上 下
9 / 55
第一章 僕の外れスキルは『うし改』 ~タウラス公国のアルデバランの場合

第08話 崩壊の飛躍

しおりを挟む
 そのエルフは人間の姿の僕に向けて矢を放って来た。

「なっ!? 『ガードタウロス』!」

 僕はすかさず『ガードタウロス』に変わると放たれた矢を掴む――が掴み損ねて矢が腕に刺さった。『痛っ』、体毛のおかげで貫通はせず、矢尻の部分が少し刺さっただけだったけど、痛い物は痛い。腕から矢を抜き、そのエルフを睨みつけた。

「へー、主人を庇うとか、良く調教された魔物だね、それよりボクの矢を止めた事を褒めてあげるよ、じゃあこれならどうかな? 『風魔法付加』、喰らえ!」 

 どうやら僕がミノタウロスだとは思っていないらしいが、先程度以上の速さで矢が飛んできた。

「『クイックタウロス』!」

 パシッ

 僕はその放たれた矢を片手で掴みへし折る。

「なっ!? 二体目のミノタウロスだと? しかもその色、まっ黒な……まるで冒険者殺しじゃないか」

「……二体ちがう、魔物一体、変化した」

「何だって!? おい、ガキも居ないぞ?」

 エルフ族って皆こんな奴等なのかな? 苦労して作った家を吹き飛ばすぞとか脅してくるし、いきなり矢を放ってくるし、僕じゃ無かったら普通死んでいるよね。

 これは怒っていいよね、怒ったぞ、そうだ! 新しく覚えた能力の実験台になって貰おう。いいよね、先に仕掛けて来たのはあいつ等だし。

 エルフがまた弓を構えようとしたので、僕はそのエルフの視界から外れるように高速で移動した。

「なっ!? 消えた?」

 そしてそのエルフの背後から『クイックタウロス』の持つ長い腕で頭を掴んだ。

「がっ!? な、何だ!?」

「僕の番だよ、『パワータウロス』!」

 僕はその状態で巨漢の『パワータウロス』に変わり、鷲掴みにしていた頭を持ち上げ――そのままグシャリと握りつぶした。

「なっ!? 今度は赤黒いミノタウルス? 何だ、お前は一体どこから現れた?」

 ≪ピコン! 『解放条件 別種族を1人殺す』を達成した事によりレベルが1つ上がりました。それにより『リカバータウロス』への変化が可能になりました≫

 また、声が僕の頭の中に聞こえた。
 なるほど別種族を殺すのが解放条件だったのか、これはこのお兄さん達にお礼をしないとね……。
―――――――――――――
『リカバータウロス』:身長1.8m。全身まっ白な体で、細長い2本の角が生えている。その角を生物の心臓に突き刺し生命力を吸い取れる回復特化型の牛の魔獣になる事が出来る。意識を失うか解除したいと思えば元に戻れる。
―――――――――――――
 詳細が僕の頭の中に入って来た。

「……おれ、見えなかった、『精霊魔法風の――』」

――僕は腕を伸ばし何かをしようとしていた、もう一人のエルフの口を塞ぐように鷲掴みにした。

「の……は、離せ、この、バケ、モノ――」

――僕はそのエルフを持ち上げ、上空に放り投げた。

「『リカバータウロス』!」

「グハッ」

 そして落ちてきたそのエルフの胸を『リカバータウロス』の細長い角で貫いた。
 突き刺した角は青白く輝き始め、まるで生き物の様にうごめき、心臓から生命力を吸い取っていく。暫くするとそのエルフだった物・・・・・・・は干からびてしまった。すごい、さっき矢で刺された腕の傷が治っているぞ。そして角に刺さっているを投げ捨てて、残っているエルフを観た。

『な、なんなんだお前は、分かった、俺の負けだ! 降参だ! おい! 人間のガキ、聞こえるか! こいつを止めろ、悪かった、このドラゴンもお前にやるから』

…………

「おい! 聞こえないのか、高貴なエルフ族の俺が頼んでいるんだぞ」

「そのガキとは僕の事かい?」

 僕は人間の姿に戻った。

「なっ!? そうかお前は『テイマー』じゃなくて『獣化』いや『魔獣化』スキル持ちか!」

「うーん、ちょっと違うけどね」

「そ、そうなのか? それより、俺が悪かった……見逃してくれ、そ、そもそも俺はお前に攻撃していないだろ、死んだあいつらが勝手にやったことだ」

 うーん、そういえばそうだったかなぁ。じゃあ見逃してやろうかな。

「いいよ、ドラゴンの事も教えて貰ったし今回は見逃してあげるよ、その代わり僕の事やこの場所の事は秘密にしておいてね」

「わ、わかった、約束するよ」

 僕はそのエルフを見逃し、後ろを向きドラゴンの死骸に向かって歩いていった。

「へっ、誰が逃げるかよ! このままおめおめと森に帰ったら毎年狩り大会で優勝している俺達エレクトラ班は村中の笑いものになっちまう」

 やっぱりそういう奴等なんだよなぁ、僕は背中越しに弓を構えているエルフを観た。

「善なる風よ、悪しき者を貫け『ウインドアロー』! 『ウインドアロー』! 『ウインドアロー』! 更におまけだ、死ね『五月雨撃さみだれうち』! 避けられるものなら避けてみやがれ!」

 そう言い、数発の魔法の矢と大量の本物の矢を僕に向けて放った。
 丁度良かったよ、まだ試していない能力もあったし。

「『マジックタウロス』、『ライトホーンファイヤー』!」

 僕は『マジックタウロス』に変わるとすかさず、矢に向けて右の角から炎魔法を放った。

 魔法の矢は魔力が拡散して威力が弱まり、本物の大量の矢は燃えだした。更に続けて、『レフトホーンアイス』!

 魔法の矢は魔力が更に拡散して消えてなくなり、本物の大量の焦げた矢は凍りつき地面に落ちた。僕はエルフに近づいて行った。

「ば、馬鹿な!? 俺の必勝技が効かない……来るな! ま、まて、待ってく――」

「――『レフトホーンアイス』!『ライトホーンファイヤー』! 次にエルフ族に会う事があるのなら、お前等みたいな奴で無いことを願っているよ」

 二つの魔法攻撃を食らったエルフは炭となった。終わったか、それよりドラゴンの死骸どうしようかな? 毒を抜かないと食べられないし、またスープにするか。でも早く食べないとまた腐っちゃうよな。
 
 僕はドラゴンの死骸を見上げながら考える。あっそうだ!

「『レフトホーンアイス』!」

 凍らせておけば大丈夫だろ。

 それにしても僕ってもしかしなくてもかなり強くなっているよね。
 これならあの領主、いや金色と銀色の騎士に勝てるかも。
 あいつら言っていたよね、『祝福の儀』を受け終わった子供達の中で有能な『ジョブ』や『スキル』を授かった子供を部下として雇い入れる為に領地内の町や村を回ることを、毎年恒例・・・・にするって――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~

ノ木瀬 優
恋愛
 卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。 「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」  あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。  思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。  設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。    R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

俺、異世界でダンジョンになる

九頭七尾
ファンタジー
異世界に転生した俺は「穴」になっていた。 って、穴!? 穴ってどういうことだよ!? どうやら俺は生まれたばかりのダンジョンらしい。 全長15メートル。ただまっすぐ伸びているだけの、たぶん世界で最も攻略が簡単なダンジョン。 まぁでも生まれ変わってしまったもんは仕方ないし、せっかくだからダン生を精一杯生きていこう。 というわけで、最高難度のダンジョンを目指します。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...