配していた大陸。
人々はこの大陸のことを『古の魔大陸』と呼んでいる。
外れスキル『ものマネ』を持ったディオがそれに気づくのはもっとずっと後になるだろう――。
『ジェミニ王国』、『ものマネ』のディオ編 【完】
●ディオの現時点でのステータス
―――――――――――――
ディオ (男、15歳)
種族:人間族
冒険者ランク:D
ジョブ:ものマネ士
スキル:ものマネ Lv8:『声マネ』、『技マネ』、『魔法マネ』、『顔マネ』
スロット1:『刺突放鷹』※東洋剣術Lv8の技
スロット2:『円月斬リ』※東洋剣術Lv4の技
スロット3:『燕返し』※東洋剣術Lv7の技
スロット4:『ライトニング』※中級攻撃魔法Lv3の技
スロット5:『Q・スライムの鳴き声』
称号:『スライムキラー』、『稀有種に好かれる男』、『魔王候補』
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装備品:『妖刀・昼行燈』
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