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とりかえあやかし奇譚
10.
しおりを挟む「何事じゃ!」
内裏では見たこともないほど狼狽を露にした邸の主人―――右大臣が三の姫の対屋に警備の者とともに飛び込んで来たのは、残った最後のあやかしの一匹を退けた後だった。
範子も敦宣も流石に疲労困憊で座り込み、隠れる余力はもはや残ってはいなかった。
「敦宣…それに、侍従の君…!?」
右大臣は初めこそ三の姫の対屋に、末の息子と今は療養中の侍従の君たる範子がいることに目を見張ったが、直ぐに対屋の惨状に声を失った。
床板は所々割れささくれ立ち、見事な花鳥柄だった几帳はへしゃげ、屏風は軒並み倒され見る影もない。御簾も同様だ。屋根裏の梁も折れている。
ぼろぼろになった蔀戸から眩い月明りが差し込み、その全ての惨状を照らし出していた。
盗賊が押し入ったどころか、まるで嵐に揉みくちゃにされてしまったかのようだ。
「これは…いったい何が…」
呆然としている右大臣や警備、果ては、どう説明したものかと苦い顔をしていた範子と敦宣を現実に引き戻したのは、
「――――…父、上…?」
長く意識のなかった三の姫―――梅壷の女御のかそけき声だった。
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