婚約者は男で姫でした~とりかえあやかし奇譚~

あさの

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敦宣の決意

4.

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すくと立ちあがり、台座に近付く。

敦宣は寸分の躊躇もなく腕を横に振り抜いた。
途端、なぎ払われた壷がけたたましい音を立てて粉々に砕け散る。
砕けた陶器の破片は、真下で跳ねていた怪魚に容赦なく降りかかった。
それがとどめとなったか、妖しい影は闇に溶けて消えていった。

その様を冴えた目で見ていた敦宣は、どたどたと重々しい足音が近付いてくるのを耳にし、身近な柱の影に身を隠した。


「何奴!」


松明の灯りとともに雄々しい怒号がし、

「やや、これはどうしたことか…!」

すぐに驚愕の声に変わった。警固の武士が駆け付けたようだ。

「何事だ!」

すると間を置かず別な足音が近付いてきた。

「侍従の君…! いったい何があった!?」

「これは衛門督殿、わしにもとんと…」

漏れ聞こえた言葉に僅かに緊張が解ける。衛門督とは確か範子の兄のひとりだったはずだ。大内裏の事情を知るために範子から抜いていた情報のひとつとして覚えている。それも今となっては皮肉でしかない。だが、彼女の兄が現れたことは幸運だった。

「兎に角、手当てを…。私が連れていこう」

「しかし、任せてよろしいので?」

「無論。侍従の君は我が弟だ」

暗がりからそっと覗く。ちょうど、逞しい腕が大切そうに範子を抱える所が見えた。

良かった。
これできちんとした処置を受けることが出来るだろう。
敦宣は彼らの様子を物陰から見送っていた。姿が見えなくなっても、連れられていった彼女を想って佇んでいた。
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