78 / 88
とりかえあやかし奇譚
7.
しおりを挟む※ ※ ※
「――――のり…敦宣」
耳に心地好い声が聴こえる。
呼ばれる声に導かれ目を開ける。霞んだ視界が晴れれば、像を結んだ容貌に息を呑んだ。
「のりこさま…どうして…」
掠れた吐息のような呟きが溢れた。
横たわる敦宣の頭を膝に乗せて見下ろしているのは、大怪我を負ったはずの範子だった。
夢?
幻?
柔く握られた指先が温かい。
それが現実だと教えてくる。
「…お怪我は…!」
途端に我に返り、必死に問う。
起き上がり、すがりつかんばかりの敦宣に範子は気兼ねない様子で苦笑を滲ませた。怪我を負った方の腕を軽い所作で持ち上げる。
「この通り。まだ本調子じゃないけど、処置が早かったから大事にならなかったってさ。敦宣のお陰だね」
「わたくしは何も…」
「ううん、君が助けを呼ぶために奔走してくれてたのを知ってるよ。有り難う」
わだかまりなく範子が笑った。そして今度は気遣わしげな顔になると、そっと腕を伸ばしてきた。
「それより、髪を切られてしまったのか…君こそ怪我はない?」
「え…」
「綺麗な髪だったのに…なんて酷いことを」
範子に掬われた髪を見れば、長かった髪がばっさりと裁ち切れている。
あの白昼夢は夢の出来事ではなかったのか。そう思えば、間一髪で避けられたとはいえ、怪魚の一閃を思い出してぞっとする。
ならばあのあやかしは。
辺りを見渡し、御帳台の隅の暗がりに微動だにしない魚影を捉えることが出来た。
改めて見れば範子の手には抜き身の剣があり、それが敦宣を守る盾のように立てられていた。
「範子さまがあのあやかしを退けてくださったのですか?」
影を指し示して問う。
「ああ、うん。まあこれでも武官の端くれだから」
「そうですか…、ありがとうございます。けれど、どうして此処に…?」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

半神の守護者
ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。
超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。
〜概要〜
臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。
実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。
そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。
■注記
本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。
他サイトにも投稿中

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

魂が百個あるお姫様
雨野千潤
ファンタジー
私には魂が百個ある。
何を言っているのかわからないだろうが、そうなのだ。
そうである以上、それ以上の説明は出来ない。
そうそう、古いことわざに「Cat has nine lives」というものがある。
猫は九つの命を持っているという意味らしく、猫は九回生まれ変わることができるという。
そんな感じだと思ってくれていい。
私は百回生きて百回死ぬことになるだろうと感じていた。
それが恐ろしいことだと感じたのは、五歳で馬車に轢かれた時だ。
身体がバラバラのグチャグチャになった感覚があったのに、気が付けば元に戻っていた。
その事故を目撃した兄は「良かった」と涙を流して喜んだが、私は自分が不死のバケモノだと知り戦慄した。
13話 身の上話 より
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
とべない天狗とひなの旅
ちはやれいめい
歴史・時代
人間嫌いで悪行の限りを尽してきた天狗、フェノエレーゼ。
主君サルタヒコの怒りを買い、翼を封じられ人里に落とされてしまう。
「心から人間に寄り添い助けろ。これ以上悪さをすると天狗に戻れなくなるぞ」
とべなくなったフェノエレーゼの事情を知って、人里の童女ヒナが、旅についてきた。
人間嫌いの偏屈天狗と、天真爛漫な幼女。
翼を取り戻すため善行を積む旅、はじまりはじまり。
絵・文 ちはやれいめい
https://mypage.syosetu.com/487329/
フェノエレーゼデザイン トトさん
https://mypage.syosetu.com/432625/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる